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第一部
第四十四話 炎のなかの絵(4)
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「もう少し理由を説明してくれるか?」
「詳しくは言えません。わたしはただ絵を運んだ。それだけなんです」
幾ら聞いてもそれ以上は聞き出せそうにはなかった。
「どうします? 殺しますか」
オドラデクは聞いた。
「いや。今すぐ立ち去るなら殺さない」
スワスティカに協力した人間は殺すとしても、ただ肖像画を運んだだけの人間は殺せない。
それが、嘘ではなかったら、その話だが。
「よし。お前の言っていることが本当かどうか、はっきりするまでついてこい。事実出なかったとしたら殺すぞ」
フランツは冷たく言い放った。独りで歩き出す。
「ひっ、ひひいいい」
イタロは怯えながら左右をオドラデクとファキイルに固められて、フランツの後ろを付いてきた。
フランツは館の扉をノックする。格子方の覗き戸が開かれて、鋭い眼光が見えた。
「どちらさまでしょうか」
女の声だ。
おそらくはメイドだろう。
「絵を届けに来た」
フランツは嘘を吐いた。
「わかりました」
メイドは引っ込んだ。そして扉が引き開けられた。
小柄で茶色の髪の毛を持つ女が立っていた。
「メアリーと申します。旦那様がたは?」
「メアリーだと?」
「はい、オリファント諸国連合よりやってきました」
オリファントはランドルフィより遙かに北方、トゥールーズの海を挟んだ向かい側に位置する島国だ。複数の王国が連合するかたちで結び合っている。
フランツにも何人もそちらから来た知り合いがいたが、皮肉屋が多くあまり良い印象がない。
ルナは喜んで付き合っているようだったが。
「俺はオディロンだ。こっちは妻と娘。主人に会わせてくれないか」
オドラデクがシナを作るのを横目で見ながらフランツは気持ち悪いなと思いながら言った。
「わかりました」
メアリーはお辞儀して、フランツたちを応接間の方へと案内すると、静かに退出した。
「凄いですねえ。さっきまでいたボロ宿屋とは大違い!」
オドラデクはソファの上で軽く跳ねていた。確かに金糸で刺繍が施されているし、他の家具も年代物と思われた。
「止めとけ。それよりイタロを押さえておけ」
フランツは言った。
実際、オドラデクの注意が逸れたためにファキイルは小さな身体で必死にイタロを押さえている。
イタロに舐められていないのはその長い髪の一部を鋭いナイフのように動かして首筋に当てているからだ。
実際それで服の一部を切り裂いて見せていた。
フランツはそれを見て申し訳ない気持ちを強めてしまった。
廊下に跫音が響いた。
主人だろう。
フランツは身構えていた。
「肖像画をお持ちだと言うことで」
腰の曲がり、杖を突き、顎髭は床すれすれまで垂れた老人が姿を現した。
ルスティカーナ卿だ。
フランツと同じ言葉を話していた。なぜわからないが、こちらの出自を察されたらしい。
「はい」
フランツは素直に応じた。
「ぜひ、見せて頂きたいのですが」
「その前にお話を聞きたい」
フランツは言った。
「あなたがたはスワスティカ猟人《ハンター》でしょう」
ルスティカーナは訊いた。
「なぜそれを」
「とても四人で、しかもお嬢さままで連れてくるようなところでは、この館はそもそもないからです。それに……」
とここで枢機卿は言葉を切った。
「詳しくは言えません。わたしはただ絵を運んだ。それだけなんです」
幾ら聞いてもそれ以上は聞き出せそうにはなかった。
「どうします? 殺しますか」
オドラデクは聞いた。
「いや。今すぐ立ち去るなら殺さない」
スワスティカに協力した人間は殺すとしても、ただ肖像画を運んだだけの人間は殺せない。
それが、嘘ではなかったら、その話だが。
「よし。お前の言っていることが本当かどうか、はっきりするまでついてこい。事実出なかったとしたら殺すぞ」
フランツは冷たく言い放った。独りで歩き出す。
「ひっ、ひひいいい」
イタロは怯えながら左右をオドラデクとファキイルに固められて、フランツの後ろを付いてきた。
フランツは館の扉をノックする。格子方の覗き戸が開かれて、鋭い眼光が見えた。
「どちらさまでしょうか」
女の声だ。
おそらくはメイドだろう。
「絵を届けに来た」
フランツは嘘を吐いた。
「わかりました」
メイドは引っ込んだ。そして扉が引き開けられた。
小柄で茶色の髪の毛を持つ女が立っていた。
「メアリーと申します。旦那様がたは?」
「メアリーだと?」
「はい、オリファント諸国連合よりやってきました」
オリファントはランドルフィより遙かに北方、トゥールーズの海を挟んだ向かい側に位置する島国だ。複数の王国が連合するかたちで結び合っている。
フランツにも何人もそちらから来た知り合いがいたが、皮肉屋が多くあまり良い印象がない。
ルナは喜んで付き合っているようだったが。
「俺はオディロンだ。こっちは妻と娘。主人に会わせてくれないか」
オドラデクがシナを作るのを横目で見ながらフランツは気持ち悪いなと思いながら言った。
「わかりました」
メアリーはお辞儀して、フランツたちを応接間の方へと案内すると、静かに退出した。
「凄いですねえ。さっきまでいたボロ宿屋とは大違い!」
オドラデクはソファの上で軽く跳ねていた。確かに金糸で刺繍が施されているし、他の家具も年代物と思われた。
「止めとけ。それよりイタロを押さえておけ」
フランツは言った。
実際、オドラデクの注意が逸れたためにファキイルは小さな身体で必死にイタロを押さえている。
イタロに舐められていないのはその長い髪の一部を鋭いナイフのように動かして首筋に当てているからだ。
実際それで服の一部を切り裂いて見せていた。
フランツはそれを見て申し訳ない気持ちを強めてしまった。
廊下に跫音が響いた。
主人だろう。
フランツは身構えていた。
「肖像画をお持ちだと言うことで」
腰の曲がり、杖を突き、顎髭は床すれすれまで垂れた老人が姿を現した。
ルスティカーナ卿だ。
フランツと同じ言葉を話していた。なぜわからないが、こちらの出自を察されたらしい。
「はい」
フランツは素直に応じた。
「ぜひ、見せて頂きたいのですが」
「その前にお話を聞きたい」
フランツは言った。
「あなたがたはスワスティカ猟人《ハンター》でしょう」
ルスティカーナは訊いた。
「なぜそれを」
「とても四人で、しかもお嬢さままで連れてくるようなところでは、この館はそもそもないからです。それに……」
とここで枢機卿は言葉を切った。
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