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第一部

第三十九話 超男性(4)

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「それにしても凄い筋肉ですね! ちょっと触らせて頂いてもいいですか?」

 ルナはヴィトルドの周りをぐるぐるまわりながら言った。

「やめとけ!」

 ズデンカは焦った。

 おそらく生物学・博物学的な感心からだろうが、ルナに男の身体を触らせたくはない。

「はい。もちろん、ムッシュの仰せのままに」

 突然ヴィトルドはキリッとして、ポーズを取ったまま銅像のように動かなくなった。

 ズデンカは心の中で失笑した。

 ルナは男装こそしているが、よっほどのすっとこどっこいではない限り、すぐ妙齢の女性だと気付ける。

 だが、そんなよっほどのすっとこどっこいが目の前に現れたのだ。

 相手の身分が高いと見たのか、急に畏まった態度になったこともおかしい。

 ルナは盛り上がった上腕の筋肉を触りだした。

 フニフニと、まるでゴム鞠で遊ぶ子供のように無邪気な触り方だ。

 ズデンカはハラハラしながらそれを見守る。

「こんな鍛え方、一日や二日じゃ無理でしょう。一体いつからですか?」

「物心ついた時からです。初めての記憶が公園で懸垂をしていたというものですからね」

 ヴィトルドは自慢げに言った。

「すごい。本当に凄いですね」

 ルナは両手を打った。

「でも、ここまでの能力を身につけられたのはいつからなのでしょう?」

 ルナのモノクルがきらりと光った。

「それが少し不思議な話があるのですよ」

「綺譚《おはなし》ですか。それは興味深い。詳しく教えてくださいませんか? わたし、ルナ・ペルッツと申します」

 とルナが差し出した手を、ヴィトルドは握った。

 それなりには知られているルナの名乗りにもヴィトルドは驚いていないようで、

「初めましてヴィトルドです。よろしくお願いします、ムッシュ」

 と女であることに気付いていない様子だ。

 ルナの方もそれには頓着しない様子で、

「さあ、車室にどうぞ」

 と案内した。

「うわぁぁっ、わああああっ!」

 車室に入ったヴィトルドを見た途端、カミーユは竦《すく》みあがって、先に入っていたズデンカの後ろに隠れた。

「どうした」

 とズデンカは訊いたが理由はわかっていた。 カミーユは若干男性が苦手としている。

 それでも普通の人なら普通にやり過ごせるようだが、こんな筋肉を見せびらかす男に入ってこられたら怯えてしまうのも無理はない。

「そ、その人は……」

 カミーユの声は震えていた。

「ルナの客だ。苦手ならあたしの後ろに隠れてろ」

 ズデンカは言った。

「おやおやおや、どうされましたかマドモアゼル?」

 ヴィトルドは驚いた風で近寄ろうとしてきた。

「お前は離れて坐れ」

 ズデンカはそれを軽く押しのけた。

「なにぉ?」

 相手が押し返そうとしてくるが、ズデンカは組み付いて離れない。

「まあまあ、連れがちょっとあなたみたいな風采の方を苦手としていまして。離れて坐って頂くことは出来ませんか?」

 ルナが珍しく空気を読んだのか、ヴィトルドに離れた席を案内した。

「ふん、わかりましたよ」

 ヴィトルドは少し不満そうにしながら椅子の端へと腰を掛ける。

「それではお話頂きましょうか」

 ルナはヴィトルドの前に坐って足を組んだ。

「あれは……そうだな……八才ぐらいの時でしたか」

 ヴィトルドは語り始めた。
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