296 / 526
第一部
第二十八話 遠い女(8)
しおりを挟む
「あー、とうとう秘密を知っちゃったね」
ルナが振り返った。その口元には笑みが浮かんでいた。
「生きていけなくなるかも?」
「えっ!」
カミーユは顔を青くした。
「アホか。驚かすな!」
ズデンカはルナの頭を拳骨で撲った。もちろん力の入れ加減は注意したが。
「いたぁ」
ルナは頭を押さえた。
カミーユはしばらく眼をぱちくりさせていたが、やがて、
「ふふふ」
と笑い出した。
「お前が思ってるより、こいつは何倍もアホだからな。変なこと言われたら撲っていい」
ズデンカは断言した。
「そんなこと、やっていいんですか!」
カミーユは驚いた。
「やっていい。と言うかあたしは毎日のようにやってる」
とズデンカはルナをまた撲った。
「痛いなー。野蛮なやつの話は聞かなくて良いよ!」
ルナは呻いた。
「うーん」
カミーユはしばらく戸惑っていたが、
「ていっ!」
と丸めた手をルナの腕に軽くぶつけた。
「いったー!」
ルナはふざけて身を仰け反らせた。
「ふふふふふ」
「ふふふふふ」
顔を見合わせ、二人は笑っていた。
全然面白くないズデンカは、独り取り残されたような気がした。
馬車は軽快に進んでいった。
「そろそろ国境だ」
うたた寝から目を覚ましたアデーレが地図を小卓の上に広げていた。
「これは、軍人の癖でな。肩苦しいと思われるかもしれんが」
ルナをちらちらと見ながら、アデーレは言い訳がましく呟いた。
「別に良いよ。地理の勉強にもなるし。なんどかラミュには入ったことあるけど、ここは通ったことないから」
ルナはほんわかとしていた。
「そうか。ならありがたいが」
次第に国境検問所の厳めしい建物が目の前に見えてきた。
「お前とはここでお別れだな。せいせいするぜ」
ズデンカは腕を組みながら言った。
「ほざけ。こちらこそ、お前の顔など百年見たくない」
毒舌の応酬が続く。
ルナはそれを楽しそうに眺めていた。
「ルナさんはネルダで何か買い物したいものとかあるんですか?」
すっかり和んだ雰囲気になっていたカミーユが口にした。
「あ、『ルナさん』って言った。さっきまで『ペルッツさま』だったのに!」
ルナはからかうように言った。
「あ、え、これは、つい、すみません」
ぺこりと頭を下げるカミーユ。
「だから謝んなって」
ズデンカは口を挟んだ。
「そうだぞ。ルナをルナと呼んでいいのは本当は予だけだからな」
初めてカミーユに向けてアデーレが言葉を発した。
お偉方に言われたのでカミーユはまた恐縮して項垂れる。
――まだ、本当に馴染んでくれるまで時間は掛かりそうか。
ズデンカはため息を吐いた。
――つーか、なんであたしがこいつの保護者みたいになってんだよ。
「まあアデーレもこれを機にカミーユさんと仲良くすべきだよ」
ルナは二人の手を掴んだ。
「わ、わかった……」
アデーレは顔を赤くする。
「カミーユさん、いや、カミーユも。これからはルナで良いからどんどん呼んじゃってよ。わたしがそう望んでるんだからさ」
ルナは微笑んだ。
「は、はい、わかりました。これからはルナさんと呼ばせて頂きます!」
「ところで、なんで、ネルダで買い物したいなんて訊いたの? とくに決めてないけど」
ルナは怪訝に問うた。
「い、いえ、さっきお話しした……ぬいぐるみ。お洋服の材料でも買えたらなって……」
「あ、そうか!」
ルナはぽんと手を叩いた。
ルナが振り返った。その口元には笑みが浮かんでいた。
「生きていけなくなるかも?」
「えっ!」
カミーユは顔を青くした。
「アホか。驚かすな!」
ズデンカはルナの頭を拳骨で撲った。もちろん力の入れ加減は注意したが。
「いたぁ」
ルナは頭を押さえた。
カミーユはしばらく眼をぱちくりさせていたが、やがて、
「ふふふ」
と笑い出した。
「お前が思ってるより、こいつは何倍もアホだからな。変なこと言われたら撲っていい」
ズデンカは断言した。
「そんなこと、やっていいんですか!」
カミーユは驚いた。
「やっていい。と言うかあたしは毎日のようにやってる」
とズデンカはルナをまた撲った。
「痛いなー。野蛮なやつの話は聞かなくて良いよ!」
ルナは呻いた。
「うーん」
カミーユはしばらく戸惑っていたが、
「ていっ!」
と丸めた手をルナの腕に軽くぶつけた。
「いったー!」
ルナはふざけて身を仰け反らせた。
「ふふふふふ」
「ふふふふふ」
顔を見合わせ、二人は笑っていた。
全然面白くないズデンカは、独り取り残されたような気がした。
馬車は軽快に進んでいった。
「そろそろ国境だ」
うたた寝から目を覚ましたアデーレが地図を小卓の上に広げていた。
「これは、軍人の癖でな。肩苦しいと思われるかもしれんが」
ルナをちらちらと見ながら、アデーレは言い訳がましく呟いた。
「別に良いよ。地理の勉強にもなるし。なんどかラミュには入ったことあるけど、ここは通ったことないから」
ルナはほんわかとしていた。
「そうか。ならありがたいが」
次第に国境検問所の厳めしい建物が目の前に見えてきた。
「お前とはここでお別れだな。せいせいするぜ」
ズデンカは腕を組みながら言った。
「ほざけ。こちらこそ、お前の顔など百年見たくない」
毒舌の応酬が続く。
ルナはそれを楽しそうに眺めていた。
「ルナさんはネルダで何か買い物したいものとかあるんですか?」
すっかり和んだ雰囲気になっていたカミーユが口にした。
「あ、『ルナさん』って言った。さっきまで『ペルッツさま』だったのに!」
ルナはからかうように言った。
「あ、え、これは、つい、すみません」
ぺこりと頭を下げるカミーユ。
「だから謝んなって」
ズデンカは口を挟んだ。
「そうだぞ。ルナをルナと呼んでいいのは本当は予だけだからな」
初めてカミーユに向けてアデーレが言葉を発した。
お偉方に言われたのでカミーユはまた恐縮して項垂れる。
――まだ、本当に馴染んでくれるまで時間は掛かりそうか。
ズデンカはため息を吐いた。
――つーか、なんであたしがこいつの保護者みたいになってんだよ。
「まあアデーレもこれを機にカミーユさんと仲良くすべきだよ」
ルナは二人の手を掴んだ。
「わ、わかった……」
アデーレは顔を赤くする。
「カミーユさん、いや、カミーユも。これからはルナで良いからどんどん呼んじゃってよ。わたしがそう望んでるんだからさ」
ルナは微笑んだ。
「は、はい、わかりました。これからはルナさんと呼ばせて頂きます!」
「ところで、なんで、ネルダで買い物したいなんて訊いたの? とくに決めてないけど」
ルナは怪訝に問うた。
「い、いえ、さっきお話しした……ぬいぐるみ。お洋服の材料でも買えたらなって……」
「あ、そうか!」
ルナはぽんと手を叩いた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
マッチョな料理人が送る、異世界のんびり生活。 〜強面、筋骨隆々、とても強い。 でもとっても優しい男が異世界でのんびり暮らすお話〜
かむら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞にて、ジョブ・スキル賞受賞しました!】
身長190センチ、筋骨隆々、彫りの深い強面という見た目をした男、舘野秀治(たてのしゅうじ)は、ある日、目を覚ますと、見知らぬ土地に降り立っていた。
そこは魔物や魔法が存在している異世界で、元の世界に帰る方法も分からず、行く当ても無い秀治は、偶然出会った者達に勧められ、ある冒険者ギルドで働くことになった。
これはそんな秀治と仲間達による、のんびりほのぼのとした異世界生活のお話。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました
竹桜
ファンタジー
自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。
転生後の生活は順調そのものだった。
だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。
その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。
これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる