いつかの僕らのために

水城雪見

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新たな出逢い

沼に嵌る

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「本当に凶悪な生き物だな、お前は……」


 クリームパスタに2種類のピザ、チキンサラダにスープ、デザートは苺アイスというお昼ご飯を食べた後、リューガが沈痛な面持ちで変なことを言い出した。
 これはあれだ、ゲンドウポーズってやつだ。
 有名なアニメに関するネタだったから、あまりアニメには詳しくない俺でも知っていた。
 珍しく、食べる間に口数が少ないと思えば、何を考えていたんだか。

 
「口に合わなかった?」

「んなわけねーだろっ!!」


 リューガが何を言いたいのかわからなくて、首を傾げながら聞くと、食い気味に否定される。
 まったく、めんどくさい大人だ。


「ただでさえ、骨抜きにされてるっていうのに、その上、がっつり胃袋まで掴まれたら、もう、どうにもならねぇだろーが」


 ぶつぶつ文句を言いながらリューガが立ち上がって、向かいの席に座っていた俺をひょいと抱き上げる。
 そのままソファに移動して、俺を膝に乗せて腰かけたのはいいけれど、信じられないくらいに座り心地のいいソファに驚いて、一瞬体が跳ね上がった。
 素晴らしい反射神経だ。
 それでも守るように俺をしっかり抱いている辺りは、かなりポイントが高い。


「知れば知るほど、レイの沼に嵌ってく」


 膝に抱いた俺の肩に顔を埋めながら、リューガがソファに体を沈めた。
 甘えるように額で擦り寄られたので、リューガの綺麗な金髪を撫で梳いてみる。
 柔らかくて触り心地がよくて、短いのが惜しいなと思ってしまうくらいに綺麗だった。


「沼くらい、好きなだけ嵌ればいいじゃん。大体、胃袋掴まれる前から、俺のこと、手放す気ないだろ?」


 何を今更と呆れ顔で見れば、それもそうかと、リューガはあっさりと開き直った。


「生まれ変わって初めて、まともなパスタを食った衝撃で、冷静さを欠いてたな。うどんを作れる小麦粉があるんだから、パスタも作れるだろうと思ってたんだが、どうしても再現できなくてな。前世では食べ歩きが趣味で、美味いか不味いかはわかっても、どうすれば美味くなるのかはわからねぇから、パスタに関してはこれじゃない感が強くて、納得いかなかったんだ」


 なまじ舌が肥えてるから満足できなかったんだろうなぁ。
 日本にいた頃は、美味しいパスタを出すお店なんていくらでもあったし、家で簡単に作ることもできた。
 料理ができない人でも、市販のソースを使えばそこそこのものが食べられたし、冷凍食品のパスタも結構おいしかったら、それを覚えているとしたら、なかなか満足できないのも仕方がない。
 ちなみに、パスタは俺の得意料理だ。
 パスタを出すお店に次も行くかどうか決める基準は、自分で作ったものよりも美味しいかどうかだった。
 手軽に作れるし、貴士さんが好きだったから、パスタを作る機会は多かった。
 その経験が、今回は役に立ったようだ。
 リューガにはたくさん助けられているから、リューガが喜んでくれたのなら、少しでもお返しできたみたいですごく嬉しい。


「俺は神様のおかげで、いつでも見られるレシピがあるから、一度でも作ったことがあるものや、見たことのあるレシピは再現できるんだ。生パスタも、父さんと一緒に行った料理教室で、一度だけ作ったことがあってさ。お菓子に関しては、一時期、パティシエを目指すのかってレベルで作りまくってて時期があるから、材料とレシピさえあればどうとでもなるんだ」


 バトラーと暮らしていたころに、パスタマシーンも再現してあるから抜かりはない。
 ただ、パスタとうどんと蕎麦は何とかなったけど、ラーメンはまだ再現できていない。
 重曹が見つかれば麺を作れるはずだから、後はスープさえ何とかなれば、ラーメンも作れそうなんだけどなぁ。
 大手レシピサイトで見た手作りラーメンのレシピがあるから、いつかは作ってみたいものだ。


「いつでもレシピを見られるって、チートだなぁ。俺が、前世の記憶を思い出して一番辛かったのが、食事が合わないことだったから、羨ましい限りだ。まぁ、俺の場合、レシピがあっても再現できる腕がないが。うろ覚えだけど、ずっと実家で暮らしてたみたいだから、料理はあまりしたことがなかったんだ」


 オーブンの予熱なんて言葉を知っていたのが奇跡的なくらい、料理とは縁がない人生を送っていたのか。
 実家にいて母親がいたら、料理が趣味とかじゃなきゃ、料理をする機会もないよなぁ。
 俺の場合、小さな頃からまともに食事を作ってもらうことがあまりなかったから、必然的に自分で作るようになったけど。
 自分で作ったものの方が、安心して食べられるからという理由もあった。


「それにしても、菓子作りに嵌ってたのか? 苺のアイスもプロが作ったのかって思うくらい、口当たりがよくて美味かったけど、あのレベルで作れるとなると、相当練習しただろ?」


 俺が17までしか生きてないことをリューガは知っているから、男子高校生がお菓子作りに嵌った理由が気になるようだ。
 絶対笑われる、そう思いながらも、お菓子作りを始めたきっかけを俺が話すと、案の定、リューガは俺を抱えたままゲラゲラと笑い始めた。


「そんなに笑うなよ! あの時は、手作りのお菓子を断るために必死だったんだから!」


 俺が拗ねていることに気づいたのか、何とか笑いをおさめようとしながら、リューガが誤魔化すように俺をきつく抱きしめる。
 膝に乗って密着してるから、腹筋が時々笑いの発作でぴくって震えるの、ちゃんと伝わってきてるんだからな!


「レイは、ガキの頃から可愛かったんだなと、微笑ましくてさ。そんなに、拗ねるな」


 宥めるように腕に抱いた俺の体を揺らしながら、リューガが何事か悩みこみ始める。
 また何か馬鹿なことを考えているんだろうか?なんて思いながら、鍛えられたリューガの胸に凭れ掛かっていたら、思いがけない爆弾発言がリューガからもたらされた。


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