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第4章
お城祭り 第一話
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今日も城下町は
平和である。
町のあちこちでは
商いをする者の声が
響いていた。
「いらっしゃいませ!」
団子屋の末娘の優も
元気よくお客様を迎えていた。
「優さまぁー」
一際元気な声で
1人の男の子が駆けてくる。
優はその声を聞いて
店先に出ていった。
ボスッと
音がするんじゃないかと
言うぐらいの
勢いで優に抱きついた
その男の子は顔を上げて
ニッコリ笑った。
「紅くん 今日も元気そうね」
「うん!今日は若様のお使いで
優さまに会いに来たんだ!」
若君の御庭番衆の一人である紅は
優と若君の弟君 光成が拐かされて以来
若君と一緒に団子屋に通う様になっていた。
「雪様のお使い?
何かあるの?」
優は抱きついている
紅の頭を撫でながら
そう聞き返す。
紅は少し離れて
優の顔を見つめた。
「若様
暫く城を離れられないからって
優さまに伝言を伝えてくれって」
「そうなの?」
優は紅と手を繋ぎながら
店へ戻りつつ
話をする。
「春のお城まつりの準備で
城主様と若様はてんてこ舞いなんだよ」
「あー。もうそんな時期なんだね。
毎年春と秋だったよね?」
紅を奥まで通した優は
お茶と団子を出して
紅の前に正座した。
「昨年の秋は
若様は城下に来て
優さまと過ごして
らっしゃったんだけど
今年は城主様が先手を打って...」
紅が話をしていると
店の方からお静が呼んだ。
「優ー」
「はぁーい」
優はひょこっと
店の方へ顔を出す。
ぼちぼち増え始めたお客様で
お静は大慌てだった。
「ちょっと手伝っとくれ」
「うん。分かった。
紅くんごめんね」
一言 紅に謝ると
優はにこにこ笑顔を作りながら
接客をしていく。
ここ最近はこの町以外の
お侍様もチラホラ出入りがあった。
紅はそんな店の様子を
じっと奥座敷から
見ていた。
「すまぬが
ここに優という娘が居ると
聞いたのだが」
そう言いながら
暖簾をくぐってきた1人の侍がいた。
まだ若いその侍は
この町の侍ではないようだった。
優はそう言われ
手を止めて振り返る。
それを見た侍は
ゆっくりと近づこうとした。
紅はハッとして
優に駆け寄る。
ぎゅっと抱きつき優の
気を侍から逸らした。
「わわっ!?ど、どうしたの?」
優は紅を優しく引き離しながら
しゃがんで目線を合わせた。
「優さま 振り返らないで」
紅はそう言いながら
じっと侍を見据えた。
「お客様。うちの娘に
何か用ですか?」
お静も侍を見ながら
そう声をかけた。
「これはこれは、不躾で申し訳ない。
私は、比香の国より参った者に
ございます。
ここ織和の国の若君の寵愛を
お受けしている娘に一度お会いしたく
参った次第にございます」
侍は丁寧に口上を述べる。
「比香の国...」
そう呟いた紅は
優から離れると
優の手を取った。
「お侍様、冷やかしですか?
それならばお帰りください。
うちの娘は見世物じゃないんでね」
お静はキッと睨みつけて
その場を後にする。
「優。
部屋に入ってなさい。
今日は早じまいだよ」
「う、うん」
優はお静の様子に
戸惑いながら
紅に手を引かれて
部屋へ入っていく。
侍はやれやれと、
こぼした後、頭を掻きながら
店を出ていった。
店のお客様が全員
帰ったあと
お静は一人で店を閉めて
部屋へ上がってくる。
その顔は少し不機嫌そうだった。
「どーいう事なんだい?」
お静はお茶を出しながら
紅に事情を聞く。
「お城まつりで他国の
侍も出入りしているのは
私も分かっちゃいるさ。
あの侍は比香の国の
城付きのお侍だろう?」
「お母上様はよくお分かりですね」
お静の言葉に返事をしたのは
紅ではなく 紫だった。
「あ、姉上っ」
紅はガタッと音を立てて
ちゃぶ台に手をついて立ち上がろうとした。
「まだ、伝言は
伝え終わっていなかったのですね?」
「はい...」
紅はしゅんと肩を落とした。
その紅を見たあと
紫はお静に向き直る。
「今年のお城まつりには
比香の国の姫が参加されます。
若君と優様の仲睦まじい様子は
比香の国にも届いておられる様で
そのせいで このような事になっていると
思われます」
紫は優しい声音ではあるが
表情一つ変えず淡々と話す。
「若君からの伝言は
お城まつりが終わるまで
優様とお母上様に
身を隠して貰いたいとの事でしたが
相手の方が先手を打ってきたようですね」
優は少し身震いをした。
大きなため息を吐きながら
お静は紫を見て
思案する。
「若様が優さまと母上様に
危険が及ばないようにって
オレ 言い使って来たんだよ」
紅は絞り出すように言う。
「紅くん...」
優は落ち込んでいる
紅の傍に寄り
ギュッと抱きしめる。
「確かに前の事で
若君が警戒されてるのは
分かるんだけどねぇ...
お城まつりは城下に住む
私達も楽しみにしてるもんだし。
今年はこの辺の者達集まって
露店も出そうって
話してたんだよ。
だから、身を隠すなんて事は
しないよ。
優もそうだろう?」
お静は静かな口調で
話したあと娘を見つめる。
「雪様と居る以上 危険が私にも
及ぶかもしれないって
ご家老様からも前に言われてます。
それを覚悟の上で
私は雪様にお会いしています。
それは母もわかってて
受け入れてくれていると思います。
私はここで雪様を想いながら
待ちます。だから、
身を隠す事はしません」
優の言葉に
紫はにっこりと微笑む。
それに釣られて優も微笑んだ。
「分かりました。
城に帰って
若君にお伝えしておきます」
紫はそう言うと
身を翻し歩き出した。
「あっ!待って!
姉上ぇー」
紅もその後に続こうとする。
「ちょいとお待ち」
そんな2人をお静は
呼び止めた。
「今日は早じまいしちゃったからね。
団子がたくさん余ってるんだ
持って行きなさい」
お静はそう言うと
腰を上げて店の台所に向かう。
そして余っていた団子を包むと
紫に渡した。
紫と紅は深々と頭を下げて
日が暮れ始めた町へ紛れて行った。
平和である。
町のあちこちでは
商いをする者の声が
響いていた。
「いらっしゃいませ!」
団子屋の末娘の優も
元気よくお客様を迎えていた。
「優さまぁー」
一際元気な声で
1人の男の子が駆けてくる。
優はその声を聞いて
店先に出ていった。
ボスッと
音がするんじゃないかと
言うぐらいの
勢いで優に抱きついた
その男の子は顔を上げて
ニッコリ笑った。
「紅くん 今日も元気そうね」
「うん!今日は若様のお使いで
優さまに会いに来たんだ!」
若君の御庭番衆の一人である紅は
優と若君の弟君 光成が拐かされて以来
若君と一緒に団子屋に通う様になっていた。
「雪様のお使い?
何かあるの?」
優は抱きついている
紅の頭を撫でながら
そう聞き返す。
紅は少し離れて
優の顔を見つめた。
「若様
暫く城を離れられないからって
優さまに伝言を伝えてくれって」
「そうなの?」
優は紅と手を繋ぎながら
店へ戻りつつ
話をする。
「春のお城まつりの準備で
城主様と若様はてんてこ舞いなんだよ」
「あー。もうそんな時期なんだね。
毎年春と秋だったよね?」
紅を奥まで通した優は
お茶と団子を出して
紅の前に正座した。
「昨年の秋は
若様は城下に来て
優さまと過ごして
らっしゃったんだけど
今年は城主様が先手を打って...」
紅が話をしていると
店の方からお静が呼んだ。
「優ー」
「はぁーい」
優はひょこっと
店の方へ顔を出す。
ぼちぼち増え始めたお客様で
お静は大慌てだった。
「ちょっと手伝っとくれ」
「うん。分かった。
紅くんごめんね」
一言 紅に謝ると
優はにこにこ笑顔を作りながら
接客をしていく。
ここ最近はこの町以外の
お侍様もチラホラ出入りがあった。
紅はそんな店の様子を
じっと奥座敷から
見ていた。
「すまぬが
ここに優という娘が居ると
聞いたのだが」
そう言いながら
暖簾をくぐってきた1人の侍がいた。
まだ若いその侍は
この町の侍ではないようだった。
優はそう言われ
手を止めて振り返る。
それを見た侍は
ゆっくりと近づこうとした。
紅はハッとして
優に駆け寄る。
ぎゅっと抱きつき優の
気を侍から逸らした。
「わわっ!?ど、どうしたの?」
優は紅を優しく引き離しながら
しゃがんで目線を合わせた。
「優さま 振り返らないで」
紅はそう言いながら
じっと侍を見据えた。
「お客様。うちの娘に
何か用ですか?」
お静も侍を見ながら
そう声をかけた。
「これはこれは、不躾で申し訳ない。
私は、比香の国より参った者に
ございます。
ここ織和の国の若君の寵愛を
お受けしている娘に一度お会いしたく
参った次第にございます」
侍は丁寧に口上を述べる。
「比香の国...」
そう呟いた紅は
優から離れると
優の手を取った。
「お侍様、冷やかしですか?
それならばお帰りください。
うちの娘は見世物じゃないんでね」
お静はキッと睨みつけて
その場を後にする。
「優。
部屋に入ってなさい。
今日は早じまいだよ」
「う、うん」
優はお静の様子に
戸惑いながら
紅に手を引かれて
部屋へ入っていく。
侍はやれやれと、
こぼした後、頭を掻きながら
店を出ていった。
店のお客様が全員
帰ったあと
お静は一人で店を閉めて
部屋へ上がってくる。
その顔は少し不機嫌そうだった。
「どーいう事なんだい?」
お静はお茶を出しながら
紅に事情を聞く。
「お城まつりで他国の
侍も出入りしているのは
私も分かっちゃいるさ。
あの侍は比香の国の
城付きのお侍だろう?」
「お母上様はよくお分かりですね」
お静の言葉に返事をしたのは
紅ではなく 紫だった。
「あ、姉上っ」
紅はガタッと音を立てて
ちゃぶ台に手をついて立ち上がろうとした。
「まだ、伝言は
伝え終わっていなかったのですね?」
「はい...」
紅はしゅんと肩を落とした。
その紅を見たあと
紫はお静に向き直る。
「今年のお城まつりには
比香の国の姫が参加されます。
若君と優様の仲睦まじい様子は
比香の国にも届いておられる様で
そのせいで このような事になっていると
思われます」
紫は優しい声音ではあるが
表情一つ変えず淡々と話す。
「若君からの伝言は
お城まつりが終わるまで
優様とお母上様に
身を隠して貰いたいとの事でしたが
相手の方が先手を打ってきたようですね」
優は少し身震いをした。
大きなため息を吐きながら
お静は紫を見て
思案する。
「若様が優さまと母上様に
危険が及ばないようにって
オレ 言い使って来たんだよ」
紅は絞り出すように言う。
「紅くん...」
優は落ち込んでいる
紅の傍に寄り
ギュッと抱きしめる。
「確かに前の事で
若君が警戒されてるのは
分かるんだけどねぇ...
お城まつりは城下に住む
私達も楽しみにしてるもんだし。
今年はこの辺の者達集まって
露店も出そうって
話してたんだよ。
だから、身を隠すなんて事は
しないよ。
優もそうだろう?」
お静は静かな口調で
話したあと娘を見つめる。
「雪様と居る以上 危険が私にも
及ぶかもしれないって
ご家老様からも前に言われてます。
それを覚悟の上で
私は雪様にお会いしています。
それは母もわかってて
受け入れてくれていると思います。
私はここで雪様を想いながら
待ちます。だから、
身を隠す事はしません」
優の言葉に
紫はにっこりと微笑む。
それに釣られて優も微笑んだ。
「分かりました。
城に帰って
若君にお伝えしておきます」
紫はそう言うと
身を翻し歩き出した。
「あっ!待って!
姉上ぇー」
紅もその後に続こうとする。
「ちょいとお待ち」
そんな2人をお静は
呼び止めた。
「今日は早じまいしちゃったからね。
団子がたくさん余ってるんだ
持って行きなさい」
お静はそう言うと
腰を上げて店の台所に向かう。
そして余っていた団子を包むと
紫に渡した。
紫と紅は深々と頭を下げて
日が暮れ始めた町へ紛れて行った。
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