若君様と町娘とご家老様

雪夜叉

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第3章

城の異変 三話

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若君の部屋を訪れた2日後
ご家老は
義光に許可を得て
城下町へと下りる
用意をしていた。

光成も初めて
城下町に下りる為
朝からワクワクしていた。

「じぃ!
早よう!早よう!」

光成は駕籠に乗り
ご家老を急かす。

「光成様 そんなに慌てなくとも
団子屋は逃げませぬぞ」

ご家老は笑いながら
そう言う。

ご家老を筆頭に
家来達が十数名付いての
光成の初めての
城下町。

朝の食事を終えて
半時もしないうちに
一団は城を出発した。

城下町までは
小一時間の道のりを歩いて
すぐだった。

それから
町の中を進み
目新しい風景に
光成が喜び

「じぃ!あの店はなんぞ!?」

と声を上げる度に
足を止め
店を覗き
幼い光成は目を輝かせていた。

団子屋に着いた頃には
昼を過ぎていた。

「光成様 着きましたぞ」

ご家老はそう言いながら
駕籠から顔を覗かせていた
光成を見つめる。

光成はニコニコしていた。

ご家老は先に団子屋の
暖簾をくぐり中にはいる。

「ふざけるなよ!!!」

ご家老が団子屋に
入ってすぐに
一人の浪人が優に
向かって怒声を浴びせた。

「どうなされた?」

ご家老は近くの客に
声をかける。

「団子屋の嬢ちゃんが
あのお侍さんの袴に
お茶をこぼしちゃったんだよ。
すぐに謝ったんだけどねぇ」

優は青ざめた顔をして
謝り続けていた。

奥からはお静が
出てきて一緒に
頭を下げる。

「お代は結構ですので…」

お静がそう言って
頭を下げようとした瞬間

ガシャーン

と、大きな音を立てて
浪人は刀を抜き
ちゃぶ台の上の食器を
凪ぎ払う。

「キャー」

「わぁ!」

店の中にいた
他の客は騒ぎ始めた。

ご家老は見かねて
間に入る。

「店でそんな物を
振り回してはいかん」

「あぁ?なんだお前は!?」

浪人は刀の切っ先を
ご家老に向けて凄む。

「…ご家老様」

優はご家老の姿に少しだけ
安堵した。

「チッ…」

優がご家老と呼んだ声は
浪人に聞こえたのか
浪人はそれ以上騒ぐ事もなく
机を蹴りつけると
店を出ていく。

それを見送った後
ご家老は優達に
近寄った。

「何があったのじゃ?」

「ここ最近
あんな客が
急に増えてね。
こっちが何があったのか
知りたいぐらいだよ」

「今日も配膳中に
足を引っかけられて…」

お静と優は落胆していた。

店の中に居た客も
勘定を机やちゃぶ台に置くと
いそいそと出て行ってしまう。

「今までそんな輩は
ここには、来ていなかっただろうに…」

ご家老はそう言いながら
団子屋までの道中を
思い出す。

今までの城下町は
活気溢れるという言葉が
当てはまるほどだったが
今日の城下町は
商いをしている者は
変わらずとも
どこか火を消したかのようだった。

「…若君が城下に
来られなくなってから
浪人が多くなったように
感じるんだよねぇ」

お静は食器を
片付けながら
そう呟いた。

そんな時


「じぃー!!」

外から
光成の泣き叫ぶ声がした。

「光成様!」

ご家老は
慌てて外へと飛び出す。

そこには
浪人崩れの盗賊集団が居た。

ニヤニヤと薄ら笑いを
浮かべた男達は
何の躊躇いもなく
周りを囲んでいる
家来達を切っていく。

「やめぬか!」

ご家老は抜刀し
身構える。

ジリジリと間合いを
詰めつつ
思案を巡らせる。

(どうすればよいのじゃ⁉
まさか、これほどまでに
城下の治安すら乱れるのか!)

それが
一瞬の隙を作ってしまった。

「だめです!!」

そう声が聞こえた時
はっと顔を上げると
ご家老の前で
光成は盗賊の男に
刀を振りかざし
向かって行こうと
していた。

そしてそれを止める為に
優は盗賊達の前に
飛び出した。

盗賊達は光成と優を
捕らえると
少しだけ、間合いを離した。

「金目の物を狙ったら
まさかの城主の息子とはなぁ」

「おい、じいさん!
この坊主殺されたら
困るだろ?
夕刻まで待ってやるから
城にあるだけの金銀財宝を持ってこい」

「はなせぇ!」

光成はバタバタと暴れる。
けれど、びくともせず
盗賊の男は
うるさい光成を殴りつける。

「なっ!?乱暴はするでない!」

ご家老はそう言いながら
光成を捕らえていた男に切りかかるが
簡単に避けられてしまった。

「おいおい。
今ここで坊主殺すぞ!」

そう声を荒げて
小刀を光成の首もとに
あてがう。

「ぐっ…」

ご家老はぐっと
奥歯を噛みしめ
刀の柄を握った手に
力を込める。

「坊主以外は要らねぇが
この女は俺たちの
慰み者にするか」

優を捕らえていた男は
下衆な笑い声を上げた。

「いいか、夕刻
町外れの川に
用意した金銀財宝を持ってこい!」

盗賊達はそう告げると
手も足も出せない
家来達とご家老の前から
走り去って行った。

ご家老は力なく
膝から崩れ落ちた。




その頃…

自室で写経をしていた
若君はふと天井を仰いで
筆を止める。

『…若君
一大事にございます』

そう声がすると
天井が少しだけ
開ける。

「わかった…」

若君は苦虫を噛み潰したような
表情を浮かべると
すくっと立ち上がる。

(…無事で居てくれ)

そう思いながら
今まで自ら出ようとしなかった
部屋の襖に手をかけた。
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