上 下
4 / 19
豹ノ黒金

かわいらしい神様

しおりを挟む
04 
なんなんだよ、この声。あったま痛いからやめろっての。
ふわふわの髪の毛を掻き回しながら校舎の階段を駆け上がる。

「そうじゃった、そうじゃった。聴覚を介して伝達した方が身体への負担は少ないのじゃったな。これはすまんことをしたの。」

今度は先程よりもはっきりと、老人の声が聞こえた。ひどい頭痛が嘘のようにひいていく。
周囲を見回してみるが、人影はない。というか、正門付近にいた老人が、走って追いかけて来ていたら気付かないわけがない。それなのに正門付近で聞こえた老人の声は、階段を駆け上った先でも聞こえてくる。

これって、幻聴ってやつ?ひどくなる前に精神科でも受診するか?

って、いやいや、確かに僕はちょっと変わった性格をしているし、中学時代にそこそこひどいいじめを受けていたけれども、そこまで精神的にダメージを受けてはいないはずだ。これまでの生活には満足しているし、それなりに誇りをもっている。

「ここじゃよ、ここじゃ。お主の頭の上じゃ。顔を上げてみい。」

言われるがままに顔を上げると、開いた口が塞がらなくなった。
象のような容姿の服を着た小動物が、耳を羽のように使って宙に浮いていたのである。

えっ?リアルダ●ボじゃん。小さい頃アニメで見たあの耳で空を飛ぶ象である。

ああ、これはもう、本当に精神科に通わなくては。幻覚まで見えてしまっている。自分では気づかないうちに精神的にまいっちゃってたんだな、僕。

いや、まてまて。諦めるのはまだ早いのではないか?自分の脳が勝手に生み出した幻覚であるならば、気合いで消せる可能性はある。

ふははは。そうだ、僕ならきっと消せる。
きっと、桃色女子高生に接近されて、希死念慮のある人物に遭遇したせいで一時的に動揺しただけなのだろう。そのせいで、ありもしない幻覚を生み出してしまったのだ。こういうことは心の持ちようでどうにでもなる。

はずである。

覚悟を決めると、それが不敵な笑いとなってこぼれる。

「くくく、覚悟しろ象の妖精よ!僕はお前を消し去って見せる!」

一年間引きこもって、漫画・アニメ・ゲーム・ネットに勤しんでいたせいか、中二病丸出しの決め台詞が自然と口からこぼれ出る。

一度目を強く閉じ、気合いとともに見開いた。

くわっ!

って、消えてねーし!

一人ノリ突っ込みのようなことをしている僕へ、象の妖精の冷ややかな視線が突き刺さる。

「お主がそこまで愚か者だとは思わなかったわい。儂は幻覚ではなく実体じゃ。嘘だと思うなら触れてみい。」

今回は特別じゃぞ。と、パタパタと顔の前まで降りてきた。

恐る恐る触れてみると、象の姿の妖精は、思ったよりフカフカで全身柔らかい毛で覆われているのがわかった。こんな不思議な姿の小動物、しかも人間の言葉を話すなんてファンタジーの世界でしかあり得ないけれど…。

「なんだよ、これ。かわいい・・・。」

思ったことがそのまま言葉として出てきた。それを聞いた象の妖精はあきれたようにため息をつく。

「奇妙なことに惑わされて、重要なことを忘れてはいかんぞ。まあ、そうじゃな。突然のことで混乱するお主の気持ちもわからんではない。自己紹介くらいはしても良いじゃろう。儂の事はパクと呼ぶがよい。一部地域では神様と崇められ、ガネーシャと呼ばれたこともあったのお。あれはあれでよかったのじゃが、可愛げが足りないのでな。」

パクと名のる神様(?)は、クルリと宙返りをしながら自己紹介をした。

思考が現実に追いついていない。
「え?いやいや、ないない。あり得るわけがない。こんなこと。これって、夢パターンなんじゃ――――。」

「何度も同じことを言わせるなよ小僧。」パクは先ほどとは違って、凄みのある口調で僕の言葉を制した。

「お主が思っているほど神様は気長ではない。屋上にいる黒眼鏡も待っててくれるとは限らんじゃろうて。余計なことを考えている暇はないはずじゃ。なあに、恐れる事は無い。儂のアドバイス通りにすれば、容易いミッションじゃ。」

確かに、パクの言うことは真理ではある。この奇妙な出来事に気を取られて時間を浪費しているうちに、黒金が飛び降りてしまったら、助けることができないじゃないか。それに、そうなったら僕は蝶野さんに顔向けできない。

「わかったよ。一緒に行こう。パク、よろしく頼むよ。」

僕がそう言うと、パクは「わかればよいのじゃ。」と、僕のふわふわな頭にストンと着陸した。

「屋上は理科室の窓から上がるんじゃったな。儂は耳が疲れたから、またお主の髪に埋もれておるぞ。神様だけにの。ほっほっほっ。なんなら、儂のことを『父さん』と呼んでもよいのじゃぞ。」

「僕は黄色と黒のチャンチャンコを着た妖怪少年じゃない!って、パクお前、また埋もれるって、さっきも僕の髪に埋もれていたのか?全然気付かなかったけれど。」

「ほう、なかなかテンポの良い突っ込みじゃな。お主が気付かないのは当然じゃ。こちらから姿を見せない限り、普通人間には認知されない。あの美しいバタフライっ子は儂の存在に気付いていたようじゃがな。バタ子は何か隠していそうな気がするが、まあ、それは今回の説得が終わってから探ることとしよう。」

バタフライっ子?バタ子?それって、蝶野さんのことか?

「彼女は町はずれのパン工場で働いてなんかいない!」と軽く突っ込みを入れると、ほっほっほっと、パクは満足そうに笑った。

・・・パクの存在に気付いていたって、彼女には何か不思議な力があるのだろうか?

とにかく、今は説得に向かうのが最優先事項である。黒金はまだ飛び降りていないだろうか。

ようやく、僕とパクは理科室へたどり着いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【完結】もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

堀 和三盆
恋愛
「それじゃあ、ちょっと番に会いに行ってくるから。ええと帰りは……7日後、かな…」  申し訳なさそうに眉を下げながら。  でも、どこかいそいそと浮足立った様子でそう言ってくる夫に対し、 「行ってらっしゃい、気を付けて。番さんによろしくね!」  別にどうってことがないような顔をして。そんな夫を元気に送り出すアナリーズ。  獣人であるアナリーズの夫――ジョイが魂の伴侶とも言える番に出会ってしまった以上、この先もアナリーズと夫婦関係を続けるためには、彼がある程度の時間を番の女性と共に過ごす必要があるのだ。 『別に性的な接触は必要ないし、獣人としての本能を抑えるために、番と二人で一定時間楽しく過ごすだけ』 『だから浮気とは違うし、この先も夫婦としてやっていくためにはどうしても必要なこと』  ――そんな説明を受けてからもうずいぶんと経つ。  だから夫のジョイは一カ月に一度、仕事ついでに番の女性と会うために出かけるのだ……妻であるアナリーズをこの家に残して。  夫であるジョイを愛しているから。  必ず自分の元へと帰ってきて欲しいから。  アナリーズはそれを受け入れて、今日も番の元へと向かう夫を送り出す。  顔には飛び切りの笑顔を張り付けて。  夫の背中を見送る度に、自分の内側がズタズタに引き裂かれていく痛みには気付かぬふりをして――――――。 

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

処理中です...