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豹ノ黒金
かわいらしい神様
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04
なんなんだよ、この声。あったま痛いからやめろっての。
ふわふわの髪の毛を掻き回しながら校舎の階段を駆け上がる。
「そうじゃった、そうじゃった。聴覚を介して伝達した方が身体への負担は少ないのじゃったな。これはすまんことをしたの。」
今度は先程よりもはっきりと、老人の声が聞こえた。ひどい頭痛が嘘のようにひいていく。
周囲を見回してみるが、人影はない。というか、正門付近にいた老人が、走って追いかけて来ていたら気付かないわけがない。それなのに正門付近で聞こえた老人の声は、階段を駆け上った先でも聞こえてくる。
これって、幻聴ってやつ?ひどくなる前に精神科でも受診するか?
って、いやいや、確かに僕はちょっと変わった性格をしているし、中学時代にそこそこひどいいじめを受けていたけれども、そこまで精神的にダメージを受けてはいないはずだ。これまでの生活には満足しているし、それなりに誇りをもっている。
「ここじゃよ、ここじゃ。お主の頭の上じゃ。顔を上げてみい。」
言われるがままに顔を上げると、開いた口が塞がらなくなった。
象のような容姿の服を着た小動物が、耳を羽のように使って宙に浮いていたのである。
えっ?リアルダ●ボじゃん。小さい頃アニメで見たあの耳で空を飛ぶ象である。
ああ、これはもう、本当に精神科に通わなくては。幻覚まで見えてしまっている。自分では気づかないうちに精神的にまいっちゃってたんだな、僕。
いや、まてまて。諦めるのはまだ早いのではないか?自分の脳が勝手に生み出した幻覚であるならば、気合いで消せる可能性はある。
ふははは。そうだ、僕ならきっと消せる。
きっと、桃色女子高生に接近されて、希死念慮のある人物に遭遇したせいで一時的に動揺しただけなのだろう。そのせいで、ありもしない幻覚を生み出してしまったのだ。こういうことは心の持ちようでどうにでもなる。
はずである。
覚悟を決めると、それが不敵な笑いとなってこぼれる。
「くくく、覚悟しろ象の妖精よ!僕はお前を消し去って見せる!」
一年間引きこもって、漫画・アニメ・ゲーム・ネットに勤しんでいたせいか、中二病丸出しの決め台詞が自然と口からこぼれ出る。
一度目を強く閉じ、気合いとともに見開いた。
くわっ!
って、消えてねーし!
一人ノリ突っ込みのようなことをしている僕へ、象の妖精の冷ややかな視線が突き刺さる。
「お主がそこまで愚か者だとは思わなかったわい。儂は幻覚ではなく実体じゃ。嘘だと思うなら触れてみい。」
今回は特別じゃぞ。と、パタパタと顔の前まで降りてきた。
恐る恐る触れてみると、象の姿の妖精は、思ったよりフカフカで全身柔らかい毛で覆われているのがわかった。こんな不思議な姿の小動物、しかも人間の言葉を話すなんてファンタジーの世界でしかあり得ないけれど…。
「なんだよ、これ。かわいい・・・。」
思ったことがそのまま言葉として出てきた。それを聞いた象の妖精はあきれたようにため息をつく。
「奇妙なことに惑わされて、重要なことを忘れてはいかんぞ。まあ、そうじゃな。突然のことで混乱するお主の気持ちもわからんではない。自己紹介くらいはしても良いじゃろう。儂の事はパクと呼ぶがよい。一部地域では神様と崇められ、ガネーシャと呼ばれたこともあったのお。あれはあれでよかったのじゃが、可愛げが足りないのでな。」
パクと名のる神様(?)は、クルリと宙返りをしながら自己紹介をした。
思考が現実に追いついていない。
「え?いやいや、ないない。あり得るわけがない。こんなこと。これって、夢パターンなんじゃ――――。」
「何度も同じことを言わせるなよ小僧。」パクは先ほどとは違って、凄みのある口調で僕の言葉を制した。
「お主が思っているほど神様は気長ではない。屋上にいる黒眼鏡も待っててくれるとは限らんじゃろうて。余計なことを考えている暇はないはずじゃ。なあに、恐れる事は無い。儂のアドバイス通りにすれば、容易いミッションじゃ。」
確かに、パクの言うことは真理ではある。この奇妙な出来事に気を取られて時間を浪費しているうちに、黒金が飛び降りてしまったら、助けることができないじゃないか。それに、そうなったら僕は蝶野さんに顔向けできない。
「わかったよ。一緒に行こう。パク、よろしく頼むよ。」
僕がそう言うと、パクは「わかればよいのじゃ。」と、僕のふわふわな頭にストンと着陸した。
「屋上は理科室の窓から上がるんじゃったな。儂は耳が疲れたから、またお主の髪に埋もれておるぞ。神様だけにの。ほっほっほっ。なんなら、儂のことを『父さん』と呼んでもよいのじゃぞ。」
「僕は黄色と黒のチャンチャンコを着た妖怪少年じゃない!って、パクお前、また埋もれるって、さっきも僕の髪に埋もれていたのか?全然気付かなかったけれど。」
「ほう、なかなかテンポの良い突っ込みじゃな。お主が気付かないのは当然じゃ。こちらから姿を見せない限り、普通人間には認知されない。あの美しいバタフライっ子は儂の存在に気付いていたようじゃがな。バタ子は何か隠していそうな気がするが、まあ、それは今回の説得が終わってから探ることとしよう。」
バタフライっ子?バタ子?それって、蝶野さんのことか?
「彼女は町はずれのパン工場で働いてなんかいない!」と軽く突っ込みを入れると、ほっほっほっと、パクは満足そうに笑った。
・・・パクの存在に気付いていたって、彼女には何か不思議な力があるのだろうか?
とにかく、今は説得に向かうのが最優先事項である。黒金はまだ飛び降りていないだろうか。
ようやく、僕とパクは理科室へたどり着いた。
なんなんだよ、この声。あったま痛いからやめろっての。
ふわふわの髪の毛を掻き回しながら校舎の階段を駆け上がる。
「そうじゃった、そうじゃった。聴覚を介して伝達した方が身体への負担は少ないのじゃったな。これはすまんことをしたの。」
今度は先程よりもはっきりと、老人の声が聞こえた。ひどい頭痛が嘘のようにひいていく。
周囲を見回してみるが、人影はない。というか、正門付近にいた老人が、走って追いかけて来ていたら気付かないわけがない。それなのに正門付近で聞こえた老人の声は、階段を駆け上った先でも聞こえてくる。
これって、幻聴ってやつ?ひどくなる前に精神科でも受診するか?
って、いやいや、確かに僕はちょっと変わった性格をしているし、中学時代にそこそこひどいいじめを受けていたけれども、そこまで精神的にダメージを受けてはいないはずだ。これまでの生活には満足しているし、それなりに誇りをもっている。
「ここじゃよ、ここじゃ。お主の頭の上じゃ。顔を上げてみい。」
言われるがままに顔を上げると、開いた口が塞がらなくなった。
象のような容姿の服を着た小動物が、耳を羽のように使って宙に浮いていたのである。
えっ?リアルダ●ボじゃん。小さい頃アニメで見たあの耳で空を飛ぶ象である。
ああ、これはもう、本当に精神科に通わなくては。幻覚まで見えてしまっている。自分では気づかないうちに精神的にまいっちゃってたんだな、僕。
いや、まてまて。諦めるのはまだ早いのではないか?自分の脳が勝手に生み出した幻覚であるならば、気合いで消せる可能性はある。
ふははは。そうだ、僕ならきっと消せる。
きっと、桃色女子高生に接近されて、希死念慮のある人物に遭遇したせいで一時的に動揺しただけなのだろう。そのせいで、ありもしない幻覚を生み出してしまったのだ。こういうことは心の持ちようでどうにでもなる。
はずである。
覚悟を決めると、それが不敵な笑いとなってこぼれる。
「くくく、覚悟しろ象の妖精よ!僕はお前を消し去って見せる!」
一年間引きこもって、漫画・アニメ・ゲーム・ネットに勤しんでいたせいか、中二病丸出しの決め台詞が自然と口からこぼれ出る。
一度目を強く閉じ、気合いとともに見開いた。
くわっ!
って、消えてねーし!
一人ノリ突っ込みのようなことをしている僕へ、象の妖精の冷ややかな視線が突き刺さる。
「お主がそこまで愚か者だとは思わなかったわい。儂は幻覚ではなく実体じゃ。嘘だと思うなら触れてみい。」
今回は特別じゃぞ。と、パタパタと顔の前まで降りてきた。
恐る恐る触れてみると、象の姿の妖精は、思ったよりフカフカで全身柔らかい毛で覆われているのがわかった。こんな不思議な姿の小動物、しかも人間の言葉を話すなんてファンタジーの世界でしかあり得ないけれど…。
「なんだよ、これ。かわいい・・・。」
思ったことがそのまま言葉として出てきた。それを聞いた象の妖精はあきれたようにため息をつく。
「奇妙なことに惑わされて、重要なことを忘れてはいかんぞ。まあ、そうじゃな。突然のことで混乱するお主の気持ちもわからんではない。自己紹介くらいはしても良いじゃろう。儂の事はパクと呼ぶがよい。一部地域では神様と崇められ、ガネーシャと呼ばれたこともあったのお。あれはあれでよかったのじゃが、可愛げが足りないのでな。」
パクと名のる神様(?)は、クルリと宙返りをしながら自己紹介をした。
思考が現実に追いついていない。
「え?いやいや、ないない。あり得るわけがない。こんなこと。これって、夢パターンなんじゃ――――。」
「何度も同じことを言わせるなよ小僧。」パクは先ほどとは違って、凄みのある口調で僕の言葉を制した。
「お主が思っているほど神様は気長ではない。屋上にいる黒眼鏡も待っててくれるとは限らんじゃろうて。余計なことを考えている暇はないはずじゃ。なあに、恐れる事は無い。儂のアドバイス通りにすれば、容易いミッションじゃ。」
確かに、パクの言うことは真理ではある。この奇妙な出来事に気を取られて時間を浪費しているうちに、黒金が飛び降りてしまったら、助けることができないじゃないか。それに、そうなったら僕は蝶野さんに顔向けできない。
「わかったよ。一緒に行こう。パク、よろしく頼むよ。」
僕がそう言うと、パクは「わかればよいのじゃ。」と、僕のふわふわな頭にストンと着陸した。
「屋上は理科室の窓から上がるんじゃったな。儂は耳が疲れたから、またお主の髪に埋もれておるぞ。神様だけにの。ほっほっほっ。なんなら、儂のことを『父さん』と呼んでもよいのじゃぞ。」
「僕は黄色と黒のチャンチャンコを着た妖怪少年じゃない!って、パクお前、また埋もれるって、さっきも僕の髪に埋もれていたのか?全然気付かなかったけれど。」
「ほう、なかなかテンポの良い突っ込みじゃな。お主が気付かないのは当然じゃ。こちらから姿を見せない限り、普通人間には認知されない。あの美しいバタフライっ子は儂の存在に気付いていたようじゃがな。バタ子は何か隠していそうな気がするが、まあ、それは今回の説得が終わってから探ることとしよう。」
バタフライっ子?バタ子?それって、蝶野さんのことか?
「彼女は町はずれのパン工場で働いてなんかいない!」と軽く突っ込みを入れると、ほっほっほっと、パクは満足そうに笑った。
・・・パクの存在に気付いていたって、彼女には何か不思議な力があるのだろうか?
とにかく、今は説得に向かうのが最優先事項である。黒金はまだ飛び降りていないだろうか。
ようやく、僕とパクは理科室へたどり着いた。
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