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第3話

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 私はグレスオリオ様を客間まで案内する中、女官を二人捕まえ、できるだけすばやく最上級の客間の準備を整えるように伝える。

 幸運な事に彼女達は優秀で私が侯爵家のものである事や、その私が最大限に気を使っているグレスオリオ様が只者ではないと察してくれた。

 なんとかグレスオリオ様を無事に客間までお連れできて一瞬気が緩みかけたけれど、まだ私には時間を稼ぐ使命があるので気を取り直す。

「どうぞ、お座りになってください」
「ありがとう」
「何かお飲みになられますか?」
「あー、それなら紅茶をいただこうかな」
「わかりました。レレチェ産の紅茶を二つお願い」
「かしこまりました」

 私は壁際に控えていた女官の一人に頼み送り出した。

「ははは、サベリュヤ教徒の私にレレチェ産か……」
「レレチェ産のものをサベリュヤ教徒の方々は好んで飲まれるというのを読みました。ですが、あくまで本から得た知識なので、もし私の言動が間違っていたり的外れだった場合はご容赦を」
「安心すると良い。今のところは満点に近いよ」
「ありがとうございます」

 グレスオリオ様の真意はわからないので、私はとりあえず額面通りに受け取っておく。

 それにしても、ここから何を話せば良いのかしら?

 私はそれほど信心深い方じゃないし学者でもないから宗教に関する事を聞かれても困るわ……。

 そうかと言って、グレスオリオ様が今日王城を訪れた理由を聞くわけにはいかない。

 こういう時に自分の社交性の低さが恨めしいわ。

 …………とにかくお客様であるグレスオリオ様に気まずい思いをさせないように私が会話できそうな事を話し続けよう。

「グレスオリオ様は、この国の食べ物を何か食べられましたか?」
「ああ、私はできるだけ現地のものを食べるようにしていて、特に屋台料理は食べたよ」
「え……?」
「この王都には昨日到着したんだが、広場で売られていた串焼きはなかなかのものだったね」
「あの、サベリュヤ教でお肉は……」
「確かにサベリュヤ教には精心食という考えに基づき野草や野菜や果物のみを食べる宗派もあるけど、私の属している宗派では問題ないんだ」
「……そうなんですか」

 私は自分の知識が中途半端だとわかって顔が熱くなる。

 これならいっそサベリュヤ教について何も知らない方がマシだったかもしれないと後悔していたら、グレスオリオ様が私を見て微笑んだ。

「誰だって全てを知っているわけではないから知らない事はこれから知れば良い。むしろ、相手の無知をけなすものこそ愚かなのさ」
「はい、これからも勉学にはげみ精進します」
「うん、他人の意見を素直は聞けるのは美徳だね。
「ありがとうございます」
「それじゃあ、次は私からこの国について質問しても良いかな?」
「私に答えられる事なら」

 こうして私とグレスオリオ様は、お互いに質問してお互いへ答えるというのを繰り返していった。


◆◆◆◆◆


 それから、どれくらいの時間が経ったのかわからないけれど、途中で紅茶を楽しみながら二人で話していると客間の外から呼びかけられる。

 …………そうだった。

 グレスオリオ様との会話が楽しくて忘れていた時間稼ぎを思い出してハッとした後に慌てないように落ち着き、グレスオリオ様へ断りを入れてから壁際の女官に軽くうなずく。

 女官はすぐに私の意を察してくれて客間の扉を開けると、扉の外にはこの国の大神官がいたので私は立って頭を下げる。

「ああ、ロアンド嬢、楽して構わない。それよりもグレスオリオ殿をもてなしてくれた事、誠に大儀だった」
「いえ、たまたまです」

 大僧正は私へ話しかけた後、グレスオリオ様を見て少し厳しい表情になる。

「グレスオリオ殿、従者達があなたを必死に探していましたよ。もう少し気にかけてはいかがか?」
「私とあのもの達との間では、いつもの事。それにせっかく神殿を離れたのだ、少しばかり羽を伸ばしたかったのでな」
「…………従者を気絶させ置き去りにするのが、いつもの事だと?」
「もちろんだ」

 グレスオリオ様はにこやかに笑って大僧正の質問に答えていたけど、大僧正の指摘を聞いて冷静に考えてみればサベリュヤ教【示しの剣】第三帯剣者であるグレスオリオ様が一人で行動しているのが、そもそもおかしい事だった。

 でも、それよりも従者を気絶させた事に驚き、私がグレスオリオ様を見たらグレスオリオ様は何一つブレずにニコッと笑い返してきた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
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