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赤の村にて 暴走の後始末と出発
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ようやく暴走したバ……ゴホン、ヌイジュの治療が終わったけど、はっきり言って本当に危なかった。内臓が損傷したせいで眠らせた後も血を口から吐いていたから、植物に覆われた状態で顔と身体を横向きにして吐血で窒息をしないように固定した。ヌイジュの体勢を安定させてから、僕はすぐに薬草団子を取り出し魔力を通す。
「緑盛魔法・薬草団子」
ふー、薬草団子が効いて口からの吐血も治まった。とりあえず治療は成功したから、これで良し。さて、これからどうしようかな。こいつを運ぶか人を呼んでくるかだけど、ケガ人を放っておいて呼びに行くはない。という事は、こいつを運ぶ一択しかないね。……しょうがないか。
「はあ、よいしょっと……」
僕がヌイジュを背負って歩き出すと、慌てた様子の破壊猪が近づいてきた。
「ブ、ブオ?」
「うん? なんでって、お前こいつの事が嫌いだよね? そんなお前に、こいつを運ばす理由がない。かと言って、ケガ人を引きずるわけにもいかないから僕が背負って運ぶしかない」
「ブオ、ブオ……」
「別に問題ないよ。確かに僕は身体は弱いけど、さすがに赤の村までこいつを運ぶくらいはできる」
「ブォ……」
人を一人運ぶくらいなら問題ないから、そんなに心配しなくても良いのに……優しい奴だね。
破壊猪に何度も大丈夫かと聞かれながら、あともう少しで赤の村までというところまで来ると、僕と破壊猪に向かって見知った気配と面倒くさい気配が結構な速さで近づいてくる。
「ここに居れば、すぐに会える」
「ブオ?」
「そう、兄さんとラカムタさんとイギギさんと背中のこいつの主人だね」
僕と破壊猪が立ち止まって待ってたら樹々の向こうから兄さん達が走ってきた。じっと見てると兄さんは、慌ててるせいか樹の根に足を取られたり飛び出てる枝に顔をぶつけたりしてた。……落ち着こうよ。
「ヤート、大丈夫か!!!」
「えっと……、兄さんこそ大丈夫?」
「俺の事は良いんだよ!! ヤート、ケガはないか!?」
「見ての通り、人を一人運べるくらいには元気だよ」
「そっ、そうか。それで、背中のそいつはどうしたんだ?」
「こいつ? 勝手に自滅しただけ」
「自滅?」
「そう、よくわからない理由で襲ってきたから、ほどほどに相手してて、そしたら竜人息を連発して勝手に自滅した」
「竜人息だって!!」
「そうだけど」
「それは……、その、確かなのかな?」
「イリュキン、てめえ!! どういう意味だ!!!!」
「兄さん、うるさい」
「ヤート!! こいつは、イリュキンは襲われたお前が嘘を言ってるかもしれねえって言ってんだぞ!!!!」
「別に普通でしょ? 竜人息を使うなんて思わないしね。まぁ、その証拠って訳でもないけど、向こうに行ったらヌイジュの竜人息の痕跡があるよ。イリュキンは当然ヌイジュのを知ってるだろうし確認すれば良い」
「わかった。そうさせてもらう」
「それじゃあ、こいつもよろしく」
僕はヌイジュを雑に落とすとウッて声が聞こえたけど無視して歩き出す。
「ちょっ、ヤ、ヤート!! どこに行くんだ!?」
「邪魔された散歩の続きだけど? なんか用?」
「あー、それはだな……」
兄さんが慌ててる。なんか変な事を言ったかな? 僕が兄さんの態度に首を傾げているとラカムタさんが近づいてきた。
「ヤート、今日は戻ってくれ。今回の事で赤の村が騒ぎになっててな。その騒ぎを鎮めるために、お前に無事な姿を見せてほしい。頼めるか?」
「そういう事なら、わかった。赤の村に戻るよ」
「散歩の最中に悪いな」
「どうせ明日までだから別に問題ない」
「どういう意味だ?」
「どういうって、そのままだけど?」
「……そうか」
また面倒くさい事に巻き込まれたか。何度も思うけど、なんでこういう事になるのかな? と内心で首をひねりながらも、破壊猪にあいさつをして別れた後に赤の村へ戻った。
赤の村に戻ってみんなにイギギさんが僕と合流した時の説明をしたら、いくつかの表情に出迎えられる。それは黒のみんなのホッとした表情と赤、青、黄土の人達の驚愕や困惑や嫉妬だった。……嫉妬? なんで僕に嫉妬してるんだろ? まぁ、どうでも良いか。
「ヤート!! 大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。姉さん。兄さんにも言ったけど人を一人運べるくらいには元気だよ」
「そうなの良かった」
「それじゃ部屋に戻ってるね」
「ええ、夕食になったら呼ぶわ」
「ありがと、また後でね」
部屋に入って、しばらくボーッと窓から空を眺めてたら玄関の方で言い争う声が聞こえてきた。一番奥まった部屋にいる事と今いる建物の遮音性が高いせいか、はっきりとは聞こえないけど確かに騒ぎになってる。何だろうと思って玄関に行こうとしたら、ちょうど姉さんが入ってきた。
「玄関の方で何かあったの?」
「なんでもないわ」
「この部屋まで騒ぎが聞こえてきたんだけど?」
「本当になんでもないの」
「……わかった」
なんでか姉さんは騒ぎの原因を教えてくれない。まあ、姉さんがなんでもないって言うんだからなんでもないんだろうね。
「ヤートは何してたの?」
「良い天気だから空を見てた」
「そう、のんびりしてて良いわね」
「うん、明日までだからね」
「ヤート?」
「何? 姉さん」
「……今は良いわ」
姉さんが何か言いたそうにしていたけど何も言わなかった。僕が面倒くさい事に巻き込まれると、兄さんや姉さんの様子がおかしくなる。どうやら心配かけてるみたいだから巻き込まれたくないけど、面倒の方からやってきたどうしようもないんだよね。まあ、今日までだから良いか。
「よし」
「おっ、ヤート。今日も散歩か?」
「違うよ」
「読書かしら?」
「それも違う」
「中でのんびりするのか?」
「それでもないよ」
「じゃあ、今日は何をするの?」
「とりあえずラカムタさんと話する」
みんなにじっと見守られながらラカムタさんのところに行く。そうしたらラカムタさんが僕を見て小さくうなずいた。
「良いぞ。ヤート」
「えっと?」
「黒の村に帰りたいんだろ?」
「良いの?」
「おう」
「それじゃあ黒の村に帰るね」
「気をつけて帰るんだぞ」
「わかった」
「えっ? えっ? えっ?」
僕とラカムタさんの会話を聞いて周りがシンと静まり返ったけど、気にせずさっさと歩いて赤の村の門に向かう。もう少しで門を抜けるって時に、みんなが追いついてきた。
「ヤート!! ちょっと待て!!!!」
「何? 僕は黒の村に帰りたいんだけど」
「だか「ヤート」……マイネ」
「何、姉さん」
「なんで帰るのか聞いても良いかしら?」
「理由はいくつかあるけど、一番大きいのは散歩とか食事の邪魔される事だね」
「……そう」
「まず言いたいのは僕は自分からケンカを売った事はないって事。売られた理由が僕にあるなら反省するけどさ正直よくわからない。どうせここに居たらまた他の奴に、よくわからない理由でケンカを売られるだろうし、そんな無駄な時間に散歩とか食事の邪魔されたくない」
僕の言葉を聞くと黒のみんなは周りを鋭くにらみ始めた。にらまれた赤や青の人達は気まずそうに黒からの視線にさらされてる。
「それに青のヌイジュに出て行けって言われたしね。文句言われてまで赤の村にいる理由が僕にはそもそもない」
「そう……、もう決めてるのね。だったら何も言わないわ。ただイギギさんや赤の村長に、ちゃんと挨拶してから出発しなさい」
「忘れてた。ありがとう、姉さん」
危ない危ない。姉さんに言われなかったら完全に忘れてたね。よくわからない奴らは別にしても、イギギさんやグレアソンさんに挨拶してからしないと失礼だった。
「それじゃあ、グレアソンさんのところに行くね」
「ええ、いってらっしゃい」
「その必要はないよ」
「グレアソンさん、おはようございます」
「おはよう。相変わらず礼儀正しい子だね」
「そうですか? 普通だと思いますよ」
「坊やらしいね」
普段なら坊やとか頭をポンポンされるとか実際子供だけど子供扱いされるのはイラッとするけど、グレアソンさんにされるのは嫌じゃないから不思議だな。
「話は聞いてた。いろいろ迷惑をかけて悪かったね」
「いえ、くだらないケンカ以外は楽しめたんで赤の村に来て良かったです」
「そうかい。そう言ってくれるとありがたいよ。それでも迷惑をかけた事は確かだから、これを持っていきな」
グレアソンさんから、見覚えのある容れ物を渡された。
「これってハチミツですよね」
「手土産代わりさ。あとはこれだ」
次にグレアソンさんから渡されたのは、赤い欠片が付いている首飾りだった。……この欠片はもしかして?
「その顔は、この欠片が何なのか気づいてるようだね」
「……良いんですか?」
「もちろんさ」
「村長、その首飾りは、まさか……」
「イギギも気付いたかい。あんたの想像してる通りだよ」
「村長はウロコを渡すのか」
イギギさんの発言で周りに驚きが拡がった。なぜなら他の種族でもそうだけど自分の身体の一部を相手に渡す事は、かなり重要な意味を持つからだ。
「あたしは、この子が気に入ったからウロコを渡す。それだけだ。というわけでヤート、今日からあんたとあたしは対等だ。よろしく頼むよ」
「でも、今の僕にはグレアソンさんに渡せるウロコが無いです」
「あっはっは、あたしが勝手にやってる事だ。気にする事はないよ」
「でも……」
「まったく律儀な子だね。あたしじゃ不満かい?」
「そんな事はないです。なんというか申し訳ないというか」
「えーい、じれったいね。あたしに不満がないなら返事を聞かせな」
「えっと、……僕で良ければ、よろしくお願いします」
「あんたね、あんたとあたしは対等って言ったはずだよ。もっと砕けな」
「……それじゃあ、よろしく」
「ああ、それで良い。それと」
「何?」
「あたしは手先が器用じゃないからね、その首飾りの見た目は気にしないでおくれよ」
「割と好きな見た目だから大丈夫」
「そう言ってくれてうれしいよ。……ところで一応聞くけど、あんたどうやって帰るんだい?」
「どうって歩いて帰る。ただ行きよりも時間はかかるだろうけど、特に急いでないから一人でゆっくり帰るよ。ラカムタさん達は僕が出発したら変な騒ぎは無くなるだろうからのんびりできる」
「はぁ、お前な……」
何だろう? なんかみんなが、そうじゃないだろうって感じのため息をついてる。赤の村での騒ぎの原因の一つが僕だから、その僕が村を出れば騒ぎは無くなるはずっていう特に間違った事は言ってないのに、なんでため息をつかれるんだろ?
「まぁ、良いだろう。先に出発しろ」
「…………ヤート、お前一人で帰るつもりか?」
「そうだよイギギさん、ゆっくり黒の村まで散歩しながら帰るつもり」
「ラカムタ!! 本当にヤートを一人で行かす気か?」
「そうだが、どうした?」
「どうした、じゃねぇ!! ガキを大人なしで長旅に行かすな!!!!」
「魔境の大神林でも平気で過ごせる奴に長旅も何も関係ない。それにヤートは無理な事は絶対にしないっていう長旅に一番向いている奴だ。まったく問題ない」
「そっ、そうなのか」
「ああ。ヤート、のんびり長旅を楽しめ」
「わかった。それじゃ黒のみんな、また黒の村で。グレアソンさん、イギギさん、お世話になりました」
「……色々納得いかねえが、また来い。じゃあな」
「また来な。歓迎するよ」
「ありがと。いつになるかわからないけど、また来る」
みんなに挨拶して赤の村を出発した後、少しすると赤の村からの方から見知った気配と足音が近づいてくる。振り返ると、やっぱり兄さんと姉さんだった。
「二人共、どうしたの?」
「お前といっしょの方が絶対面白いからな、ラカムタさんに言ってから出てきた」
「私はガルのお目付け役よ」
「マイネ、てめぇ、俺の事バカにすんな!!」
「何言ってるのよ。当然、私もヤートといっしょにいたいっていうのもあるけれど、私にはガルが旅で興奮して変な失敗をするのが目に浮かぶわ。ヤート一人じゃ大変だろうから来たのよ」
……静かな旅になると思ったんだけどな。まあ、良い天気だしにぎやかな旅も悪くないかな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
「緑盛魔法・薬草団子」
ふー、薬草団子が効いて口からの吐血も治まった。とりあえず治療は成功したから、これで良し。さて、これからどうしようかな。こいつを運ぶか人を呼んでくるかだけど、ケガ人を放っておいて呼びに行くはない。という事は、こいつを運ぶ一択しかないね。……しょうがないか。
「はあ、よいしょっと……」
僕がヌイジュを背負って歩き出すと、慌てた様子の破壊猪が近づいてきた。
「ブ、ブオ?」
「うん? なんでって、お前こいつの事が嫌いだよね? そんなお前に、こいつを運ばす理由がない。かと言って、ケガ人を引きずるわけにもいかないから僕が背負って運ぶしかない」
「ブオ、ブオ……」
「別に問題ないよ。確かに僕は身体は弱いけど、さすがに赤の村までこいつを運ぶくらいはできる」
「ブォ……」
人を一人運ぶくらいなら問題ないから、そんなに心配しなくても良いのに……優しい奴だね。
破壊猪に何度も大丈夫かと聞かれながら、あともう少しで赤の村までというところまで来ると、僕と破壊猪に向かって見知った気配と面倒くさい気配が結構な速さで近づいてくる。
「ここに居れば、すぐに会える」
「ブオ?」
「そう、兄さんとラカムタさんとイギギさんと背中のこいつの主人だね」
僕と破壊猪が立ち止まって待ってたら樹々の向こうから兄さん達が走ってきた。じっと見てると兄さんは、慌ててるせいか樹の根に足を取られたり飛び出てる枝に顔をぶつけたりしてた。……落ち着こうよ。
「ヤート、大丈夫か!!!」
「えっと……、兄さんこそ大丈夫?」
「俺の事は良いんだよ!! ヤート、ケガはないか!?」
「見ての通り、人を一人運べるくらいには元気だよ」
「そっ、そうか。それで、背中のそいつはどうしたんだ?」
「こいつ? 勝手に自滅しただけ」
「自滅?」
「そう、よくわからない理由で襲ってきたから、ほどほどに相手してて、そしたら竜人息を連発して勝手に自滅した」
「竜人息だって!!」
「そうだけど」
「それは……、その、確かなのかな?」
「イリュキン、てめえ!! どういう意味だ!!!!」
「兄さん、うるさい」
「ヤート!! こいつは、イリュキンは襲われたお前が嘘を言ってるかもしれねえって言ってんだぞ!!!!」
「別に普通でしょ? 竜人息を使うなんて思わないしね。まぁ、その証拠って訳でもないけど、向こうに行ったらヌイジュの竜人息の痕跡があるよ。イリュキンは当然ヌイジュのを知ってるだろうし確認すれば良い」
「わかった。そうさせてもらう」
「それじゃあ、こいつもよろしく」
僕はヌイジュを雑に落とすとウッて声が聞こえたけど無視して歩き出す。
「ちょっ、ヤ、ヤート!! どこに行くんだ!?」
「邪魔された散歩の続きだけど? なんか用?」
「あー、それはだな……」
兄さんが慌ててる。なんか変な事を言ったかな? 僕が兄さんの態度に首を傾げているとラカムタさんが近づいてきた。
「ヤート、今日は戻ってくれ。今回の事で赤の村が騒ぎになっててな。その騒ぎを鎮めるために、お前に無事な姿を見せてほしい。頼めるか?」
「そういう事なら、わかった。赤の村に戻るよ」
「散歩の最中に悪いな」
「どうせ明日までだから別に問題ない」
「どういう意味だ?」
「どういうって、そのままだけど?」
「……そうか」
また面倒くさい事に巻き込まれたか。何度も思うけど、なんでこういう事になるのかな? と内心で首をひねりながらも、破壊猪にあいさつをして別れた後に赤の村へ戻った。
赤の村に戻ってみんなにイギギさんが僕と合流した時の説明をしたら、いくつかの表情に出迎えられる。それは黒のみんなのホッとした表情と赤、青、黄土の人達の驚愕や困惑や嫉妬だった。……嫉妬? なんで僕に嫉妬してるんだろ? まぁ、どうでも良いか。
「ヤート!! 大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。姉さん。兄さんにも言ったけど人を一人運べるくらいには元気だよ」
「そうなの良かった」
「それじゃ部屋に戻ってるね」
「ええ、夕食になったら呼ぶわ」
「ありがと、また後でね」
部屋に入って、しばらくボーッと窓から空を眺めてたら玄関の方で言い争う声が聞こえてきた。一番奥まった部屋にいる事と今いる建物の遮音性が高いせいか、はっきりとは聞こえないけど確かに騒ぎになってる。何だろうと思って玄関に行こうとしたら、ちょうど姉さんが入ってきた。
「玄関の方で何かあったの?」
「なんでもないわ」
「この部屋まで騒ぎが聞こえてきたんだけど?」
「本当になんでもないの」
「……わかった」
なんでか姉さんは騒ぎの原因を教えてくれない。まあ、姉さんがなんでもないって言うんだからなんでもないんだろうね。
「ヤートは何してたの?」
「良い天気だから空を見てた」
「そう、のんびりしてて良いわね」
「うん、明日までだからね」
「ヤート?」
「何? 姉さん」
「……今は良いわ」
姉さんが何か言いたそうにしていたけど何も言わなかった。僕が面倒くさい事に巻き込まれると、兄さんや姉さんの様子がおかしくなる。どうやら心配かけてるみたいだから巻き込まれたくないけど、面倒の方からやってきたどうしようもないんだよね。まあ、今日までだから良いか。
「よし」
「おっ、ヤート。今日も散歩か?」
「違うよ」
「読書かしら?」
「それも違う」
「中でのんびりするのか?」
「それでもないよ」
「じゃあ、今日は何をするの?」
「とりあえずラカムタさんと話する」
みんなにじっと見守られながらラカムタさんのところに行く。そうしたらラカムタさんが僕を見て小さくうなずいた。
「良いぞ。ヤート」
「えっと?」
「黒の村に帰りたいんだろ?」
「良いの?」
「おう」
「それじゃあ黒の村に帰るね」
「気をつけて帰るんだぞ」
「わかった」
「えっ? えっ? えっ?」
僕とラカムタさんの会話を聞いて周りがシンと静まり返ったけど、気にせずさっさと歩いて赤の村の門に向かう。もう少しで門を抜けるって時に、みんなが追いついてきた。
「ヤート!! ちょっと待て!!!!」
「何? 僕は黒の村に帰りたいんだけど」
「だか「ヤート」……マイネ」
「何、姉さん」
「なんで帰るのか聞いても良いかしら?」
「理由はいくつかあるけど、一番大きいのは散歩とか食事の邪魔される事だね」
「……そう」
「まず言いたいのは僕は自分からケンカを売った事はないって事。売られた理由が僕にあるなら反省するけどさ正直よくわからない。どうせここに居たらまた他の奴に、よくわからない理由でケンカを売られるだろうし、そんな無駄な時間に散歩とか食事の邪魔されたくない」
僕の言葉を聞くと黒のみんなは周りを鋭くにらみ始めた。にらまれた赤や青の人達は気まずそうに黒からの視線にさらされてる。
「それに青のヌイジュに出て行けって言われたしね。文句言われてまで赤の村にいる理由が僕にはそもそもない」
「そう……、もう決めてるのね。だったら何も言わないわ。ただイギギさんや赤の村長に、ちゃんと挨拶してから出発しなさい」
「忘れてた。ありがとう、姉さん」
危ない危ない。姉さんに言われなかったら完全に忘れてたね。よくわからない奴らは別にしても、イギギさんやグレアソンさんに挨拶してからしないと失礼だった。
「それじゃあ、グレアソンさんのところに行くね」
「ええ、いってらっしゃい」
「その必要はないよ」
「グレアソンさん、おはようございます」
「おはよう。相変わらず礼儀正しい子だね」
「そうですか? 普通だと思いますよ」
「坊やらしいね」
普段なら坊やとか頭をポンポンされるとか実際子供だけど子供扱いされるのはイラッとするけど、グレアソンさんにされるのは嫌じゃないから不思議だな。
「話は聞いてた。いろいろ迷惑をかけて悪かったね」
「いえ、くだらないケンカ以外は楽しめたんで赤の村に来て良かったです」
「そうかい。そう言ってくれるとありがたいよ。それでも迷惑をかけた事は確かだから、これを持っていきな」
グレアソンさんから、見覚えのある容れ物を渡された。
「これってハチミツですよね」
「手土産代わりさ。あとはこれだ」
次にグレアソンさんから渡されたのは、赤い欠片が付いている首飾りだった。……この欠片はもしかして?
「その顔は、この欠片が何なのか気づいてるようだね」
「……良いんですか?」
「もちろんさ」
「村長、その首飾りは、まさか……」
「イギギも気付いたかい。あんたの想像してる通りだよ」
「村長はウロコを渡すのか」
イギギさんの発言で周りに驚きが拡がった。なぜなら他の種族でもそうだけど自分の身体の一部を相手に渡す事は、かなり重要な意味を持つからだ。
「あたしは、この子が気に入ったからウロコを渡す。それだけだ。というわけでヤート、今日からあんたとあたしは対等だ。よろしく頼むよ」
「でも、今の僕にはグレアソンさんに渡せるウロコが無いです」
「あっはっは、あたしが勝手にやってる事だ。気にする事はないよ」
「でも……」
「まったく律儀な子だね。あたしじゃ不満かい?」
「そんな事はないです。なんというか申し訳ないというか」
「えーい、じれったいね。あたしに不満がないなら返事を聞かせな」
「えっと、……僕で良ければ、よろしくお願いします」
「あんたね、あんたとあたしは対等って言ったはずだよ。もっと砕けな」
「……それじゃあ、よろしく」
「ああ、それで良い。それと」
「何?」
「あたしは手先が器用じゃないからね、その首飾りの見た目は気にしないでおくれよ」
「割と好きな見た目だから大丈夫」
「そう言ってくれてうれしいよ。……ところで一応聞くけど、あんたどうやって帰るんだい?」
「どうって歩いて帰る。ただ行きよりも時間はかかるだろうけど、特に急いでないから一人でゆっくり帰るよ。ラカムタさん達は僕が出発したら変な騒ぎは無くなるだろうからのんびりできる」
「はぁ、お前な……」
何だろう? なんかみんなが、そうじゃないだろうって感じのため息をついてる。赤の村での騒ぎの原因の一つが僕だから、その僕が村を出れば騒ぎは無くなるはずっていう特に間違った事は言ってないのに、なんでため息をつかれるんだろ?
「まぁ、良いだろう。先に出発しろ」
「…………ヤート、お前一人で帰るつもりか?」
「そうだよイギギさん、ゆっくり黒の村まで散歩しながら帰るつもり」
「ラカムタ!! 本当にヤートを一人で行かす気か?」
「そうだが、どうした?」
「どうした、じゃねぇ!! ガキを大人なしで長旅に行かすな!!!!」
「魔境の大神林でも平気で過ごせる奴に長旅も何も関係ない。それにヤートは無理な事は絶対にしないっていう長旅に一番向いている奴だ。まったく問題ない」
「そっ、そうなのか」
「ああ。ヤート、のんびり長旅を楽しめ」
「わかった。それじゃ黒のみんな、また黒の村で。グレアソンさん、イギギさん、お世話になりました」
「……色々納得いかねえが、また来い。じゃあな」
「また来な。歓迎するよ」
「ありがと。いつになるかわからないけど、また来る」
みんなに挨拶して赤の村を出発した後、少しすると赤の村からの方から見知った気配と足音が近づいてくる。振り返ると、やっぱり兄さんと姉さんだった。
「二人共、どうしたの?」
「お前といっしょの方が絶対面白いからな、ラカムタさんに言ってから出てきた」
「私はガルのお目付け役よ」
「マイネ、てめぇ、俺の事バカにすんな!!」
「何言ってるのよ。当然、私もヤートといっしょにいたいっていうのもあるけれど、私にはガルが旅で興奮して変な失敗をするのが目に浮かぶわ。ヤート一人じゃ大変だろうから来たのよ」
……静かな旅になると思ったんだけどな。まあ、良い天気だしにぎやかな旅も悪くないかな。
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◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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