上 下
27 / 318

赤の山にて 暴走した青と冷静な白

しおりを挟む
「クソガアアアア!!!!」

 僕と破壊猪ハンマーボアをキレたヌイジュが追いかけてくる。僕が乗ってるから加減してるとは言え魔獣の足の速さについてこれるのか。……無意識に強化魔法パワーダを発動させてるのかな? このまま観察してたい気もするけど、そうもいかないから戦闘開始だ。

緑盛魔法グリーンカーペット超育成ハイグロウ緑盛網プラントネット

 僕がつぶやくと周りの植物が再びヌイジュを絡めとろうと伸びていく。でも、さっきと同じにはならなかった。

「ジャマダあああアアア!!!!」

 ヌイジュに多くの植物が絡みつこうとした瞬間にヌイジュが叫んだら、ヌイジュの身体から水が棘状に飛び出した。走ってる破壊猪ハンマーボアの上で揺れてるから見にくいけど、どうやら身体の表面を水で覆っているみたいだ。……そうか、これでヌイジュの足が速い理由がわかった。身体を覆っている水は攻撃と防御以外に身体を補助する役割もあるって事だね。ふーむ、キレた状態で使ってるって事は無意識に使えてるって事になる。なんでキレてるのかよくわからない奴だけど伊達に水守みずもりじゃないな。まぁ、それならそれでやりようはある。

緑盛魔法グリーンカーペット超育成ハイグロウ水喰苔ウォーターイーター

 僕が腰にいくつかある小袋の一つに魔力を通すと、小袋から薄っすら白い靄が出始めその靄がヌイジュに纏わり付いていく。

 僕が魔力を通したのは僕が集めて乾燥させた地衣類の塊。相手が水を使うなら地衣類ほど相性の良いものはいなくて、薄い水の膜で覆われているヌイジュの身体の表面は胞子が着床して育つのに良い環境だ。身体の表面で成長するという事は身体を包み込むって事で、身体を包み込むって事は動きの邪魔をするって事だ。緑盛網プラントネットに比べたら、固定力は小さいけど速く走っている今なら話は別で誰だって動いている時に突然邪魔されたら転ぶ。それも速ければ速いほど派手にね。

「ガッ!!!! …………ク……ソガ」

 おおー、予想通り派手に転んだ。しかも転んだ際に近くの樹木に頭からぶつかった。うん、あれは痛い。……おっ、どうやら頭をぶつけたせいでグラついている。攻めるなら今だね。

「降りるよ」
「ブ」

 破壊猪ハンマーボアに一声かけて背中から滑り降りる。こんな事をすれば普通は地面に叩きつけられたり、ヌイジュと同じように樹木にぶつかるはずだけど、問題なく手をつきながら上手く着地できた。…………すごく納得できないけど、兄さんや姉さんに投げられた経験が生きてる。本当に納得できないけど、空中での身のこなしが上手くなってる。……素直にありがとうって言いづらい。

緑盛魔法グリーンカーペット超育成ハイグロウ射種草シードショット

 着地と同時に種を埋め急成長させて種を射つ。ヌイジュは体勢を崩してるしグラついてるから、これは確実に当たると思ったら当たらなかった。たぶん勘とか本能で動いたんだろうけど、まさか自分に水弾ブルーボールを当てて無理やり避けるとか、どうなんだ? ……ああ、なるほど自分の身体を吹き飛ばす威力を当ててるから、身体を包む水喰苔ウォーターイーターも弾き飛ばせるって事か。キレてるにしては良い判断って言える……のかな?

「……ろす、こ……、ころすコロスこロすコろス…………コロシテヤル!!!!」

 やっぱり竜人族りゅうじんぞくと戦うのは頑丈で面倒くさい。決闘の時みたいにズルズルやりたくないからサッサと決めよう……って、なんかヌイジュの様子がおかしい。なんだ? 胸に魔力を集め……まずい!! 僕がとっさに、その場から横に跳ぶと一瞬遅れてヌイジュが僕に向かって口を開いた。

 カシュン!!!!

 ヌイジュの口から、透明の管が瞬時に伸びてきて一瞬前まで僕の頭があった場所を貫く。危ないな。あれは当たったら死ぬ奴だ。

「僕の事が気に入らないのはわかるけど、竜人息ドラゴニュートブレスは不味いと思う」
「ハァ、ハァハァ……、ダ……マレ、ギザマハ……ガナラズコロス」
「……お前が構わないなら、それで良いんだけど竜人息ドラゴニュートブレスは負担が大きいよ?」
「ダマレ!!!!」
「わかった。好きにすれば良い」
「ダマレェェェェ!!!!」

 カシュン、カシュン、カシュン。ヌイジュが口から僕に向けて透明の管が伸びる度に管が樹木を苦も無く貫いていく。予想通り当たればケガじゃすまないな。一回目を避けといて良かった。

 竜人息ドラゴニュートブレス竜人族りゅうじんぞくが使える固有の魔法で、簡単に説明すると口・喉・肺のどこかに魔力を溜めて口から吹き出すという魔法だ。威力は肺により近い部分に魔力を多く溜めるほど上がっていくんだけど、ヌイジュは見た感じ肺に魔力を溜めてるみたいだね。

 ちなみに竜人族りゅうじんぞくの間では、この竜人息ドラゴニュートブレスを使いこなせると魔力を扱う技術と魔力を溜める時の負荷に耐えられる強い身体を持つ事の証明になるため一人前の証になったりモテるらしい。

 ヌイジュの竜人息ドラゴニュートブレスは青の竜人らしく水だ。でも、ただ水じゃなくて口の中で高い圧力がかかった水にしてから放っているようだ。通常時の水は液体であるため強さと呼べるものはないけど高い圧力がかかると完全な武器になる。つまりヌイジュの口から放たれた水は大抵のものを瞬時に貫く槍となっていて、これは当たれば強化魔法パワーダを纏った竜人の身体でも無事じゃすまない。当たれば本当に危ない。当たればね。

 カシュンカシュンカシュシュン、カシュン。

 僕を貫こうと何度も何度も竜人息ドラゴニュートブレスを放ってくる。でも、僕には一回も当たってない。というか、当たりたくないから必死に避けてる。それにこのまま避けてれば色んな意味で大丈夫だ。

「クソオオオヲヲヲ!!!」

 当たらない事にイラついてる。まあ、気に入らない奴を倒せないから当然か。うーん、当たらない理由を説明するべきかな。このまま続けて使ってると、まずい事になるんだよね。よし、一応説明しておこう。

「お前の竜人息ドラゴニュートブレスは、もう当たらないよ」
「ダマレ!!」
「理由を説明すると……」
「ダマレダマレ!!!!」

 カシュン。僕の胸を狙った竜人息ドラゴニュートブレスを僕は右に飛びながら身体を捻る事で避けた。うん、ほとんどタイミングはつかめたね。

「クッ!! ……ガハッ、ゴホッ」
「当たらない理由の一つ目は、お前の竜人息ドラゴニュートブレスの形にある」

 カシュン、カシュン。僕は避けながら説明を始めた。

「基本的に竜人息ドラゴニュートブレスは直線状・放射状・弾丸状のどれかの形で放たれる。その中でお前の竜人息ドラゴニュートブレスは直線状のものでさらに言えば細い管状だ。これは当たる面積が小さいっていう事だね。ここまでは良い?」

 カシュンカシュンカシュンカシュンカシュンカシュンカシュンカシュン。おっと、数で押してきたか。……これくらいなら判断を間違えなかったら大丈夫だ。

「理由の二つ目は、竜人息ドラゴニュートブレスは放つタイミングや方向がつかみ易い。なぜなら竜人息ドラゴニュートブレスは息って呼ばれるように口から放たれる。それなら話は簡単でお前の口が閉じた状態から顔の向きと口が開くのを確認して動けば良い。いくら瞬時に伸びてくるって言っても、当たる面積が小さくて放たれる方向と瞬間がわかれば避けれるよ」
「バカナ……」
「信じれないなら続ければ?」

 当たらない事実に愕然としているヌイジュに向かって近づき始めた。それを見たヌイジュは一瞬驚いた顔をするが、すぐに怒りと憎しみと少しの困惑が混ざった顔になり、また何度も竜人息ドラゴニュートブレスを放ってくる。

 顔に放たれたものは首を傾ける事で、胸に放たれたものは斜め前に身体を倒したり横に跳ぶ事で、足に放たれたものは斜め後ろに跳ぶ事で絶対に止まらないようにして避けていった。……何回放ったか数えてないけど、これだけの連発できるのはさすがとしか言い様がない。でも……もう終わりだな。

「ねえ、自分の身体の状態に気づいてる?」
「ナン……、グガッ、ウグゥ、ゲボ」

 僕が声をかけると同時に、ヌイジュは胸を押さえて苦しみだした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。

 感想や評価もお待ちしています。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。

黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。 実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。 父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。 まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。 そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。 しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。 いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。 騙されていたって構わない。 もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。 タニヤは商人の元へ転職することを決意する。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

私が豚令嬢ですけど、なにか? ~豚のように太った侯爵令嬢に転生しましたが、ダイエットに成功して絶世の美少女になりました~

米津
ファンタジー
侯爵令嬢、フローラ・メイ・フォーブズの体はぶくぶくに太っており、その醜い見た目から豚令嬢と呼ばれていた。 そんな彼女は第一王子の誕生日会で盛大にやらかし、羞恥のあまり首吊自殺を図ったのだが……。 あまりにも首の肉が厚かったために自殺できず、さらには死にかけたことで前世の記憶を取り戻した。 そして、 「ダイエットだ! 太った体など許せん!」 フローラの前世は太った体が嫌いな男だった。 必死にダイエットした結果、豚令嬢から精霊のように美しい少女へと変身を遂げた。 最初は誰も彼女が豚令嬢だとは気づかず……。 フローラの今と昔のギャップに周囲は驚く。 さらに、当人は自分の顔が美少女だと自覚せず、無意識にあらゆる人を魅了していく。 男も女も大人も子供も関係なしに、人々は彼女の魅力に惹かれていく。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...