上 下
293 / 318

決戦にて 全力の本気と開幕戦の最後

しおりを挟む
 指輪に刻まれた記憶を読み終わった後、魔石だった欠片をギュッと握り込む。すると、欠片は粉々に崩れてなくなり僕の手の中には指輪だけが残る。僕は指輪を握った右手を額に当てて、この指輪の持ち主が次に世界に生まれたら何気ない日常を送れるように祈った。そして指輪を腰の小袋の一つに入れて保管する。

「くだらない感情だな」

 砦のような町の外壁上にいる三人の内の一人が、僕の行動に対して吐き捨てるような声が聞こえた。…………本当に不愉快だ。ちょうど魔石を全て倒し終わったから、外壁上の三人への攻撃をさらに強めていく。

緑盛魔法グリーンカーペット純粋なる緑を纏うグリーンインパクトフレーム魔槍ランス

 魔法の詠唱が終わると僕達の頭上に数十本の深緑色の槍が生まれ、僕が世界樹の杖ユグドラシルロッドを振り下ろすと外壁上の三人へ高速で飛ぶ。

 ボシュン……。

 純粋なる緑を纏うグリーンインパクトフレーム魔槍ランスが外壁上の三人を貫こうとした時、突然かき消えた。

「今のはなんだ? あいつらが魔法を発動したようには見えなかったぞ」
「ラカムタさん、あれは僕達と同じだよ」
「……ヤート、どういう事だ?」
「僕達も合流地点から純粋なる緑を纏うグリーンインパクトフレーム遮断膜ブロッキングメンブレンの中にいるでしょ。あいつらも始めから、こっちの攻撃を無効化する場所にいる」
「あの町か」
「そう」
「そんなに重要な場所なんだな」
「あの町は魔石だからね」
「何?」
「指輪の持ち主の記憶は町の中の地面に沈んだところで終わってる。それにさっき魔石は外壁の内側から飛び出てきた。つまり町に見えるあそこは、難民とかを内部に連れ込んでつかまえて魔石に捕食させるところだよ」

 僕が説明すると、みんなは不快な気持ちになっているのが一目でわかる。でも、僕はもっと気持ち悪い事実を言う。

「ここから見える門や外壁も、中の建物と地面も全部魔石だよ。なかなかの擬態能力だね」
「…………クソガ」

 ミックが正に激情っていう感じのすごい表情になってる。でも、自分の特性と同じ事をされたら誰だってイラつくものだからしょうがない。

「そこまで、この場所の事を理解しているなら話が早い」
「そう。ここは神の卵の生育地」
「ここで育った神の卵が世界を支配する」
「「「確かに貴様は神の卵を壊した。だが、神の卵は不滅。まだまだ、この地に眠っているのだ‼︎」」」

 外壁上の三人が叫び外壁から飛び降りると外壁を含めた町全てが魔石に変わり、次々に空中へと飛び出してくる。ふーん、一つの町になってただけあって数が多いな。総数は百や二百は越えてそうで数えるのが面倒くさいな。

「下賎な存在のものがそれだけの魔法を発動させたのは褒めてやろう‼︎ だが、もはや何もできまい‼︎」
「貴様らも神の卵の贄となれ‼︎」
「それこそが貴様らの役目だ‼︎」

 空中に浮かんでる全ての魔石がニタアと笑って僕達を見てくる。相手が攻めてくるなら、こっちも準備しよう。

「みんな、止まってから防御陣形になって」
「ヤート?」
「シールと全力でやるから、たぶん問題ないと思うけど余波に巻き込まれても耐えれるようにして」
「ちょっと‼︎ ヤート君‼︎」
「ちゃんと言ったからね。シール、いける?」
『はい、いつでも大丈夫です。主人あるじの思うままにどうぞ』
「うん、ありがとう。それじゃあ、みんなやるから」
「あなた達、陣形の変更よ‼︎ 急いで‼︎」

 僕が破壊猪ハンマーボアの背から降りて世界樹の杖ユグドラシルロッドを構えると、みんなが慌てて陣形を変えていく。急かして悪いなって思いつつも、シールが現れて世界樹の杖ユグドラシルロッドの先端に座り祈り始めたのでいっしょに魔法の詠唱をする。

緑よコールグリーン
緑よコールグリーン
緑よコールグリーン
緑よコールグリーン
「『実をここにコールフルーツ』」
「は……?」

 僕の誰かのつぶやきが聞こえた。まあ、深緑色の実が突然出現したら驚くのは当たり前か。

「ヤート、待て……。いくら何でも、これは……」
循環をここにコールサキュレーション
「全員、最優先で自分の身を守れ‼︎」
加速をここにコールアクセラレーション
「「「あの忌々しいものを殺せ‼︎」」」
励起をここにコールエキサイテーション
「「「何をしている⁉︎」」」
臨界をここにコールクリティカル

 あの三人が叫ぶけど魔石は動かない……というより動けないみたいだね。あ、何体かの魔石がちりになった。…………魔石の数に対抗したんだけど百個はやりすぎだったかもしれない。でも攻めると決めたなら全力の本気でやるべきだから気にしないでおこう。

「「「下賎なものが、なぜそれほどの力を……?」」」
「それは僕が植物達の力を貸してもらってるからだよ。僕だけじゃ、こんな桁外れの事はできないよ」
主人あるじに力を貸すのは当然の事です』
「いまだに、何で植物達が僕に力を貸してくれるのかわかってないんだよね」
『それは、主人あるじ主人あるじだからです』
「……答えになってないよ。まあ、良いや。とりあえず、やる事をやるだけだ」
「「「動け‼︎ 動いてあのものを殺せ‼︎」」」
「魔石と、どういう関係かは知らないけど周りに動けというなら、まず自分達が動け。口先だけは、ただの役立たずだ」
「「「貴様‼︎ よくも我らにそのような口を‼︎」」」
「僕はお前らに何の興味もない。シール」
『はい。いつでもいけます』

 魔法を発動させる前に一度、僕達の頭上の実を確認する。……うん、何も問題はないね。

「「「やめろおおおおおーーーーー‼︎」」」
「『緑盛魔法グリーンカーペット純粋なる緑を纏うグリーンインパクトフレーム大浄化ラージピュアフィケーション』」

 百個の深緑色の実が光り地面に落ちた。すると見渡す限り全ての地面が深緑色に輝いた。深緑色の光に触れたあの三人が口から黒いものを吐いて倒れる様子を見ていると、すぐに次の変化があり空と地面が数回拍動した後、地面から空へ深緑色の光が上がり全ての空間を深緑色の光で満たす。

 …………うーん、リザッバの時より光は強いな。あの時は五個で今は百個だから強くなって当たり前なんだけど、やっぱりやり過ぎたかも。光がおさまった後に、どうなるかちょっと怖いな。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。

 感想や評価もお待ちしています。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

ゲームの中に転生したのに、森に捨てられてしまいました

竹桜
ファンタジー
 いつもと変わらない日常を過ごしていたが、通り魔に刺され、異世界に転生したのだ。  だが、転生したのはゲームの主人公ではなく、ゲームの舞台となる隣国の伯爵家の長男だった。  そのことを前向きに考えていたが、森に捨てられてしまったのだ。  これは異世界に転生した主人公が生きるために成長する物語だ。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

異世界に転生!堪能させて頂きます

葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。 大手企業の庶務課に勤める普通のOL。 今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。 ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ! 死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。 女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。 「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」 笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉ 鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉ 趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。 こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。 何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m

拝啓神様。転生場所間違えたでしょ。転生したら木にめり込んで…てか半身が木になってるんですけど!?あでも意外とスペック高くて何とかなりそうです

熊ごろう
ファンタジー
俺はどうやら事故で死んで、神様の計らいで異世界へと転生したらしい。 そこまではわりと良くある?お話だと思う。 ただ俺が皆と違ったのは……森の中、木にめり込んだ状態で転生していたことだろうか。 しかも必死こいて引っこ抜いて見ればめり込んでいた部分が木の体となっていた。次、神様に出会うことがあったならば髪の毛むしってやろうと思う。 ずっとその場に居るわけにもいかず、森の中をあてもなく彷徨う俺であったが、やがて空腹と渇き、それにたまった疲労で意識を失ってしまい……と、そこでこの木の体が思わぬ力を発揮する。なんと地面から水分や養分を取れる上に生命力すら吸い取る事が出来たのだ。 生命力を吸った体は凄まじい力を発揮した。木を殴れば幹をえぐり取り、走れば凄まじい速度な上に疲れもほとんどない。 これはチートきたのでは!?と浮かれそうになる俺であったが……そこはぐっと押さえ気を引き締める。何せ比較対象が無いからね。 比較対象もそうだけど、とりあえず生活していくためには人里に出なければならないだろう。そう考えた俺はひとまず森を抜け出そうと再び歩を進めるが……。 P.S 最近、右半身にリンゴがなるようになりました。 やったね(´・ω・`) 火、木曜と土日更新でいきたいと思います。

転生したら幼女だったので取り敢えず”運”極振りでお願いします。

iroha
ファンタジー
就活失敗から引きこもり。引きこもり歴6年の残念女子が異世界転生!ごーいんぐまいうぇいで周囲を巻き込み珍道中?脱引きこもり幼女の異世界転生譚ここに開幕!? ヒナ「幼女のかちゅ舌舐めんなよ!」 ※他サイトさんでも投稿中。 (初心者の初投稿作品です。深く考えずに、気軽に読んでいただけたらと思います!)

処理中です...