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王城への旅にて 影と運び
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あれから僕達は、かなり大回りして王都の北の門が遠目に見える場所に着いた。そして今は僕が界気化した魔力を放ったり周りの植物達に聞いて異常がないかを確認してるところで、他のみんなは僕を囲んで警戒中だ。
「ヤート殿、どうだろうか?」
「罠とか待ち伏せはないよ」
「……ならば今が好機と捉えるべきだな。門に近づき手引き役に繋ぎを取る」
「僕も、いっしょに行くよ」
「しかし……」
「徹底的にやるんでしょ? それなら手引き役の人も調べるべき。それと黒影衣を良い感じに解除しないといけない」
「ヤートの言う通りだ。俺も着いていくから行くぞ」
「承知した」
僕が残るみんなに黒影衣をかけ直した後、僕とラカムタさんとサムゼンさんは連れ立って門の方に歩いていく。
北の門がはっきりと見えるところまでやってきた。…………門の前に四人、外壁の上にも見張りが八人か。あまり使われない門に配置されてるせいか、そこまでやる気は感じられない。サムゼンさんが兵士達の勤務態度にキレかけたけど、何とか自制して落ち着いてもらった。
「ふー……、ヤート殿、あのもの達を調べてもらいたい」
「わかった。少し待って」
界気化した魔力を放ち兵士達の思考や記憶を探っていく。こういう作業を静かに離れたところからやれるのは界気化の良いところだね。
「…………うん、普通の兵士だよ」
「そうか……、全てが終わった後に性根を叩き直してやる」
兵士達の受難が決まった。まあ、それはそれとしてサムゼンさんがどうするのか見ていると、サムゼンさんは門から離れ太陽の位置を確かめた後に外壁沿いを歩いていく。……あれ? 手引き役に会うのは門じゃないんだ。
そこそこ歩きサムゼンさんは、日差しの関係で特に影が濃くなっているところで立ち止まる。
「……サムゼン殿、ここで手引き役と落ち合うのか?」
「その通りだ。見ていてくれ」
サムゼンさんは懐から黒い棒を取り出し、それを地面の影に突き刺した。すると黒い棒は影に溶けるように沈んでいく。そして数瞬後、今度は影が盛り上がってくる。あまりの変化にラカムタさんが唖然としている中、今度は盛り上がった影が形を変え人型になった。…………影で人型。そういう事か。僕が手引き役の正体を思いついた時、人型の影は僕達を探すように周りを見回した後、僕達の方を向いた。
「私が、すぐにわからないとはなかなかの隠れ身だな」
ラカムタさんとサムゼンさんが僕をチラッと見てきたので問題ないという意味を込めて、すぐにあいさつをする。
「影結さん、久しぶり。警戒してたからね。でも、僕の魔法を見破る影結さんもすごいと思うよ」
「この手の事は私の専門分野だ。そうそう出し抜かれるわけにはいかない」
「ヤート殿、影結殿、再会のあいさつはそこまでで頼む」
「そうだったね。ごめん」
「わかった。城の奥庭への道を開こう。行くのは、この三人だけか?」
「いや、向こうに黒の方々や魔獣達がいる」
サムゼンさんが言うと、影結さんは地面の影に手を置く。何をするのか見守っていたら地面の影に波紋が起きた。
「残りのもの達の位置は把握した。このまま庭へ運べるが、騒ぎになる可能性を減らした方が良いだろう。一度、ヤートを向こうへ送るから説明を頼む。準備ができたら影に呼びかけろ」
僕がうなずくと影結さんは僕に近づき足もとの影に触れる。すると僕の身体が影に沈んでいく。おお……、すごく粘り気のある液体に包まれる感じだ。そしてほんの一瞬僕の視界が暗転した後、気がつくとものすごく驚いてる顔の父さん達の近くにいた。
「父さん、手引き役の人に会えたよ」
「…………」
「父さん?」
「あ、……ああ、どんな人だった?」
「影結さんっていう影みたいな人で影を操っていろんな事ができる人だよ」
「影結……、あいつかよ」
僕が影結さんの名前を言うと、兄さん・姉さん・リンリー・鬼熊・破壊猪の機嫌が悪くなる。…………前に兄さん達の警戒網をすり抜けられたからしょうがないかな。
「父さん、準備ができたら影結さんに運んでもらうんだけど、みんな大丈夫?」
「俺達はいつでも動けるぞ」
「わかった。それじゃあ、これから僕がここに来た時みたいに移動するから力を抜いて自然体でいてね」
みんなを見回した後に、僕は屈んで自分の足もとの影に呼びかける。
「影結さん、みんな大丈夫だから運んで」
『良いだろう。少し勢いがあるから我慢しろ』
影越しだからか少しこもった影結さんの声が聞こえた。そして今度は足もとの影がバッと伸びて僕の身体に巻きつきヒュンッて下の方へ引っ張られた。
「城の奥庭に着いたから目を開けて良いぞ」
今度は影結さんの声がはっきり聞こえて視界が戻ると、僕達は見事な庭園の中に居て見上げると王城の一部が見える。確認のために界気化した魔力を周りに放ったら、庭園の入り口近くに王様達が立っているのを感知した。僕が王様達の方を向いて頭を下げると王様達は近づいてくる。
「ヤート君、黒の方々、魔獣の方々、久方ぶりだな。このような状況でなければ心よりの歓迎をしたいところだが、今は時間が惜しい。すぐに会議を開くから参加してもらえるか?」
黒の村を出発して王様に会えたから第一関門突破か。あとどれくらい妨害があるかわからないけど、早く全部終わらせてゆっくり散歩したい。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
「ヤート殿、どうだろうか?」
「罠とか待ち伏せはないよ」
「……ならば今が好機と捉えるべきだな。門に近づき手引き役に繋ぎを取る」
「僕も、いっしょに行くよ」
「しかし……」
「徹底的にやるんでしょ? それなら手引き役の人も調べるべき。それと黒影衣を良い感じに解除しないといけない」
「ヤートの言う通りだ。俺も着いていくから行くぞ」
「承知した」
僕が残るみんなに黒影衣をかけ直した後、僕とラカムタさんとサムゼンさんは連れ立って門の方に歩いていく。
北の門がはっきりと見えるところまでやってきた。…………門の前に四人、外壁の上にも見張りが八人か。あまり使われない門に配置されてるせいか、そこまでやる気は感じられない。サムゼンさんが兵士達の勤務態度にキレかけたけど、何とか自制して落ち着いてもらった。
「ふー……、ヤート殿、あのもの達を調べてもらいたい」
「わかった。少し待って」
界気化した魔力を放ち兵士達の思考や記憶を探っていく。こういう作業を静かに離れたところからやれるのは界気化の良いところだね。
「…………うん、普通の兵士だよ」
「そうか……、全てが終わった後に性根を叩き直してやる」
兵士達の受難が決まった。まあ、それはそれとしてサムゼンさんがどうするのか見ていると、サムゼンさんは門から離れ太陽の位置を確かめた後に外壁沿いを歩いていく。……あれ? 手引き役に会うのは門じゃないんだ。
そこそこ歩きサムゼンさんは、日差しの関係で特に影が濃くなっているところで立ち止まる。
「……サムゼン殿、ここで手引き役と落ち合うのか?」
「その通りだ。見ていてくれ」
サムゼンさんは懐から黒い棒を取り出し、それを地面の影に突き刺した。すると黒い棒は影に溶けるように沈んでいく。そして数瞬後、今度は影が盛り上がってくる。あまりの変化にラカムタさんが唖然としている中、今度は盛り上がった影が形を変え人型になった。…………影で人型。そういう事か。僕が手引き役の正体を思いついた時、人型の影は僕達を探すように周りを見回した後、僕達の方を向いた。
「私が、すぐにわからないとはなかなかの隠れ身だな」
ラカムタさんとサムゼンさんが僕をチラッと見てきたので問題ないという意味を込めて、すぐにあいさつをする。
「影結さん、久しぶり。警戒してたからね。でも、僕の魔法を見破る影結さんもすごいと思うよ」
「この手の事は私の専門分野だ。そうそう出し抜かれるわけにはいかない」
「ヤート殿、影結殿、再会のあいさつはそこまでで頼む」
「そうだったね。ごめん」
「わかった。城の奥庭への道を開こう。行くのは、この三人だけか?」
「いや、向こうに黒の方々や魔獣達がいる」
サムゼンさんが言うと、影結さんは地面の影に手を置く。何をするのか見守っていたら地面の影に波紋が起きた。
「残りのもの達の位置は把握した。このまま庭へ運べるが、騒ぎになる可能性を減らした方が良いだろう。一度、ヤートを向こうへ送るから説明を頼む。準備ができたら影に呼びかけろ」
僕がうなずくと影結さんは僕に近づき足もとの影に触れる。すると僕の身体が影に沈んでいく。おお……、すごく粘り気のある液体に包まれる感じだ。そしてほんの一瞬僕の視界が暗転した後、気がつくとものすごく驚いてる顔の父さん達の近くにいた。
「父さん、手引き役の人に会えたよ」
「…………」
「父さん?」
「あ、……ああ、どんな人だった?」
「影結さんっていう影みたいな人で影を操っていろんな事ができる人だよ」
「影結……、あいつかよ」
僕が影結さんの名前を言うと、兄さん・姉さん・リンリー・鬼熊・破壊猪の機嫌が悪くなる。…………前に兄さん達の警戒網をすり抜けられたからしょうがないかな。
「父さん、準備ができたら影結さんに運んでもらうんだけど、みんな大丈夫?」
「俺達はいつでも動けるぞ」
「わかった。それじゃあ、これから僕がここに来た時みたいに移動するから力を抜いて自然体でいてね」
みんなを見回した後に、僕は屈んで自分の足もとの影に呼びかける。
「影結さん、みんな大丈夫だから運んで」
『良いだろう。少し勢いがあるから我慢しろ』
影越しだからか少しこもった影結さんの声が聞こえた。そして今度は足もとの影がバッと伸びて僕の身体に巻きつきヒュンッて下の方へ引っ張られた。
「城の奥庭に着いたから目を開けて良いぞ」
今度は影結さんの声がはっきり聞こえて視界が戻ると、僕達は見事な庭園の中に居て見上げると王城の一部が見える。確認のために界気化した魔力を周りに放ったら、庭園の入り口近くに王様達が立っているのを感知した。僕が王様達の方を向いて頭を下げると王様達は近づいてくる。
「ヤート君、黒の方々、魔獣の方々、久方ぶりだな。このような状況でなければ心よりの歓迎をしたいところだが、今は時間が惜しい。すぐに会議を開くから参加してもらえるか?」
黒の村を出発して王様に会えたから第一関門突破か。あとどれくらい妨害があるかわからないけど、早く全部終わらせてゆっくり散歩したい。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
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