上 下
260 / 318

大神林にて 四体の関係性と淑女で母親な木

しおりを挟む
 黒の村を出発してからしばらく経った時、僕はミックに背負われて大神林だいしんりんの奥へと運ばれていた。ミックが時に大神林だいしんりんの樹々の間をすり抜けるように走ったり、時に枝から枝へ飛び移っていくを見て感心する。

「ミックは人型の身体でも、かなり自在に動けるようになったね。こんな速い速度で移動ができるようになってるとは思わなかったよ」
「…………ナレタ」

 本来なら高速移動中なので舌を噛む可能性などから会話をする余裕はないはずだけど、ミックは僕にできるだけ負担を与えないように気を付けてくれるから大丈夫。唯一心配なのはミックの機嫌だね。

「ミック、僕は気にしてないから」
「…………アイツラジャマ」
鬼熊オーガベア破壊猪ハンマーボアもディグリも、戦闘中には協力してくれるけど日常に戻るとケンカというか張り合いがすごくなるのは確かだね」
「…………ホントウニジャマ」

 思い出したのかミックも機嫌が悪くなってきたな。事の起こりは、いつものように三体の口論からのにらみ合いで三体が動かなくなったからだ。この時、三体は三体で自分達が戦うと周りへの被害が大きくなるから、にらみ合いの段階で抑えるという気づかいをしてくれたのは間違いない。

 でも、ミックは僕が大神林だいしんりんの奥へ行きたいのに移動できない状況に怒り、僕を鬼熊オーガベアの背中からサッと降ろし背負ってから走り出した。まあ、僕としてはできるだけ早く大神林だいしんりんの奥へ行けるに越した事はないから身を任せる。

「…………コノママススム?」
「うん、進行方向は合ってるから、このままでお願い」
「…………ワカッタ」

 移動をミックに任せて、僕は三体の様子を探るために界気化した魔力を後ろに放つ。…………三体もミックを追ってきてるね。ただ気になるのは爆走じゃなくて静かに走っている事。ディグリは滑るように進むから静かなのは当然として、鬼熊オーガベア破壊猪ハンマーボアは走り出したら音と土煙がすごくなるのにどうしたんだろ? まあ、追いついてきた時に聞けば良いかと考えていたら、気になる場所に近づいてきたのでミックに呼びかける。

「ミック、少し寄り道したいから向こうに進んでくれる?」
「…………ワカッタ」

 ミックに背負われて着いた場所は、前に僕と三体が魔石と戦ったところだ。…………よしよし、魔石の寄生してた大樹だけが目立ち他は樹々は痩せ細っていたり地面は土が露出していたりと、およそ大神林だいしんりんらしくなかった景色が今は太く瑞々しい樹々や地面を覆う下草に将来大木になるだろう若木が生えていて大神林だいしんりんらしくなっている。あとは久しぶりに会う樹とのあいさつだ。僕はミックの背中から降りて近づいていく。

豊穣木マザーズツリー、久しぶりだね。元気にしてた?」

 豊穣木マザーズツリーからニコッと笑い優雅に礼をしてくる感じが伝わってくる。周りの植物達からも慕われてるみたいだし、今もリィーン、リィーンという小さい音とともに周りの植物達を活性化する魔力を放ってるから大丈夫みたいだ。ミックも気持ち良さそうな感じになっていだけど、ハッと気を取り直し腕から伸ばした蔓で豊穣木マザーズツリーに触れた。

「…………ミック。…………ヨロシク」

 あれ? ミックと豊穣木マザーズツリーって、前に魔石と戦った後であった事なかったっけ? …………あ、そうだそうだ。豊穣木マザーズツリーはミックが種に戻った後に、成長させたんだったね。だから、ミックと豊穣木マザーズツリーにとっては今日が初対面で良いんだ。疑問がスッキリしたから三体が合流するまで話していよう。



 その後、豊穣木マザーズツリーから周りの植物達の回復していく様子や、何か他に異常が起きていないかを聞いたけど、本当に何も問題はなかったみたいで良かったよ。…………お、やっと合流か。重い足音が聞こえてきたから振り向くと三体がいた。

「ここに来るまでの走り方が、すごく静かだったけど何かあった?」
「ガア」
「ブオ」
「周リノ植物達ヘノ配慮デス」
「ああ、そういう事」

 わかりやすい理由で良かった。僕が納得しているとミックが僕の前に出て三体をにらみつける。

「…………オマエラジャマ。ジカンノムダ」
「……ガア」
「……ブオ」
「ソノ点ツイテハ謝リマス」

 僕からも三体に何か言っておくべきかとも思ったけど、とりあえずミックがわかりやすく言ってくれたから、このまま四体の会話を聞いておこう。

「…………ナンデジャマスル?」
「ガア……」
「ブオ……」
「邪魔ヲシタワケデハアリマセン。コノ方々二負ケタクナイカラデス」
「…………イマスルナ」
「「「…………」」」

 ミックにキッパリと言われ、三体は何も言えなくなっていた。意外と……は失礼か。ミックは関係性とか状況を判断してくれるのは頼りになるね。というか独立した個体として僕のそばにいるようになったのはミックが一番最近なのに、ミックの方が三体を圧倒する関係になってるのは見ていて興味深い。

「とりあえず、いったん大神林だいしんりんの奥まで休戦してくれると嬉しいんだけど」
「ガア」
「ブオ」
「ワカリマシタ」
「…………ダメナラハコブ」
「もう大丈夫だけど、もしもの場合はお願い」

 三体が気まずくなっている中、豊穣木マザーズツリーから、あらあらしょうがないわねっていう子供のケンカを見てる母親みたいな意思がリィーンという音といっしょに伝わってきた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。

 感想や評価もお待ちしています。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

AI恋愛大戦争

星永のあ
恋愛
みなさんは、AIをご存知だろうか。 このAIの発達により、 今ある仕事の49%が10〜20年後には無くなると言われている。 人間の生活はどんどんAIに奪われていく  のかもしれない。 それは仕事だけではなく、恋愛も。 AIがモテる時代がすぐ目の前まで来ている。

~マーメイド~

はらぺこおねこ。
恋愛
 20XX年、性犯罪が多くなり泣き寝入りする女性が多くなった日本。  政府は、性犯罪抑制のため人間そっくりの生物を開発をする。  感覚は、人と同じで感情や表情もあるし知能まであった。  人間との違いは大差なかったのだ。  人々は、その生物をマーメイドと呼んだ。  最初は抵抗はあったものの、次第にそれに慣れ。  性欲を持て余した男たちは、通販で買物をする感覚でマーメイドを購入する日々。  人の遺伝子操作は、倫理上禁止されているがマーメイドは人でないため禁止されなかった。  その為、科学者はマーメイドの遺伝子操作を躊躇するなく開発を進め。  遂に、簡単に理想のマーメイドを開発することが可能になった。  注文方法は簡単。  容姿や体型、年齢から性格や声帯まで、全てカスタマイズ可能。  価格は200円からのお手軽価格。  雄雌ともに発注可能。  また、飽きたらマーメイドの日に拘束して捨てることも可能で捨てられたマーメイドの処理はどうされるかは、公開されてはいない。  ホームレスに拾われ飼われるマーメイドや、なんとか脱出して野生になるマーメイドもいる。  マーメイドの開発は日本だけでなく海外にも広まり、世界中の人への性犯罪の件数は、年間100件を下回っていた。  マーメイドを反対する女性たちもいたが、この件数を聞いた途端反対する人は少なくなった。  世界は、マーメイドによって救われていた。  そして、今……  ひとりの童貞の男が、マーメイドを注文しようとしている。  男は、事業に成功した30歳。  金は有り余るほどある。  金を稼ぐことに一生懸命になりすぎて、女性との出会いはなかった。  男は、童貞を捨てるべく。  マーメイドをマーマンで、注文する。  価格は、500円。  男は、マーメイドを購入することにより世界が変わるのだ。  マーメイドは、善か?悪か?  世界は、その問題を抱え今日も生きていく。 ※以前書いていたマーメイドを全年齢の方を対象に書き直します。

晴れ間のペトリコール

蒼井 狐
現代文学
左手を失い、憂鬱とした気持ちを抱いていた。 けれど、ふと病院のベッドから見たラーメン屋さんへ行きたいという欲求により心を救われる……。

「ずっと貴方だけを推し続けます」その言葉を信じても良いですか?

田々野キツネ
恋愛
──推し変なんてしない、ずっと君だけを推し続けていた 日々を無為にすごす、ロースペ社会人、田中貞雄。 ある日、奇跡の出会いを果たす。 バーチャルネットアイドル、天姫モノアとの出会いが、枯れた人生に彩を与えていく。 * この作品に登場する、存在/非存在は、現実/架空の人物、人格、地名、団体、その他と一切関係がありません。 * この作品に登場する、主人公、またはその他の人物の言動/思考は、作者の見解ではありません。 * この作品は、作者のにわか知識、及び妄想で書いています。  現実との齟齬の内、重大な事に関しては、指摘頂ければ、別途注釈を設ける等の対処をさせて頂きます。 アルファポリス初投稿です。 感想、お気に入り等頂けると、大変励みになります。 メンタルがガラスですので、お手柔らかにお願いいたします。 2024/06/22 カクヨム様で投稿している別名義で投稿する事に致しました。 こちらのアカウントは、今後削除予定です。 カクヨム様の作品ページ https://kakuyomu.jp/works/16818093079719861798

AIと彼女と俺の不思議な三角関係 どうしたらいいの 究極の選択 AI彼女と禁断の恋

fit2300get
恋愛
あらすじ ある日、大学生の健太郎は、叔父である福澤より、AIを搭載したアンドロイドを紹介される。福澤は、健太郎にAIアンドロイドを紹介した。 健太郎には、今付き合ってる彼女、美咲がいた。断ろうとする健太郎に、福澤は、この子に感情を教えてくれと頼まれる。 果たして、AIは恋を、できるのか?

処理中です...