上 下
252 / 318

幕間にて 白の少年との会話と成長した自分の実感

しおりを挟む
 前に青の村がある方角で、あの空を貫く緑の光線を見た時あいつの顔が浮かんだけど、気のせいだと思った。次に黄土おうどの村がある方角で巨大な緑の光柱や緑色に光る爆発を見た時は、なんでかあいつの魔法だと確信した。

 それでも自分の目で確かめたいと思って、ばあちゃんや赤のみんなに内緒で黄土おうどの村に行こうとしたけど、赤の村を出た瞬間にばあちゃんに頭をつかまれた。

「クトー、どこに行く気だい?」
「あいつが、どれくらい強くなってるのか確かめに行くだけだ」
「……ふむ、良いだろう。あたしの勘にもビリビリ来てるし行こうかね」
「良いのか⁉︎」
「ただし、ちゃんと村の奴らに言ってからだよ」
「……わかった」

 たぶんイギギに何か言われるだろうなと思っていたけど、ばあちゃんと同じく頭をつかまれグリグリ揺らされる。クッソ、これを昔からやられて首が痛くなるんだ。力加減ぐらい覚えろよ、おっさん。



 ばあちゃんといっしょに黄土おうどの村に着くと、すぐに黄土おうど村長むらおさのカイエリキサさんに、ばあちゃんが詰め寄る。

黄土おうどの村の周辺は荒野だったはず‼︎ 何で森ができてるんだい⁉︎」
「…………ああ、それならヤート殿の魔法の影響ですよ。どうやら植物の力が活性されて、さらにヤート殿の魔法で大量の魔力が周辺一帯に撒き散らされた結果らしいです」

 あいつの魔法は地形まで変えるのかよ……。ばあちゃんやイギギのおっさんでも、ここまで大きな変化は起こせねえ。

「ヤート殿によると、他の植物から力を借りたおかげだと言って謙遜していました。それだけの力を借りれた事がすでに偉業と言えるのですが……。それとヤート殿の魔法で生まれた森の植物は、ヤート殿のお願いを聞いて動いていたとだけ言っておきます」
「……あたしらの想像以上の成長をしているみたいだね」

 ばあちゃんが顔を引きつらせるところを初めてみた。俺だって交流会の時よりは成長してる……はず。早く今のあいつとの差はどれくらいなのか試したい。



 それからの俺は、あいつの姿をした植物に勝負を挑みそうになったり、交流会の時よりもデカくなっている破壊猪ハンマーボアからにらまれたりと良いところがない。

 それに青の当代水添えみずぞえのイーリリスさんと青のタキタさんと青のイリュキンが到着したら、ばあちゃん・黄土おうど村長むらおさのカイエリキサさん・青の当代水添えみずぞえのイーリリスさんがバチバチに火花を散らせたり、青のイリュキンと黒の奴の二人が黄土おうどのチムサとにらみ合いを始め騒動が大きくなっていく。この二組だけでもどうしようもないのに、さらに事態が悪化した。

 どういう理由かはわからないが、あいつの仲間の人型の植物二体がにらみ合いを始めるという見ている全員が何もできない状況になった。そんな中、あいつが現れる。あいつは三組のにらみ合いを観察した後、まず二体の人型の植物に話しかけた。

 そんな事をして大丈夫かと思ったが、二体の植物は自分達の主張をあいつに言っていく。…………はあ? あいつの姿をしてほしくないとあいつの姿をしていたい? そんなの、どっちかしか叶えられないだろ。俺以外にも、そう思った奴がいたらしくうなり声が聞こえる。

 あいつはどうするのかを見ていると、あいつは少し考えて二体の植物に提案をした。…………なるほど、自分の最大の特徴の白と姿形をわけて考えたのか。しかもいざという時の切り札という位置づけを与えて納得度を増している。さっきとは別の意味で周りの奴らも、うなるくらい上手いな。

 次のあいつの行動を想像してみる……。たぶんほっとくとシャレにならないばあちゃん達の方へ行くか? ……当たった。やっぱり、ばあちゃん達の方へ行ったな。だが俺の想像力だと、この先がわからない。さっきの二体の植物みたいに何か提案をするのか?

 うん? あいつが急に後ろへ振り返った。…………青のじいさんと何かやりとりをしてるみたいだな。あの掌を相手に向けるのに何の意味があるんだ? まあ、そこは後であいつにでも聞けば良い。お、あいつが、ばあちゃん達の方に向き直って考えだした。…………ちょっとあいつがどうするのかワクワクしてきたな。

 は……? 足が速いか何て誰も気にしないだろ……。あ、なるほど意外な質問をしてばあちゃん達の気をそらしたのか。……うげ、競走の二文字は、ばあちゃん達が本気になるから言うなよ。…………いや、そうか、勝負の内容を足の速さに限定できたから、これで良いんだな。

 ばあちゃん達が村を出ていき、青と黄土おうどのじいさん二人がその後を追って行った。もし、ばあちゃんがキレたら大ケガ覚悟で一発くらいは止めてやる。でも……できるならキレないでくれ。

 かなり広場の雰囲気が軽くなった中、あいつがゆっくりとイリュキン達へ歩いていく。……妙に足取りが重いな。何かを警戒してるのか? 警戒する理由がわからずジッと見ていたが、あいつがイリュキン達に近づいた時に、チムサが飛びかかって理解した。

 そういえばチムサはこれと決めたらまっすぐ……というか当たって砕ける奴だったな。俺はあいつとチムサの間に割り込もうとしたが、あいつの無駄のない回避やイリュキン達と話せる余裕を見て思いとどまる。…………あいつ、あんなに動けたのか。成長してるのは俺だけじゃないというのはわかっているがモヤモヤする。

 ……いや、俺は俺の成長を見せれば良いだけだな。そのために、またあいつに飛びかかろうとしているチムサの前に立ち塞がった。……パッと見、チムサはすでにキレてるみたいだが、どうでも良いな。俺に警告をした後、土で拘束をしてきたが本当にどうでも良い。さっさと土を砕いてあいつと向き合う。

「…………久しぶりだな」
「交流会以来だから、そうだね。それで僕に何か用?」
「あの時と同じだ。お前に決闘を申し込む」
「なんで?」
「あの時の無様な自分を超えるためと、お前に俺がどれだけ成長したのか示すためだ。お前に決闘を受ける意味や得はないが受けてくれ」

 俺との会話に乗ってくるのかっていう不安をよそに、あいつはあっさりとごく自然に俺と話し始めた。

「決闘を受けるのは良いんだけど、それって今すぐ?」
「……お前は、そういう奴だったな」

 あいつが迷わず力みなく決闘を受けたのと、前と変わらずあいつにとって決闘の価値は高くないという事に自然と笑えてくる。

「飯を食べた後の落ち着いた時で頼む」
「わかった。もう一つ良い?」
「ああ」
「後々尾を引きそうだから後ろの子と、ちゃんと話し合って」

 振り向くとチムサが俺を射殺しそうな目で見ていた。…………チムサに用はないな。

「あいつは気しなくて良い」
「そんなわけないでしょっ‼︎」

 叫んだチムサに後頭部を殴られても、俺の感情は動かない。前の俺だったら全力でキレてたはずだ。とりあえずチムサに事実を言っておくか。

「うそ……」
「おい、チムサ、負けた奴は大人しく順番守れ。お前は俺の後だ」
「は⁉︎ 私のどこが負けてるっていうのよ⁉︎」
「自信満々に発動させた土の拘束は、俺にまったく効いてなかっただろ? あと俺への打撃もな」
「それは……」
「わかったら下がってろ‼︎」
「キャア‼︎」

 これだけ俺との差を実感させれば、もう無駄に攻撃してこないだろう。後は話を邪魔されても嫌だから広場の端にチムサを投げた。

「投げる必要あったの?」
「この場だと俺の方が先だっていう宣言みたいなものだ」
「そういう事なら意味があると言える……のかな?」
「とにかくだ‼︎ あー、ヤートって呼んで良いか?」
「好きに呼んでくれて良いよ」
「助かる。俺の事も好きに呼んでくれ。今日、ヤートへの用件は勝った俺が最優先だ」
「うん、朝食を食べてからね」
「待ってください」
「私も待ってほしいね」

 ヤートに、あっさりと名前呼びを許されたのは少し嬉しかったが、喜ぶ間もなくイリュキンと黒の奴が俺とヤートの話に加わった。

「リンリー、イリュキン、どうかした? あ、二人ともおはよう」
「ヤート君、おはようございます。私はクトー君に用があります」
「ヤート君、おはよう。私もリンリーと同じだよ。クトー、聞き捨てならない事を言ってくれるね」
「あ? どういう意味だ?」
「今日のヤート君への用件は勝った君が最優先という事だよ」
「そうですね。まだ私達に勝ってもいないのに的外れな事を言わないでほしいですね」
「……良いぞ。文句があるならかかってこい」
「絶対に譲りません‼︎」
「今日のヤート君への優先権は渡さない‼︎」
「えっと……僕の意思は?」

 前に決闘で負けたヤートと話せた。チムサに殴られても冷静だった。よし、俺は成長してる‼︎ これは間違いない‼︎ だったら勝つのは俺だ‼︎



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。

 感想や評価もお待ちしています。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

異世界に転生!堪能させて頂きます

葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。 大手企業の庶務課に勤める普通のOL。 今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。 ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ! 死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。 女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。 「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」 笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉ 鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉ 趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。 こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。 何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m

拝啓神様。転生場所間違えたでしょ。転生したら木にめり込んで…てか半身が木になってるんですけど!?あでも意外とスペック高くて何とかなりそうです

熊ごろう
ファンタジー
俺はどうやら事故で死んで、神様の計らいで異世界へと転生したらしい。 そこまではわりと良くある?お話だと思う。 ただ俺が皆と違ったのは……森の中、木にめり込んだ状態で転生していたことだろうか。 しかも必死こいて引っこ抜いて見ればめり込んでいた部分が木の体となっていた。次、神様に出会うことがあったならば髪の毛むしってやろうと思う。 ずっとその場に居るわけにもいかず、森の中をあてもなく彷徨う俺であったが、やがて空腹と渇き、それにたまった疲労で意識を失ってしまい……と、そこでこの木の体が思わぬ力を発揮する。なんと地面から水分や養分を取れる上に生命力すら吸い取る事が出来たのだ。 生命力を吸った体は凄まじい力を発揮した。木を殴れば幹をえぐり取り、走れば凄まじい速度な上に疲れもほとんどない。 これはチートきたのでは!?と浮かれそうになる俺であったが……そこはぐっと押さえ気を引き締める。何せ比較対象が無いからね。 比較対象もそうだけど、とりあえず生活していくためには人里に出なければならないだろう。そう考えた俺はひとまず森を抜け出そうと再び歩を進めるが……。 P.S 最近、右半身にリンゴがなるようになりました。 やったね(´・ω・`) 火、木曜と土日更新でいきたいと思います。

転生したら幼女だったので取り敢えず”運”極振りでお願いします。

iroha
ファンタジー
就活失敗から引きこもり。引きこもり歴6年の残念女子が異世界転生!ごーいんぐまいうぇいで周囲を巻き込み珍道中?脱引きこもり幼女の異世界転生譚ここに開幕!? ヒナ「幼女のかちゅ舌舐めんなよ!」 ※他サイトさんでも投稿中。 (初心者の初投稿作品です。深く考えずに、気軽に読んでいただけたらと思います!)

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

処理中です...