上 下
232 / 318

異常を見つけ出す旅にて 増える汚染と射抜き

しおりを挟む
「……減らないな」

 僕の純粋なる緑の魔弾グリーンインパクトショットによる爆撃が続く中、かろうじて人型をしている泥人形がいくら爆撃を受けても減らない事にラカムタさんは険しい目で見ながらつぶやく。僕は爆撃をしながらも界気化かいきかした魔力での探知を続けていたのでわかった事を伝えた。

「あいつらの数が減らないのは、どんどん増えてるからだよ」
「何? おい、さっき大霊穴だいれいけつの奥からあいつらは現れたと言ったな?」
「そうだ」
「その時よりあいつらは増えているのか?」
「わからない…………。あいつらに襲われた時は村に篭城するので精一杯で、俺達はあいつらの包囲を抜ける事に必死で確認する余裕なんて無かったんだ」
「……そうか。ヤート、他にわかった事はあるか?」
「あいつらに個体ごとのはっきりとした意志は感じられないし、僕達の心臓みたいな個別の核みたいなものは無い。嫌な気配の奴が生み出した魔法だね」
「まさしく人形という事か……」
「それと一番重要なのが、あいつらには触ったらダメっていう点だね」
「なぜだ?」
「汚染されて、あいつらの仲間入り。黄土おうどで触った人はいない?」
「あまりにも異質なあいつらを見た黄土おうど村長むらおさが接触を禁じたからいないはずだ」

 この人の言う通りなら黄土おうどの全滅は防げてるみたいだね。とはいえ時間の問題だから、まずは僕達の目の前に迫ってきているあいつらをなんとかしないと動けないな。…………結局のところ無理矢理な方法になりそうだけどやるか。

「ラカムタさん、派手な魔法を使って良い?」
「…………良いだろう。時間稼ぎは任せておけ」
「できるだけで遠距離攻撃で、お願い」

 僕が爆撃を止めて大規模な魔法を使うための準備に集中すると、ラカムタさん・父さん・狩人達と三体が僕の前に並んで竜人息ドラゴニュートブレスやそれぞれの遠距離攻撃であいつらを迎撃し始め、兄さん達は僕の護衛に専念してくれた。黄土おうどの人達は……うろたえてるね。

「お、おい、なぜ、逃げない⁉︎ あれだけの数のあいつらをお前達だけでどうにかできるわけがないだろ‼︎」
黄土おうどのおっさん、うるせえぞ」
「なんだと‼︎」
「ヤートの集中を邪魔しないで」
「その欠色けっしょくの子供だけで何ができる⁉︎」
「あのもの達を爆撃していたのも、あなた達をここまで運んだのもヤート君です。この場で何もするつもりがないなら、せめて静かにしているか、どこか遠くに離れてください」
「「「ぐ……」」」

 …………集中しててもわずかに聞こえてくる声の中で、リンリーの言葉が一番辛辣だった。あと爆撃も、ここに連れてこれたのも植物達のおかげなんだけどな。そんな事を頭の隅で思いながら僕は僕の役割をこなしていく。



 そしてたっぷり時間をかけた魔法の準備が完了して目を開けると、あいつらは僕が準備を始める前よりもだいぶ近くまできていた。どうやら数の増え方が加速したらしく、黄土おうどの三人が迎撃に加わっても状況は好転しなかったみたいだね。本当に間に合ってよかった。

「みんな、お待たせ。準備ができたから始める」
「ヤート、やるなら徹底的にな」
「うん、そのつもりだよ。緑盛魔法グリーンカーペット超育成ハイグロウ純粋なる緑の光線グリーンインパクトライトレイ

 みんなの少しホッとした雰囲気を感じながら僕が魔法を発動させると、若木になっている世界樹の杖ユグドラシルロッドがドクンと拍動する。そして僕達から少し離れた後ろの方に四本の大木が等間隔で生えてきた。

「……ヤート、あれは何で、何をするつもりだ?」
「単純に物量には物量で対抗するだけだよ。兄さん」
「物量……?」
「見てたらわかる。純粋なる緑の光線グリーンインパクトライトレイ一斉射撃用意フルオープン

 僕の合図で四本の大木は根本から緑色の光が上がっていき、その光が樹頭へ至ると全ての葉は鮮やかな緑色に光っていく。……うん、初めてにしては無理なくできてるね。僕は泥人形達に界気化かいきかした魔力を放ち、比較的僕達の近くにいる個体の位置を把握して反撃を開始した。

純粋なる緑の光線グリーンインパクトライトレイ一斉射撃開始フルファイア

 四本の大木の葉が一際明るく光ると、葉一枚一枚から緑色の光線が空へと伸びていく。そして、光線はある程度の高さに至った後に泥人形達に向かって鋭角に折れ曲がった。

 バシュンッ‼︎

 緑光線に射抜かれた泥人形達は干からびて崩れていく。これは泥人形が魔法で作られてるなら、より強力な魔法を当てれば形状維持をできなくなるという当然の理屈だ。それに少なくとも四本の大木の葉の数だけ同時に殲滅したから、この後への余裕がずいぶんできた。

「ヤート、やったな‼︎」
「兄さん、まだだよ」
「は?」
「ほら」

 確かに僕の魔法で泥人形達は殲滅した。でも、泥人形達のいた地面がボコボコと動き始めている。その様子を見て、みんなが動揺する。

「バカな‼︎ あいつらは崩れたぞ‼︎」
「そんなに驚く事じゃなくて、ただ単に材料があるから補充されただけ」
「材料? そんなものがどこにある⁉︎」
「あいつらは、もともと魔法で泥を固めてできていて、触れたものを汚染する性質を持っている」
「触れたものを汚染する……?」

 みんなの視線が地面に向いた。

「まさか……」
「そう、あいつらが歩いた地面は汚染されていて、あいつらと同じようなものになってる。だったら、汚染された地面の土を材料にあいつらを作り直すのは簡単な事だよ」
「だが、魔法が発動するには詠唱者が必要なはずだ‼︎」
「汚染された地面、要は汚れた土を泥人形にするっていう魔法が続いてるだけ。汚染された地面があれば再詠唱は必要ない」
「…………ヤートの言う事が本当なら、あいつらは際限なく増えるという事か?」
「うん」
「そ、それなら、黄土おうどの村は……」
「かなり危ない状況だと思う。時間的に飲み込まれる寸前かも」
「クソッ‼︎」

 黄土おうどの三人が慌てて走り出そうとしたから僕は止めた。

「今から行っても間に合わないし、例え間に合ったとしてもあんた達三人が加わったところで意味はほとんどないよ」
「うるさい‼︎ 欠色けっしょくのお前に何がわかる‼︎」
「少なくとも大事な場所と人を守りたいっていう気持ちはわかるよ。無理矢理にでも解決するために時間をかけて準備したしね」

 僕の言う事が理解できないのか黄土おうどの三人は僕をよくわからないものを見る目で見てくる。僕は僕がどう見られようと、そこまで興味がないから無視してラカムタさんに話しかけた。

「ラカムタさん、問題解決のために環境を変えるね」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。

 感想や評価もお待ちしています。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

異世界に転生!堪能させて頂きます

葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。 大手企業の庶務課に勤める普通のOL。 今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。 ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ! 死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。 女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。 「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」 笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉ 鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉ 趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。 こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。 何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m

拝啓神様。転生場所間違えたでしょ。転生したら木にめり込んで…てか半身が木になってるんですけど!?あでも意外とスペック高くて何とかなりそうです

熊ごろう
ファンタジー
俺はどうやら事故で死んで、神様の計らいで異世界へと転生したらしい。 そこまではわりと良くある?お話だと思う。 ただ俺が皆と違ったのは……森の中、木にめり込んだ状態で転生していたことだろうか。 しかも必死こいて引っこ抜いて見ればめり込んでいた部分が木の体となっていた。次、神様に出会うことがあったならば髪の毛むしってやろうと思う。 ずっとその場に居るわけにもいかず、森の中をあてもなく彷徨う俺であったが、やがて空腹と渇き、それにたまった疲労で意識を失ってしまい……と、そこでこの木の体が思わぬ力を発揮する。なんと地面から水分や養分を取れる上に生命力すら吸い取る事が出来たのだ。 生命力を吸った体は凄まじい力を発揮した。木を殴れば幹をえぐり取り、走れば凄まじい速度な上に疲れもほとんどない。 これはチートきたのでは!?と浮かれそうになる俺であったが……そこはぐっと押さえ気を引き締める。何せ比較対象が無いからね。 比較対象もそうだけど、とりあえず生活していくためには人里に出なければならないだろう。そう考えた俺はひとまず森を抜け出そうと再び歩を進めるが……。 P.S 最近、右半身にリンゴがなるようになりました。 やったね(´・ω・`) 火、木曜と土日更新でいきたいと思います。

転生したら幼女だったので取り敢えず”運”極振りでお願いします。

iroha
ファンタジー
就活失敗から引きこもり。引きこもり歴6年の残念女子が異世界転生!ごーいんぐまいうぇいで周囲を巻き込み珍道中?脱引きこもり幼女の異世界転生譚ここに開幕!? ヒナ「幼女のかちゅ舌舐めんなよ!」 ※他サイトさんでも投稿中。 (初心者の初投稿作品です。深く考えずに、気軽に読んでいただけたらと思います!)

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

処理中です...