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黒の村にて 変化する気配と行動開始
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そんなわけで僕は一日に一回、当日分の作業を終わらせてから村の中と村の周りを確認がてら散歩する事にした。いつもの好きな場所まで行って帰る散歩と違って、今日からの散歩はできるだけ広い範囲を見れるように進む。……散歩というよりは巡回って言った方が正しそうだ。
「……ガア」
「……ブオ」
「嫌ナ気配デスカ……。私モ何モ感ジマセンデシタ」
三体も僕の感じた気配には気がつかなかったみたい。……これはかなり深刻な事態なのかも知れないね。僕だけが感じてる理由は、たぶん同調や界気化をできるかどうかだと思う。青のイーリリスさんとイリュキンに話を聞けたら良かったんだけど、できない事は仕方ない。まずはしっかりとした警戒体制を形作ろう。
「鬼熊、止まって」
「ガア」
「うん、ありがとう」
僕は鬼熊の背から降りた後、周辺で一番樹齢を重ねた樹の根本に聖月草の種を埋めた。そして樹にも変な事が起こるかもしれないから、もし起こったら教えてほしいとお願いする。これと同じ事を今日だけでも巡回範囲のあちこちでしていた。
まず、僕の感じた気配はヌメッとした嫌な気配だから、聖月草の発する破邪の光は効果があるはずだ。それと植物達は横の繋がりが強いから、離れた場所で異常が起きてもすぐに知らせてくれる。
何が起きるかわからないから何とも言えないけど、対抗策としての聖月草・植物達の連絡網・三体の機動力があれば、とりあえず時間稼ぎと異常への即応は大丈夫かな。
五日が経過し、このよくわからない事態の深刻度が増しているのがわかった。嫌な気配に気づいた初日は一日に一回パッと現れてパッと消えたけど、今は一日に数回ジワッと広がりスーッと消えている。どう考えても着実に何かを汚染しているみたいだ。
でも、広場の真ん中に立って界気化した魔力を周りへ全力で放ち、大神林の様子を探ってみても異常は見つからない。…………気配はあっても実体がわからないなんて初めてだな。僕が苦戦してると、僕を広場の端で見ているみんなの間からラカムタさんが近づいてきた。
「おい、ヤート」
「何? ラカムタさん」
「ガル達が言ってたんだが、最近になって何を考え込んでいる?」
「…………」
「俺には話せない事か?」
「そういうわけじゃないよ」
「それなら言ってみろ」
今感じてるヌメッとした嫌な気配についてラカムタさんに聞いてみた。
「ラカムタさんは、この嫌な気配を感じる?」
「嫌な気配だと……?」
ラカムタさんは僕の言葉を受けて、周りの様子へと感覚を研ぎ澄ましていく。
「……いつも通りのはずだ」
「そう。それならこの気配には僕が対応するから、ラカムタさんを含めたみんなに普段通り行動してって伝えて」
「もっと深く探るから少し待て」
「この気配がわからないのはラカムタさんだけじゃないから気にしないで」
「何?」
「父さんと母さん、村長、門番のネリダさん、兄さん達、三体、大神林の植物達。僕が聞いてみた全員わからなかったから」
僕を見ているみんなが息を飲む。
「僕だけが感じてるから勘違いだって考えれたら良かったんだけど、本当にヌメッとした嫌な気配をなんだ。絶対に放って置けない」
「…………俺達に何かできる事はないか?」
「今は何もない。もし、みんなの力を借りるとしたら、何かが起こってからだね」
「そうか……」
「うん。それじゃあ僕は今日の巡回に行ってくるよ」
「わかった。気をつけるんだぞ」
この日から、みんなが僕の動きを見逃さないようにジッと見てくるようになり、僕がどこかに行こうとしたら行き先を聞いてくるようになった。
こうして嫌な気配の変化を感じつつ、さらに四日が過ぎた時にとうとう決定的な変化が起こる。薄く広がり消えていくだけだった嫌な気配が、不定形のまま消えずに蠢きだした。
「…………」
「ヤート、急にどうした?」
兄さんが少し驚きながら聞いてくる。僕が村の子供達全員参加の乱戦の最中に動きを止めたから当然と言えば当然だ。でも、僕は兄さんの質問には答えず、界気化した魔力をできる限り広範囲に放つ。
「…………明らかに気配が変わったのに感知できる範囲に異常はないという事は、大神林が異常の起こってる現場じゃない?」
「ヤート、何かあったの?」
僕は姉さんの質問も無視して、大神林の植物達に異常がないか聞いた。さすがに僕の様子がおかしいと、みんなが僕を見てくるけど僕は構わずラカムタさんに走り寄る。
「ラカムタさん」
「どうした?」
「あっちの方角に何があるかわかる?」
「……向こうにヤートのいう嫌な気配があるんだな?」
「うん、今さっきはっきりとした動き出したから、きっと気配がある場所で何が起こったはず。あっちに何があるの?」
「向こうは大神林が広がってるだけだぞ」
「植物達に聞いたら、大神林のどこにも異常はないって言ってる。あっちの方で大神林以外に目立つところはない?」
「…………かなり遠いが、ヤートの指差した方には黄土の竜人族の村があるな」
ラカムタさんの答えを聞いて、僕の頭の中に一つの仮説が浮かんだ。
「黄土の竜人族の村って、どんなところにあるの?」
「大霊穴と呼ばれる巨大で深い洞窟のそばに村はある」
「大霊穴……、そこって大神林や大霊湖みたいに魔力が濃い?」
「そうだな。大霊湖と同等以上の魔力が集まる場所だ」
「…………それなら可能性は充分あるかな」
「ヤート、何を思いついた?」
「大霊穴に魔石みたいな奴が現れたかもしれない」
僕が魔石っていう単語を言ったら、ラカムタさんの身体から魔力が吹き出した。
「……すまん。なんで、そう思ったんだ?」
「ほとんど勘みたいなものだけど、一回目は大神林の奥で、二回目は大霊湖で魔石と遭遇した。一度なら偶然もありえる。でも、二回も桁外れの魔力がある場所で現れたら少し不自然だよ。それで今回、大霊穴のある方に嫌な気配が現れた。……僕の考え過ぎ?」
「……少なくとも俺には反論を思いつけないから、そこまで的外れではないだろう」
僕はラカムタさんの反応から動く価値があると判断して村長の方を向いた。
「村長」
「何じゃ?」
「これから大霊穴に行ってくる」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
「……ガア」
「……ブオ」
「嫌ナ気配デスカ……。私モ何モ感ジマセンデシタ」
三体も僕の感じた気配には気がつかなかったみたい。……これはかなり深刻な事態なのかも知れないね。僕だけが感じてる理由は、たぶん同調や界気化をできるかどうかだと思う。青のイーリリスさんとイリュキンに話を聞けたら良かったんだけど、できない事は仕方ない。まずはしっかりとした警戒体制を形作ろう。
「鬼熊、止まって」
「ガア」
「うん、ありがとう」
僕は鬼熊の背から降りた後、周辺で一番樹齢を重ねた樹の根本に聖月草の種を埋めた。そして樹にも変な事が起こるかもしれないから、もし起こったら教えてほしいとお願いする。これと同じ事を今日だけでも巡回範囲のあちこちでしていた。
まず、僕の感じた気配はヌメッとした嫌な気配だから、聖月草の発する破邪の光は効果があるはずだ。それと植物達は横の繋がりが強いから、離れた場所で異常が起きてもすぐに知らせてくれる。
何が起きるかわからないから何とも言えないけど、対抗策としての聖月草・植物達の連絡網・三体の機動力があれば、とりあえず時間稼ぎと異常への即応は大丈夫かな。
五日が経過し、このよくわからない事態の深刻度が増しているのがわかった。嫌な気配に気づいた初日は一日に一回パッと現れてパッと消えたけど、今は一日に数回ジワッと広がりスーッと消えている。どう考えても着実に何かを汚染しているみたいだ。
でも、広場の真ん中に立って界気化した魔力を周りへ全力で放ち、大神林の様子を探ってみても異常は見つからない。…………気配はあっても実体がわからないなんて初めてだな。僕が苦戦してると、僕を広場の端で見ているみんなの間からラカムタさんが近づいてきた。
「おい、ヤート」
「何? ラカムタさん」
「ガル達が言ってたんだが、最近になって何を考え込んでいる?」
「…………」
「俺には話せない事か?」
「そういうわけじゃないよ」
「それなら言ってみろ」
今感じてるヌメッとした嫌な気配についてラカムタさんに聞いてみた。
「ラカムタさんは、この嫌な気配を感じる?」
「嫌な気配だと……?」
ラカムタさんは僕の言葉を受けて、周りの様子へと感覚を研ぎ澄ましていく。
「……いつも通りのはずだ」
「そう。それならこの気配には僕が対応するから、ラカムタさんを含めたみんなに普段通り行動してって伝えて」
「もっと深く探るから少し待て」
「この気配がわからないのはラカムタさんだけじゃないから気にしないで」
「何?」
「父さんと母さん、村長、門番のネリダさん、兄さん達、三体、大神林の植物達。僕が聞いてみた全員わからなかったから」
僕を見ているみんなが息を飲む。
「僕だけが感じてるから勘違いだって考えれたら良かったんだけど、本当にヌメッとした嫌な気配をなんだ。絶対に放って置けない」
「…………俺達に何かできる事はないか?」
「今は何もない。もし、みんなの力を借りるとしたら、何かが起こってからだね」
「そうか……」
「うん。それじゃあ僕は今日の巡回に行ってくるよ」
「わかった。気をつけるんだぞ」
この日から、みんなが僕の動きを見逃さないようにジッと見てくるようになり、僕がどこかに行こうとしたら行き先を聞いてくるようになった。
こうして嫌な気配の変化を感じつつ、さらに四日が過ぎた時にとうとう決定的な変化が起こる。薄く広がり消えていくだけだった嫌な気配が、不定形のまま消えずに蠢きだした。
「…………」
「ヤート、急にどうした?」
兄さんが少し驚きながら聞いてくる。僕が村の子供達全員参加の乱戦の最中に動きを止めたから当然と言えば当然だ。でも、僕は兄さんの質問には答えず、界気化した魔力をできる限り広範囲に放つ。
「…………明らかに気配が変わったのに感知できる範囲に異常はないという事は、大神林が異常の起こってる現場じゃない?」
「ヤート、何かあったの?」
僕は姉さんの質問も無視して、大神林の植物達に異常がないか聞いた。さすがに僕の様子がおかしいと、みんなが僕を見てくるけど僕は構わずラカムタさんに走り寄る。
「ラカムタさん」
「どうした?」
「あっちの方角に何があるかわかる?」
「……向こうにヤートのいう嫌な気配があるんだな?」
「うん、今さっきはっきりとした動き出したから、きっと気配がある場所で何が起こったはず。あっちに何があるの?」
「向こうは大神林が広がってるだけだぞ」
「植物達に聞いたら、大神林のどこにも異常はないって言ってる。あっちの方で大神林以外に目立つところはない?」
「…………かなり遠いが、ヤートの指差した方には黄土の竜人族の村があるな」
ラカムタさんの答えを聞いて、僕の頭の中に一つの仮説が浮かんだ。
「黄土の竜人族の村って、どんなところにあるの?」
「大霊穴と呼ばれる巨大で深い洞窟のそばに村はある」
「大霊穴……、そこって大神林や大霊湖みたいに魔力が濃い?」
「そうだな。大霊湖と同等以上の魔力が集まる場所だ」
「…………それなら可能性は充分あるかな」
「ヤート、何を思いついた?」
「大霊穴に魔石みたいな奴が現れたかもしれない」
僕が魔石っていう単語を言ったら、ラカムタさんの身体から魔力が吹き出した。
「……すまん。なんで、そう思ったんだ?」
「ほとんど勘みたいなものだけど、一回目は大神林の奥で、二回目は大霊湖で魔石と遭遇した。一度なら偶然もありえる。でも、二回も桁外れの魔力がある場所で現れたら少し不自然だよ。それで今回、大霊穴のある方に嫌な気配が現れた。……僕の考え過ぎ?」
「……少なくとも俺には反論を思いつけないから、そこまで的外れではないだろう」
僕はラカムタさんの反応から動く価値があると判断して村長の方を向いた。
「村長」
「何じゃ?」
「これから大霊穴に行ってくる」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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