206 / 318
青の村にて 感謝と見送り
しおりを挟む
今日の天気は少し曇りで、大霊湖の近くの割に風も穏やかで暑くも寒くもない。出発の日としては、かなり良い条件だ。そんな中、僕達は青の村の正門前に集まっていた。
位置関係は僕とラカムタさん達と三体が門と向かい合うように立っていて、青のみんなはハインネルフさん・イーリリスさん・タキタさんを先頭に門を背にし僕達の対面にいる。苔巨人兵達は十体ともが、わざわざ上陸して村の外周を回り込み僕達を見送れるところに待機していた。最後に大髭様だけど、さすがに上陸したら動けなくなるので出発のあいさつを朝一番におこない別れた。今頃は大霊湖を泳いでるはずだ。
別れの場であり青の村にいた全員がそろったのでザワつきは大きかったけど、ハインネルフさんが右手を少し上げたら静かになっていく。そして完全に沈黙したのを見計らいハインネルフさんは話し出す。
「皆も知っての通り、ヤート殿やラカムタ殿達は黒の村へと戻るために今日をもって青の村を離れる」
ハインネルフさんが言い終わると、みんなから残念だという雰囲気が伝わってきた。ラカムタさんや兄さん達も同じような感じだから、なんだかんだで青の村での生活を楽しんでたみたいだね。
「ヤート殿の言動に触れるたび新たな驚きと発見があり、個人的にも良い経験となった。また魔石という予期せぬ出来事はあったにせよ、ラカムタ殿達とも今までになく深い交流ができたのは、今後の青にとってかけがえのない財産となるだろう。ヤート殿とラカムタ殿達に心より感謝を申し上げる」
広場にいる青のみんなが、ハインネルフさんの礼とともに頭を下げる。その様子は、まさに一糸乱れぬ行動とはこういうのを言うんだなって目を見張った。ラカムタさん達も照れていたし、感情の薄い僕も心にグッとくる。そしてみんなが頭を戻すと、次に話し出したのはタキタさん。
「わしからは、まず魔獣のお三方に礼を申し上げる。我ら水守にとって高位の魔獣であるお三方の真近ですごせた事は、精神面の鍛錬としてこの上ないものとなった。今回の経験を活かせれば、もし違う不測の事態が起きても全く動けずに最悪な状況に陥るのを防げるはず。またヤート殿やラカムタ殿達との鍛錬は、水守とは異なる動きや考えを目にでき殻を破れるものも出てきた。我ら水守に多くの成長をいただけた事へ心よりの感謝を」
タキタさんと水守達が三体に深く頭を下げた。それに対して三体は一見無反応だけど、よく見たら鬼熊と破壊猪の口角が上がりディグリも少し胸を張っているので嬉しいみたい。最後に話すイーリリスさんは、タキタさん達が頭を上げだ後に僕を見ながらフワリと笑った。
「私にとっても今回の交流は良い経験でした。水添え候補者ではないヤート殿が、界気化を習得していくのを見守れたのは貴重な時間でした。それに大髭様の頭へと乗れたのは一生の思い出です。老齢となっても、ずっと暮らしている場所でも未経験がある。この事を実感できてから見慣れた景色が輝いて見えるようになりました。尊い時間を与えてくれたヤート殿に心よりの感謝を」
イーリリスさんの礼は流れる水みたいなきれいな仕草だった。イリュキンも、いつかイーリリスさんみたいになるのかな? 欠色の僕がみんなと同じ寿命かはわからないけど、見れるとしたら見てみたいね。僕が遠い未来を考えていると、ラカムタさんが一歩前に出る。
「青より感謝を言われたが、俺からも言わせてほしい。ハインネルフ殿、イーリリス殿、タキタ殿と戦い、久々に全力を出す自分を感じる事ができて最高だった。それにあんなに高笑いしたのは、いつ以来か思い出せないほどだ。心より感謝する。そして叶うなら、また再戦を」
ラカムタさんの戦意剥き出しの礼に、ハインネルフさん達・水守達・他の青の大人達が同じように戦意をあふれさせる。たぶんのぞむところだっていう感じかな? みんなの戦意が鎮まると、ラカムタさんが僕の方を向いた。
「ヤートは何か言いたい事はあるか?」
「僕? えーと……、ああ、それじゃあ僕からも」
「おう、言ってやれ言ってやれ」
「楽しかった。黒の村から青の村に来る時も、青の村ですごすのも、大霊湖で過ごす時も、全部楽しかった。また来たいって思うから、次に来れた時はよろしくお願いします」
自分なりに丁寧におじきをして身体を起こすと、青のみんなやラカムタさん達が驚いていた。というか、苔巨人兵達も驚いてるのは何で? …………まあ、僕は無表情だからしょうがないか。
「……オホン、ヤート殿、そう言ってもらえて光栄だ。また、いつでも良いから気軽に訪ねてくれて構わない」
「うん、ありがとう」
僕がハインネルフさんに返事をしていたら、ラカムタさんが僕の頭に手を置いた。
「名残惜しいが、そろそろ行くぞ」
「わかった。兄さん達も、もう行ける?」
「俺は大丈夫だ」
「私も行けるわ」
「私は……、大丈夫です」
「リンリー、良いの?」
「はい、きちんと言いたい事はお互いに言っているので大丈夫です。行きましょう」
リンリーの目線を追うとイリュキンを見ていて、イリュキンもリンリーを見ていた。良いのかなって思いラカムタさんを見ると、ラカムタさんがうなずいてきたから問題ないらしい。いまいちリンリーとイリュキンの関係性をわかってないんだけど、二人とも落ち着いてるから良いと納得しておく。
僕達は青のみんなに手を振ってから歩き出す。苔巨人兵からも待っているという意志が伝わってきたので、また必ずと答えて手を振った。
しばらく歩き大霊湖を見渡せる丘まできた時に、もう一度、大霊湖を目に焼き付けようと振り返ったら、大霊湖の湖面から何かが跳び出してくるのが見えた。
「あれは……大髭様だね」
「見送りだろうな。それなりに離れてもわかるのはすごいものだ」
「私達が広場で見た時よりも高く跳んでますね」
「…………あれ、大丈夫なのかな?」
「何がだ? ヤート」
「広場で見た時は、大髭様の着水後に大波が来たよね? という事は、あの時以上の大波が青の村に来るんじゃ……」
「「「「あ……」」」」
僕達は青のみんなの無事を祈った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
位置関係は僕とラカムタさん達と三体が門と向かい合うように立っていて、青のみんなはハインネルフさん・イーリリスさん・タキタさんを先頭に門を背にし僕達の対面にいる。苔巨人兵達は十体ともが、わざわざ上陸して村の外周を回り込み僕達を見送れるところに待機していた。最後に大髭様だけど、さすがに上陸したら動けなくなるので出発のあいさつを朝一番におこない別れた。今頃は大霊湖を泳いでるはずだ。
別れの場であり青の村にいた全員がそろったのでザワつきは大きかったけど、ハインネルフさんが右手を少し上げたら静かになっていく。そして完全に沈黙したのを見計らいハインネルフさんは話し出す。
「皆も知っての通り、ヤート殿やラカムタ殿達は黒の村へと戻るために今日をもって青の村を離れる」
ハインネルフさんが言い終わると、みんなから残念だという雰囲気が伝わってきた。ラカムタさんや兄さん達も同じような感じだから、なんだかんだで青の村での生活を楽しんでたみたいだね。
「ヤート殿の言動に触れるたび新たな驚きと発見があり、個人的にも良い経験となった。また魔石という予期せぬ出来事はあったにせよ、ラカムタ殿達とも今までになく深い交流ができたのは、今後の青にとってかけがえのない財産となるだろう。ヤート殿とラカムタ殿達に心より感謝を申し上げる」
広場にいる青のみんなが、ハインネルフさんの礼とともに頭を下げる。その様子は、まさに一糸乱れぬ行動とはこういうのを言うんだなって目を見張った。ラカムタさん達も照れていたし、感情の薄い僕も心にグッとくる。そしてみんなが頭を戻すと、次に話し出したのはタキタさん。
「わしからは、まず魔獣のお三方に礼を申し上げる。我ら水守にとって高位の魔獣であるお三方の真近ですごせた事は、精神面の鍛錬としてこの上ないものとなった。今回の経験を活かせれば、もし違う不測の事態が起きても全く動けずに最悪な状況に陥るのを防げるはず。またヤート殿やラカムタ殿達との鍛錬は、水守とは異なる動きや考えを目にでき殻を破れるものも出てきた。我ら水守に多くの成長をいただけた事へ心よりの感謝を」
タキタさんと水守達が三体に深く頭を下げた。それに対して三体は一見無反応だけど、よく見たら鬼熊と破壊猪の口角が上がりディグリも少し胸を張っているので嬉しいみたい。最後に話すイーリリスさんは、タキタさん達が頭を上げだ後に僕を見ながらフワリと笑った。
「私にとっても今回の交流は良い経験でした。水添え候補者ではないヤート殿が、界気化を習得していくのを見守れたのは貴重な時間でした。それに大髭様の頭へと乗れたのは一生の思い出です。老齢となっても、ずっと暮らしている場所でも未経験がある。この事を実感できてから見慣れた景色が輝いて見えるようになりました。尊い時間を与えてくれたヤート殿に心よりの感謝を」
イーリリスさんの礼は流れる水みたいなきれいな仕草だった。イリュキンも、いつかイーリリスさんみたいになるのかな? 欠色の僕がみんなと同じ寿命かはわからないけど、見れるとしたら見てみたいね。僕が遠い未来を考えていると、ラカムタさんが一歩前に出る。
「青より感謝を言われたが、俺からも言わせてほしい。ハインネルフ殿、イーリリス殿、タキタ殿と戦い、久々に全力を出す自分を感じる事ができて最高だった。それにあんなに高笑いしたのは、いつ以来か思い出せないほどだ。心より感謝する。そして叶うなら、また再戦を」
ラカムタさんの戦意剥き出しの礼に、ハインネルフさん達・水守達・他の青の大人達が同じように戦意をあふれさせる。たぶんのぞむところだっていう感じかな? みんなの戦意が鎮まると、ラカムタさんが僕の方を向いた。
「ヤートは何か言いたい事はあるか?」
「僕? えーと……、ああ、それじゃあ僕からも」
「おう、言ってやれ言ってやれ」
「楽しかった。黒の村から青の村に来る時も、青の村ですごすのも、大霊湖で過ごす時も、全部楽しかった。また来たいって思うから、次に来れた時はよろしくお願いします」
自分なりに丁寧におじきをして身体を起こすと、青のみんなやラカムタさん達が驚いていた。というか、苔巨人兵達も驚いてるのは何で? …………まあ、僕は無表情だからしょうがないか。
「……オホン、ヤート殿、そう言ってもらえて光栄だ。また、いつでも良いから気軽に訪ねてくれて構わない」
「うん、ありがとう」
僕がハインネルフさんに返事をしていたら、ラカムタさんが僕の頭に手を置いた。
「名残惜しいが、そろそろ行くぞ」
「わかった。兄さん達も、もう行ける?」
「俺は大丈夫だ」
「私も行けるわ」
「私は……、大丈夫です」
「リンリー、良いの?」
「はい、きちんと言いたい事はお互いに言っているので大丈夫です。行きましょう」
リンリーの目線を追うとイリュキンを見ていて、イリュキンもリンリーを見ていた。良いのかなって思いラカムタさんを見ると、ラカムタさんがうなずいてきたから問題ないらしい。いまいちリンリーとイリュキンの関係性をわかってないんだけど、二人とも落ち着いてるから良いと納得しておく。
僕達は青のみんなに手を振ってから歩き出す。苔巨人兵からも待っているという意志が伝わってきたので、また必ずと答えて手を振った。
しばらく歩き大霊湖を見渡せる丘まできた時に、もう一度、大霊湖を目に焼き付けようと振り返ったら、大霊湖の湖面から何かが跳び出してくるのが見えた。
「あれは……大髭様だね」
「見送りだろうな。それなりに離れてもわかるのはすごいものだ」
「私達が広場で見た時よりも高く跳んでますね」
「…………あれ、大丈夫なのかな?」
「何がだ? ヤート」
「広場で見た時は、大髭様の着水後に大波が来たよね? という事は、あの時以上の大波が青の村に来るんじゃ……」
「「「「あ……」」」」
僕達は青のみんなの無事を祈った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
2
お気に入りに追加
867
あなたにおすすめの小説
AI恋愛大戦争
星永のあ
恋愛
みなさんは、AIをご存知だろうか。
このAIの発達により、
今ある仕事の49%が10〜20年後には無くなると言われている。
人間の生活はどんどんAIに奪われていく
のかもしれない。
それは仕事だけではなく、恋愛も。
AIがモテる時代がすぐ目の前まで来ている。
~マーメイド~
はらぺこおねこ。
恋愛
20XX年、性犯罪が多くなり泣き寝入りする女性が多くなった日本。
政府は、性犯罪抑制のため人間そっくりの生物を開発をする。
感覚は、人と同じで感情や表情もあるし知能まであった。
人間との違いは大差なかったのだ。
人々は、その生物をマーメイドと呼んだ。
最初は抵抗はあったものの、次第にそれに慣れ。
性欲を持て余した男たちは、通販で買物をする感覚でマーメイドを購入する日々。
人の遺伝子操作は、倫理上禁止されているがマーメイドは人でないため禁止されなかった。
その為、科学者はマーメイドの遺伝子操作を躊躇するなく開発を進め。
遂に、簡単に理想のマーメイドを開発することが可能になった。
注文方法は簡単。
容姿や体型、年齢から性格や声帯まで、全てカスタマイズ可能。
価格は200円からのお手軽価格。
雄雌ともに発注可能。
また、飽きたらマーメイドの日に拘束して捨てることも可能で捨てられたマーメイドの処理はどうされるかは、公開されてはいない。
ホームレスに拾われ飼われるマーメイドや、なんとか脱出して野生になるマーメイドもいる。
マーメイドの開発は日本だけでなく海外にも広まり、世界中の人への性犯罪の件数は、年間100件を下回っていた。
マーメイドを反対する女性たちもいたが、この件数を聞いた途端反対する人は少なくなった。
世界は、マーメイドによって救われていた。
そして、今……
ひとりの童貞の男が、マーメイドを注文しようとしている。
男は、事業に成功した30歳。
金は有り余るほどある。
金を稼ぐことに一生懸命になりすぎて、女性との出会いはなかった。
男は、童貞を捨てるべく。
マーメイドをマーマンで、注文する。
価格は、500円。
男は、マーメイドを購入することにより世界が変わるのだ。
マーメイドは、善か?悪か?
世界は、その問題を抱え今日も生きていく。
※以前書いていたマーメイドを全年齢の方を対象に書き直します。
「ずっと貴方だけを推し続けます」その言葉を信じても良いですか?
田々野キツネ
恋愛
──推し変なんてしない、ずっと君だけを推し続けていた
日々を無為にすごす、ロースペ社会人、田中貞雄。
ある日、奇跡の出会いを果たす。
バーチャルネットアイドル、天姫モノアとの出会いが、枯れた人生に彩を与えていく。
* この作品に登場する、存在/非存在は、現実/架空の人物、人格、地名、団体、その他と一切関係がありません。
* この作品に登場する、主人公、またはその他の人物の言動/思考は、作者の見解ではありません。
* この作品は、作者のにわか知識、及び妄想で書いています。
現実との齟齬の内、重大な事に関しては、指摘頂ければ、別途注釈を設ける等の対処をさせて頂きます。
アルファポリス初投稿です。
感想、お気に入り等頂けると、大変励みになります。
メンタルがガラスですので、お手柔らかにお願いいたします。
2024/06/22
カクヨム様で投稿している別名義で投稿する事に致しました。
こちらのアカウントは、今後削除予定です。
カクヨム様の作品ページ
https://kakuyomu.jp/works/16818093079719861798
AIと彼女と俺の不思議な三角関係 どうしたらいいの 究極の選択 AI彼女と禁断の恋
fit2300get
恋愛
あらすじ
ある日、大学生の健太郎は、叔父である福澤より、AIを搭載したアンドロイドを紹介される。福澤は、健太郎にAIアンドロイドを紹介した。
健太郎には、今付き合ってる彼女、美咲がいた。断ろうとする健太郎に、福澤は、この子に感情を教えてくれと頼まれる。
果たして、AIは恋を、できるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる