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幕間にて 白への印象と新たな未来
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今回はヌイジュ視点です。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「それ……でも……、そうだと……しても……、いつも……みんなと……いれるとは……限らないから……、戦える……ように……なって……おかないと……後悔……す……」
黒のヤーウェルトが俺の方に倒れてきたため受け止める。感じた重さは、どう考えても同年代の子供達より軽い。
「……これが欠色の重さ」
身体は弱いが精神は強く存在感があると言っても良い。いつの間にか、あらゆる事態の中心にいるのはそのためだろう。……逆を言えば、目を離すと何を引き起こすかわからない危うさを感じるとも言えるな。まあ、俺がこいつに伝えたい事は全て言ったから、もう深く関わる事もない。俺は黒のヤーウェルトを肩に担ぎ、俺の様子をうかがっている待ち人のもとへと歩いていく。
俺が近づくとヤーウェルトの兄と姉の目が鋭くなる。当たり前と言えば当たり前だが嫌われたものだな。……ふむ、黒の顔役は冷静のようだ。
「返すぞ」
「……あ、ああ」
「じゃあな」
「待て‼︎」
黒の顔役が俺を呼び止めた事に、俺も周りの奴らも驚く。
「……何だ?」
「礼を言う」
「は?」
俺の口から間抜けな声が漏れた。なぜ、俺に礼を言う? ただ、立ち合っただけだぞ?
「礼を言われる筋合いはない」
「ヤートに俺達ができていなかった事をやってもらった礼だ」
「……その言い方だと、自分達の甘さは理解しているようだな」
「必要だとはわかっているんだが……」
「ならば、それ相応の事をして……、いや、俺が言う事じゃないか」
「率直に聞きたい。お前の目にヤートはどんな風に写った?」
黒の顔役がジッと俺を見てくる。……特段隠す事でもないか。
「こいつは、ヤーウェルトは目の前の問題をまっすぐ見れる奴だな」
「……詳しく頼む」
「問題を冷静に把握して、問題解決に必要な事をやれる奴だ。例え必要な事が自分の存在だとしてもたやすくすり潰せる」
「…………」
「何をどうしたらここまで冷静に物事を見れるのかわからないが、ためらいなく一線を超えれるのは自分よりも問題解決をはるかに優先しているからだろう」
俺の発言でヤーウェルトに視線が集中する。その中でもヤーウェルトの兄姉の顔は、心配からか痛々しくゆがんでいた。
「一つ言えるのはヤーウェルトを死なせたくないなら、もっとヤーウェルト自身が大切だと伝えてやれ。そうすれば少しは踏みとどまるようになるはずだ。……それと姫さま」
「な、何だい?」
「ヤーウェルトは自分から積極的につながりを強くしていかないと、フッと消えるぞ」
「ヤートはそんな事しねえ‼︎」
「そうよ‼︎ 勝手な事を言わないで‼︎」
ふむ、本当にヤーウェルトは好かれているみたいだな。ただ、それだけに残念ではある。
「言い方が悪かった。ヤーウェルトに踏みとどまる事を教えなければ、どこまでも突き進んでいくぞ。そこにいる魔獣三体を除いた、この場にいる誰も追いつけない領域までな」
「うっ……」
「それは……」
広場にいる全員が言葉に詰まった。どうやら思い当たる事があるらしい。
「まあ、今のは俺の意見だ。受け止める必要はない」
俺は伝えたい事を伝えて、言いたい事も言ったので広場を離れる。
ヤーウェルトとの立ち会いを思い出しながら家路についていると、進行方向に人影が見えた。
「タキタ、何の用だ?」
「ホッホッホ、お前さんを褒めようと思ってな」
「……ケンカを売っているなら買うぞ?」
「嘘偽りのない本心じゃよ。ヤート殿を傷つけず現状での弱点や欠点を実感させる。見事じゃった」
「……俺のやりたいようにやっただけだ」
「それで良い。それで良い。ホッホッホ」
「チッ、それで用は何⁉︎」
俺がイラつきながら聞くと、タキタの顔がスッと引き締まった。
「相談がある」
「……相談だと?」
「子供達の指導者にならんか? お前さんの手腕を活かさないのは惜しい」
「ふん、寝言は寝てから言え」
「わしの顔が寝言や冗談を言っているように見えるか?」
タキタの顔は、どこまでも真剣だった。それに声色や態度からも本気だと伝わってくる。
「どこからそんな話になったのかは知らんが、水守を除籍された俺を指導者にするのは村長や当代水添えが許すはずない」
「ヤート殿とお前さんのやりとりを見ていた村長と当代水添えから出た提案で、広場にいた面々からも賛成されている」
「バカな……」
「事実じゃ。あとはお前さんの意思だけ。引き受けてくれんかの?」
「…………」
「ふむ、いささか急すぎたようじゃな。それでは答えは保留という事にしておく故、しばらく考えてみよ。良い返事を期待しとるぞ」
俺の横を抜けて広場に軽やかな足取りで戻っていくタキタを見送る俺の内心は、いろいろな思いが巡りざわついていた。これは簡単に結論を出せそうにないと考えた俺の取れる行動は一つだけ。
「とりあえず、いったん寝て起きてから考えるとしよう」
ヤーウェルトと関わってから精神は乱されてばかりだと思ったが、この点に関しては考えてもしょうがないと開き直り俺は家へ向かい再び歩き出した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
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「それ……でも……、そうだと……しても……、いつも……みんなと……いれるとは……限らないから……、戦える……ように……なって……おかないと……後悔……す……」
黒のヤーウェルトが俺の方に倒れてきたため受け止める。感じた重さは、どう考えても同年代の子供達より軽い。
「……これが欠色の重さ」
身体は弱いが精神は強く存在感があると言っても良い。いつの間にか、あらゆる事態の中心にいるのはそのためだろう。……逆を言えば、目を離すと何を引き起こすかわからない危うさを感じるとも言えるな。まあ、俺がこいつに伝えたい事は全て言ったから、もう深く関わる事もない。俺は黒のヤーウェルトを肩に担ぎ、俺の様子をうかがっている待ち人のもとへと歩いていく。
俺が近づくとヤーウェルトの兄と姉の目が鋭くなる。当たり前と言えば当たり前だが嫌われたものだな。……ふむ、黒の顔役は冷静のようだ。
「返すぞ」
「……あ、ああ」
「じゃあな」
「待て‼︎」
黒の顔役が俺を呼び止めた事に、俺も周りの奴らも驚く。
「……何だ?」
「礼を言う」
「は?」
俺の口から間抜けな声が漏れた。なぜ、俺に礼を言う? ただ、立ち合っただけだぞ?
「礼を言われる筋合いはない」
「ヤートに俺達ができていなかった事をやってもらった礼だ」
「……その言い方だと、自分達の甘さは理解しているようだな」
「必要だとはわかっているんだが……」
「ならば、それ相応の事をして……、いや、俺が言う事じゃないか」
「率直に聞きたい。お前の目にヤートはどんな風に写った?」
黒の顔役がジッと俺を見てくる。……特段隠す事でもないか。
「こいつは、ヤーウェルトは目の前の問題をまっすぐ見れる奴だな」
「……詳しく頼む」
「問題を冷静に把握して、問題解決に必要な事をやれる奴だ。例え必要な事が自分の存在だとしてもたやすくすり潰せる」
「…………」
「何をどうしたらここまで冷静に物事を見れるのかわからないが、ためらいなく一線を超えれるのは自分よりも問題解決をはるかに優先しているからだろう」
俺の発言でヤーウェルトに視線が集中する。その中でもヤーウェルトの兄姉の顔は、心配からか痛々しくゆがんでいた。
「一つ言えるのはヤーウェルトを死なせたくないなら、もっとヤーウェルト自身が大切だと伝えてやれ。そうすれば少しは踏みとどまるようになるはずだ。……それと姫さま」
「な、何だい?」
「ヤーウェルトは自分から積極的につながりを強くしていかないと、フッと消えるぞ」
「ヤートはそんな事しねえ‼︎」
「そうよ‼︎ 勝手な事を言わないで‼︎」
ふむ、本当にヤーウェルトは好かれているみたいだな。ただ、それだけに残念ではある。
「言い方が悪かった。ヤーウェルトに踏みとどまる事を教えなければ、どこまでも突き進んでいくぞ。そこにいる魔獣三体を除いた、この場にいる誰も追いつけない領域までな」
「うっ……」
「それは……」
広場にいる全員が言葉に詰まった。どうやら思い当たる事があるらしい。
「まあ、今のは俺の意見だ。受け止める必要はない」
俺は伝えたい事を伝えて、言いたい事も言ったので広場を離れる。
ヤーウェルトとの立ち会いを思い出しながら家路についていると、進行方向に人影が見えた。
「タキタ、何の用だ?」
「ホッホッホ、お前さんを褒めようと思ってな」
「……ケンカを売っているなら買うぞ?」
「嘘偽りのない本心じゃよ。ヤート殿を傷つけず現状での弱点や欠点を実感させる。見事じゃった」
「……俺のやりたいようにやっただけだ」
「それで良い。それで良い。ホッホッホ」
「チッ、それで用は何⁉︎」
俺がイラつきながら聞くと、タキタの顔がスッと引き締まった。
「相談がある」
「……相談だと?」
「子供達の指導者にならんか? お前さんの手腕を活かさないのは惜しい」
「ふん、寝言は寝てから言え」
「わしの顔が寝言や冗談を言っているように見えるか?」
タキタの顔は、どこまでも真剣だった。それに声色や態度からも本気だと伝わってくる。
「どこからそんな話になったのかは知らんが、水守を除籍された俺を指導者にするのは村長や当代水添えが許すはずない」
「ヤート殿とお前さんのやりとりを見ていた村長と当代水添えから出た提案で、広場にいた面々からも賛成されている」
「バカな……」
「事実じゃ。あとはお前さんの意思だけ。引き受けてくれんかの?」
「…………」
「ふむ、いささか急すぎたようじゃな。それでは答えは保留という事にしておく故、しばらく考えてみよ。良い返事を期待しとるぞ」
俺の横を抜けて広場に軽やかな足取りで戻っていくタキタを見送る俺の内心は、いろいろな思いが巡りざわついていた。これは簡単に結論を出せそうにないと考えた俺の取れる行動は一つだけ。
「とりあえず、いったん寝て起きてから考えるとしよう」
ヤーウェルトと関わってから精神は乱されてばかりだと思ったが、この点に関しては考えてもしょうがないと開き直り俺は家へ向かい再び歩き出した。
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◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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