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青の村にて 身を削る工夫と大きな差

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 僕とヌイジュの立ち会いが再開された直後に、僕は吹き飛んだ。

「ケハッ」

 肺の中から強制的に空気がはじき出されて、数瞬呼吸ができなくなった。

「俺との立ち会いを逃げずにいるのは褒めてやる。しかし、それだけだ。圧倒的に格下のお前が、なぜ棒立ちになっている?」

 呼吸を整え同調で自分の身体を確認すると、僕の胸に掌大の打撲痕ができていた。それにヌイジュの立ち位置が、さっきまで僕の立って場所のすぐそばに変わっている事からも間違いない。

「一瞬で踏み込まれて胸に掌底を受けたのか」
「なぜ、俺から意識をそらした?」
「え?」

 断言できるけど、僕は絶対にヌイジュを見てたし界気化かいきかした魔力も放ってた。それなのに今ヌイジュに服をつかまれてる。いつ近づかれたのかも、いつ服をつかまれたのかもわからない。

「自分の身体の状態を把握するのは重要だ。しかし、格上を相手にする時、一部でも別の事に意識を割くのは愚行と知れ‼︎」

 僕の視界が激しく動いて、身体を振り回されているのを感じる。そしてグンっと勢いが増すと、視界にキラキラ光るものが見えた。

 バシャーン‼︎

 どうやら僕はヌイジュに大霊湖だいれいこへと投げ込まれたようだね。……って、他人事みたいに言って沈んでる場合じゃなかった。急いで水面に出て、ヌイジュの次の行動を確認しないとまずい‼︎

「ゲホッ、ゴホッ……」

 水面に顔を出して咳き込みながら、広場を見るとヌイジュがゆっくり歩いてきていた。僕はできるだけ急いで広場の岸へと上がり、水を含んで重くなった上半身の服を破って動きやすい状態になる。

「ほう……」

 ヌイジュから少し感心したような声が聞こえたけど、今はどうでも良い。僕は界気化かいきかした魔力を放ちつつ、もう一つの魔法を発動させた。

「目の前の相手から意識をそらすなと言ったはずだ」

 気がつくとヌイジュの右の掌底が僕の胸に当たる寸前だったから、僕は左足を退げて身体を回転させる事で直撃を避けると同時に、右手に持っている布切れを振った。

 バチンッ‼︎

 ヌイジュの左上腕あたりに当たった布切れは重たい音をたてる。

「…………」

 お、ヌイジュの眉間のシワが深くなった。さすがに水を吸った布が当たれば不快らしい。無意味な行動にならなくて良かったよ。

「……チッ」

 僕はヌイジュが布切れをつかもうとするのを感知したので、右手を引いて布切れを手元に戻しながら左手に持っている別の濡れた布切れを振ってヌイジュの右足を狙う。

「フン……」

 余裕を持って避けられた。まあ、小細工と言えるものだからしょうがない。でも、少しは時間が稼げたから良しとしよう。僕は服だった布切れを捨てて、稼いだわずかな時間を使い魔法を調整する。

「お前の狙いはわからないが無意味なものだと……、何?」

 当然のようにヌイジュが間合いを詰め突きを繰り出して来たので、僕は避けてヌイジュの足を蹴り離れた。

「お前……」

 ヌイジュは眉間のシワを深めたまま間合いを詰めて攻撃してくる。まず、顔への右突きを顔を傾けてギリギリ避けた。次に僕の傾けた顔を狙う左の振り打ちをギリギリしゃがんで避ける。その次にヌイジュはしゃがんだ僕へと右膝蹴りを繰り出してきたから、ギリギリ両掌で受け止めた後にヌイジュの膝蹴りの勢いを利用して離れた。
 
「この気配は強化魔法パワーダか? それにしては明らかに反応速度の上昇が著しい。しかも強化魔法パワーダの気配はするにも関わらず、魔光が身体の外に出ていない事を考えると……、お前は通常全身に効果を及ぼす強化魔法パワーダを、体内にのみ作用させているわけだな」

 あっという間に僕がやっている事がバレた。そう、僕はヌイジュの言う通り強化魔法パワーダを体内で発動している。より詳しく言うなら強化魔法パワーダを神経と筋肉と脳にのみ集中させていて、さらに界気化かいきかした魔力よる探知を併用する事でなんとかヌイジュの攻撃に対応していた。……ここまでやって、ようやくギリギリか。やっぱり僕とヌイジュの差は大人と子供以上だね。

「ひ弱な肉体と魔力を補うという意味では賞賛に値する。しかし、強化している部分としていない部分で極端な差がある場合、強化していない部分に負担が積み重なっていく事を覚えておけ」
「その点は覚悟の上だよ」
「自分をすり減らすのを許容するか」
「必要ならね」
「そこまでして、なぜ接近戦を格闘で戦おうとする? お前は本来後衛で、護衛を頼める仲間もいるはずだ」
「苦手な事を人並みにしようと工夫するのは、そんなに変?」
「……そういう事か。ならばお前に現実を教えてやる」

 ヌイジュの雰囲気が変わったので、界気化かいきかした魔力での探知や強化魔法パワーダを現時点での最高効率に引き上げ僕が構えると、ヌイジュは僕へとゆっくり歩いてくる。そしてヌイジュは僕の目の前で立ち止まる。

「え?」

 僕はヌイジュの攻撃を感知したけど動けない。なぜなら、軌道のバラバラな突きや蹴りが同時に八つあったからだ。

「お前は相手の行動を界気化かいきかを用いて事前に知る事ができる。しかし、その事前に知った情報が自分の対応できる質や量を超えていた場合、お前は動けなくなる。これがお前の格闘戦での弱点だ」

 ヌイジュの右拳を僕の顎へと動かしてくるけど、僕が動いた瞬間に感知してる他の攻撃がくるとわかるから対応できない。そしてヌイジュの拳が僕の顎に触れた。

 カッ。

 視界が一瞬ブレると身体から力が抜けていく。これは脳震盪かな……?

「お前は自分が多彩な手札を用いて総合力で戦うものだと理解しているはず。そんなお前が、自分をすり減らしつつ限られた手段で戦うのは愚かだ。安定のない強さに先はないぞ」
「それ……でも……、そうだと……しても……、いつも……みんなと……いれるとは……限らないから……、戦える……ように……なって……おかないと……後悔……す……」

 最後まで言いきる前に僕の意識はスーと落ちていった。



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◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。

 感想や評価もお待ちしています。
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