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青の村にて 子供達のやる気と実力者達の満足感

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 ラカムタさん・ハインネルフさん・イーリリスさん・タキタさんの激しすぎた手合わせから一夜が明け、僕は前日のラカムタさん達の手合わせでボコボコに荒れた広場に立っていた。

「ふー……」

 目を閉じてゆっくり息を吐きながら界気化かいきかした魔力を全身から放つと、すぐに僕の魔力圏に反応が現れた。数は三人で、それぞれ別方向から僕に接近してくる。

「ハッ‼︎」

 まず僕の右斜め後ろから迫ってくる蹴りを二歩左にズレる事で避けた。

「フンッ‼︎」

 次に僕の二歩目の着地した足を狙った低空の尾のなぎ払いを正面に跳んで避ける。

「セイッ‼︎」

 最後は、前に跳んだ僕を迎え撃つように僕の顔を目掛けて突きが来たから、右手の甲と左掌で突きを受け流し体勢を崩した相手の脇を通り抜けた。そして素早く距離を取ってから振り向き、三人が僕の前方に並ぶように位置を調整して構える。

「そこまで」

 止めの合図があったので目を開けると、手合わせの相手をしてくれた水守みずもりの三人がすでに構えを解いていたので、僕も構えを解き水守みずもり達に近づいていく。

「ありがとう。すごく良い鍛錬だったよ」
「こちらも良い刺激になった。礼を言う」
「まだまだ極めるには先が長いとわかったのはありがたい」
「日々の鍛錬を今まで以上にこなせそうだ」

 僕は三人の水守みずもり達と握手をしてからその場を離れ、兄さん達が集まっているところに移動する。

「ヤート、良い感じに動けてたな‼︎」
「私も同感で、ちょっと驚いてるわ」
「とても目を閉じているとは思えませんでした」
「ヤート君が界気化かいきかを使っているところを見ていたら、私ももう一度自分を振り返り鍛錬をやり直すと決めたよ」
「兄さん、姉さん、リンリー、ありがとう。イリュキンは、また突然だね」
「自分に何ができて何ができないのかを、きちんと理解しておくのは重要だろ?」
「うん、僕もそう思う」

 パンッ‼︎

 僕とイリュキンが話してたら、兄さんが顔を両手で叩いた音が辺りに響いた。

「……兄さん?」
「良しっ‼︎ やる気が出てきたぜ‼︎ 俺も水守みずもり達と手合わせをしてくる‼︎ ヤートは休んでろよ‼︎ じゃあな‼︎」

 兄さんはあっという間に走って離れていき、一番近くにいた水守みずもりの一人に手合わせを申し込み始めた。こういう時の兄さんの行動力はすごいなって僕が感心していると、姉さんやリンリーにイリュキンも走り出す。

「ガル、待ちなさいよ‼︎ 抜け駆けはずるいわ‼︎」
「私も負けません」
「この青の村で、青の私が出遅れるわけにはいかないな」

 姉さん達も兄さんに負けず劣らずの気合の入り方だ。表情に曇りはないし精神的に焦ってる感じもないから、今が充実してる証拠だね。そして今が充実しているなら兄さん達は、どんどん強くなるはず。僕も負けてられないなって考えてると、ハインネルフさん達の嬉しそうな声が聞こえてきた。

「やはり、良い影響は周りへの伝播が速いな。村中が活気付いている」
「イリュキン以外の青の子供達も水守みずもり達と深く交流するようになりました。実に良い傾向ですね」
「ラカムタ殿、黒の方々に感謝を申し上げる」
「ヤート達がきっかけになったとしても、そこから行動に移せるのは元々青のもの達にやる気があったためだろう。その点を褒めてやってくれ」
「そういってもらえるとありがたい」

 ラカムタさん達は和やかに話してるわけだけど、僕は振り返ってラカムタさん達を見てから、とりあえず重要な事を聞いた。

「ラカムタさん達、身体の調子は大丈夫?」

 僕が何でこれを聞いたかと言えば、今のラカムタさん達は割と重傷を負っているからで、原因はもちろん昨日の手合わせだ。

「ハッハッハ、ヤート、俺は大丈夫だぞ。むしろ調子が良いくらいだ」
「ラカムタ殿もそうなのですね。実は私も調子が、とても良いんです」
「なんのなんの、わしも負けてはおらん。今は実に清々しい気分だ」
「ホッホッホ、しかりしかり。身体の内から力が溢れているようですな」
「…………」

 ラカムタさん達の声は活力に満ちてるし精神的にも高揚してるのは間違いないんだけど、手合わせと言う名の乱闘で負った治りきらないケガが身体中にあって抜け切らない疲労と筋肉痛で身体をプルプル震えさせてたら、身体は大丈夫っていう言葉にまったく説得力がない。

「疲労はともかく、ケガと筋肉痛はすぐに治せるよ?」
「感覚的に食って寝れば一日二日で治る程度の奴だから気にするな」
「本当?」
「ヤート殿、心配は無用です。なんというか若い頃に味わった爽快感を感じているんです」
「達成感とも言い換える事ができるものだな。そして実に満足している」
「……痛いのに?」

 僕が心底不思議に思って聞くと、タキタさんは苦笑しながら僕の疑問に答えてくれた。

「ヤート殿、歳を重ね立場のある身になると非常事態を除き指示や教える側となり、激しく動く事はなくなります」
「それはそうだね」
「また我らのように鍛錬を重ねて高い実力をつけたもの同士は、一度戦意に火がつけば重傷者やあるいは死者などの最悪の事態に至るかもしれないので、やはり本気で戦う事はありません」
「それじゃあ……、昨日のラカムタさん達の手合わせが、あそこまで本気になってたのは僕がいろいろ場を整えたせい……?」

 確かに僕は、ラカムタさんに思いっきり戦ってと伝えたし魔法で闘技場みたいなのを造った。その事でラカムタさん達の死傷する確率を上げてしまった? 僕がラカムタさん達を殺しかけた?

「ヤート‼︎」

 気づいた事実に愕然としてたら、ラカムタさんに頭をガシッてつかまれグリングリンと撫でられた。

「お前が気にする事じゃない。単純に良い歳をして羽目を外した俺達の責任だ」
「そうですな。ヤート殿の魔法に甘えてしまった我らの責任です。むしろこちらからヤート殿に礼を言わなければなりません」
「……なんで僕に?」
「黒のラカムタ殿との本気の手合わせのみならず、青同士の本気の手合わせをする機会をいただけたのです。感謝しかありませんよ」
「さよう。まさかこの歳になって本気の手合わせをした満足感を得られるとは思っていなかった。わしからも心より礼を言わせてほしい。ヤート殿、感謝する」
「な? ヤートは気にするな。というかだ、黒の村に帰ったらまた頼む。村長むらおさやマルディ達と戦いたい」
「……考えとく」
「おう。前向きに検討してくれ」

 なんとなくラカムタさん達の考えに流された気もするけど、羨ましそうにラカムタさんへと話しかけるハインネルフさん達を見てたら、竜人族りゅうじんぞくにとって命を賭ける事は自分を輝かす行為で、けっして命を粗末にする軽率なものじゃないんだと納得できた。

 …………それなら僕の役割は、みんなが安心して力を発揮できる場を整えたり、みんなを五体無事に日常に戻す事だね。植物達の力を借りないと役割を実行できないのが情けないところだけど、そこはしょうがないって思おう。

 僕はラカムタさんからグリングリンと撫でられ続けて首に痛みを感じながら決心した。


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◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。

 感想や評価もお待ちしています。
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