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青の村にて 説明とある意味当然の流れ
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イーリリスさんはラカムタさんに掌を押されると腕を引き、その後、腕を戻す時にラカムタさんの掌を反り返る形になるように指で上から押さえつける。その結果、ラカムタさんの前に押す力がイーリリスさんの腕と指の動きで上から下へと流れる縦方向の回転に変わり、ラカムタさん自身に戻ってラカムタさんの体勢をガクンと下に崩した。
と、まあ、実際にラカムタさんとイーリリスさんの間で起こっている力のやり取りを説明してみたけど、僕の目にはラカムタさんとイーリリスさんは動いてるようには見えてない。要はイーリリスさんは僕が界気化した魔力を通じてしかわからないような細かな動きで、自在に力の流れを操作してるんだね。そして今この瞬間にようやく僕は界気化の事を一段深く理解できた気がする。
「やっと、イーリリスさんが兄さん達にやったように、いつの間にか地面に倒してる理由がわかったよ」
「どのような結論に至ったのか、ぜひ聞かせてください」
「界気化を使えるイーリリスさんは、至近距離にいる対象の次の行動がわかるからだよね?」
「その通りです」
「……そんな事はあり得ないと否定したいところだが、実際に体験した俺は認めるしかないか。ヤート、説明してくれ」
ラカムタさんはイーリリスさんから二歩ほど離れて僕の方を向き話を聞く姿勢になった。
「ラカムタさん、界気化した魔力を対象に放てば大量の情報、例えば対象の構成要素・過去・今の状態・思考なんかを受け取れるっていうのは前に聞いたよね?」
「ああ」
「だからこそ僕は界気化を、その受け取る情報量の多さから、ある程度の時間をかけるべきものだと思ってた」
「そうだな。俺も同意見だ」
「でも、現在進行形の情報、例えば対象がどう動くか・どう考えるかなんかに限って瞬時に情報を受け取る事ができれば、先回りするように対応したら完璧に封殺する事も不可能じゃない」
「……待てヤート。それなら同調が使えるお前も同じ事ができないとおかしいはずだ」
「ラカムタさん、僕の同調だと一瞬で受け取れる情報はそこまで多くないし、僕にはイーリリスさんみたいな技量がないから対象を封殺するのは無理」
「それは……そうだな」
ラカムタさんもイーリリスさんの達人っぷりをわかっているため納得してくれた。そしてイーリリスさんは、僕に優しげな目を向けてくる。なんとなく前世ではまともに学校には行けてないけど、質問にうまく答えられた生徒を見る先生は、こんな感じなのかなって思えた。
「ヤート殿はヤート殿のやり方で相手を封殺すれば良いのです」
「僕のやり方か……」
「よし、ヤート。相手になるから俺で試せ」
「え? まだ何も思いついてないんだけど」
「習うより慣れろだ。始めるから構えろ」
そう言ってラカムタさんは、やや右足を前に出した状態で少し膝を曲げ腰を落とした。……イーリリスさんも僕達から離れて静観してるから、これは間違いなく断れない流れの奴だね。まあ、ラカムタさんの「習うより慣れろ」っていうのも的を得てるし良い機会だと考えよう。僕は右手と右足を前に出し、左手を胸のあたりに引きつけ少し腰を落とす。
ちなみに僕の右掌はラカムタさんの方に向け界気化した魔力を放ってるわけだけど、今後の事を考えたら掌以外でも界気化した魔力を出せるようにならないとダメだね。まあ、今は無い物ねだりをしても仕方ないから、できる範囲の事を試すだけだ。そして僕が現状できる事を考えていると、界気化した魔力を通じてラカムタさんの動こうとしている意識がわかり、次の瞬間ラカムタさんは強く僕の方へ踏み込もうとした。
「「ちょっと待ったーー‼︎」」
「…………お前ら何のつもりだ?」
まさに火ぶたを切ろうとしていたラカムタさんは、兄さんと姉さんの大声に機先を制され動くに動けなくなり構えたまま二人を見る。……うん? 兄さん達とラカムタさんの間で火花が散ってるように感じるのは気のせいかな?
「どういうつもりなのか聞きたいのは俺達だぜ。ラカムタのおっさん」
「そうよ。ヤートと遊んだりやり合うのは、私達が先。絶対に」
二人とも妙に力を込めてるね。僕は兄さん達と手合わせしてみたいっていうのもあるし、圧倒的に格上のラカムタさんよりも兄さん達の方が現状確認の意味でも有意義だなと判断したから、どうするんだっていう感じで僕を見てくるラカムタさんに兄さん達と手合わせするという意思を込めてうなずく。ラカムタさんは、すぐに察してイーリリスさんのところまで下がってくれた。
「フハハハハ‼︎ とうとうこの時が来たな‼︎ ヤート‼︎」
「存分に戦いましょう‼︎」
……兄さん達、ものすごくハイだな。あれ? そういえばリンリーとイリュキンはどうしたのかと思い、兄さん達が鍛錬していたところを見たら、ギラギラした目をしながら悔しそうに口を食いしばっているリンリーとイリュキンがいた。あー、なるほど、たぶん鍛錬中に、何かしらの勝負になって兄さんと姉さんが勝ったんだね。
事情を察した僕は、兄さん達に視線を戻し掌を向けて構えた。うわっ……、兄さん達が嬉しそうに笑ってる。微妙に選択を間違った気がしないでもないけど、僕も内心で少しワクワクしてるからお互い様だね。
「行くぞ‼︎ ヤート‼︎」
「心行くまで楽しむわ‼︎
我慢できないとばかりに兄さんと姉さんが走り出し僕達三兄弟の手合わせが始まった。今回は前と違って最後まで手合わせできたら良いな。そういう意味では前の続きと言えなくもないか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
と、まあ、実際にラカムタさんとイーリリスさんの間で起こっている力のやり取りを説明してみたけど、僕の目にはラカムタさんとイーリリスさんは動いてるようには見えてない。要はイーリリスさんは僕が界気化した魔力を通じてしかわからないような細かな動きで、自在に力の流れを操作してるんだね。そして今この瞬間にようやく僕は界気化の事を一段深く理解できた気がする。
「やっと、イーリリスさんが兄さん達にやったように、いつの間にか地面に倒してる理由がわかったよ」
「どのような結論に至ったのか、ぜひ聞かせてください」
「界気化を使えるイーリリスさんは、至近距離にいる対象の次の行動がわかるからだよね?」
「その通りです」
「……そんな事はあり得ないと否定したいところだが、実際に体験した俺は認めるしかないか。ヤート、説明してくれ」
ラカムタさんはイーリリスさんから二歩ほど離れて僕の方を向き話を聞く姿勢になった。
「ラカムタさん、界気化した魔力を対象に放てば大量の情報、例えば対象の構成要素・過去・今の状態・思考なんかを受け取れるっていうのは前に聞いたよね?」
「ああ」
「だからこそ僕は界気化を、その受け取る情報量の多さから、ある程度の時間をかけるべきものだと思ってた」
「そうだな。俺も同意見だ」
「でも、現在進行形の情報、例えば対象がどう動くか・どう考えるかなんかに限って瞬時に情報を受け取る事ができれば、先回りするように対応したら完璧に封殺する事も不可能じゃない」
「……待てヤート。それなら同調が使えるお前も同じ事ができないとおかしいはずだ」
「ラカムタさん、僕の同調だと一瞬で受け取れる情報はそこまで多くないし、僕にはイーリリスさんみたいな技量がないから対象を封殺するのは無理」
「それは……そうだな」
ラカムタさんもイーリリスさんの達人っぷりをわかっているため納得してくれた。そしてイーリリスさんは、僕に優しげな目を向けてくる。なんとなく前世ではまともに学校には行けてないけど、質問にうまく答えられた生徒を見る先生は、こんな感じなのかなって思えた。
「ヤート殿はヤート殿のやり方で相手を封殺すれば良いのです」
「僕のやり方か……」
「よし、ヤート。相手になるから俺で試せ」
「え? まだ何も思いついてないんだけど」
「習うより慣れろだ。始めるから構えろ」
そう言ってラカムタさんは、やや右足を前に出した状態で少し膝を曲げ腰を落とした。……イーリリスさんも僕達から離れて静観してるから、これは間違いなく断れない流れの奴だね。まあ、ラカムタさんの「習うより慣れろ」っていうのも的を得てるし良い機会だと考えよう。僕は右手と右足を前に出し、左手を胸のあたりに引きつけ少し腰を落とす。
ちなみに僕の右掌はラカムタさんの方に向け界気化した魔力を放ってるわけだけど、今後の事を考えたら掌以外でも界気化した魔力を出せるようにならないとダメだね。まあ、今は無い物ねだりをしても仕方ないから、できる範囲の事を試すだけだ。そして僕が現状できる事を考えていると、界気化した魔力を通じてラカムタさんの動こうとしている意識がわかり、次の瞬間ラカムタさんは強く僕の方へ踏み込もうとした。
「「ちょっと待ったーー‼︎」」
「…………お前ら何のつもりだ?」
まさに火ぶたを切ろうとしていたラカムタさんは、兄さんと姉さんの大声に機先を制され動くに動けなくなり構えたまま二人を見る。……うん? 兄さん達とラカムタさんの間で火花が散ってるように感じるのは気のせいかな?
「どういうつもりなのか聞きたいのは俺達だぜ。ラカムタのおっさん」
「そうよ。ヤートと遊んだりやり合うのは、私達が先。絶対に」
二人とも妙に力を込めてるね。僕は兄さん達と手合わせしてみたいっていうのもあるし、圧倒的に格上のラカムタさんよりも兄さん達の方が現状確認の意味でも有意義だなと判断したから、どうするんだっていう感じで僕を見てくるラカムタさんに兄さん達と手合わせするという意思を込めてうなずく。ラカムタさんは、すぐに察してイーリリスさんのところまで下がってくれた。
「フハハハハ‼︎ とうとうこの時が来たな‼︎ ヤート‼︎」
「存分に戦いましょう‼︎」
……兄さん達、ものすごくハイだな。あれ? そういえばリンリーとイリュキンはどうしたのかと思い、兄さん達が鍛錬していたところを見たら、ギラギラした目をしながら悔しそうに口を食いしばっているリンリーとイリュキンがいた。あー、なるほど、たぶん鍛錬中に、何かしらの勝負になって兄さんと姉さんが勝ったんだね。
事情を察した僕は、兄さん達に視線を戻し掌を向けて構えた。うわっ……、兄さん達が嬉しそうに笑ってる。微妙に選択を間違った気がしないでもないけど、僕も内心で少しワクワクしてるからお互い様だね。
「行くぞ‼︎ ヤート‼︎」
「心行くまで楽しむわ‼︎
我慢できないとばかりに兄さんと姉さんが走り出し僕達三兄弟の手合わせが始まった。今回は前と違って最後まで手合わせできたら良いな。そういう意味では前の続きと言えなくもないか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
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