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幕間にて お姫様と影
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お姫様のミラルカ視点のお話です。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その夜は目がさえて眠れなかった。理由は明確で目を閉じると浮かぶ昼間のあの光景について考えてしまうためだ。私は寝台から起きて窓辺の椅子に座る。
昔から考え事ができると夜に月を見ながら考えるようにしていた。月の静かな光は私を落ち着かせ、考え過ぎる事も考えに蓋もせずありのままでいられる気がするからだ。
「眠れないのか?」
不意に部屋の隅の方から私に声がかけられた。この声はヤート様が王城に来られたあの日から王城の夜間の警備に加わった人の声。
「少し考え事をしていただけです。良ければこちらに来て話し相手になっていただけませんか? 影結さん」
「……良いだろう」
数瞬、間が空いてから影結さんは返事してくれた後、私の部屋の隅の影からにじみ出てくるように姿を現し、私から少し離れたまできて立ち止まる。
私は目に焼きついて離れない光景について影結さんに聞いてみた。
「影結さんは昼間のを目にされましたか?」
「ああ、見た」
影結さんは夜間の警備担当のため起きているのかもわからなかったけれど、見ていてくれたので影結さんの考えを聞いてみる。
「あの光の柱を見てどう思いました?」
「……おそらく、姫の考えている通りだろう。私も、あの光の柱を見て、あの白きもの……ヤートが頭に浮かんだ」
やはり影結さんも私と同じ事を思っていたみたい。私はずっと頭から離れない不安を影結さんにこぼす。
「ヤート様は……ご無事でしょうか?」
「私にはあれほどの魔力を放たねばならない事態に遭遇した事も、あれだけの魔力を放った事もないため詳しくはわからないが、後に危険な状態になるだろうとしか言えない」
「……そうですか」
私は影結さんの言葉を聞いて腕を触った。袖越しに傷痕の感触を確かめて不安を少しでも鎮める。
「……その触っているところが、姫が助けられた時にできた傷のあるところか?」
「はい、ヤート様が私に吸命花を使った時にできた傷です。周りからは傷痕を治癒魔法で消してはどうかと言われるのですが、ヤート様に昏睡状態から助けてもらえた証のようなものなので、なんとなく消したくないんです」
「そうか……」
影結さんは私の話を聞くと首に手を当てて軽く撫でる。……そうでした。影結さんも私と同じくヤート様に助けられたのでしたね。私がサムゼンから聞いたヤート様と影結さんとの関わりについて思い出していたら、影結さんは数回うなずいた後にポツリとつぶやく。
「まあ、大丈夫だろう」
「影結さん?」
「ああ、突然すまない。ヤートについて考えて出た結論を言っただけだ」
「先程は危険だと……」
「確かに常識的に考えればその通りなんだが、ヤートに常識は通用しない」
影結さんは、ものすごく実感を込めてヤート様を非常識だと断言した。……私がどう反応すべきか迷っていると影結さんは話を続ける。
「そもそも、あのヤートが致命傷を受けたり窮地に陥るところを想像できない。おそらく魔力の使い過ぎなどで一時的に激しく衰弱はするだろうが、数日もすれば何も無かったかのように、いつものヤートに戻っているはずだ」
「…………」
影結さんの言い方があまりに極端だったため、さすがに否定しようとしたものの、昼間に騎士のサムゼンも「あの光の柱はヤート殿のものです。ヤート殿ならどんな危機的状況も乗り越えるので大丈夫でしょう」と言っていたのを思い出して何も言えなくなる。
なんというか二人のヤート様への信頼を見せられて、心配しかできない自分が小さく思えて仕方がない。
「急にうつむいて、どうかしたのか?」
「なんでもありません」
影結さんに指摘されて私は顔を上げ暗い考えを打ち切り、誤魔化すように別の答えを言った。
「またヤート様に会いたいなと思ってたんです。影結さんは、どうですか?」
「……会うとすれば借りを返す時だ」
「ヤート様は気にしないと思います」
「そうだとしても、借りを返さないで良いという事ではない」
ヤート様への借り……、それは私にも、いえ、私だけじゃなくこの国にもあって、この事はお父様も悩んでいます。
「どうすればヤート様へ借りや恩が返せるのでしょうか……?」
「それこそわからない。ヤートは私達に何も望まないか、望んだとしても私達が受けた借りに比べたら、はるかに小さい事だろう」
「そうですね……。ヤート様はそれで良いと言うと思います。でも、それでは私達の気が済みません」
「……きっと、その時が来るまで、ひたすら己を高めていくしかないのだろう」
「ヤート様が私達の助けを必要とする時までですね」
「そうだ。いつになるかわからないがな……」
影結さんの口ぶりから果てのない鍛錬を続けているのを感じた。私も日々の王族としての勉学に加えて、私個人としても力になれるように薬学も修めようと精進している。
そしてこれは、あの日ヤート様に助けられた全員に言える事でもある。「いつかヤート様の力になるために」これがみんなの心に秘めている思い。
改めてやるべき事を、自分で決めた事を思い出せたから、今夜影結さんと話せて良かった。明日からまた頑張ろう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
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その夜は目がさえて眠れなかった。理由は明確で目を閉じると浮かぶ昼間のあの光景について考えてしまうためだ。私は寝台から起きて窓辺の椅子に座る。
昔から考え事ができると夜に月を見ながら考えるようにしていた。月の静かな光は私を落ち着かせ、考え過ぎる事も考えに蓋もせずありのままでいられる気がするからだ。
「眠れないのか?」
不意に部屋の隅の方から私に声がかけられた。この声はヤート様が王城に来られたあの日から王城の夜間の警備に加わった人の声。
「少し考え事をしていただけです。良ければこちらに来て話し相手になっていただけませんか? 影結さん」
「……良いだろう」
数瞬、間が空いてから影結さんは返事してくれた後、私の部屋の隅の影からにじみ出てくるように姿を現し、私から少し離れたまできて立ち止まる。
私は目に焼きついて離れない光景について影結さんに聞いてみた。
「影結さんは昼間のを目にされましたか?」
「ああ、見た」
影結さんは夜間の警備担当のため起きているのかもわからなかったけれど、見ていてくれたので影結さんの考えを聞いてみる。
「あの光の柱を見てどう思いました?」
「……おそらく、姫の考えている通りだろう。私も、あの光の柱を見て、あの白きもの……ヤートが頭に浮かんだ」
やはり影結さんも私と同じ事を思っていたみたい。私はずっと頭から離れない不安を影結さんにこぼす。
「ヤート様は……ご無事でしょうか?」
「私にはあれほどの魔力を放たねばならない事態に遭遇した事も、あれだけの魔力を放った事もないため詳しくはわからないが、後に危険な状態になるだろうとしか言えない」
「……そうですか」
私は影結さんの言葉を聞いて腕を触った。袖越しに傷痕の感触を確かめて不安を少しでも鎮める。
「……その触っているところが、姫が助けられた時にできた傷のあるところか?」
「はい、ヤート様が私に吸命花を使った時にできた傷です。周りからは傷痕を治癒魔法で消してはどうかと言われるのですが、ヤート様に昏睡状態から助けてもらえた証のようなものなので、なんとなく消したくないんです」
「そうか……」
影結さんは私の話を聞くと首に手を当てて軽く撫でる。……そうでした。影結さんも私と同じくヤート様に助けられたのでしたね。私がサムゼンから聞いたヤート様と影結さんとの関わりについて思い出していたら、影結さんは数回うなずいた後にポツリとつぶやく。
「まあ、大丈夫だろう」
「影結さん?」
「ああ、突然すまない。ヤートについて考えて出た結論を言っただけだ」
「先程は危険だと……」
「確かに常識的に考えればその通りなんだが、ヤートに常識は通用しない」
影結さんは、ものすごく実感を込めてヤート様を非常識だと断言した。……私がどう反応すべきか迷っていると影結さんは話を続ける。
「そもそも、あのヤートが致命傷を受けたり窮地に陥るところを想像できない。おそらく魔力の使い過ぎなどで一時的に激しく衰弱はするだろうが、数日もすれば何も無かったかのように、いつものヤートに戻っているはずだ」
「…………」
影結さんの言い方があまりに極端だったため、さすがに否定しようとしたものの、昼間に騎士のサムゼンも「あの光の柱はヤート殿のものです。ヤート殿ならどんな危機的状況も乗り越えるので大丈夫でしょう」と言っていたのを思い出して何も言えなくなる。
なんというか二人のヤート様への信頼を見せられて、心配しかできない自分が小さく思えて仕方がない。
「急にうつむいて、どうかしたのか?」
「なんでもありません」
影結さんに指摘されて私は顔を上げ暗い考えを打ち切り、誤魔化すように別の答えを言った。
「またヤート様に会いたいなと思ってたんです。影結さんは、どうですか?」
「……会うとすれば借りを返す時だ」
「ヤート様は気にしないと思います」
「そうだとしても、借りを返さないで良いという事ではない」
ヤート様への借り……、それは私にも、いえ、私だけじゃなくこの国にもあって、この事はお父様も悩んでいます。
「どうすればヤート様へ借りや恩が返せるのでしょうか……?」
「それこそわからない。ヤートは私達に何も望まないか、望んだとしても私達が受けた借りに比べたら、はるかに小さい事だろう」
「そうですね……。ヤート様はそれで良いと言うと思います。でも、それでは私達の気が済みません」
「……きっと、その時が来るまで、ひたすら己を高めていくしかないのだろう」
「ヤート様が私達の助けを必要とする時までですね」
「そうだ。いつになるかわからないがな……」
影結さんの口ぶりから果てのない鍛錬を続けているのを感じた。私も日々の王族としての勉学に加えて、私個人としても力になれるように薬学も修めようと精進している。
そしてこれは、あの日ヤート様に助けられた全員に言える事でもある。「いつかヤート様の力になるために」これがみんなの心に秘めている思い。
改めてやるべき事を、自分で決めた事を思い出せたから、今夜影結さんと話せて良かった。明日からまた頑張ろう。
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◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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