上 下
165 / 318

決戦後にて イーリリスさんと大髭様

しおりを挟む
 少しして僕達がいるところの湖面が落ち着いた。緑葉船リーフボートを追い越していった大波を見ると、まだまだ勢いが落ちておらず、むしろ加速してる気がするから大霊湖だいれいこの湖岸まで届くと思う。

 青の村は大丈夫なのか心配してると、イーリリスさんがガクッと体勢を崩して緑葉船リーフボートに手をついたので、すぐにイーリリスさんに触り同調した。

 ……呼吸が荒いし疲労が激しいから大波を切るのに全精力を振り絞ったんだね。僕は腰の小袋から薬草団子を取り出し水生魔法ワータで生み出した水球に溶かして薬水を作り出す。

「イーリリスさん、疲労回復の効果があるから、これを少しずつゆっくり飲んで」
「あ……とう……ます」

 イーリリスさんがお礼を言っているみたいだけど、かすれてところどころが声になっていない。それに動くだけでも辛いらしく身体も震えてるから、僕の方からイーリリスさんの口元に薬水の水球を持っていく。

 ……少しずつ身体に染み渡らせるように飲んでくれてる。この感じなら最悪の事態にはならずに済みそうだ。薬水を飲み干して少しするとイーリリスさんは、身体の震えが止まり呼吸も整って、かなり体調が良くなってきた。

「ヤート殿、もう大丈夫です」
「無理しないで良いよ」
「いえ、それよりも……」

 イーリリスさんが遠くを見るから、そっちに目を向けると大髭おおひげ様が僕達の方に近づいてきていた。ここは大髭おおひげ様にきちんと言っておこう。



 僕達の近くに来た大髭おおひげ様は、僕達の気配が刺々しくなってる事に気づき、一瞬キョトンとした感じになる。
 
「バフ?」
「どうかしたのか、じゃないよ。大髭おおひげ様が起こした大波で僕達は転覆しかけたし、転覆を回避するためにイーリリスさんが力を振り絞って、かなり危険な状態になった」
「バフ……」
大髭おおひげ様以外の生物は大髭おおひげ様ほど大きくも頑丈でもないんだから気をつけないとダメ。大髭おおひげ様と会ったばかりの僕はともかく、ずっと大霊湖だいれいこに寄り添って暮らしてて大髭おおひげ様とも面識のある青のイーリリスさんを危険に晒すのは軽率すぎるよ」
「……バフ」
「はい。私は大丈夫ですので気になさらないでください。何より大髭おおひげ様の雄大さを近くで感じれたのは、貴重な良い経験になりました。青の村のものに話せる事が増えて嬉しいです」

 大髭おおひげ様は僕が言った事を受け止めてくれてイーリリスさんに謝り、イーリリスさんも大髭おおひげ様の謝罪を受け入れた。こういう大髭おおひげ様の自分の非を素直に認めれるところも、イーリリスさんの前向きな感じも大人だなって思えるね。その後も僕・イーリリスさん・大髭おおひげ様で話してたんだけど、僕はふと気になった事を大髭おおひげ様に聞いた。
 
「そういえば大髭おおひげ様は僕達に何か用があったの?」
「バフ、バフ」
「え……」

 大髭おおひげ様の要件は、かなり意外なもので僕はどう判断して良いのかわからないから、イーリリスさんを見るとイーリリスさんは軽くうなずいてきた。

「ヤート殿、ここは大髭おおひげ様のお誘いを受けましょう」
「本当に良いのかな?」
「バフ」
大髭おおひげ様も、おっしゃっていますし遠慮しなくて大丈夫ですよ」
「……わかった。大髭おおひげ様にお願いするね」
「バフ!!」



 少しして緑葉船リーフボートも運び上げて準備が整う。

「イーリリスさん、もう動いても大丈夫?」
「私は、いつでも構いませんよ」
「わかった。……えっと、それじゃあ大髭おおひげ様、青の村の近くまでお願い」
「バフ」

 僕の言葉に大髭おおひげ様が答えると風景が後ろに流れ出す。感じとしては源泉の島から緑葉船リーフボートで進んでる時と同じだけど、一つ決定的に違うところがある。それは僕達がいるところから水面までの高さだ。今僕達は水面から、かなり高い位置に座っている。別に空中に座っているわけじゃなくて、ある生物の上に座っている。

「バフ?」
「うん、見晴らしも良いし、大髭おおひげ様の頭の上は少し柔らかい地面みたいな感じで適度に沈むから、しっかり座れて乗りごごちも良いよ」
「バフ!!」

 そう、僕とイーリリスさんは大髭おおひげ様の頭の上に座っている。大髭おおひげ様の僕達を青の村まで送るから頭の上に乗るようにという提案を聞いた時は、青が神聖視してる大髭おおひげ様に乗って良いのかなって困惑したけど、イーリリスさんからも賛成されて大髭おおひげ様の頭に上った。
 
 本当にこの世界に生まれて、前世ではできなかった経験ができてる。たぶん、前世の世界で遊覧船や豪華客船に乗って船首とか舳先へさきに行ったら、この水面から離れたところで風を受ける感じになるんだろうね。……そうだ。緑葉船リーフボートを小型化したらマリンスポーツが再現できるかもしれない。青の村に戻ったら試してみよう。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。

 感想や評価もお待ちしています。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

AI恋愛大戦争

星永のあ
恋愛
みなさんは、AIをご存知だろうか。 このAIの発達により、 今ある仕事の49%が10〜20年後には無くなると言われている。 人間の生活はどんどんAIに奪われていく  のかもしれない。 それは仕事だけではなく、恋愛も。 AIがモテる時代がすぐ目の前まで来ている。

~マーメイド~

はらぺこおねこ。
恋愛
 20XX年、性犯罪が多くなり泣き寝入りする女性が多くなった日本。  政府は、性犯罪抑制のため人間そっくりの生物を開発をする。  感覚は、人と同じで感情や表情もあるし知能まであった。  人間との違いは大差なかったのだ。  人々は、その生物をマーメイドと呼んだ。  最初は抵抗はあったものの、次第にそれに慣れ。  性欲を持て余した男たちは、通販で買物をする感覚でマーメイドを購入する日々。  人の遺伝子操作は、倫理上禁止されているがマーメイドは人でないため禁止されなかった。  その為、科学者はマーメイドの遺伝子操作を躊躇するなく開発を進め。  遂に、簡単に理想のマーメイドを開発することが可能になった。  注文方法は簡単。  容姿や体型、年齢から性格や声帯まで、全てカスタマイズ可能。  価格は200円からのお手軽価格。  雄雌ともに発注可能。  また、飽きたらマーメイドの日に拘束して捨てることも可能で捨てられたマーメイドの処理はどうされるかは、公開されてはいない。  ホームレスに拾われ飼われるマーメイドや、なんとか脱出して野生になるマーメイドもいる。  マーメイドの開発は日本だけでなく海外にも広まり、世界中の人への性犯罪の件数は、年間100件を下回っていた。  マーメイドを反対する女性たちもいたが、この件数を聞いた途端反対する人は少なくなった。  世界は、マーメイドによって救われていた。  そして、今……  ひとりの童貞の男が、マーメイドを注文しようとしている。  男は、事業に成功した30歳。  金は有り余るほどある。  金を稼ぐことに一生懸命になりすぎて、女性との出会いはなかった。  男は、童貞を捨てるべく。  マーメイドをマーマンで、注文する。  価格は、500円。  男は、マーメイドを購入することにより世界が変わるのだ。  マーメイドは、善か?悪か?  世界は、その問題を抱え今日も生きていく。 ※以前書いていたマーメイドを全年齢の方を対象に書き直します。

晴れ間のペトリコール

蒼井 狐
現代文学
左手を失い、憂鬱とした気持ちを抱いていた。 けれど、ふと病院のベッドから見たラーメン屋さんへ行きたいという欲求により心を救われる……。

「ずっと貴方だけを推し続けます」その言葉を信じても良いですか?

田々野キツネ
恋愛
──推し変なんてしない、ずっと君だけを推し続けていた 日々を無為にすごす、ロースペ社会人、田中貞雄。 ある日、奇跡の出会いを果たす。 バーチャルネットアイドル、天姫モノアとの出会いが、枯れた人生に彩を与えていく。 * この作品に登場する、存在/非存在は、現実/架空の人物、人格、地名、団体、その他と一切関係がありません。 * この作品に登場する、主人公、またはその他の人物の言動/思考は、作者の見解ではありません。 * この作品は、作者のにわか知識、及び妄想で書いています。  現実との齟齬の内、重大な事に関しては、指摘頂ければ、別途注釈を設ける等の対処をさせて頂きます。 アルファポリス初投稿です。 感想、お気に入り等頂けると、大変励みになります。 メンタルがガラスですので、お手柔らかにお願いいたします。 2024/06/22 カクヨム様で投稿している別名義で投稿する事に致しました。 こちらのアカウントは、今後削除予定です。 カクヨム様の作品ページ https://kakuyomu.jp/works/16818093079719861798

AIと彼女と俺の不思議な三角関係 どうしたらいいの 究極の選択 AI彼女と禁断の恋

fit2300get
恋愛
あらすじ ある日、大学生の健太郎は、叔父である福澤より、AIを搭載したアンドロイドを紹介される。福澤は、健太郎にAIアンドロイドを紹介した。 健太郎には、今付き合ってる彼女、美咲がいた。断ろうとする健太郎に、福澤は、この子に感情を教えてくれと頼まれる。 果たして、AIは恋を、できるのか?

処理中です...