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青の村にて じりじり進む治療と休憩時の一幕
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みんなで協力して大髭様の胃の中から岩石と鉱物を運び出してるんだけど、いつになったら終わるのか少し不安になってきた。二刻(前世でいう二時間くらい)経って、青の村の広場に岩石と鉱物が山になるくらいの量が運び出されてるのに、胃壁の見える範囲は十分の一くらいしか広がらない。やっぱり強化魔法や僕の樹根触腕が使えなくて作業効率が上がらないのは痛いな。
まあ、治療行為の一環である運び出しで逆に大髭様に負担をかけて体調を悪化させるのは本末転倒だからしょうがない。僕は岩石と鉱物を運び出してるみんなの邪魔にならない場所で傷ついた胃壁の治療を始める。
「水生魔法。緑盛魔法・強薬水液」
腰の小袋から取り出した薬草団子に水生魔法の水を合わせて薬液を作り、一部分ずつ傷ついた胃壁を刺激しないよう慎重に塗布していく事で大髭様への負担も減す。はあ、岩石と鉱物が無かったら一気に治療できるのにな。でも、今の岩石と鉱物を取り除かずに治したら、傷がふさがる時に欠片を胃壁の中に巻き込む可能性があるから傷ついた胃壁が露出した部分を少しずつ丁寧にやるしかない。
僕もみんなももどかしさを抱えながら、まだまだ見えない胃の奥までの距離を考えないようにして黙々と作業を進めていった。
「……皆のもの、がむしゃらに作業を続けてるも良くない。ここらで作業を止めて休憩だ」
あれからさらに二刻(前世でいう二時間くらい)経過して、みんなの集中力が落ちてきた頃にハインネルフさんの号令で休憩する事になった。自分も作業しつつ周りもきちんと見ているんだから、村長なのは伊達じゃないね。体力・魔力自慢の竜人族であるみんなでも、さすがに大髭様を気遣いながらの作業はきついみたいで広場のあちこちで地面に腰を下ろしてぐったりしてる。それを見て僕の出番だと判断して、腰の小袋から種を三個取り出して広場の真ん中辺りに埋めた。
「緑盛魔法・超育成・水蜜桃)」
広場の地面に手をついて魔法を発動させて、ニョキニョキと水蜜桃の果樹を成長させる。……よし、大霊湖の魔力も吸収して、いつもよりも数段速く成木になり水蜜桃の実がポンポンとたわわに実っていく。水蜜桃は水分が多くて柔らかいから疲れてる時には、ぴったりの食べ物だ。さらに実が甘いのも良い点だし消化吸収も良い。
「みんな、水蜜桃の実が熟れたから食べて。いくらお腹がすいても疲れてる時に、いきなり焼いた肉をドカ食いするのはダメだよ」
みんなは僕の言葉に一瞬首をかしげたものの納得してくれたようで、水蜜桃の実をもいで食べていった。……食べてくれたのは良いんだけど、なんか途中から水蜜桃の実の取り合いになってるのは何で? 水蜜桃の実の美味しいのはわかるけど、取り合う必要はないよね? あ、水蜜桃の実が全部無くなったら、みんなが僕の方を見てきた。
「えっと、水蜜桃を食べるなら、また育てるけど?」
「「「「「食べるから育ててくれ!!!!」」」」」
「わかった。少し待って。……うん?」
僕が水蜜桃の成木に、また実がなるように魔法を発動させようとしたら大霊湖の方から強烈な視線というか気配を感じて振り返ると、三体と大髭様が僕をジッと見ていた。大髭様は、みんなで作業してる間に意識が戻ってたみたい。
「三体の分も成長させるから、ちょっと待って」
「ガア」
「ブオ」
「楽シミニシテイマス」
三体が水蜜桃を食べるのは良いんだけど、問題は大髭様だ。
「大髭様は胃壁が傷ついてるし、胃の中の異物を取り除けてないから飲食はダメ」
「バフ!!!!」
大髭様が不満の意思をのせて息を吐いてきた。うん、自分だけ食べれない不満はよくわかるけど、こればっかりは治療する立場から許可するわけにはいかない。
「今は大髭様の胃壁は傷がついてるだけ破れてないけど、何かを食べて胃が動いたら今度は破れるかもしれないから許可できないよ」
「バフ?」
「最低でも胃の中の岩石と鉱物を取り出して胃壁の治療が終わるまで飲食はダメ」
「バフ……」
「ダメ」
「…………」
「…………」
「ヤ、ヤート君、食べる許可できないという事だよね? それなら大髭様に水蜜桃の実が溶けた水を飲んでもらうのはどうかな?」
僕と大髭様が黙ったまま見合ってると、張り詰めていく空気に割り込むようにイリュキンが僕に話しかけてきた。
「液体でも胃が刺激されて動くから、それも許可できない。仮に胃に入れるとしても僕の鎮める青だね」
「鎮める青? ああ、ヤート君が大髭様の中に入る前に発生させていた青い霧の事か」
「そう。鎮める青で大髭様の痛覚や消化器系の動きを鈍らせたり、作業の障害にならないように胃酸を中和したりしてる」
「それでも飲まず食わずなのは……」
「高位の魔獣は数日絶食したくらいじゃ、どうにもならないよ。ましてやそれが大髭様ならなおさらだね。でも、さすがに胃の中が岩石と鉱物がパンパンに詰まった状態で胃が破れたら無事を保証できないから、治療する立場として絶対に飲食は許可できない」
「「「「「…………」」」」」
僕の宣言を聞いて広場に重苦しい雰囲気が広がっていくけど、僕は絶対に譲らないという気持ちを込めて大髭様を見る。そうしてしばらく誰も動かず無言のままだった中で、イーリリスさんが大髭様の前に進み出た。
「大髭様、今は我慢してもらえませんか」
「…………」
「また大霊湖を雄大に泳ぐ大髭様を見たいのです。今、この広場にいるもの達の総力を挙げて、できるだけ早く大髭様の胃の中を元に戻してみせますので、こらえてもらえないでしょうか」
「……バフ」
「ありがとうございます。皆の休憩が終わり次第ご期待に応えれるよう全力を尽くします」
イーリリスさんの説得が功をそうして大髭様が納得してくれた。というかイーリリスさんは大髭様と会話できるんだね。これが水添えの役目なのかな? 大髭様の治療が終わったらイリュキンとイーリリスさんに聞いてみよう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
まあ、治療行為の一環である運び出しで逆に大髭様に負担をかけて体調を悪化させるのは本末転倒だからしょうがない。僕は岩石と鉱物を運び出してるみんなの邪魔にならない場所で傷ついた胃壁の治療を始める。
「水生魔法。緑盛魔法・強薬水液」
腰の小袋から取り出した薬草団子に水生魔法の水を合わせて薬液を作り、一部分ずつ傷ついた胃壁を刺激しないよう慎重に塗布していく事で大髭様への負担も減す。はあ、岩石と鉱物が無かったら一気に治療できるのにな。でも、今の岩石と鉱物を取り除かずに治したら、傷がふさがる時に欠片を胃壁の中に巻き込む可能性があるから傷ついた胃壁が露出した部分を少しずつ丁寧にやるしかない。
僕もみんなももどかしさを抱えながら、まだまだ見えない胃の奥までの距離を考えないようにして黙々と作業を進めていった。
「……皆のもの、がむしゃらに作業を続けてるも良くない。ここらで作業を止めて休憩だ」
あれからさらに二刻(前世でいう二時間くらい)経過して、みんなの集中力が落ちてきた頃にハインネルフさんの号令で休憩する事になった。自分も作業しつつ周りもきちんと見ているんだから、村長なのは伊達じゃないね。体力・魔力自慢の竜人族であるみんなでも、さすがに大髭様を気遣いながらの作業はきついみたいで広場のあちこちで地面に腰を下ろしてぐったりしてる。それを見て僕の出番だと判断して、腰の小袋から種を三個取り出して広場の真ん中辺りに埋めた。
「緑盛魔法・超育成・水蜜桃)」
広場の地面に手をついて魔法を発動させて、ニョキニョキと水蜜桃の果樹を成長させる。……よし、大霊湖の魔力も吸収して、いつもよりも数段速く成木になり水蜜桃の実がポンポンとたわわに実っていく。水蜜桃は水分が多くて柔らかいから疲れてる時には、ぴったりの食べ物だ。さらに実が甘いのも良い点だし消化吸収も良い。
「みんな、水蜜桃の実が熟れたから食べて。いくらお腹がすいても疲れてる時に、いきなり焼いた肉をドカ食いするのはダメだよ」
みんなは僕の言葉に一瞬首をかしげたものの納得してくれたようで、水蜜桃の実をもいで食べていった。……食べてくれたのは良いんだけど、なんか途中から水蜜桃の実の取り合いになってるのは何で? 水蜜桃の実の美味しいのはわかるけど、取り合う必要はないよね? あ、水蜜桃の実が全部無くなったら、みんなが僕の方を見てきた。
「えっと、水蜜桃を食べるなら、また育てるけど?」
「「「「「食べるから育ててくれ!!!!」」」」」
「わかった。少し待って。……うん?」
僕が水蜜桃の成木に、また実がなるように魔法を発動させようとしたら大霊湖の方から強烈な視線というか気配を感じて振り返ると、三体と大髭様が僕をジッと見ていた。大髭様は、みんなで作業してる間に意識が戻ってたみたい。
「三体の分も成長させるから、ちょっと待って」
「ガア」
「ブオ」
「楽シミニシテイマス」
三体が水蜜桃を食べるのは良いんだけど、問題は大髭様だ。
「大髭様は胃壁が傷ついてるし、胃の中の異物を取り除けてないから飲食はダメ」
「バフ!!!!」
大髭様が不満の意思をのせて息を吐いてきた。うん、自分だけ食べれない不満はよくわかるけど、こればっかりは治療する立場から許可するわけにはいかない。
「今は大髭様の胃壁は傷がついてるだけ破れてないけど、何かを食べて胃が動いたら今度は破れるかもしれないから許可できないよ」
「バフ?」
「最低でも胃の中の岩石と鉱物を取り出して胃壁の治療が終わるまで飲食はダメ」
「バフ……」
「ダメ」
「…………」
「…………」
「ヤ、ヤート君、食べる許可できないという事だよね? それなら大髭様に水蜜桃の実が溶けた水を飲んでもらうのはどうかな?」
僕と大髭様が黙ったまま見合ってると、張り詰めていく空気に割り込むようにイリュキンが僕に話しかけてきた。
「液体でも胃が刺激されて動くから、それも許可できない。仮に胃に入れるとしても僕の鎮める青だね」
「鎮める青? ああ、ヤート君が大髭様の中に入る前に発生させていた青い霧の事か」
「そう。鎮める青で大髭様の痛覚や消化器系の動きを鈍らせたり、作業の障害にならないように胃酸を中和したりしてる」
「それでも飲まず食わずなのは……」
「高位の魔獣は数日絶食したくらいじゃ、どうにもならないよ。ましてやそれが大髭様ならなおさらだね。でも、さすがに胃の中が岩石と鉱物がパンパンに詰まった状態で胃が破れたら無事を保証できないから、治療する立場として絶対に飲食は許可できない」
「「「「「…………」」」」」
僕の宣言を聞いて広場に重苦しい雰囲気が広がっていくけど、僕は絶対に譲らないという気持ちを込めて大髭様を見る。そうしてしばらく誰も動かず無言のままだった中で、イーリリスさんが大髭様の前に進み出た。
「大髭様、今は我慢してもらえませんか」
「…………」
「また大霊湖を雄大に泳ぐ大髭様を見たいのです。今、この広場にいるもの達の総力を挙げて、できるだけ早く大髭様の胃の中を元に戻してみせますので、こらえてもらえないでしょうか」
「……バフ」
「ありがとうございます。皆の休憩が終わり次第ご期待に応えれるよう全力を尽くします」
イーリリスさんの説得が功をそうして大髭様が納得してくれた。というかイーリリスさんは大髭様と会話できるんだね。これが水添えの役目なのかな? 大髭様の治療が終わったらイリュキンとイーリリスさんに聞いてみよう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
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