上 下
118 / 318

青の村への旅にて 青の老竜人の絶技と僕なりの戦略

しおりを挟む
 次々と竹が生え舞い落ちる葉の数も増えていく。順調に陣地を作り直せた。僕が右手を動かすと、その動きに合わせて舞い落ちていた竹の葉は自在に竹林の中をかけぬける。竹の葉って結構鋭いから竜人族りゅうじんぞくの大人が全力で投げた石くらいの速さだと、かなりの切れ味になるね。

「ヤート殿に感心させられるのは何度目でしょうか」

 僕の様子を見ていたタキタさんのつぶやきが聞こえて見ると、タキタさんが嬉しそうに笑いながら左足を前に出し横向き気味になって腰を少し落とした。僕とタキタさんの勝負が始まってから初めてタキタさんが構えてくれた。

「構えてくれるとは思わなかった」
「わしの足下の土中の事を考えれば当然ですよ」

 やっぱりバレてたか。タキタさんは地ならしの時も地中を進む根の動きを完璧に把握してたから、わかっててのおかしくもないと納得して僕は一番近くの魔竹に触れた。

「お願い」
「「「「「「なっ!!」」」」」」
「これはこれは……、心してかかるとしましょう」

 僕の対タキタさんの戦法はさっき言った通り『自分の陣地を作ってタキタさんを迎え撃つ』だけど、この一手は違って竹林の外にいるタキタさんの周りにも魔竹を生やして竹林を広げた。つまりタキタさんが僕の陣地に入ってくるのを待つんじゃなくて、僕からタキタさんを僕の陣地に巻き込んだという事だ。

「それじゃあ攻めさせてもらうね」

 僕が両手を広げたら竹林に舞い落ちていた葉全てが滞空し動きを止める。そして僕が両手をタキタさんに向かって振ったら竹の葉がタキタさんに殺到していく。確実に緑葉群帯リーフベルトよりも数が多いからタキタさんでも簡単には対処できないはずだけど……。

「ホッホッホ、これだけ動くのは久方ぶりですな」

 うん、多少は予想してたよ……。予想はしてたけどタキタさんの身体が高速で激しくブレて、それと同時にタキタさんに近づく竹の葉が全部粉々に打ち砕かれていくのはおかしい。何をどうやって動いたら視界を埋め尽くすような数に対応できるんだろ?

 ……このままじゃ攻めてる意味が無くなるからやり方を変えよう。まずはキッチリとしたタキタさんに攻撃を当てれる状況作りからだね。僕は竹の葉の動きをタキタさんに向かうものからタキタさんの視界を遮るものへと切り替える。

「ほう、今度はどんな事で、わしを驚かせてくれるのか楽しみです」

 タキタさんの周りを旋回する事で視界を遮ってるし、高速で動く竹の葉から出るザアアアっていう音で僕の声や音は聞こえてないはず。でもタキタさんの様子が奇襲を仕掛ける状況を整えられたのに変わらなさ過ぎてどうしようか悩む。

 …………もしかしてタキタさんは僕の魔力を感知してるとか? でも、欠色けっしょくの僕の魔力量は少ないし魔竹の魔力が周りに満ちてるからわからないはずだけど、相手が底知れないタキタさんだから竹の葉で視界が遮られ葉の動く音で聴覚を邪魔されても僕の事がわかってる前提で動くべきと思い直し、僕は腰の小袋から赤い実を取り出してタキタさんに向かって投げた。

緑盛魔法グリーンカーペット刺激する赤シャープレッド

 旋回してる竹の葉を抜けた時に魔法を発動して赤い煙を発生させる。固体だとタキタさんに迎撃されるけど気体なら対応に困るはず。さらに目立つ刺激する赤シャープレッドに紛れるように旋回していた竹の葉を再びタキタさんに殺到させる。

 パンッ!!!

「え?」

 突然大きな弾ける音が聞こえて、タキタさんに殺到していた竹の葉と刺激する赤シャープレッドの煙が爆風と共に吹き飛ぶ。反射的に僕は音と風から顔を腕で守った。魔力は使ってないはずなのに何が弾けたんだ? 風が弱まり腕を少し下ろしてタキタさんを見たら右掌を地面に向かって突き降ろしていた。

「これを使うのも久々ですね」
「何をしたのか聞いても良い?」
「簡単な事です。掌で空気を打って弾けさせただけですよ」

 発勁はっけいって事? そんな前世の世界でいう武術の達人みたいなマネができるわけが…………タキタさんならできてもおかしくないか。何より目の前で実際に吹き飛ばしてるんだから事実だって認めないと。

「隙ありです」

 いつのまにかタキタさんが僕の横にいた。唖然として少しだけ考え込んだだけでこれか。でも、これはしょうがないって割り切り覚悟を決めると同時にグアンって視界が動く。当然タキタさんに投げられたわけだけど今回は投げが不完全だった。なぜなら……。

「今度はわしが何をしたか聞いても?」
「見たままだよ。絶対にタキタさんが突破して僕に近づいてくるって思ってたから、服の下を通して魔竹の根を身体に巻きつけて固定してただけ」

 僕が身体を固定してたためタキタさんは、腕を振り抜けずに僕の肩に手を当てた状態で止まっている。この機を逃さず僕の方からタキタさんに触りにいくとタキタさんがサッて離れたけど甘い。

「なっ!!」

 おっ、タキタさんを驚かせる事ができた。さすがに僕が魔竹の根を巻きつかせたままタキタさんの方に根を伸ばして身体ごと移動して追ってくるとは思わなかったみたいだね。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。

 感想や評価もお待ちしています。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。

黒ハット
ファンタジー
【完結】ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる

処理中です...