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青の村への旅にて 青の老竜人と観察
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唐突に始まった兄さん・姉さん・リンリー・イリュキンの乱闘は、格闘だけだったのが途中から四人とも強化魔法を使い始め、時間が経つごとにその出力もどんどん上がっていった。その結果、四人の踏み込みや打撃で地面に大きな破壊痕が増えていく。そんな状態がしばらく続いた後にラカムタさんの身体から魔力が放たれる。
「お前ら、それ以上続けるなら俺が力ずくで止めるぞ?」
ラカムタさんの真顔での宣言を聞いて姉さん・リンリー・イリュキンは、サッとラカムタさんの前に移動して謝った。でも兄さんは不満そうな顔で軽く舌打ちしたら、ラカムタさんは兄さんの前に歩いて行き兄さんの頭をガシッとつかんだ。あっ、少し離れてる僕のところでも兄さんの頭からメキメキっていう音が聞こえる。
「ガル、止めるよな?」
「わかった!! 止める!! 止めるから離せ!!」
「離せ?」
「は、離してほしいです!!」
「……まあ、良いだろう」
ラカムタさんに地の底から響いてくるような低い声で聞かれて、さすがに不味いと感じたらしい兄さんは全力の大声で叫んでた。それに少し兄さんの声が震えたから、かなり怖かったみたい。
「ふむ、これは鮮やか」
ラカムタさんの止め方を見てタキタさんは感心していた。
「青だと、ラカムタさんみたいなケンカとか乱闘の止め方はしないの?」
「そうですな……、基本的なやり方はラカムタ殿と変わらないのですが、ラカムタ殿のように複数人の子供達のケンカや乱闘を一人で止めれる飛び抜けて強いものがいないのです。なので、子供達と同数か二、三人少ない状態で当たりますな」
「そうなの? タキタさんは絶対にできると思うけど……」
「ホッホッホッ、わしは物静かなただの老体にすぎませんよ」
……タキタさんの発言を聞いたイリュキンや他の水守達が何か言いたそうな目でタキタさんを見てるから、なんとなく嘘っぽい。しかもタキタさんはイリュキン達の視線にも気づいてるのに、静かに笑ってるのも、さらに嘘かなって感じる。
なんか気になるしタキタさんの事を観察してみようかな。あ、でも、自分の力を普段は隠してるらしいタキタさんだと尻尾は見せないかもしれない。……うん、タキタさんの本性が見れなくても観察するだけならタダだって割りきれば良いか。僕がタキタさんの観察を始めたと同時にイリュキンが声をあげた。
「みんな、予想外の出来事で時間が経ってるから、そろそろ移動を再開しよう」
移動を始めてすぐに兄さん達がケンカしてた場所の横を通る。……強化魔法以外使ってないとは言え、地面に無数にある兄さん達の破壊痕を見たら、どれだけ激しく戦ってたのかがよくわかる。よし、タキタさんを観察しようって決めたばかりだけど、最優先ってわけじゃないから今はこっちに専念しよう。
「ちょっと止まってくれる?」
「ガア?」
「うん、ここで止まって」
「ガ」
「ありがとう」
僕は鬼熊の背中に乗ったまま腰の小袋から種と薬草団子を取り出して魔法を発動させた。
「水生魔法、緑盛魔法・超育成・樹根触腕」
掌の乗せた薬草団子に水をかけて少し柔らかくした後に種を埋めて種を発芽させる。薬草団子を養分に芽が成長していくと薬草団子から根が出てきて地面に向かって伸びて行った。
「ほう、これがヤート殿の魔法ですか。興味深い。……ところで何をされるおつもりで?」
「兄さん達がケンカした場所がボコボコになってるから、できるだけ平らにならす」
「なるほど、それならわしも手伝うとしますかな。水弾」
タキタさんは水弾を生み出すと地中に入った樹根触腕の根が進む先を正確に狙い、水弾の水を当ててボコボコになった地面を柔らかくしてくれた。うん、これなら根が通りやすい。僕は根にヘコんだ部分を土の中から押し上げたり、飛び出ているところから土を移してもらいながら地面をならしていく。
……それにしてもだ。ここまで正確に地中を進む根の動きを感知してるのもそうだし、ずっと一定の大きさの水弾を作り続けてなおかつ全部を同時に正確に操作してるタキタさんはすごいな。
「やっぱりタキタさんって強いよね? たぶんラカムタさん以上かな」
「おや、なぜ、そう思いに?」
「今やってるタキタさんの作業を見たら誰だって思うよ」
「ホッホッホッ」
「そういえばお礼をまだ言ってなかった。地面をならすの手伝ってくれてありがとう」
「ホ!! ホッホッホッ。いえいえ、わしもヤート殿の魔法を見れて楽しめました。それでは姫さまのところに戻りますので、これにて」
笑うだけで僕の疑問には答えてくれないタキタさんを見てたら「狸爺」っていう単語が頭に浮かんだけど、こっちの世界にも似たような言葉はあるのかな? 気になるから時間がある時にラカムタさんに聞いてみよう。タキタさんは僕に軽く頭を下げてイリュキンのところに戻っていった。そのタキタさんの後ろ姿を見ながら三体に聞いてみる。
「ねえ、タキタさんの事、どう思う?」
「……ガア」
「ブオ」
「匂いからは、よくわからない……か」
二体、特に破壊猪に言えるけど、二体は嗅覚が鋭くて匂いから対象の状態をある程度知る事ができる。でも、タキタさんは身体の匂いが無くてよくわからないらしい。生物である以上、匂いは絶対に身体から発せられてるはずなのにタキタさんに無いのは、どうやってか匂いを誤魔化してるみたいだね。
「ディグリは、どう思った?」
「警戒シテオクベキデスネ」
「なんで?」
「アノモノハ我ラ三体ガ、イツ襲イカカッテキテモ対応デキルヨウニ、常ニ我ラノ位置ヲ目端デ確認シテイマシタ」
「そうなんだ」
「サラニ、私ガ試スタメニ軽ク攻撃ヲシヨウトシタラ、明ラカニ私ノ攻撃ノ射線カラ逃レテイマシタ」
「いや、攻撃しようとしないでよ」
「……念ノタメデス」
それにしてもタキタさんか。三体が警戒するくらいだから、やっぱり只者じゃないみたいだね。本当に良い観察対象を見つけた。この旅の中でなんとかタキタさんの実力の片鱗だけでも見てみたい。まあ、イリュキンと話しつつも時おり僕の事をチラリと見てくるタキタさんを見てると、僕の方こそ観察されてるっていう気もするし僕を観察して何がおもしろいのかは気になるけど、その内タキタさんなら笑いながら話してくれそうだから、今は気にしないでおこう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
「お前ら、それ以上続けるなら俺が力ずくで止めるぞ?」
ラカムタさんの真顔での宣言を聞いて姉さん・リンリー・イリュキンは、サッとラカムタさんの前に移動して謝った。でも兄さんは不満そうな顔で軽く舌打ちしたら、ラカムタさんは兄さんの前に歩いて行き兄さんの頭をガシッとつかんだ。あっ、少し離れてる僕のところでも兄さんの頭からメキメキっていう音が聞こえる。
「ガル、止めるよな?」
「わかった!! 止める!! 止めるから離せ!!」
「離せ?」
「は、離してほしいです!!」
「……まあ、良いだろう」
ラカムタさんに地の底から響いてくるような低い声で聞かれて、さすがに不味いと感じたらしい兄さんは全力の大声で叫んでた。それに少し兄さんの声が震えたから、かなり怖かったみたい。
「ふむ、これは鮮やか」
ラカムタさんの止め方を見てタキタさんは感心していた。
「青だと、ラカムタさんみたいなケンカとか乱闘の止め方はしないの?」
「そうですな……、基本的なやり方はラカムタ殿と変わらないのですが、ラカムタ殿のように複数人の子供達のケンカや乱闘を一人で止めれる飛び抜けて強いものがいないのです。なので、子供達と同数か二、三人少ない状態で当たりますな」
「そうなの? タキタさんは絶対にできると思うけど……」
「ホッホッホッ、わしは物静かなただの老体にすぎませんよ」
……タキタさんの発言を聞いたイリュキンや他の水守達が何か言いたそうな目でタキタさんを見てるから、なんとなく嘘っぽい。しかもタキタさんはイリュキン達の視線にも気づいてるのに、静かに笑ってるのも、さらに嘘かなって感じる。
なんか気になるしタキタさんの事を観察してみようかな。あ、でも、自分の力を普段は隠してるらしいタキタさんだと尻尾は見せないかもしれない。……うん、タキタさんの本性が見れなくても観察するだけならタダだって割りきれば良いか。僕がタキタさんの観察を始めたと同時にイリュキンが声をあげた。
「みんな、予想外の出来事で時間が経ってるから、そろそろ移動を再開しよう」
移動を始めてすぐに兄さん達がケンカしてた場所の横を通る。……強化魔法以外使ってないとは言え、地面に無数にある兄さん達の破壊痕を見たら、どれだけ激しく戦ってたのかがよくわかる。よし、タキタさんを観察しようって決めたばかりだけど、最優先ってわけじゃないから今はこっちに専念しよう。
「ちょっと止まってくれる?」
「ガア?」
「うん、ここで止まって」
「ガ」
「ありがとう」
僕は鬼熊の背中に乗ったまま腰の小袋から種と薬草団子を取り出して魔法を発動させた。
「水生魔法、緑盛魔法・超育成・樹根触腕」
掌の乗せた薬草団子に水をかけて少し柔らかくした後に種を埋めて種を発芽させる。薬草団子を養分に芽が成長していくと薬草団子から根が出てきて地面に向かって伸びて行った。
「ほう、これがヤート殿の魔法ですか。興味深い。……ところで何をされるおつもりで?」
「兄さん達がケンカした場所がボコボコになってるから、できるだけ平らにならす」
「なるほど、それならわしも手伝うとしますかな。水弾」
タキタさんは水弾を生み出すと地中に入った樹根触腕の根が進む先を正確に狙い、水弾の水を当ててボコボコになった地面を柔らかくしてくれた。うん、これなら根が通りやすい。僕は根にヘコんだ部分を土の中から押し上げたり、飛び出ているところから土を移してもらいながら地面をならしていく。
……それにしてもだ。ここまで正確に地中を進む根の動きを感知してるのもそうだし、ずっと一定の大きさの水弾を作り続けてなおかつ全部を同時に正確に操作してるタキタさんはすごいな。
「やっぱりタキタさんって強いよね? たぶんラカムタさん以上かな」
「おや、なぜ、そう思いに?」
「今やってるタキタさんの作業を見たら誰だって思うよ」
「ホッホッホッ」
「そういえばお礼をまだ言ってなかった。地面をならすの手伝ってくれてありがとう」
「ホ!! ホッホッホッ。いえいえ、わしもヤート殿の魔法を見れて楽しめました。それでは姫さまのところに戻りますので、これにて」
笑うだけで僕の疑問には答えてくれないタキタさんを見てたら「狸爺」っていう単語が頭に浮かんだけど、こっちの世界にも似たような言葉はあるのかな? 気になるから時間がある時にラカムタさんに聞いてみよう。タキタさんは僕に軽く頭を下げてイリュキンのところに戻っていった。そのタキタさんの後ろ姿を見ながら三体に聞いてみる。
「ねえ、タキタさんの事、どう思う?」
「……ガア」
「ブオ」
「匂いからは、よくわからない……か」
二体、特に破壊猪に言えるけど、二体は嗅覚が鋭くて匂いから対象の状態をある程度知る事ができる。でも、タキタさんは身体の匂いが無くてよくわからないらしい。生物である以上、匂いは絶対に身体から発せられてるはずなのにタキタさんに無いのは、どうやってか匂いを誤魔化してるみたいだね。
「ディグリは、どう思った?」
「警戒シテオクベキデスネ」
「なんで?」
「アノモノハ我ラ三体ガ、イツ襲イカカッテキテモ対応デキルヨウニ、常ニ我ラノ位置ヲ目端デ確認シテイマシタ」
「そうなんだ」
「サラニ、私ガ試スタメニ軽ク攻撃ヲシヨウトシタラ、明ラカニ私ノ攻撃ノ射線カラ逃レテイマシタ」
「いや、攻撃しようとしないでよ」
「……念ノタメデス」
それにしてもタキタさんか。三体が警戒するくらいだから、やっぱり只者じゃないみたいだね。本当に良い観察対象を見つけた。この旅の中でなんとかタキタさんの実力の片鱗だけでも見てみたい。まあ、イリュキンと話しつつも時おり僕の事をチラリと見てくるタキタさんを見てると、僕の方こそ観察されてるっていう気もするし僕を観察して何がおもしろいのかは気になるけど、その内タキタさんなら笑いながら話してくれそうだから、今は気にしないでおこう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
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