上 下
111 / 318

青の村への旅にて 青の老竜人と観察

しおりを挟む
 唐突に始まった兄さん・姉さん・リンリー・イリュキンの乱闘は、格闘だけだったのが途中から四人とも強化魔法パワーダを使い始め、時間が経つごとにその出力もどんどん上がっていった。その結果、四人の踏み込みや打撃で地面に大きな破壊痕が増えていく。そんな状態がしばらく続いた後にラカムタさんの身体から魔力が放たれる。

「お前ら、それ以上続けるなら俺が力ずくで止めるぞ?」

 ラカムタさんの真顔での宣言を聞いて姉さん・リンリー・イリュキンは、サッとラカムタさんの前に移動して謝った。でも兄さんは不満そうな顔で軽く舌打ちしたら、ラカムタさんは兄さんの前に歩いて行き兄さんの頭をガシッとつかんだ。あっ、少し離れてる僕のところでも兄さんの頭からメキメキっていう音が聞こえる。

「ガル、止めるよな?」
「わかった!! 止める!! 止めるから離せ!!」
「離せ?」
「は、離してほしいです!!」
「……まあ、良いだろう」

 ラカムタさんに地の底から響いてくるような低い声で聞かれて、さすがに不味いと感じたらしい兄さんは全力の大声で叫んでた。それに少し兄さんの声が震えたから、かなり怖かったみたい。

「ふむ、これは鮮やか」

 ラカムタさんの止め方を見てタキタさんは感心していた。

「青だと、ラカムタさんみたいなケンカとか乱闘の止め方はしないの?」
「そうですな……、基本的なやり方はラカムタ殿と変わらないのですが、ラカムタ殿のように複数人の子供達のケンカや乱闘を一人で止めれる飛び抜けて強いものがいないのです。なので、子供達と同数か二、三人少ない状態で当たりますな」
「そうなの? タキタさんは絶対にできると思うけど……」
「ホッホッホッ、わしは物静かなただの老体にすぎませんよ」

 ……タキタさんの発言を聞いたイリュキンや他の水守みずもり達が何か言いたそうな目でタキタさんを見てるから、なんとなく嘘っぽい。しかもタキタさんはイリュキン達の視線にも気づいてるのに、静かに笑ってるのも、さらに嘘かなって感じる。

 なんか気になるしタキタさんの事を観察してみようかな。あ、でも、自分の力を普段は隠してるらしいタキタさんだと尻尾は見せないかもしれない。……うん、タキタさんの本性が見れなくても観察するだけならタダだって割りきれば良いか。僕がタキタさんの観察を始めたと同時にイリュキンが声をあげた。

「みんな、予想外の出来事で時間が経ってるから、そろそろ移動を再開しよう」

 移動を始めてすぐに兄さん達がケンカしてた場所の横を通る。……強化魔法パワーダ以外使ってないとは言え、地面に無数にある兄さん達の破壊痕を見たら、どれだけ激しく戦ってたのかがよくわかる。よし、タキタさんを観察しようって決めたばかりだけど、最優先ってわけじゃないから今はこっちに専念しよう。

「ちょっと止まってくれる?」
「ガア?」
「うん、ここで止まって」
「ガ」
「ありがとう」

 僕は鬼熊オーガベアの背中に乗ったまま腰の小袋から種と薬草団子を取り出して魔法を発動させた。

水生魔法ワータ緑盛魔法グリーンカーペット超育成ハイグロウ樹根触腕ルートハンド

 掌の乗せた薬草団子に水をかけて少し柔らかくした後に種を埋めて種を発芽させる。薬草団子を養分に芽が成長していくと薬草団子から根が出てきて地面に向かって伸びて行った。

「ほう、これがヤート殿の魔法ですか。興味深い。……ところで何をされるおつもりで?」
「兄さん達がケンカした場所がボコボコになってるから、できるだけ平らにならす」
「なるほど、それならわしも手伝うとしますかな。水弾ブルーボール

 タキタさんは水弾ブルーボールを生み出すと地中に入った樹根触腕ルートハンドの根が進む先を正確に狙い、水弾ブルーボールの水を当ててボコボコになった地面を柔らかくしてくれた。うん、これなら根が通りやすい。僕は根にヘコんだ部分を土の中から押し上げたり、飛び出ているところから土を移してもらいながら地面をならしていく。

 ……それにしてもだ。ここまで正確に地中を進む根の動きを感知してるのもそうだし、ずっと一定の大きさの水弾ブルーボールを作り続けてなおかつ全部を同時に正確に操作してるタキタさんはすごいな。

「やっぱりタキタさんって強いよね? たぶんラカムタさん以上かな」
「おや、なぜ、そう思いに?」
「今やってるタキタさんの作業を見たら誰だって思うよ」
「ホッホッホッ」
「そういえばお礼をまだ言ってなかった。地面をならすの手伝ってくれてありがとう」
「ホ!! ホッホッホッ。いえいえ、わしもヤート殿の魔法を見れて楽しめました。それでは姫さまのところに戻りますので、これにて」

 笑うだけで僕の疑問には答えてくれないタキタさんを見てたら「狸爺たぬきじじい」っていう単語が頭に浮かんだけど、こっちの世界にも似たような言葉はあるのかな? 気になるから時間がある時にラカムタさんに聞いてみよう。タキタさんは僕に軽く頭を下げてイリュキンのところに戻っていった。そのタキタさんの後ろ姿を見ながら三体に聞いてみる。

「ねえ、タキタさんの事、どう思う?」
「……ガア」
「ブオ」
「匂いからは、よくわからない……か」

 二体、特に破壊猪ハンマーボアに言えるけど、二体は嗅覚が鋭くて匂いから対象の状態をある程度知る事ができる。でも、タキタさんは身体の匂いが無くてよくわからないらしい。生物である以上、匂いは絶対に身体から発せられてるはずなのにタキタさんに無いのは、どうやってか匂いを誤魔化してるみたいだね。

「ディグリは、どう思った?」
「警戒シテオクベキデスネ」
「なんで?」
「アノモノハ我ラ三体ガ、イツ襲イカカッテキテモ対応デキルヨウニ、常ニ我ラノ位置ヲ目端デ確認シテイマシタ」
「そうなんだ」
「サラニ、私ガ試スタメニ軽ク攻撃ヲシヨウトシタラ、明ラカニ私ノ攻撃ノ射線カラ逃レテイマシタ」
「いや、攻撃しようとしないでよ」
「……念ノタメデス」

 それにしてもタキタさんか。三体が警戒するくらいだから、やっぱり只者じゃないみたいだね。本当に良い観察対象を見つけた。この旅の中でなんとかタキタさんの実力の片鱗だけでも見てみたい。まあ、イリュキンと話しつつも時おり僕の事をチラリと見てくるタキタさんを見てると、僕の方こそ観察されてるっていう気もするし僕を観察して何がおもしろいのかは気になるけど、その内タキタさんなら笑いながら話してくれそうだから、今は気にしないでおこう。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。

 感想や評価もお待ちしています。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

AI恋愛大戦争

星永のあ
恋愛
みなさんは、AIをご存知だろうか。 このAIの発達により、 今ある仕事の49%が10〜20年後には無くなると言われている。 人間の生活はどんどんAIに奪われていく  のかもしれない。 それは仕事だけではなく、恋愛も。 AIがモテる時代がすぐ目の前まで来ている。

~マーメイド~

はらぺこおねこ。
恋愛
 20XX年、性犯罪が多くなり泣き寝入りする女性が多くなった日本。  政府は、性犯罪抑制のため人間そっくりの生物を開発をする。  感覚は、人と同じで感情や表情もあるし知能まであった。  人間との違いは大差なかったのだ。  人々は、その生物をマーメイドと呼んだ。  最初は抵抗はあったものの、次第にそれに慣れ。  性欲を持て余した男たちは、通販で買物をする感覚でマーメイドを購入する日々。  人の遺伝子操作は、倫理上禁止されているがマーメイドは人でないため禁止されなかった。  その為、科学者はマーメイドの遺伝子操作を躊躇するなく開発を進め。  遂に、簡単に理想のマーメイドを開発することが可能になった。  注文方法は簡単。  容姿や体型、年齢から性格や声帯まで、全てカスタマイズ可能。  価格は200円からのお手軽価格。  雄雌ともに発注可能。  また、飽きたらマーメイドの日に拘束して捨てることも可能で捨てられたマーメイドの処理はどうされるかは、公開されてはいない。  ホームレスに拾われ飼われるマーメイドや、なんとか脱出して野生になるマーメイドもいる。  マーメイドの開発は日本だけでなく海外にも広まり、世界中の人への性犯罪の件数は、年間100件を下回っていた。  マーメイドを反対する女性たちもいたが、この件数を聞いた途端反対する人は少なくなった。  世界は、マーメイドによって救われていた。  そして、今……  ひとりの童貞の男が、マーメイドを注文しようとしている。  男は、事業に成功した30歳。  金は有り余るほどある。  金を稼ぐことに一生懸命になりすぎて、女性との出会いはなかった。  男は、童貞を捨てるべく。  マーメイドをマーマンで、注文する。  価格は、500円。  男は、マーメイドを購入することにより世界が変わるのだ。  マーメイドは、善か?悪か?  世界は、その問題を抱え今日も生きていく。 ※以前書いていたマーメイドを全年齢の方を対象に書き直します。

晴れ間のペトリコール

蒼井 狐
現代文学
左手を失い、憂鬱とした気持ちを抱いていた。 けれど、ふと病院のベッドから見たラーメン屋さんへ行きたいという欲求により心を救われる……。

「ずっと貴方だけを推し続けます」その言葉を信じても良いですか?

田々野キツネ
恋愛
──推し変なんてしない、ずっと君だけを推し続けていた 日々を無為にすごす、ロースペ社会人、田中貞雄。 ある日、奇跡の出会いを果たす。 バーチャルネットアイドル、天姫モノアとの出会いが、枯れた人生に彩を与えていく。 * この作品に登場する、存在/非存在は、現実/架空の人物、人格、地名、団体、その他と一切関係がありません。 * この作品に登場する、主人公、またはその他の人物の言動/思考は、作者の見解ではありません。 * この作品は、作者のにわか知識、及び妄想で書いています。  現実との齟齬の内、重大な事に関しては、指摘頂ければ、別途注釈を設ける等の対処をさせて頂きます。 アルファポリス初投稿です。 感想、お気に入り等頂けると、大変励みになります。 メンタルがガラスですので、お手柔らかにお願いいたします。 2024/06/22 カクヨム様で投稿している別名義で投稿する事に致しました。 こちらのアカウントは、今後削除予定です。 カクヨム様の作品ページ https://kakuyomu.jp/works/16818093079719861798

AIと彼女と俺の不思議な三角関係 どうしたらいいの 究極の選択 AI彼女と禁断の恋

fit2300get
恋愛
あらすじ ある日、大学生の健太郎は、叔父である福澤より、AIを搭載したアンドロイドを紹介される。福澤は、健太郎にAIアンドロイドを紹介した。 健太郎には、今付き合ってる彼女、美咲がいた。断ろうとする健太郎に、福澤は、この子に感情を教えてくれと頼まれる。 果たして、AIは恋を、できるのか?

処理中です...