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第5章 異世界の男は斬る
第33話
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システィーゾと鈴 麗華の攻撃が押し潰されたのを見て、俺と秋臣は驚いていた。
『光ってますが、あの炎と氷は僕の勘違いじゃなければ……』
『ああ、今まで何度も見たから間違いない。あの光る炎と氷はシスティーゾと鈴 麗華のものだな』
『ですよね。それにクレーターの底の方から放たれたという事は』
『異能力図鑑がシスティーゾと鈴 麗華の異能力を記録して使えるようになったって事だ』
『お、落ち着いてください』
『秋臣、悪い』
システィーゾと鈴 麗華の異能力を使われたという事実にイラつき、俺は殺気をあふれさせる。
しかし、すぐに秋臣が俺をなだめたため冷静さを取り戻せた。
『秋臣君、今の殺気は鶴見君のものかしら?』
『そうです。システィーゾと鈴先輩の異能力を使われた事に怒ってます』
『おい、秋臣⁉︎』
秋臣が流々原先生に俺の事をしれっと説明しやがった。
『鶴見君が少なくとも怒れる状態だとわかって良かったわ。秋臣君、鶴見君に身体のケガは、あと少しで完治すると伝えてくれる?』
『流々原先生、表に出ていなくても外の事は僕の感覚を通してわかっているので大丈夫です。このまま言ってください』
『あら、そうなの。それじゃあ、鶴見君、才歪からあなたにかけられた衰弱を解く事はできていないわ。秋臣君の身体を治してながらいろいろと解析してみたけど、やっぱり衰弱を施した才歪本人をどうにかするしかなさそうっていうのが結論よ』
えぐられた内臓がこの短時間で治るとは、やはり本職の治癒術は心強い。
そしてそれと同時にその本職である流々原先生でも対処できない才歪の異能力の厄介さをも味あわされている。
追い込まれていたとは言え、才歪の攻撃を受けてしまったあの時の俺自身が原因だから誰にも怒りをぶつけられない。
あー……、つくづく情けなさ過ぎる。
『どう? 鶴見君には伝わったかしら?』
『はい、大丈夫です。今は少し落ち込んでるみたいですが、長く引きずる性格ではないので安心してください』
『おい、秋臣‼︎ 俺の事を細かく説明するんじゃねえ‼︎ それよりもシスティーゾ達が大丈夫か聞け‼︎』
『あはは、ごめんなさい。学園長、システィーゾ達は大丈夫なんですか? 異能力図鑑さんの手札がまた増えたんですよね?』
こういう状況じゃなかったら秋臣と気軽なやりとりができている事に嬉しさを感じるんだろうが、今はそれどころじゃない。
状況が動き続けている今を黒鳥夜 綺寂はどうとらえているのか確かめるため、秋臣の感覚を通して黒鳥夜 綺寂を見たら意外と言えばおかしいが落ち着いていた。
『正直に言えば異能力図鑑に私達の異能力を盗られる前に決着をつけるのが理想ではありました』
『学園長……』
『異能力図鑑に新たな力を与えてしまうという悪い展開にはなってしまいましたが、決して最悪ではありません。システィーゾ君達はまだ異能力を使えているので戦力は今までのまま。こちらに健がいるという事を考えれば、異能力図鑑側が強化されたぐらいなら許容範囲です』
…………まあ、黒鳥夜 綺寂の説明は納得できるか。
このまま状況をジッと見ているよりかは俺も何かするべきだな。
『秋臣、俺は表に出れた時のために研ぎ澄ます。集中するから、もし状況が大きく動きそうになったら教えてくれ』
『わかりました。今は任せてください』
『おう、頼む』
俺は秋臣答えた後、奥底で片膝を抱えるように座り目を閉じた。
すぐ近くで俺を見ている葛城ノ剣の視線を感じるが、それも無視して呼吸を深く深く繰り返す。
ただただ己を一振りの剣とするために……。
◆◆◆◆◆
クレーターの底から放たれた光る炎と氷は、次の瞬間に消えた。
そしてその数瞬後、今度は光る竜巻がクレーターの底から立ち昇る。
全く攻撃の意思を感じられないこの竜巻に何の意味があるのかわからなかったものの、光る竜巻の中を異能力図鑑と才歪が浮き上がってきたのを見て理解した。
「チッ、新しい手札を手に入れてはしゃいでるだけかよ。舐めやがって‼︎」
「はっはっは、君達からすれば確かにそう見えるだろう。だが、我輩にとっては、ようやく訪れた待ち望んだ瞬間なのだ。はしゃぐくらいは多めに見てもらいたい」
「消し飛べ‼︎」
「ふむ、先ほどぶつかり合った結果を忘れているらしい」
俺はのんきに話している異能力図鑑に向かって全力の炎を放ったが、俺の炎は光る竜巻の外側に生まれた光る炎の壁で防がれてしまう。
「…………さっきのは、たまたまじゃなかったわけか」
「その通り‼︎ 我輩は君達四人の異能力を我輩の図鑑に吸収登録した事で、まず君達の異能力を半分ほどの出力で扱えるようになった。さらに精霊級の異能力を四つも登録できたため、我輩の図鑑は強化されこれまで不可能だった事をできるようになっている‼︎」
異能力図鑑の今までで一番大きな動作と声が、どれくらい興奮しているかを表していて本当にウザい。
「この光る炎や竜巻は、我輩の光の異能力と君達の炎と風の異能力を合わせたもの。つまり我輩は二つの異能力を融合させ威力をはね上げる事ができるようになったのだ‼︎ この後、黒鳥夜 綺寂の異能力を記録した時にどうなるかが楽しみである。ふは、ふははははははははは‼︎」
「愚かだな」
「…………何?」
「聞こえなかったか? 愚かだと言ったんだ。それに加えてくだらないとも思っている」
「ほうほう、我輩を愚かと言うか。それなら、なぜそう思ったか説明してくれるかね?」
「良いぞ。説明も体験もさせてやるよ」
バチンッ‼︎
龍造寺が指を弾くと、異能力図鑑の生み出した炎と竜巻が形を失っていく。
「おおおう‼︎ 我輩の炎と竜巻が……」
「お前の図鑑から発生した炎と風にお前の光が混ざっていても、システィーゾ君の炎や|風夏《いりはね》さんの風と同じものなら俺は消せる」
あ、身体を浮かせていた竜巻が崩れた事で空中に放り出されたが、すぐに才歪によって身体を支えられその後クレーターの外へ飛び出した。
「自分の異能力の事は本能的にある程度わかるとは言え、どんな副作用が起きるか実際に使ってみないとわからない面もある。それにも関わらず絶対的不利な状況にまで追い詰められたわけでもないお前が、嬉々として新たな手札を使うのは愚か以外の何ものでもないだろう?」
「貴様……」
「…………挑発ニ乗ラナイデ」
「挑発? 違うな。単なる事実だ。才歪、お前も少し考えればわかる事を見逃して異能力図鑑に新たな手札を切らせている。口先だけの薄っぺらい制止は白々しいぞ」
「「…………」」
異能力図鑑と才歪の視線と意識が龍造寺の間違いなく挑発だろう発言で俺からそれた。
できるだけ静かで発動速度の速い攻撃を準備し放つ。
ズドン‼︎‼︎
直撃して爆音と土煙が起きた……が、煙の間から見えたのは光る炎の壁。
「無駄だと言うのが理解できないのか? 少年の炎は我輩に意味をなさんよ」
「クソが……」
「システィーゾ、そのまま異能力図鑑への攻撃を続けろ」
「あ?」
龍造寺の何一つ動揺していない淡々とした声が聞こえ振り向いたら、龍造寺は異能力図鑑へ指先を上にしたままの右腕を伸ばしていた。
「システィーゾ、聞こえなかったか? 続けろ」
「お、おう‼︎ おらあっ‼︎」
「何度やっても少年の炎だけでは無意味だ‼︎」
バチンッ‼︎
異能力図鑑が迫ってくる俺の炎を防ごうと光る炎の壁を展開した時、龍造寺は指を弾く。
すると、異能力図鑑の光る炎の壁は揺らめいていたその動きを止め、ただの光の壁となった。
「な⁉︎ うぐおおお‼︎」
「…………異能力図鑑⁉︎」
「お前の光る炎の壁はシスティーゾの炎を防げる。それなら俺が光る炎の壁から炎を消し去れば良いだけだ」
「お、おのれ……」
光の壁をぶち破った俺の炎の直撃を受けた異能力図鑑は、吹き飛んで数回地面を跳ねた後少しふらつきながら立ち上がる。
…………チッ、俺の炎が直撃した割にあんまりダメージを受けてないな。
「雷門さん、風夏さん、鈴、システィーゾ、異能力図鑑はみんなの異能力を吸収した事で、雷、風、氷、炎に耐性ができている。そのおかげでシスティーゾの炎をくらっても俺をにらんでこれるくらいの軽傷で済んでいるわけだが、やはり四人が持っている本来の耐性にはほど遠い。加えて俺が異能力図鑑の防御を乱せば奴は四人の攻撃を防ぐ事は不可能。このまま畳み掛ければ倒せるから攻撃を続けてくれ」
「そういう事か。全力でやってやるよ‼︎」
「会長、了解しました」
「はっはっはっ、わかりやすくて良い‼︎ なあ、風夏⁉︎」
「同感です」
俺と鈴が腕を、雷野郎と風女が全身を精霊化させいっせいに攻撃を浴びせていく。
「ヌオオオオオッ‼︎ なめ、るな‼︎」
「今度は重力と鈴の氷を合わせた超重量、超硬度の氷か。その防御力には目を見張るものがあるだろう。しかし無駄だ」
バチンッ‼︎
再び龍造寺が指を弾くと、異能力図鑑と才歪の周りを覆っていた氷は崩れ二人へ俺達の攻撃が殺到した。
ズドーーーーンッ‼︎‼︎
…………よし、重力で俺達の攻撃の軌道がそらされたとしても、あの至近距離で炸裂したなら絶対にダメージを受けているはずだが、俺はここで攻撃を緩める必要はないと判断して、さらなる追撃をしかける。
「はあっ、うおっ⁉︎」
「きゃあっ⁉︎」
まさに追撃を放とうとした瞬間、身体をぐいっと強く引っ張られて追撃を中断してしまう。
ブレた視界が安定したため何が起こったのか見回すと、俺と鈴は雷野郎に抱えられていた。
そして、すぐに雷野郎の腕から抜け出そうとしたら俺と鈴のいた辺りの土煙がバンッと弾ける。
「…………俺と鈴は反撃されたのか」
「さっきの俺達の攻撃を受けても反撃されるとは思わなかった。ギリギリの回避になったのは許せよ」
「武鳴隊長、ありがとうございます」
「悪い、助かった」
「おう。それよりおろすぞ。あいつらから目を離すな」
土煙が晴れて見えてきたのは、服が焼け焦げ片膝をつきながら肩で息をしている異能力図鑑と、パッと見無傷でいつでも攻撃するために構えている才歪。
俺達の攻撃を受けたにしてはダメージが少ないのは龍造寺の言っていた通り炎、氷、雷、風への耐性ができているからだとして、才歪が無傷なのはどういう事だ?
「…………異能力図鑑、助がっだわ」
「とっさに光と重力を合わせた壁をお前の周りに作れた自分が誇らしいのである。才歪、今の我輩達に不利な状況を覆す手段は一つ。頼めるか?」
「…………任ぜで。私が龍造寺を始末ずるわ」
なるほど、身体を張って才歪を守ったわけか。
そうまでして残した対龍造寺の手札である才歪がグッと腰を落として力を溜めた。
一目で俺は才歪が一気にこっちへ近づき龍造寺をしとめるつもりだと判断して、攻撃対象を異能力図鑑から才歪に変えようとする。
しかし、龍造寺から待ったがかかった。
「システィーゾ、さっき俺は異能力図鑑への攻撃を続けろと言ったはずだぞ」
「はあっ⁉︎ 龍造寺、お前の異能力は才歪に効きづらいんだろ⁉︎ 今てめえがやられるのは困るんだよ‼︎」
「…………何を勘違いしてるんだ、システィーゾ」
「何だと⁉︎」
「俺を守るのはお前じゃない。吾郷学園の生徒会を舐めるな。みんな、俺を守ってくれ」
「了解‼︎」
生徒会書記の奈綱が掌と拳を打ち合わせながら答えたと同時に、生徒会の奴らは龍造寺の前に出て陣形を組む。
うん? 生徒会会計の斗々皿は定位置なんかないと示すようにフラフラ歩いている?
疑問しかない陣形だが、龍造寺があの先頭は奈綱でその少し後ろに荒幡、副会長は龍造寺の右隣に並びつつ斗々皿がフラフラ歩いているという陣形に何も言わないなら意味はあるんだろう。
俺が一人で納得していたら、才歪は動きを止めた。
「…………私の目的ば龍造寺だげ。あなだ達にば無理」
「そういう事は私達を倒してから言った方が良いわよ?」
「…………後悔じなざい」
くそ、絶対に注意するべきなのは異能力図鑑なのに、生徒会が才歪とどう戦うのか気になってしょうがないぞ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
「面白かった!」、「続きが気になる、読みたい!」、「今後どうなるのっ……!」と思ったら、お気に入りの登録を、ぜひお願いします。
また感想や誤字脱字報告もお待ちしています。
『光ってますが、あの炎と氷は僕の勘違いじゃなければ……』
『ああ、今まで何度も見たから間違いない。あの光る炎と氷はシスティーゾと鈴 麗華のものだな』
『ですよね。それにクレーターの底の方から放たれたという事は』
『異能力図鑑がシスティーゾと鈴 麗華の異能力を記録して使えるようになったって事だ』
『お、落ち着いてください』
『秋臣、悪い』
システィーゾと鈴 麗華の異能力を使われたという事実にイラつき、俺は殺気をあふれさせる。
しかし、すぐに秋臣が俺をなだめたため冷静さを取り戻せた。
『秋臣君、今の殺気は鶴見君のものかしら?』
『そうです。システィーゾと鈴先輩の異能力を使われた事に怒ってます』
『おい、秋臣⁉︎』
秋臣が流々原先生に俺の事をしれっと説明しやがった。
『鶴見君が少なくとも怒れる状態だとわかって良かったわ。秋臣君、鶴見君に身体のケガは、あと少しで完治すると伝えてくれる?』
『流々原先生、表に出ていなくても外の事は僕の感覚を通してわかっているので大丈夫です。このまま言ってください』
『あら、そうなの。それじゃあ、鶴見君、才歪からあなたにかけられた衰弱を解く事はできていないわ。秋臣君の身体を治してながらいろいろと解析してみたけど、やっぱり衰弱を施した才歪本人をどうにかするしかなさそうっていうのが結論よ』
えぐられた内臓がこの短時間で治るとは、やはり本職の治癒術は心強い。
そしてそれと同時にその本職である流々原先生でも対処できない才歪の異能力の厄介さをも味あわされている。
追い込まれていたとは言え、才歪の攻撃を受けてしまったあの時の俺自身が原因だから誰にも怒りをぶつけられない。
あー……、つくづく情けなさ過ぎる。
『どう? 鶴見君には伝わったかしら?』
『はい、大丈夫です。今は少し落ち込んでるみたいですが、長く引きずる性格ではないので安心してください』
『おい、秋臣‼︎ 俺の事を細かく説明するんじゃねえ‼︎ それよりもシスティーゾ達が大丈夫か聞け‼︎』
『あはは、ごめんなさい。学園長、システィーゾ達は大丈夫なんですか? 異能力図鑑さんの手札がまた増えたんですよね?』
こういう状況じゃなかったら秋臣と気軽なやりとりができている事に嬉しさを感じるんだろうが、今はそれどころじゃない。
状況が動き続けている今を黒鳥夜 綺寂はどうとらえているのか確かめるため、秋臣の感覚を通して黒鳥夜 綺寂を見たら意外と言えばおかしいが落ち着いていた。
『正直に言えば異能力図鑑に私達の異能力を盗られる前に決着をつけるのが理想ではありました』
『学園長……』
『異能力図鑑に新たな力を与えてしまうという悪い展開にはなってしまいましたが、決して最悪ではありません。システィーゾ君達はまだ異能力を使えているので戦力は今までのまま。こちらに健がいるという事を考えれば、異能力図鑑側が強化されたぐらいなら許容範囲です』
…………まあ、黒鳥夜 綺寂の説明は納得できるか。
このまま状況をジッと見ているよりかは俺も何かするべきだな。
『秋臣、俺は表に出れた時のために研ぎ澄ます。集中するから、もし状況が大きく動きそうになったら教えてくれ』
『わかりました。今は任せてください』
『おう、頼む』
俺は秋臣答えた後、奥底で片膝を抱えるように座り目を閉じた。
すぐ近くで俺を見ている葛城ノ剣の視線を感じるが、それも無視して呼吸を深く深く繰り返す。
ただただ己を一振りの剣とするために……。
◆◆◆◆◆
クレーターの底から放たれた光る炎と氷は、次の瞬間に消えた。
そしてその数瞬後、今度は光る竜巻がクレーターの底から立ち昇る。
全く攻撃の意思を感じられないこの竜巻に何の意味があるのかわからなかったものの、光る竜巻の中を異能力図鑑と才歪が浮き上がってきたのを見て理解した。
「チッ、新しい手札を手に入れてはしゃいでるだけかよ。舐めやがって‼︎」
「はっはっは、君達からすれば確かにそう見えるだろう。だが、我輩にとっては、ようやく訪れた待ち望んだ瞬間なのだ。はしゃぐくらいは多めに見てもらいたい」
「消し飛べ‼︎」
「ふむ、先ほどぶつかり合った結果を忘れているらしい」
俺はのんきに話している異能力図鑑に向かって全力の炎を放ったが、俺の炎は光る竜巻の外側に生まれた光る炎の壁で防がれてしまう。
「…………さっきのは、たまたまじゃなかったわけか」
「その通り‼︎ 我輩は君達四人の異能力を我輩の図鑑に吸収登録した事で、まず君達の異能力を半分ほどの出力で扱えるようになった。さらに精霊級の異能力を四つも登録できたため、我輩の図鑑は強化されこれまで不可能だった事をできるようになっている‼︎」
異能力図鑑の今までで一番大きな動作と声が、どれくらい興奮しているかを表していて本当にウザい。
「この光る炎や竜巻は、我輩の光の異能力と君達の炎と風の異能力を合わせたもの。つまり我輩は二つの異能力を融合させ威力をはね上げる事ができるようになったのだ‼︎ この後、黒鳥夜 綺寂の異能力を記録した時にどうなるかが楽しみである。ふは、ふははははははははは‼︎」
「愚かだな」
「…………何?」
「聞こえなかったか? 愚かだと言ったんだ。それに加えてくだらないとも思っている」
「ほうほう、我輩を愚かと言うか。それなら、なぜそう思ったか説明してくれるかね?」
「良いぞ。説明も体験もさせてやるよ」
バチンッ‼︎
龍造寺が指を弾くと、異能力図鑑の生み出した炎と竜巻が形を失っていく。
「おおおう‼︎ 我輩の炎と竜巻が……」
「お前の図鑑から発生した炎と風にお前の光が混ざっていても、システィーゾ君の炎や|風夏《いりはね》さんの風と同じものなら俺は消せる」
あ、身体を浮かせていた竜巻が崩れた事で空中に放り出されたが、すぐに才歪によって身体を支えられその後クレーターの外へ飛び出した。
「自分の異能力の事は本能的にある程度わかるとは言え、どんな副作用が起きるか実際に使ってみないとわからない面もある。それにも関わらず絶対的不利な状況にまで追い詰められたわけでもないお前が、嬉々として新たな手札を使うのは愚か以外の何ものでもないだろう?」
「貴様……」
「…………挑発ニ乗ラナイデ」
「挑発? 違うな。単なる事実だ。才歪、お前も少し考えればわかる事を見逃して異能力図鑑に新たな手札を切らせている。口先だけの薄っぺらい制止は白々しいぞ」
「「…………」」
異能力図鑑と才歪の視線と意識が龍造寺の間違いなく挑発だろう発言で俺からそれた。
できるだけ静かで発動速度の速い攻撃を準備し放つ。
ズドン‼︎‼︎
直撃して爆音と土煙が起きた……が、煙の間から見えたのは光る炎の壁。
「無駄だと言うのが理解できないのか? 少年の炎は我輩に意味をなさんよ」
「クソが……」
「システィーゾ、そのまま異能力図鑑への攻撃を続けろ」
「あ?」
龍造寺の何一つ動揺していない淡々とした声が聞こえ振り向いたら、龍造寺は異能力図鑑へ指先を上にしたままの右腕を伸ばしていた。
「システィーゾ、聞こえなかったか? 続けろ」
「お、おう‼︎ おらあっ‼︎」
「何度やっても少年の炎だけでは無意味だ‼︎」
バチンッ‼︎
異能力図鑑が迫ってくる俺の炎を防ごうと光る炎の壁を展開した時、龍造寺は指を弾く。
すると、異能力図鑑の光る炎の壁は揺らめいていたその動きを止め、ただの光の壁となった。
「な⁉︎ うぐおおお‼︎」
「…………異能力図鑑⁉︎」
「お前の光る炎の壁はシスティーゾの炎を防げる。それなら俺が光る炎の壁から炎を消し去れば良いだけだ」
「お、おのれ……」
光の壁をぶち破った俺の炎の直撃を受けた異能力図鑑は、吹き飛んで数回地面を跳ねた後少しふらつきながら立ち上がる。
…………チッ、俺の炎が直撃した割にあんまりダメージを受けてないな。
「雷門さん、風夏さん、鈴、システィーゾ、異能力図鑑はみんなの異能力を吸収した事で、雷、風、氷、炎に耐性ができている。そのおかげでシスティーゾの炎をくらっても俺をにらんでこれるくらいの軽傷で済んでいるわけだが、やはり四人が持っている本来の耐性にはほど遠い。加えて俺が異能力図鑑の防御を乱せば奴は四人の攻撃を防ぐ事は不可能。このまま畳み掛ければ倒せるから攻撃を続けてくれ」
「そういう事か。全力でやってやるよ‼︎」
「会長、了解しました」
「はっはっはっ、わかりやすくて良い‼︎ なあ、風夏⁉︎」
「同感です」
俺と鈴が腕を、雷野郎と風女が全身を精霊化させいっせいに攻撃を浴びせていく。
「ヌオオオオオッ‼︎ なめ、るな‼︎」
「今度は重力と鈴の氷を合わせた超重量、超硬度の氷か。その防御力には目を見張るものがあるだろう。しかし無駄だ」
バチンッ‼︎
再び龍造寺が指を弾くと、異能力図鑑と才歪の周りを覆っていた氷は崩れ二人へ俺達の攻撃が殺到した。
ズドーーーーンッ‼︎‼︎
…………よし、重力で俺達の攻撃の軌道がそらされたとしても、あの至近距離で炸裂したなら絶対にダメージを受けているはずだが、俺はここで攻撃を緩める必要はないと判断して、さらなる追撃をしかける。
「はあっ、うおっ⁉︎」
「きゃあっ⁉︎」
まさに追撃を放とうとした瞬間、身体をぐいっと強く引っ張られて追撃を中断してしまう。
ブレた視界が安定したため何が起こったのか見回すと、俺と鈴は雷野郎に抱えられていた。
そして、すぐに雷野郎の腕から抜け出そうとしたら俺と鈴のいた辺りの土煙がバンッと弾ける。
「…………俺と鈴は反撃されたのか」
「さっきの俺達の攻撃を受けても反撃されるとは思わなかった。ギリギリの回避になったのは許せよ」
「武鳴隊長、ありがとうございます」
「悪い、助かった」
「おう。それよりおろすぞ。あいつらから目を離すな」
土煙が晴れて見えてきたのは、服が焼け焦げ片膝をつきながら肩で息をしている異能力図鑑と、パッと見無傷でいつでも攻撃するために構えている才歪。
俺達の攻撃を受けたにしてはダメージが少ないのは龍造寺の言っていた通り炎、氷、雷、風への耐性ができているからだとして、才歪が無傷なのはどういう事だ?
「…………異能力図鑑、助がっだわ」
「とっさに光と重力を合わせた壁をお前の周りに作れた自分が誇らしいのである。才歪、今の我輩達に不利な状況を覆す手段は一つ。頼めるか?」
「…………任ぜで。私が龍造寺を始末ずるわ」
なるほど、身体を張って才歪を守ったわけか。
そうまでして残した対龍造寺の手札である才歪がグッと腰を落として力を溜めた。
一目で俺は才歪が一気にこっちへ近づき龍造寺をしとめるつもりだと判断して、攻撃対象を異能力図鑑から才歪に変えようとする。
しかし、龍造寺から待ったがかかった。
「システィーゾ、さっき俺は異能力図鑑への攻撃を続けろと言ったはずだぞ」
「はあっ⁉︎ 龍造寺、お前の異能力は才歪に効きづらいんだろ⁉︎ 今てめえがやられるのは困るんだよ‼︎」
「…………何を勘違いしてるんだ、システィーゾ」
「何だと⁉︎」
「俺を守るのはお前じゃない。吾郷学園の生徒会を舐めるな。みんな、俺を守ってくれ」
「了解‼︎」
生徒会書記の奈綱が掌と拳を打ち合わせながら答えたと同時に、生徒会の奴らは龍造寺の前に出て陣形を組む。
うん? 生徒会会計の斗々皿は定位置なんかないと示すようにフラフラ歩いている?
疑問しかない陣形だが、龍造寺があの先頭は奈綱でその少し後ろに荒幡、副会長は龍造寺の右隣に並びつつ斗々皿がフラフラ歩いているという陣形に何も言わないなら意味はあるんだろう。
俺が一人で納得していたら、才歪は動きを止めた。
「…………私の目的ば龍造寺だげ。あなだ達にば無理」
「そういう事は私達を倒してから言った方が良いわよ?」
「…………後悔じなざい」
くそ、絶対に注意するべきなのは異能力図鑑なのに、生徒会が才歪とどう戦うのか気になってしょうがないぞ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
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お帰りなさい。
待ってました。
続き、楽しみです。
こんばんは。
お待たせしてすみませんでした。
そう言っていただけて本当に光栄です。
これからも体調に気を付けて執筆を続けていくので、最後まで読んでもらえると嬉しいです。
第一章の第9話のルビが変なことになっています。恐らく、ルビにするか否かの区切りが甘いせいだと思います。
こんにちは。
改めて見直してみます。
ご指摘ありがとうございました。
おもしろい!
お気に入りに登録しました~
こんばんは。
本当に、本当にありがとうございます‼︎
これを励みに、これからも更新していくので最後まで読んでもらえると嬉しいです。