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第5章 異世界の男は斬る

第32話

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『ようやく確認したい事が見れますね。これで態勢が整います』

 そうつぶやいた黒鳥夜くろとや 綺寂きじゃくは、妙な現象の中心にいるだろう異能力図鑑を画像越しににらみ龍造寺りゅうぞうじへ話しかける。

たける、準備はできたかしら?』
『すみません。完全相殺は、すぐには無理そうです』
たけると異能力図鑑の異能力の相性差か、異能力の格の違いでしょうか。想定以上でしたね……』
『ですが、やれる事は増えました。これより、異能力図鑑と才歪さいびつを倒すために動きます』
『お願いするわ。でも、全員無事に帰ってくるのよ』
『わかっています』

 黒鳥夜くろとや 綺寂きじゃくの口調からして、吾郷ごきょう学園生徒会長である龍造寺りゅうぞうじたけるは本当に切り札のようだな。

◆◆◆◆◆

 俺達四人の攻撃は確かに異能力図鑑と才歪さいびつの隠れているだろう場所へ命中した。

 しかし、その結果生まれたのは大爆発を起こしそうな光で、今現在その光は少しずつ縮んでいて、俺達はそれを見ているしかない。

「チッ、何なんだ、あれは⁉︎」
「私に言われてもわからないわ‼︎」
「だったら、もう一度攻撃して消し飛ばしてやる‼︎ おい、りん、雷野郎、風女、今度は俺に合わせろ‼︎」
「ちょっ、ああ、もう、どうなっても知らないわよ‼︎」

 りんの言っている通りどうなるかはわからない。

 だが、俺の勘がこのまま黙って見ている方がまずいと告げている。

 俺は無理やり状況を動かすためにりん達へ叫び攻撃体勢に入ると、りん達も迷いながら続いたのが気配でわかった。

 たぶん、この辺りが吹き飛び地形が変わってしまうが構うか‼︎

 パチンッ‼︎

「あ……?」

 俺達の放とうとした炎と氷と雷と風は全て消えてしまう

 こんな事ができるのは一人しかいないから、そいつを見てにらむ。

龍造寺りゅうぞうじ、てめえ、どういうつもりだ⁉︎」
「システィーゾ、少し静かにしていろ。邪魔だ」
「…………上等じゃねえか。まず、てめえから消し飛ばしてやる‼︎」

 このわけがわからない状況を抜けるための攻撃を妨害するなら敵だと認識し、俺は龍造寺りゅうぞうじへ炎の塊となった手を向ける。

 しかし、龍造寺りゅうぞうじは俺を見ずに、ただ自分の右手の指先へ視線を集中していた。

「おい、龍造寺りゅうぞうじ‼︎」
「…………」
「聞けよ、この野郎‼︎」
「システィーゾ君」
「なんだ⁉︎」
「このまま龍造寺りゅうぞうじ会長に任せて、私達は待機しましょう」
「は? ふ、ふざけんな‼︎ まずい状況なのがわかんねえのかよ⁉︎」
「わかってるわ‼︎ 私だってそれなりに修羅場を潜ってるの。あなたに言われなくてもビリビリ感じてる」
「それなら……」
「できる事を全部試すべき。そうじゃない?」
「う……」

 りんの言葉に何も言えなくなってしまう。

 それに今気づいたが、見回せば雷野郎も風女も生徒会の連中も全員が龍造寺りゅうぞうじを見ていた。

 …………くそ、この場の軸は俺じゃない。

「…………やれるか? いや、やるんだ。完全なものじゃなくて良い」
「何ブツブツ言ってやがる。やるならさっさとやれよ」
鶴見つるみ君がやられそうになった時に勢いで出てきた私達と違って、きちんと整えてるんだと思うわ」
「チッ……、りん、言っておくが、期待させるだけさせといて何もできなかったら先に龍造寺りゅうぞうじを消し飛ばすからな?」
「そんな余裕あるのかどうかわからないけど、今は会長が動くみたいだから大人しくしておきましょう」

 りんに言われて龍造寺りゅうぞうじを見ると、龍造寺りゅうぞうじは指先を上に向けたまま異能力図鑑達ほ方へ右手を伸ばしていた。

 …………あいつのあんな厳しい表情は初めて見るな。

 それだけ、これからやる事は難しいのか。

 俺を含めた全員の視線が注がれる中、龍造寺りゅうぞうじは目を閉じて一度大きく深呼吸をする。

 そして…………、バヂンッ‼︎

「う、くぅ……」
たける‼︎」
「「「「会長‼︎」」」」
「俺の事は構うな」

 今まで聞いた事のない濁った音が響くと龍造寺りゅうぞうじが右手を押さえて膝をついたため、生徒会の連中が近寄ろうとしたものの龍造寺りゅうぞうじは止めた。

「少し反動を食らっただけだ。それより全員、いつでも攻撃を再開できるよう戦闘体勢をとれ。あれの変化を見逃すな」
「何だと……?」

 龍造寺りゅうぞうじの言葉に全員が妙な現象の起こっている方を見ると、少しずつ縮んでいた半球状の光の輪郭がブレ始めている。

 …………いや、あの光が不安定になるのはまずいんじゃねえのか?

「待て、システィーゾ」
「あ?」

 俺はとっさに炎で防壁を作ろうとしたが、龍造寺りゅうぞうじは止めてきた。

「俺は攻撃態勢をとれと言ったぞ?」
「あれは、どう考えてもやばいだろうが‼︎ 誰でも身を守ろうとしてするだろ‼︎」
「このまま放っておけばそうなるだろう。しかし、俺がそれを許すと思うか?」

 そう言うと龍造寺りゅうぞうじは立ち上がり右手の状態を確かめる。

「……できるのかよ?」
吾郷ごきょう学園の生徒会長は飾りじゃないってところを見せてやる」

 龍造寺りゅうぞうじの真剣さを感じ取った俺は、それ以上言う事をやめて炎の塊になった手に意識を集中させた。

 もう、ぐちゃぐちゃわめくのも考えるのも無しだな。

 俺は俺らしく邪魔な奴を消し飛ばすチャンスが来たら、絶対に消し飛ばす事を最優先に行動するんだ。

 視界の端で、龍造寺りゅうぞうじが再び指先を上に向けたまま右手を不安定になっている光へ伸ばすのを認識する。

 そして…………、バチンッ‼︎

 さっきよりはマシになった指を弾く音が響いたら、輪郭が不安定にブレていた光は一瞬止まった後に外側からボロボロと崩れて消えていく。

 ははは、いつもの俺の炎をパッと消した時に比べたら、かなり雑ではあるものの本当に何とかしやがったか。

 だったら俺も異能力図鑑と才歪さいびつを消し飛ばさないとな‼︎

 俺は気合いを入れ直し早く姿を見せろと消えていく光をにらんでいたら、残っていた半分ほどの光がギュルギュル渦を巻きながら中心へ集まっていた。

 まあ、そんな事をするのは一人しかいない。

 俺ははっきりと光の集まっていく中心を確認した後、そこに全力で炎をぶっ放した。

 ズガーーーーーン‼︎‼︎‼︎

 直撃した俺の炎と光が誘爆を起こし、激震と発光と衝撃波が発生する。

「うおおお‼︎ やり過ぎ……だが、これくらいでちょうど良い‼︎」
「ちょっと、吹き飛ばされながら胸を張らないで‼︎」
「お、りん、悪いな」

 りんの氷に受け止められた俺は、そのままりんの作った氷の防壁に隠れると中には他の連中もいた。

「へえ、雷野郎と風女もここに避難したんだな」
「貴様、やるなら事前に合図を出せ‼︎ 万が一にも学園や我らに被害が出たらどうするつもりだ‼︎」
「あの光を集めてたのは異能力図鑑だぞ? 下手に合図を出したら、どうされるかもわからない。さらにあいつがあの光をどうするつもりなのかは知らないが、余計な力をつけさせるよりはマシだろ?」
「く……、それは、確かに……そうだが……」
「問題は」
「この爆発で、あの二人がどうなったか、だな」

 さらに何か言いたそうな風女を無視して、氷の防壁から顔を出して立ち込める土煙の向こうをにらみながら言うと、雷野郎が俺と同じように土煙をにらみつけながらつぶやく。

風夏ふうか、土煙の処理を頼めるか?」
「隊長、了解しました。はあっ‼︎」

 風女が強風を発生させ土煙を吹き飛ばすと、俺の炎と光の誘爆が起こした被害が見えてきた。

 あー……、完全に地面が大きくえぐれてやがるな。

 爆心地がクレーター状になるのは仕方ないとして、異能力図鑑と才歪さいびつはどこだ?

 俺は、その場にいる全員にクレーターの底を確認しにいくと告げて歩き出す。

◆◆◆◆◆

 もしかしたら空間の異能力を使い奇襲をしかけてくるかもしれないため、警戒しながら数分かけてクレーターの端に到着し底からの射線に入らないようしゃがんだ。

 ちなみにクレーターの底を確認できる位置にいるのは俺と雷野郎の二人で、俺達の少し後ろにりんと風女、さらにりん達の少し後ろで生徒会の連中が龍造寺りゅうぞうじを中心した陣形で周囲を警戒している。

 俺は後ろへ振り返りクレーターの底をのぞくとハンドサインで告げると、りんと風女と龍造寺りゅうぞうじがうなずき返してきた。

 隣にいる雷野郎にもハンドサインを伝えると、雷野郎は待てのハンドサインを出す。

 この状況で待てるかと文句を言おうとしたら、雷野郎はまず自分が先に確認するというハンドサインをして身体に雷をまとった。

 まあ、雷と同じ速さで動ける雷野郎の方があらゆるパターンに対応しやすいのは確かだなと納得して、俺は二歩下がる。

 雷野郎が俺達に見えるように指を三本立てる。

 次に指が二本になった。

 その次に指が一本になった。

 最後に指を全部折ってから雷野郎がクレーターの端から慎重に底の方を覗き込んだ。

 次の瞬間、バツンッという高電圧のものが弾けた音とギャギャギャという高速で動いているもの同士が擦れ合う音がしてから、雷野郎は跳び退いた。

「悪い予想は当たるものだな。あれだけの爆発に巻き込まれて、すぐさま攻撃してこれるのは驚異的としか言えん‼︎」
「隊長⁉︎ 大丈夫ですか⁉︎」
「異能力図鑑の光線も才歪さいびつの高速の突きもさばいたから問題ないぞ。やはり事前にあいつらの攻撃方法を見れたのは大きいな。あとで鶴見つるみに感謝を言うとしよう」
「ぐ……、そ、そうですね」

 風女の口調に苦々しいものが混じっていて、この状況でも鶴見つるみの事が気に入らない感情を表に出すあたり筋金入りだなと感心してしまう。

 まあ、それはどうでも良いか。

 今重要なのは、異能力図鑑と才歪さいびつをどれだけ確実に消し飛ばせるかだ。

 俺が炎の塊になった手をりんへ見せたら、りんも自分の氷の塊になった腕を見せてうなずいてくる。

 ははは‼︎ こういう時に同じ事を考えられる奴が味方だとやりやすいな‼︎

 俺とりんは、それぞれ目の前に炎と氷の球体を作り出しその球体に思いっきり力を込めていった。

 生徒会の連中に雷野郎と風女、それと影を通して学園長のばあさんが何か言ってきている気もするが聞く必要はない。

 ただただひたすらに力を込めていく。

 そして、限界まで力を溜めきった後、りんと同時に炎と氷の弾丸を放った。

 俺達の弾丸は異能力図鑑と才歪さいびつのいる真上まで進んでから垂直に落ちる。

 数瞬後には俺とりんの弾丸が炸裂しクレーター内の全てを消し飛ばす…………はずだった。

「は……?」
「うそ……」
「「「「「…………」」」」」

 俺とりんの弾丸はキラキラ光を発する炎と氷に押しつぶされてしまう。

 だが、それは重要じゃない。

 いや、俺とりんの全力の攻撃が無効化されたのも問題と言えば問題だが、それよりもキラキラ光る炎と氷の方がもっと問題だ。

 あの炎と氷を見間違えるはずがない。

 変な光を放っているが、絶対に、間違いなく、あの炎と氷は、俺とりんの炎と氷だ‼︎



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

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