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第4章 異世界の男は手に入れる
第25話
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長い……。
いったい何秒、何分、何時間、こうして武鳴 雷門と鎬を削っているのかわからないが、音と色のない世界での感覚だから実際には十分も経っていないんだろう。
お互いに足を止めて俺は木刀と葛城ノ剣の連撃を、武鳴 雷門は両手の鋭い突きによる連撃を放ち続けている状況で、ほとんど互角のはず…………いや、徐々に俺の不利へと傾いてきているな。
まず俺の斬撃の円運動と武鳴 雷門の突きの直線運動なら、どう考えても直線運動の方が相手に当てるまでの距離が短いため、今はまだ勝っている俺の攻撃速度が少しでも鈍れば攻撃回数で上回られてしまう。
あとは俺の方が速く動いているという事は、それだけ体力の消耗も俺の方が多いという事……。
ガッ‼︎
くそっ、余計な事を考えたせいで武鳴 雷門の攻撃への対応が甘くなって顔に一発もらい、動きが止まってしまった。
『ヌ、オオオッ‼︎』
『う、く』
攻め時だと判断した武鳴 雷門はさらに攻撃を仕掛けてきたもののその攻撃が威力重視の大振りだったため、逆に俺の腕だけを強引に動かして加速させた一撃を打ち込めた。
『すー……、はー……。お互いに油断は禁物だな?』
『ふん……』
『それでは続きだ‼︎』
ほんの一瞬話した後に俺達は再び鎬を削り始める。
ふー……、やっぱりどんな時でも一回深呼吸をすれば気持ちを切り替えられるな。
俺の方が先に消耗していくのは変わらないが、それでも勝てるかどうかの迷いも攻め切れないイラだちもどうでも良い。
ただ、その時が来るまでひたすら攻め手を緩ませないだけだ。
◆◆◆◆◆
さらに体感で数分が過ぎると少しずつ武鳴 雷門の突きを当てられる回数が増えているから、明らかに俺の動きが遅くなってきたのを自覚した。
当然、俺と同じく動き続けている武鳴 雷門も鈍ってきていても間違いなく俺より余裕はある。
これは、その時が来たか……。
『おい、葛城ノ剣』
『何だ?』
俺は決めていた事を実行する前に武鳴 雷門からの被弾が増える事を覚悟しつつ奥底で秋臣のそばにいる葛城ノ剣へ話しかけると、すぐに返事はあったがその声色はひどく不機嫌だった。
どうやら俺が苦戦しているのが気に入らないらしい。
『時間がないから単刀直入に言うぞ』
『さっさと言え』
『このままだと俺の負けだが、俺は負けるために武鳴 雷門と戦い始めたわけじゃない』
『…………つまり、この状況でも何か策があると?』
『ああ。しかし、そのためには秋臣の身体にかなりの負担をかける事になるし、もしかしたら秋臣自身にも負荷が行く恐れがある。秋臣を守ると決めた俺が秋臣を傷つけるのは本末転倒としか言えないが、俺は勝ちたい』
『やれ』
『良いのか?』
『すでに武鳴 雷門の打撃で主人の身体は傷ついている。この事実はお前が勝っても負けても変わらない。それならば勝って終わりにしろ。主人は我が守る』
『わかった。次に俺が目を覚ますまで待ってろ。じゃあな』
『お前の負けは主人の負けになる。それだけは許さん』
そう言った後、葛城ノ剣は静かに沈黙した。
やる事は決まったため、前準備として俺は消耗して残り少なくなった体力を使い切る勢いで怒涛の攻めを加えると、武鳴 雷門の顔は驚きに染まる。
まあ、武鳴 雷門も俺が圧倒的に不利な現状に気づいているわけで、そんな俺が破れかぶれと言われてもおかしくない攻めに振り切るとは思わなかったのだろう。
武鳴 雷門は一時的とは言え俺の猛攻を浴び、たまらず大きく跳び退く。
俺が欲しかった隙間の時間ができたため、俺は両腕をだらりと下げて肩で息をする。
『はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……』
『…………どういうつもりだ?』
『はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、何がだ?』
『これでお前の負けは確定したぞ?』
『はあ……、はあ……、どうだろうな?』
『何……?』
『まあ、ここからが最終局面なのは確かだ』
『…………』
俺の宣言を聞いた武鳴 雷門はすぐさま構え直し、俺への警戒を最大限に上げた。
ははは、どれだけボロボロな相手でも逆転の一手を持っている可能性がある事をわかっている武鳴 雷門は強いな。
俺は、そんな風に感心しつつ目を閉じて深呼吸を始める。
『すー……、はー……、すー……、はー……、すー……、はー……』
『な、何をするつもりだ? それではまるで……』
うん? ああ、そうか。
武鳴 雷門は俺が音と色のない世界へ入るところを見ていたな。
『すー……、はー……、すー……、はー……、ここからの俺は限界を超える。そしてお前を倒しきるからそのつもりでいろ』
『じょ、上等だ‼︎ かかって来い‼︎』
気合を入れなおした武鳴 雷門の声を聞き終わった瞬間、俺は最後に大きく深呼吸をしてから目を開け新たな世界へと入った。
◆◆◆◆◆
俺が新たに入った世界には何もなかった。
音と色のない世界が白黒の無音声映画だったのに対して、この世界は音がないのは同じでも周りの風景は黒一色とまるで何も映っていない画面のようだ。
より正確に言えば、この黒塗りの世界は俺と白い輪郭の武鳴 雷門しか存在していないわけだが、これはもともと武鳴 雷門と戦うために研ぎ澄ませた感覚に加えて、普段なら無意識に周りへ割いている感覚すらも武鳴 雷門へ集中させた状態。
まさに現時点での俺の限界点だろう。
だが何より重要なのは、この世界で俺が正常に動けるのかもわからない事だ。
とりあえずぶっつけ本番で試していくしかない。
一歩目を踏み出す……いけた。
二歩目……いけた。
三歩目といきたいところだが思い切って走り出してみる……いけた。
徐々に速さを上げていく……いけた。
よし、俺はこの何もない世界でも動ける事がわかった。
ただ俺には時間がない。
武鳴 雷門との競り合いで身体は疲れが溜まりガタガタ、加えて長時間音と色のない世界に入り、さらに何もない世界へ入った事で精神的にも大事な何かがすり減り続けている。
確実にこの何もない世界にいられるのは一呼吸の間だけだな。
あの武鳴 雷門をごく短い時間で倒す…………やってやるよ。
俺は走りながら葛城ノ剣を消して跳び上がり、空中で木刀を両手に持ち変え振り上げる。
あとは全力で振り下ろすだけなんだが、チッ、ゆっくりと武鳴 雷門の構えが頭部を優先的に守る形へ変わっていき、それと同時に溜めた雷を今使い果たす勢いで輝きと放電が強くなったためか白さを増していく。
もはや武鳴 雷門には俺の動きを認識していないはずなのに、俺の攻撃を予想し対応しようとしているのはさすがだな。
俺は心の底から驚きつつ木刀を振り下ろし、着地後は無我夢中で武鳴 雷門へ木刀を当て続けた。
◆◆◆◆◆
気がつくと俺は片膝をついて荒い呼吸を繰り返していた。
…………何があったんだ?
手には何かを叩いた感触がはっきりと残っているのに俺はうずくまっている?
状況がわからず顔を上げて周りを見ると、まだ俺は音と色のない世界にいて俺から少し離れた場所に武鳴 雷門が頭部を守った状態で立っていた。
どうやら武鳴 雷門の様子から、俺は迎撃されたわけじゃないらしい。
おそらく息が続かなくなったせいでうずくまってい…………いや、そんな事よりも先に立って構えろ。
すぐに頭を切り替えたものの、身体は俺の意思に反して少しずつしか動かなかった。
身体の消耗具合にこのままじゃ武鳴 雷門の攻撃に対応できないと焦っていたら、ふとある事を疑問に思う。
どうして武鳴 雷門は、この状態の俺にとどめを刺してこない?
ボゴンッ‼︎
すると大きな打撃音が響き、頭部を守っていた武鳴 雷門の腕がへし折れた。
しかし、次の瞬間には放電が集中して治ったものの、すぐさま違う箇所が打撃音とともに大きく凹む。
当然、そこも放電とともに治るのだが、さらに別の部分が大きく陥没する。
俺の攻撃は全部当たっていたんだなと安心しながら、武鳴 雷門の身体が壊れ治っていくのを見ていた。
そして何度目かわからない打撃音が響いた時、武鳴 雷門が俺に目を向けた。
『…………見事だ』
『は?』
『お前の勝ちだ』
その言葉を最後に武鳴 雷門の身体から放電が無くなり、ただと打撃音と打撃痕が重なっていくだけとなる。
俺はその様子を見ても勝ちの実感が湧かずに呆然としていたが、しばらくした後打撃音が止んで武鳴 雷門の雷精化が解け倒れていくのを目にしてやっと勝てた事を認識してホッとした次の瞬間、安心して気が抜けたため音と色のない世界が解けてしまい一気に反動が押し寄せる。
「ひゅ……」
極度の疲労、呼吸困難、身体中の激痛、それと今まで遮断していた音や色や匂いなどの情報が押し寄せた事による激闘で弱った神経への過負荷という全てが俺に起こり、俺はうずくまったままピクリとも動けなくなった。
…………これは気絶もできない。
視界はチカチカする点滅とノイズのみになり、聞こえるザーッという不快な音に耐えながら、なんとかもう一度音と色のない世界へ入ろうとするが無理だった。
こうなったら諦めて少しでもマシな状態になるまで我慢するしかないと覚悟を決めた時、突然全ての嫌なものが消え失せ猛烈な眠気に襲われる。
『最高の戦いを見させてもらったわ』
その声は黒鳥夜 綺寂で、朦朧としている俺でも笑っているのがわかった。
『また後で話を聞かせてもらうわね。おやすみ』
これが俺の覚えている最後の瞬間だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
「面白かった!」、「続きが気になる、読みたい!」、「今後どうなるのっ……!」と思ったら、お気に入りの登録を、ぜひお願いします。
また感想や誤字脱字報告もお待ちしています。
いったい何秒、何分、何時間、こうして武鳴 雷門と鎬を削っているのかわからないが、音と色のない世界での感覚だから実際には十分も経っていないんだろう。
お互いに足を止めて俺は木刀と葛城ノ剣の連撃を、武鳴 雷門は両手の鋭い突きによる連撃を放ち続けている状況で、ほとんど互角のはず…………いや、徐々に俺の不利へと傾いてきているな。
まず俺の斬撃の円運動と武鳴 雷門の突きの直線運動なら、どう考えても直線運動の方が相手に当てるまでの距離が短いため、今はまだ勝っている俺の攻撃速度が少しでも鈍れば攻撃回数で上回られてしまう。
あとは俺の方が速く動いているという事は、それだけ体力の消耗も俺の方が多いという事……。
ガッ‼︎
くそっ、余計な事を考えたせいで武鳴 雷門の攻撃への対応が甘くなって顔に一発もらい、動きが止まってしまった。
『ヌ、オオオッ‼︎』
『う、く』
攻め時だと判断した武鳴 雷門はさらに攻撃を仕掛けてきたもののその攻撃が威力重視の大振りだったため、逆に俺の腕だけを強引に動かして加速させた一撃を打ち込めた。
『すー……、はー……。お互いに油断は禁物だな?』
『ふん……』
『それでは続きだ‼︎』
ほんの一瞬話した後に俺達は再び鎬を削り始める。
ふー……、やっぱりどんな時でも一回深呼吸をすれば気持ちを切り替えられるな。
俺の方が先に消耗していくのは変わらないが、それでも勝てるかどうかの迷いも攻め切れないイラだちもどうでも良い。
ただ、その時が来るまでひたすら攻め手を緩ませないだけだ。
◆◆◆◆◆
さらに体感で数分が過ぎると少しずつ武鳴 雷門の突きを当てられる回数が増えているから、明らかに俺の動きが遅くなってきたのを自覚した。
当然、俺と同じく動き続けている武鳴 雷門も鈍ってきていても間違いなく俺より余裕はある。
これは、その時が来たか……。
『おい、葛城ノ剣』
『何だ?』
俺は決めていた事を実行する前に武鳴 雷門からの被弾が増える事を覚悟しつつ奥底で秋臣のそばにいる葛城ノ剣へ話しかけると、すぐに返事はあったがその声色はひどく不機嫌だった。
どうやら俺が苦戦しているのが気に入らないらしい。
『時間がないから単刀直入に言うぞ』
『さっさと言え』
『このままだと俺の負けだが、俺は負けるために武鳴 雷門と戦い始めたわけじゃない』
『…………つまり、この状況でも何か策があると?』
『ああ。しかし、そのためには秋臣の身体にかなりの負担をかける事になるし、もしかしたら秋臣自身にも負荷が行く恐れがある。秋臣を守ると決めた俺が秋臣を傷つけるのは本末転倒としか言えないが、俺は勝ちたい』
『やれ』
『良いのか?』
『すでに武鳴 雷門の打撃で主人の身体は傷ついている。この事実はお前が勝っても負けても変わらない。それならば勝って終わりにしろ。主人は我が守る』
『わかった。次に俺が目を覚ますまで待ってろ。じゃあな』
『お前の負けは主人の負けになる。それだけは許さん』
そう言った後、葛城ノ剣は静かに沈黙した。
やる事は決まったため、前準備として俺は消耗して残り少なくなった体力を使い切る勢いで怒涛の攻めを加えると、武鳴 雷門の顔は驚きに染まる。
まあ、武鳴 雷門も俺が圧倒的に不利な現状に気づいているわけで、そんな俺が破れかぶれと言われてもおかしくない攻めに振り切るとは思わなかったのだろう。
武鳴 雷門は一時的とは言え俺の猛攻を浴び、たまらず大きく跳び退く。
俺が欲しかった隙間の時間ができたため、俺は両腕をだらりと下げて肩で息をする。
『はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……』
『…………どういうつもりだ?』
『はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、何がだ?』
『これでお前の負けは確定したぞ?』
『はあ……、はあ……、どうだろうな?』
『何……?』
『まあ、ここからが最終局面なのは確かだ』
『…………』
俺の宣言を聞いた武鳴 雷門はすぐさま構え直し、俺への警戒を最大限に上げた。
ははは、どれだけボロボロな相手でも逆転の一手を持っている可能性がある事をわかっている武鳴 雷門は強いな。
俺は、そんな風に感心しつつ目を閉じて深呼吸を始める。
『すー……、はー……、すー……、はー……、すー……、はー……』
『な、何をするつもりだ? それではまるで……』
うん? ああ、そうか。
武鳴 雷門は俺が音と色のない世界へ入るところを見ていたな。
『すー……、はー……、すー……、はー……、ここからの俺は限界を超える。そしてお前を倒しきるからそのつもりでいろ』
『じょ、上等だ‼︎ かかって来い‼︎』
気合を入れなおした武鳴 雷門の声を聞き終わった瞬間、俺は最後に大きく深呼吸をしてから目を開け新たな世界へと入った。
◆◆◆◆◆
俺が新たに入った世界には何もなかった。
音と色のない世界が白黒の無音声映画だったのに対して、この世界は音がないのは同じでも周りの風景は黒一色とまるで何も映っていない画面のようだ。
より正確に言えば、この黒塗りの世界は俺と白い輪郭の武鳴 雷門しか存在していないわけだが、これはもともと武鳴 雷門と戦うために研ぎ澄ませた感覚に加えて、普段なら無意識に周りへ割いている感覚すらも武鳴 雷門へ集中させた状態。
まさに現時点での俺の限界点だろう。
だが何より重要なのは、この世界で俺が正常に動けるのかもわからない事だ。
とりあえずぶっつけ本番で試していくしかない。
一歩目を踏み出す……いけた。
二歩目……いけた。
三歩目といきたいところだが思い切って走り出してみる……いけた。
徐々に速さを上げていく……いけた。
よし、俺はこの何もない世界でも動ける事がわかった。
ただ俺には時間がない。
武鳴 雷門との競り合いで身体は疲れが溜まりガタガタ、加えて長時間音と色のない世界に入り、さらに何もない世界へ入った事で精神的にも大事な何かがすり減り続けている。
確実にこの何もない世界にいられるのは一呼吸の間だけだな。
あの武鳴 雷門をごく短い時間で倒す…………やってやるよ。
俺は走りながら葛城ノ剣を消して跳び上がり、空中で木刀を両手に持ち変え振り上げる。
あとは全力で振り下ろすだけなんだが、チッ、ゆっくりと武鳴 雷門の構えが頭部を優先的に守る形へ変わっていき、それと同時に溜めた雷を今使い果たす勢いで輝きと放電が強くなったためか白さを増していく。
もはや武鳴 雷門には俺の動きを認識していないはずなのに、俺の攻撃を予想し対応しようとしているのはさすがだな。
俺は心の底から驚きつつ木刀を振り下ろし、着地後は無我夢中で武鳴 雷門へ木刀を当て続けた。
◆◆◆◆◆
気がつくと俺は片膝をついて荒い呼吸を繰り返していた。
…………何があったんだ?
手には何かを叩いた感触がはっきりと残っているのに俺はうずくまっている?
状況がわからず顔を上げて周りを見ると、まだ俺は音と色のない世界にいて俺から少し離れた場所に武鳴 雷門が頭部を守った状態で立っていた。
どうやら武鳴 雷門の様子から、俺は迎撃されたわけじゃないらしい。
おそらく息が続かなくなったせいでうずくまってい…………いや、そんな事よりも先に立って構えろ。
すぐに頭を切り替えたものの、身体は俺の意思に反して少しずつしか動かなかった。
身体の消耗具合にこのままじゃ武鳴 雷門の攻撃に対応できないと焦っていたら、ふとある事を疑問に思う。
どうして武鳴 雷門は、この状態の俺にとどめを刺してこない?
ボゴンッ‼︎
すると大きな打撃音が響き、頭部を守っていた武鳴 雷門の腕がへし折れた。
しかし、次の瞬間には放電が集中して治ったものの、すぐさま違う箇所が打撃音とともに大きく凹む。
当然、そこも放電とともに治るのだが、さらに別の部分が大きく陥没する。
俺の攻撃は全部当たっていたんだなと安心しながら、武鳴 雷門の身体が壊れ治っていくのを見ていた。
そして何度目かわからない打撃音が響いた時、武鳴 雷門が俺に目を向けた。
『…………見事だ』
『は?』
『お前の勝ちだ』
その言葉を最後に武鳴 雷門の身体から放電が無くなり、ただと打撃音と打撃痕が重なっていくだけとなる。
俺はその様子を見ても勝ちの実感が湧かずに呆然としていたが、しばらくした後打撃音が止んで武鳴 雷門の雷精化が解け倒れていくのを目にしてやっと勝てた事を認識してホッとした次の瞬間、安心して気が抜けたため音と色のない世界が解けてしまい一気に反動が押し寄せる。
「ひゅ……」
極度の疲労、呼吸困難、身体中の激痛、それと今まで遮断していた音や色や匂いなどの情報が押し寄せた事による激闘で弱った神経への過負荷という全てが俺に起こり、俺はうずくまったままピクリとも動けなくなった。
…………これは気絶もできない。
視界はチカチカする点滅とノイズのみになり、聞こえるザーッという不快な音に耐えながら、なんとかもう一度音と色のない世界へ入ろうとするが無理だった。
こうなったら諦めて少しでもマシな状態になるまで我慢するしかないと覚悟を決めた時、突然全ての嫌なものが消え失せ猛烈な眠気に襲われる。
『最高の戦いを見させてもらったわ』
その声は黒鳥夜 綺寂で、朦朧としている俺でも笑っているのがわかった。
『また後で話を聞かせてもらうわね。おやすみ』
これが俺の覚えている最後の瞬間だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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