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第4章 異世界の男は手に入れる

第22話

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 秋臣あきおみの身体が一人でに動き、入羽いりはね 風夏ふうかに斬りかかった。

 入羽いりはね 風夏ふうかは、すぐに異能力で小型の竜巻や鎌鼬を発生させ応戦してくるが、一切の無駄なく最速で全て斬り捨てられ霧散していく。

 どの動きも自然で効率的で、しかも秋臣あきおみの身体に負担を与えないギリギリの水準を保っていた。

 俺が動かさなくても、これだけ動いているのは秋臣あきおみの身体に俺の動きが定着している確かな証拠だと、俺は奥底で眠りについている秋臣あきおみの隣に座りながら喜びを噛み締める。

『なんとも凄まじいものだな』
『あとは秋臣あきおみが自分の身体に慣れたら、俺はお役御免だ。秋臣あきおみ、俺はいつまでも待つつもりだが、それでも秋臣あきおみが自力で戦っている姿を早く見たいと思ってしまうよ』

 俺が秋臣あきおみへ語りかけると、眠っている秋臣あきおみの表情が少しだけ申し訳なさそうなものへ変わる。

 よしよし、俺がいっしょにこの空間にいるせいかはわからないが、深い眠りについている秋臣あきおみに俺の言う事は伝わっているようだ。

 どんな反応でも、それがあるなら次につながるはず。

秋臣あきおみ、焦らなくて良い。起きたくなったら起きてこい』
主人あるじよ、我も主人あるじに振われる日を楽しみしている』

 秋臣あきおみの表情が、なんというか安心したような感じに変わり、その後いつもの寝顔に戻る。

『さて、そろそろ出るか』
『このまま身体に任せれば勝てるはずだが?』
入羽いりはね 風夏ふうかを半殺し以上にしそうだからな』
『それは……そうだな』
『行ってくる。秋臣あきおみを頼むぞ』
『わかっている。お前はさっさと勝ってこい』

 俺は葛城ノ剣かつらぎのつるぎへ手を振って答えると、そのまま奥底を離れた。

◆◆◆◆◆

 慌てずにゆっくりと秋臣あきおみの身体に意識を戻すと、ちょうど入羽いりはね 風夏ふうかを蹴り飛ばしたところだった。

 地面を転がり何とか立ち上がった入羽いりはね 風夏ふうかの身体にはパッと見でも無数の打撲があり、骨折はしていないようだがボロボロな状態と言える。

「まだ続けるか?」
「あた、り、まえ……」
「わかった」

 明らかに肩で息をしていて声を出すのもギリギリ、それでも戦意のある目をしているから攻撃を再開する。

 いつものように前へ倒れながら踏み込む事で、一瞬で距離を潰して入羽いりはね 風夏ふうかの正面に立つ。

 そして入羽いりはね 風夏ふうかの右鎖骨をへし折るつもりの一撃を放った。

 しかし、木刀を振り下ろしている途中で俺の後ろから風が吹き入羽いりはね 風夏ふうかに集まっている事に気づき、俺は振り下ろしを強引に止めて大きく退がる。

「くそ……、貴様のようなものにこれを使わなければならないとは……」
「嫌なら素直に負ければ良いだろうが」
「貴様に負けるよりは数百倍マシだ‼︎」
「そうか、それならさっさと全力で来い」
「…………貴様はこの場で殺す」

 風が集まっていくほどに入羽いりはね 風夏ふうかから感じる殺意も高まっていった。

 そして入羽いりはね 風夏ふうかが完成させたのは自分の身体を覆う風の鎧。

 本来なら目に写らないはずの風なのに鎧の輪郭が認識できるのと、風の鎧からジーーッという何かが高速で回転している音が聞こえている事からも、かなりの密度と速度を保っている風で構成されているらしい。

「まるで人間竜巻だな」
「竜巻程度と表現されるのは心外の極み、だ‼︎」

 叫ぶと同時に入羽いりはね 風夏ふうかが宙に浮いた後突っ込んできたため、俺は横へ跳んで避ける。

 ザザザザザザザザザザザザッ‼︎

 風の鎧が触れた地面が削れていく。

「なるほど、もともと遠距離攻撃と機動力に自信がある上で、さらに何かを放出する異能力者にありがちな接近戦での脆さを克服しているわけか」
「この状態になった私を前にして貴様にできるのは逃げ回る事だけだ‼︎」
「…………嫌いな俺を前にして視野が狭まっているのか知らないが、お前バカなのか?」
「なんだと⁉︎」
「俺は香仙かせんとの戦いで、あいつの発した匂いを葛城ノ剣かつらぎのつるぎの光を使って消し飛ばしている。お前の風の鎧が消し飛ばせないと、なんで思っている?」
「あ」
「それにだ。お前の防御力は黒鳥夜くろとや 綺寂きじゃく以下だろ? その黒鳥夜くろとや 綺寂きじゃくの異能力を斬った俺が、お前よりも圧倒的に速い俺が、どうして逃げ回る事しかできないと考えた?」
「う……」

 明らかに動揺した入羽いりはね 風夏ふうかを見て、俺はため息を吐いてしまう。

「確認だが、ひじりは学園長直属の実行部隊で、お前はその副隊長なんだよな?」
「だ、だから、どうした⁉︎」
「お前程度副隊長になれるなら、この世界の異能力者は本当に弱いな」
「なっ⁉︎」
「なんというか、戦いに対する覚悟、経験、想定、全てがぬるい」
「わ、私のどこがぬる、ひ……」

 反論しようとした入羽いりはね 風夏ふうかの言葉を遮るように首を斬り落とすという殺意を浴びせ首を斬られるという体験させたら、入羽いりはね 風夏ふうかは自分の首を触りながらペタンと尻もちをつき地面を削った。

「それだ。まず、俺を殺すと言ったのに殺される覚悟ができていない。次に自分と同格か自分以上の奴と戦った事がない。それと自分の戦法が通用しなかった時を全く考えていない」
「私は、私は……」
「自分は強い、か? それなら立って俺にかかってこいよ」
「…………」
「戦わないなら負けを認めろ」
「…………」

 入羽いりはね 風夏ふうかは動かなく、いや動けなくなったらしい。

 おそらく俺に負けるのも嫌だが、俺と戦うのも嫌と言ったところか?

 俺はもう一度ため息をつき、この無駄な時間を終わらせる事にした。

「中途半端なまま死ね」
「あ……」

 脱力しながら前へ倒れると同時に踏み込んで加速し、入羽いりはね 風夏ふうかの正面で着地した勢いを殺さずに殺意とともに木刀を振り下ろす。

 その結果、入羽いりはね 風夏ふうかの身体は真っ二つ…………にはならず、俺に斬られた風の鎧が消えていく中、入羽いりはね 風夏ふうかが白目をむいてパタリと倒れた。

「おい、黒鳥夜くろとや 綺寂きじゃく武鳴たけなり 雷門らいもん、こいつらをさっさと引き取れ」

 俺がつぶやくと倒れている入羽いりはね 風夏ふうかひじりの連中の影が広がっていき、全員が影に沈んでいく。

 うん? 俺の影も広がっているが……、ああ、そういう事か。

 俺の影から武鳴たけなり 雷門らいもんが出てきたため納得する。

「次はお前が俺と戦うのか? 武鳴たけなり 雷門らいもん
「その通りだ」
「……そうか」
「どうやら俺と戦う気にはなっていないようだな」
「研ぎ澄ませたいと思っているのに格下と戦っても特に意味はないだろ?」
「言いたい事はわかる。だが、この世界もそう捨てたものではないというのを証明しよう」
「好きにしろ」
「もちろんだ。むん‼︎」

 武鳴たけなり 雷門らいもんが自分の胸を叩くと、まるで車のエンジンがかかったかのように放電を始めた。

 そして、さらに胸を叩く回数が増えるごとに武鳴たけなり 雷門らいもんの身体から放たれる電気の量も増え、俺と武鳴たけなり 雷門らいもんの周囲の空間は帯電していく。

「自分に有利な状況を作り出す。これは正しい戦術だろう?」
「隊長になれるだけの判断能力はあるみたいだな」
「ああ、始めから全力でいかせてもらう‼︎ 起きろ‼︎ 雷精‼︎」

 叫びながらひときわ強く胸を叩くと俺を囲むように放電して輝く結晶が生まれた。

 ふむ、入羽いりはね 風夏ふうかよりは戦いがいがありそうだな。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

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