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第4章 異世界の男は手に入れる

第3話

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『このもの達がアチシの作品達だ‼︎ どう? 愛らしいだろう⁉︎』

 考えれば考えるほど奇妙な状況だな。

 俺に敵意を向けてくるのは、さっき倒した牛の巨人と同じくらいデカい赤鬼、二つ首の大蛇、生首に羽が生えた飛頭蛮、四尾の白狐などの様々な化け物達で、こいつらを生み出したのが発光しながら空中に浮かんでいる絵筆だ。

 おそらく百人に聞いたら百人ともが平常心ではいられない光景だろう。

 しかし俺には化け物達への恐怖心はなく絵への関心も今はないため、どうでも良い。

 俺は集中して色と音のない世界に入り、化け物達を全て斬り捨て元の位置に戻る。

『へ……?』
「悪いな。お前の遊びに付き合ってるほど暇じゃないんだ。見逃してやるから失せろ。それか絵筆として、その辺に転がってろ」

 化け物達の肉片が溶けて何色もの絵の具になっていく中、俺は絵筆を無視して走り出す。

 だが、絵筆は一際強く発光しながら俺の前方へ回り込んできたから足を止める。

『アチシは最高の職人に作られた絵筆、宙擦りそらなぞりよ‼︎ このアチシに、よくもそんな口をきけたわね⁉︎』
「はあ……、何一つ想像力のないお前なんてどうでも良いんだよ」
『はあ⁉︎』
「お前、俺の動きが見えたか?」
『え?』
「お前が生み出した化け物達を俺は斬った。その動きが見えたかと聞いている」
『え? え?』
「その様子だと見えてないみたいだな。それなら、もう一つ聞こう。お前の浮かんでいるその位置が、俺の間合いの中だと想像できないのか?」
『……あ‼︎』

 宙擦りそらなぞりは少し考えた後、俺の言った事を理解したようだ。

「俺は見逃してやるから失せろ。それか、その辺に転がっていろと言ったよな?」
『待っ……』

 キキキキン。

 何かを言おうとしていたのを無視して、俺は宙擦りそらなぞりを四回斬りバラバラにした。

 ここにシスティーゾがいたらダメ押しで燃やし尽くしてもらうところだが、いないものはしょうがない。

 どうにか復活したところで、また斬れば良いと判断した俺は先を急ごうとしたが……。

『『『『『『『よくもアチシを斬ってくれたね‼︎』』』』』』』

 そこら中から宙擦りそらなぞりの声が聞こえてきた。

 どういう事か一瞬悩んだものの、その答えは斬り捨てたはずの宙擦りそらなぞりがドロドロに溶けていた事で理解する。

「お前、自分を描いてたのか」
『『『『『『あーはっはっは、その通りさ‼︎ アチシは万象を描きだす至高の絵筆、宙擦りそらなぞり‼︎ あんたに勝ち目はないよ‼︎ 覚悟しな‼︎』』』』』』

 あちこちから絵筆が飛んできて、俺の周りで化け物達を量産していく。

 ふむ、考えるべきは、どう攻めるかと本体はどこかの二点。

 とりあえず攻めに関しては間合いに入った奴をから、どんどん斬っていけば良いか。

 何かを探すなら感知系の異能力があれば良いのだが、あいにく俺にそんな能力はない。

 ならば、どうするかと言えばゴリ押しだな。

「一応聞くが、退く気は無いんだな?」
『『『『『『あるはずないだろう‼︎ ひたすらにあんたの反応を楽しむだけだよ‼︎』』』』』』
「そうか、それなら強気な反応を見せてやろう」
『『『『『へ? あ……』』』』』
 
 俺は周りで量産されている化け物達と絵筆の一本を斬り捨て、ある地点へ向けて歩き出す。

「どうした? 速く描き続けないと終わるぞ?」
『『『『『ふ、ぶざけんな‼︎ だったらアチシの本気を見せてやる‼︎』』』』』

 本気と言うだけあって、さっきまでの倍くらいの速さで化け物達が描き出され歩いている俺の周りを埋め尽くしていく。

 しかも化け物達の種類、使われている色、質感なんかも上がっているから圧巻だ。

 ただ、俺には意味がない。

 何でもない作業のように全ての化け物達と絵筆の一本を斬り足を進める。

『『『『うそ……』』』』
「今の速さが本当に本気なら、もうお前は俺に勝てないという事は理解しているか?」
『『『『うるさいうるさいうるさい‼︎ あんたなんか、これに潰されろ‼︎』』』』

 四本の絵筆は俺の前へ回り込み、協力して一体の化け物を描いた。

 絵筆達の感情が乗り移っているようで、描かれ実体化した鈍く光る岩の竜は俺へ威嚇してくる。

 なかなかの迫力だと思うもののそれだけで、やっぱり俺には意味がない。

『『『『宙の向こうから降ってくる隕石が龍になったものだ‼︎ 斬れるものなら斬ってみろ‼︎』』』』
「もう斬っている」
『『『は……?』』』

 今にも俺へ襲いかかってこようとした岩の竜と絵筆の一本が斬られていた事に呆然としていて隙だらけだったので、ついでとして残りの三本の絵筆も斬り刻んだ。

 驚きすぎたのか何の反応も返ってこなくなったのを確認した後、俺は近くの樹の上へ跳び、枝を足場に跳んで移動し目星をつけていた場所へ飛び降りる。

「よう」
「ふぇ……?」

 俺が着地した大樹のそばには絵筆を持ち着物を着た人形のような唖然としている女子が立っていた。

「お前が宙擦りそらなぞりだな?」
「え? へ?」
「ようやく対面できたなと言うべきか?」
「な、何でアチシが、ここにいるって……」
「初めの方は見事に気配を消されていてわからなかったが、自分の生み出した化け物達を俺に斬られていく内に動揺したお前の気配が漏れてきたからだ」
「あ」
「本体を隠して物量で攻め立てる戦術は正しい。しかし、追い詰められた程度で乱れるお前自身が二流以下だ」
「…………」

 宙擦りそらなぞりは俺の指摘に悔しそうに唇を噛んでいるところへ木刀を突きつける。

「ひ……」
「なぜ怖がる? 実戦の場に立ったのはお前だ。死ね」

 俺は宙擦りそらなぞりの首を叩っ斬る軌道で木刀を振り、宙擦りそらなぞりの首にギリギリで触れるところで止めた。

 さすがに見た目が子供な相手を斬るのは気が引けるな。

 それでも敵である事には変わりないため改めて斬ろうとしたら、かなり強めに殺気を放っていたためか、宙擦りそらなぞりは白目をむきパタリと倒れ女子の身体が消え絵筆だけ地面に転がる。

 なるほど絵筆とは言え、意識を持っているから気絶という概念があるんだな。

 これでしばらく目覚めないだろうから障害の一つが消えたと判断した俺は、宙擦りそらなぞりを持ち上げ軽く観察した後に問いかけた。

「俺は、これからこいつをどうすると思う?」
「あー……、勝者に好きに扱う権利があるのは理解している。だが、できれば、こちらに渡してもらいたい」
「同じく。仲間が害されるのは見たくない」
「お願いします」
「先に俺の大事な存在を傷つけたのは、お前らなのに勝手な事を言うんだな」
「「「…………」」」

 少し離れた場所に現れた三体をチラッと見てから俺がつぶやくと、三体は押し黙る。

 三体か、どういう能力を持っているのかはわからんが、あのクソ野郎までの障害を一気に排除する良い機会だ。

 まとめて斬り捨てるとしよう。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

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