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第3章 異世界の男は遠征する

第12話

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 不審者の引き渡しが済み襲撃の後始末も終わったため、蔵宮くらみや かすみの本来の目的である旧蔵宮くらみや家の犠牲になったもの達への鎮魂が始まった。

 場所は不審者と戦った屋敷の中庭。

 そこには赤い鳥居と祠があり、それに向かい合う形で巫女のような服装に着替えた蔵宮くらみや かすみが、薄紫色の折り畳んだ布を手に持ち目を閉じた状態で立っている。

 どんな儀式が行われるのかシスティーゾとりん 麗華れいかも興味があるらしく俺といっしょに中庭の隅で見ていると、蔵宮くらみや かすみは目を開け布を両手で音もなく広げた。

 すると、中庭に面した部屋の障子が開き、中に控えていた奴らが楽器で演奏を始め、蔵宮くらみや かすみもゆっくりと舞い始めた。

 …………こいつら、俺達が不審者と戦ってる最中も、ずっと室内に待機してたのか?

 不審者と粘液野郎達に向けていたとは言え、俺の殺気を感じた後で、こうしてきちんと演奏をできているのはすごいな。

 ああ、それは蔵宮くらみや かすみも同じだったか。

 よく間近で俺の殺気を感じたのに、静かで落ち着いた動きのできるものだな。

◆◆◆◆◆

 数分が過ぎたと思うが、辺りに響くのは蔵宮くらみや かすみが布を大きく動かす時の衣擦れの音と演奏のみで、住宅街ならあって当然の生活音や車のエンジン音は聞こえない。

 …………いや、あるのかもしれないが俺達の耳に入っていないだけなのかもな。

 そう思わせるほど、今俺達が見ている蔵宮くらみや かすみの舞の動きは、あまりに静かでゆったりとしていて地味と言えるものだが不思議と目を離せなかった。

 前の世界で誰かの舞を楽しんだ事のない俺や、もともとこういった事に興味のなさそうなシスティーゾまで食い入るように見てしまうのだから、もしこの場に旧蔵宮くらみや家に虐げられたものがいても、もろもろの恨みや怒りなんかの負の感情を忘れる事ができるだろうと想像できる。

 これだけの舞を邪魔しようとしていた旧蔵宮くらみやの奴らはろくなものじゃない。

 …………うん? チッ、本当に無粋な奴らだ。

 俺は気配を消して場を乱さないよう細心の注意を払い中庭から離れた。

◆◆◆◆◆

「大きな口を叩きながら、あの役立たずめ‼︎」
「どうするのよ⁉︎ このままだと、あいつらの儀式が終わってしまうわ‼︎」
「むろん、このままでは済まさん」
「手があるんだな?」
「当たり前だ。目的を達成するための手段を一つしか用意せぬのは愚かものよ」

 蔵宮くらみや かすみが鎮魂のために舞っている屋敷から少し離れた路地で、屋敷の方をにらみながら口々に騒いでいる集まっている奴らがいる。

 妙に敵意の強い気配を感じて駆けつけてみれば、あの不審者に今回の襲撃を依頼した旧蔵宮くらみや家の奴らだった。

 今回みたいな後暗い事の依頼主は、できるだけ離れた位置にいるものだと思っていたが、まさかこんなに近くにいるとはな。

 気配を消している俺に全く気づいていないようなので、とりあえず何かの小箱を懐から取り出し鍵を開けようとしていた老人の手首を下から木刀で叩いてはね上げさせた。

「ぎゃあっ‼︎」
「その小箱に何が入っているのか知りませんが、これは押収させてもらいます。それと全員抵抗しないでください」

 俺は空中に放り投げられ落ちてきた小箱を回収してから全員に警告をする。

 しかし、全員が骨や試験管に入った謎の赤い液体や複雑な紋様の描かれた札なんかを取り出した。

「貴様、我らに楯突く事が何を意味するのかわかっているのか⁉︎」
「興味ないので、どうでも良いです」
「何⁉︎」

 …………こいつ、何で驚いてるんだ?

「無礼な‼︎ 我らは古より存在する真なる真なる蔵宮くらみやだぞ‼︎」
「はあ……」
「闇に潜む真なる蔵宮くらみやを敵に回して五体満足で生きて帰れると思、ギャべッ‼︎」

 前の世界でもそうだったが、自分達の事を盛って大きく話す奴にまともな奴はいないんだよな……。

 俺は叫びながら何かをしようとした奴の喉を、木刀で突き呼吸困難で気絶させた。

 すると、それを見ていた周りの奴らはギョッとして固まる。

 …………ああ、やっぱり、そうか。

 こいつら自分達がやられると全く考えてないな。

「最終警告です。喉を突かれたり全身の骨を叩き折られたくないなら、大人しく投降してください」
「「「「「…………」」」」」

 あー……、俺から攻撃される事に怯えているが、無駄な誇りを持っているせいで降伏したり諦める事ができないっていう状態だな。

 …………いろいろ面倒くさくなってきた。

 後始末をりん 麗華れいかに押しつけ……、いや、任せるとして、よくわからないものを持っている怪しい集団を叩きのめしたで良いか。

 方針を決めた俺が一歩踏み出すと、もともと小箱を持っていた老人はキラリと光るものを投げてきた。

「本来ならあの娘に放つはずだったが構わん‼︎ 開‼︎」

 どうやらキラリと光っていたものは鍵だったようで、老人が胸の前で両手を合わせて叫ぶと空中にある鍵から細い銀色の光線が伸び、俺の持っている小箱へ到達すると小箱からカチッと小さく音が鳴る。

 そして、小箱の蓋が一人でに開いて中から骨だけの蛇が飛び出して秋臣あきおみの身体を噛もうとしてきたから細切れに斬り刻んだ。

 普通ならこれで解決のはずだったが、わずかに骨粉が手につくとそこから濁った緑色に変わっていく。

「…………これは毒ですか?」
「何代も重ねた蠱毒の生き残りを呪物化したものだ‼︎ 汚れに汚れた呪詛で内部から腐れ落ちて死ね‼︎」
「うっとうしい……」
「は?」

 俺は秋臣あきおみの身体を侵食しているらしい呪詛に全力の殺気を集中した。

 すると、あの不審者の呪いと同じく俺の殺気を受けた呪詛は消滅する。

「呪詛の毒は消えたみたいですが痛みは残りますね」
「そんな馬鹿な……呪詛を強引に相殺しただと……? いや、それよりも、その異常な死の気配は何だ? いったいどれほどの人を殺した⁉︎」
「さあ? ところで僕の警告を無視しましたよね?」
「「「「「ひ……」」」」」

 俺が殺気を向けながら聞くと、全員二、三歩後下がる。

 殺気を感じたぐらいでビビるならさっさと降参しろよと思いつつ、別の小細工をされる前に全員の手足を叩き折ってから頭部に一撃を入れて気絶させた。

 さて、後はりん 麗華れいかに連絡を入れて待機しておけば良いか。

 俺は、これ以上面倒事は起きるなと考えながら周囲の警戒を続けた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

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