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第3章 異世界の男は遠征する

第11話

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 俺が秋臣あきおみとのやり取りの邪魔になった不審者を叩きのめすと、システィーゾとりん 麗華れいかの体調が回復したようで残っていた粘液野郎達を殲滅し始めた。

 二人を手伝おうと思い動こうとしたがりん 麗華れいかから待機しているように言われたから、俺は一応の警戒のため不審者がどう動き出しても撃破できる位置に待機しておく。

 まあ、秋臣あきおみと話すちょうど良い時間だな。

秋臣あきおみ、お前が目覚めるのを待ってたぞ』
『待たせてごめんなさい』
『いや、こうして秋臣あきおみと話せるようになっただけで十分だ』
『そう言ってもらえると嬉しいです』
『ところで、あの不審者の呪いは大丈夫なのか?』
『ええ、大丈夫です。不快そのものでしたが目覚めるきっかけになりました』
『ちなみにどんな感じだったんだ?』
『そうですね……、寝てるところにベチャッとしたものがまとわりついて口と鼻を塞がれた感じでしょうか』
『…………それは絶対に大丈夫じゃないだろ』
『結果的に覚醒できたので何の問題ありませんよ』

 秋臣あきおみの声を聞いたのは俺達が魂だけになっていた、あの時だけだが、あの時よりも声に力強さを感じるな。

秋臣あきおみ……、あの時より強くなったか?』
『もちろんです。眠りながらも、ずっとあなたを感じていたので』
『前の世界の戦場でしか生きてなかった俺が、お前に良い影響を与えられて良かった。…………変われそうか?』
『…………』

 俺と秋臣あきおみは声を出さずに頭の中だけで話していたが、俺の質問を聞いた秋臣あきおみは黙って考え込んでしまう。

 特に急かす事でもないため俺は秋臣あきおみの答えを待つ間、システィーゾとりん 麗華れいかの戦況や不審者の様子を確認したいたが、特に問題はない。

 むしろシスティーゾとりん 麗華れいかに関しては、粘液野郎達の殲滅が今すぐにでも終わりそうだ。

秋臣あきおみ、もう戦いが終わって状況が動きそうだ。まだ考えがまとまってないなら無理に答えなくても良い。俺はお前と変わる時まで、この身体を絶対に守り抜くと決めている。時間もそれなりにあるはずだ。ゆっくり考えろ』
『ありがとうございます。今は、その言葉に甘えさせてください』

 そう言うと秋臣あきおみは奥底へ戻っていった。

 秋臣あきおみと変わらない事が残念ではあるが、それでも今の状態を続けられる事にホッとしている自分もいる。

 この気持ちは何だろうな。

 俺も今の状況をそれなり以上に楽しんでって事か?

 まあ、今は目の前の事に集中しよう。

◆◆◆◆◆

 結局のところ、システィーゾとりん 麗華れいかが粘液野郎達を全て殲滅するまでに五分もかからなかった。

 とはいえ、問題はここからだ。

 後始末にどれだけの時間がかかるのか、全く見当がつかない。

 いくら何でも精霊級エレメンタルに分類できる犯罪者を通常処理はできないから吾郷ごきょう学園かひじりか公的機関から専門の人員を派遣してもらう必要があり、さらにそんな精霊級エレメンタルの犯罪者に狙われた蔵宮くらみや かすみの事情にも捜査が入るはず。

 今もりん 麗華れいかはあちこちに連絡を入れている事からも、いろいろ時間を取られそうだが俺達の任務はどうなるんだ?

 お、りん 麗華れいかが、こっちに近づいてくる。

鶴見つるみ君、お疲れ様。身体の調子はどう?」
「お疲れ様です、りん先輩。少し怠さはありますが、それだけですね。りん先輩は大丈夫ですか?」
「私も鶴見つるみ君と同じよ」
「安心しました。ところで任務の方は?」
「学園長から蔵宮くらみや かすみさんを警護しつつ、この場で待機の指示があったわ。さすがに精霊級エレメンタルの襲撃は予想外だったみたいね」
「依頼主の方は?」
「もちろん蔵宮くらみや 石永せきえいさんからも了解を得てるわ。まずは、この襲撃者の引き渡しが先よ」
「わかりました。僕はこのまま万が一に備えて警戒しておきます」
「お願いするわ。…………鶴見つるみ君」
「何ですか?」
「いえ、何でもないわ。警戒をよろしくね」
「はい」

 りん 麗華れいかは何か言いたげな感じだったが何も言わなかった。

 後先考えずにキレたあの時の俺の事を誤魔化すのは、なかなか厄介だからありがたい。

 …………おっと、安心するのは早かったな。

 今度はシスティーゾが近づいてきて何かを投げてきた。

「おい、受け取れ」
「あ、僕の端末。ありがとうございます」
「お前は……」
「はい?」
「お前は何なんだ? あの殺気を放った時の変わりようは普通じゃなかった……」
「かなり体調が悪くなっていたのに、よく僕の事を見てましたね。ちょっと後先考えずにキレただけなので気にしないでください」
「それなら、そいつには何て説明する気だ?」

 システィーゾは俺の端末を指差す。

鶴見つるみ君、無事なようで何よりよ』
流々原るるはら先生、ありがとうございます」
『それでだけど』
「はい」
『私はあなたの中に別の魂があるのを感じたのよ。どういう事か説明してくれるかしら?』
「仙人っていうのは、そんな事までわかるですね」
『魂というのは独立しているわ。それなのに魂の中に別の魂が現れて、また消えた。そんな事は普通起きないのよ。仙人じゃなくても、気や魔力にマナといったものに敏感なら気づくものは、それなりにいるの』
「ああ、なるほど」
『それで説明はしてくれない?』
「僕の状態を説明しても良いんですが……」
『ですが?』
「誰も理解できないか、信じられないと思います」

 俺の言い方が気に入らなかったのか、システィーゾとりん 麗華れいかは鋭い視線を向けて来て流々原るるはら先生の気配も重々しいものになっている。

『……説明する気はあるのね?』
「はい」
『それなら良いわ。りんさん、システィーゾ君、今は任務に集中しなさい。鶴見つるみ君もよ』
「良いのかよ……?」
鶴見つるみ君からの説明は学園に帰ってきてから、学園長達といっしょに聞かせてもらうわ。鶴見つるみ君、それで問題ないかしら?』
「僕は大丈夫です」
りんさん? システィーゾ君?』
「わかりました」
「今は引いてやる」
『それじゃあ、任務を最後まで頑張って。学園で待ってるわ』

 その言葉を最後に通信は切れ、システィーゾとりん 麗華れいかは後始末へ尽力していった。

 …………さて、どうなる?

 最悪、逃亡もあり得るか?

 秋臣あきおみの立場が悪くならないように考えないとな……。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

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