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第3章 異世界の男は遠征する

第9話

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 俺達の周りに、どんどん粘液野郎が出現するものの、出てきた次の瞬間には燃え上がるか凍りつき、ほんの少しの反撃も許されずに無力化されていく。

 やはり制圧力や殲滅力という点では、システィーゾとりん 麗華れいかの方が上だな。

 俺と二人とでは戦い方が違うから比べるものじゃない事はわかっている。

 わかっているが、やっぱり悔しいものがあるな……って、危ねえ‼︎

 俺に直撃しそうになった流れ弾ならぬ流れ炎を斬り捨てて、システィーゾを見た。

「システィーゾ……」
「お、悪い」
「あなたね……、制御が甘くなるなら大規模に炎を発現させないでちょうだい」
「まあ、今まで見えなかったものが見えるようにから、違和感があるのもわかります」
「すぐに慣れてみせる。ちょっと待て」
「そうね。必要だから流々原るるはら先生に見えるようにしてもらったけれど、やっぱり好き好んで見たいものじゃないわ」
「ボ、ボクノ、ニンギョウタチガ……」
「ああ? 消し飛べ」

 自分の戦力が撃退されているのを呆然と見ている不審者へ向かって、システィーゾは炎を放つ。

 しかし、その炎は四体の異形達が防いだ。

 あの四体はシスティーゾの炎に対応できるほどの特別な個体だったんだな。

「…………」
「フゥ」
「どわっ‼︎ 冷てえな‼︎ 何しやがる‼︎」
「さっき言った事を、もう一度言うわよ? 制御が甘くなるなら大規模に炎を発現させないでちょうだい」
「ぐ……」

 りん 麗華れいかがシスティーゾへ低温の吐息を首筋に吹きつけて正気に戻した。

 四体の異形達に炎を防がれた事でカッとなり暴走しかけていたのに、すぐ落ち着かせられるくらいシスティーゾの扱いが上手くなっているなと感心していたら、不審者の守りを固めていた異形達の内の熊がドロッと溶けて不審者にまとわりつく。

「ヨクモ……」
「システィーゾ君?」
「わかってる。油断も暴走もしねえよ。俺の役割を冷静にやり遂げれば良いんだろ?」

 システィーゾはバレーボールくらいの火球を一つ作り出し何かをしようとしている不審者へ撃ち放った。

 うお、火球の通った後の地面が溶けてる。

 あれは今のシスティーゾの最大火力を一つに圧縮したものか。

 不審者はまとわりついた熊で迎撃するみたいだが、まともにくらえば学園長でも無事ではいられないだろう火球に不用心すぎるな。

「ナ……」

 俺の予想通り、不審者に巻きついている元熊の火球を受け止めた部分から燃え尽きていってる。

 お、他の狼、大蛇、コウモリの異形達も不審者の身体に巻きつき防御にまわったが、どう考えても無意味。

 異形四体分の防御で稼げたのは五秒くらいで、それ以上何もできなかった不審者へシスティーゾの炎が燃え移った。

「ギャアアアアアーーーー‼︎」

◆◆◆◆◆

「グワアアアアアーーーー‼︎」
「「「…………」」」

 俺達は燃えている不審者を警戒を解かずににらんでいる。

 なぜなら、システィーゾの最大火力の炎で燃やされているのに数分経った今でも叫び声をあげているからだ。

「呪いの出現回数は落ちていません」
「何かしらの起点があって、それが呪いをこの場に招いているとも考えられるけど、違うでしょうね」
「チッ、さっさと消え、何?」

 システィーゾが、さらに炎を放とうとした時、不審者を燃やしていたシスティーゾの炎が黒ずみ泥のようになって崩れ落ちた。

 そして、その中から不審者が立ち上がる。

 さすがに全身を覆っていたマントやガスマスクは燃え尽きていて、不審者の外見が見えているのだが、とにかくその外見は普通じゃない。

 不審者の身体は骨と皮しかなく体毛のない皮膚の色は土気色という、およそ生きているとは思えない見た目だ。

「いやあ、久しぶりに大声を出したよ」
「「「…………」」」
「あれ? ああ、僕の身体を見て驚いてるのか。こういう身体でも生きているから安心して良いよ」
「…………その身体は病気か何かですか?」
「違う違う。僕の異能力が原因さ」
「自分を呪った、とか?」
「惜しい。呪いに浸ったんだよ」
「は?」
「アハッ」

 俺の理解できない様子を見て、不審者はニヤリと笑った。

「自分の異能力を強くするために自分で生み出した呪いに身体を浸して、僕自身を呪いそのものにしようとしたんだ」
「その結果が今のあなた…………、どう見ても失敗してますよね?」
「いやいや、成功してるよ。なぜなら僕がいるだけで周りが呪われるようになったからね‼︎」

 不審者が叫んだ瞬間、俺の視界が歪み、身体から力抜け、胸に激痛が走ったため思わず地面に手をついてしまう。

「うっ……」
「おや? 身体は腐ってないね。なるほどなるほど、君達の味方の浄化の術はかなり強力なものみたいだ。まあ、この場にいないから時間稼ぎ程度にしかならないよ‼︎」

 流々原るるはら先生のおかげで最悪の事態にはなってない。

 だが、システィーゾもりん 麗華れいかも俺と同じような状態みたいで、明らかに能力の威力と精度が落ちていた。

 このままだと蔵宮くらみや かすみの護衛という最優先事項が遂行できなくなる。

 ………… 秋臣あきおみには悪いが覚悟を決めるしかないか。



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◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

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