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第3章 異世界の男は遠征する
第2話
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「答えろ。俺はどうなる?」
システィーゾは一歩前へ出て学園長に解答を迫る。
なぜかわからないが、システィーゾから焦っているような雰囲気を感じた。
「システィーゾ君、それ以上の無礼は許さないわよ」
「…………」
すぐそばで鈴 麗華が殺気立っていても、システィーゾは学園長から目をそらさない。
そんなシスティーゾに痺れを切らした鈴 麗華は、手をシスティーゾへ向けた。
「良い度胸ね。排除するわ」
「麗華、待ちなさい」
「学園長に止められても、これは譲れません」
「私は彼に聞きたい事があるのよ」
「…………失礼しました。どうぞ」
「ありがとう、麗華。それじゃあシスティーゾ君、いくつか質問しても良いかしら?」
「俺の質問に関係する事ならな」
「それならさっそく質問させてもらうわね。あなたが聖に所属したい理由は何?」
「鶴見の所属が決定したからだ」
「つまり、鶴見君が聖に所属するから、あなたも所属したい?」
「そうだ」
学園長は少し考えた後、システィーゾへ口を開く。
「そういう理由ならシスティーゾ君を聖に所属させる事はできないわ」
「何?」
「誰かがそうしたからや、誰かに言われたからみたいな他人を軸にしたぼんやりとした決意で聖の任務に耐えられるとは思えないわね」
「……そうか」
「もう一度聞くわよ。システィーゾ君、あなたは何のために聖に所属したいのかしら?」
「…………俺は鶴見に負けた」
「そうみたいね」
「だが、いずれ必ず俺は鶴見に勝つ」
「言うだけなら誰だってできるわよ?」
「俺が強くなる事が大前提なのはわかっている。それとまず目標に追いつくためには目標と同じ環境にいる事が一番手っ取り早いのもわかっている。俺に強くなるための機会をくれ。頼む」
言葉遣いはともかくシスティーゾが頭を下げたのを見て、俺は感心すると同時にワクワクしてしまった。
前の世界でもプライドを捨てられる奴は一直線に突き進み目的を達成するのを、俺は何度も目にしている。
命の価値が安い前の世界と安全なこの世界を簡単には比べられないが、たとえ世界が違っても目的意識の高さからくる成長の加速というのは絶対にあるはず。
必ずシスティーゾは強くなる。
俺が本当に楽しみだと内心で笑っていると、学園長は一度イスに深く座り直した。
「麗華、あなたは同じ精霊級としてシスティーゾ君をどう評価してる?」
「…………私は彼と戦っても負けませんが、システィーゾ君の攻撃力、殲滅力の高さは驚く事もあるので苦戦をすると思っています。絶対に私が勝ちますが」
「そう……」
すでに鈴 麗華は聖に所属していて俺の知らない任務をこなし実績を作っているだろう事は想像できる。
それでもシスティーゾを相手に、あそこまで断言できるのはすごいな。
「システィーゾ君、あなたの聖への所属を認めるわ」
「そうか‼︎」
「ただし、仮の所属よ。聖の任務を数回こなしてもらった後に、もう一度正式所属にするかどうか考えさせてもらうわよ?」
「わかった。機会があるなら、それで良い」
「普段は鶴見君と同じで生徒会の見習いとして動いてちょうだい。聖として任務がある時は麗華の指示に従ってね」
「……チッ、わかった」
「システィーゾ君、とにかく言葉遣いをどうにかしなさいよ?」
「フン……」
◆◆◆◆◆
いろいろな話が落ち着き、俺とシスティーゾが日常生活の間に生徒会の任務を数件こなしていると、とうとうその日がやってきた。
始まりは今日の最後の授業が終わった時に携帯端末へ届いた、『すぐに学園長室に来るように』というメールだ。
途中でシスティーゾと合流して学園長室に向かうと、扉の前に鈴 麗華がいた。
「二人とも来たわね。聖としての初任務よ」
「わかりました」
「ようやくか。待ちくたびれたぞ」
鈴 麗華に続いて学園長室へ入ると、学園長と聖の隊員二人が俺とシスティーゾを見ている。
この二人は学園の地下で黒い球体の状態だった学園長を囲んでいた奴らの中にいたな。
「鈴 麗華並びに鶴見 秋臣、アラン=システィーゾ、参上しました」
「おう、来たな、ガキども。その様子だとびびってはいないようだ。お前達の働きぶりに期待しているぞ」
「何にしても使えないと判断したら切り捨てるだけです。それが、嫌ならせいぜい励んでください」
「うふふ、二人とも頑張ってちょうだいね」
デカいスキンヘッドの男は俺達に興味津々で、眼鏡の女は俺達をまるで信用してないな。
…………いや、むしろ余計な仕事を増やした迷惑な奴らとでも思っていそうだ。
「鶴見君、システィーゾ君、学園長の右に立っているあの背の高い男性が聖の隊長である武鳴 雷門さん。そしてもう一人聖副隊長の入羽 風夏さんよ」
「どうも、器物級の鶴見 秋臣です。よろしくお願いします」
「精霊級のアラン=システィーゾだ」
システィーゾが名乗ったらズンッと身体が重くなる。
…………威圧か能力かはわからないが、発生源は間違いなく入羽 風夏だな。
「アラン=システィーゾ、あなたは先達への礼儀を知らないようね」
「礼儀だあ? いきなり圧をかけてくる奴に言われたくねえな。お前こそ、新人を気づかう余裕を持ったらどうだ?」
「システィーゾ君‼︎」
鈴 麗華はシスティーゾを止めるために氷で拘束しようとするが、それはシスティーゾの纏う炎に相殺される。
「身の程を弁える知性もありませんか……」
「少なくとも、俺がてめえに頭を下げる事は一つもない」
「「…………」」
これは、また騒動になりそうだから避難するべきだな。
俺は巻き込まれる前に壁際へ跳び退くと、俺の横に武鳴 雷門がいた。
「何か?」
「お前は、あれに参加しないのか?」
「僕へ売られたケンカなら買いますけど、あれはシスティーゾへ売られたケンカです。他人のケンカに横槍を入れる趣味はありません」
「なるほど、お前はおもしろいな‼︎」
武鳴雷門はニカッと笑いながら俺の背中をバシバシ叩いてくる。
「あの、痛いのでやめてください」
「おっと、すまんすまん」
「逆に聞きますが止めなくて良いんですか?」
「うん? ああ、俺も横槍は入れん‼︎ それと学園長が笑っているなら心配はない‼︎ 大丈夫だ‼︎」
「なるほど?」
何がどう大丈夫なのかわからないが、責任者がそう言うなら大丈夫なんだろう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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システィーゾは一歩前へ出て学園長に解答を迫る。
なぜかわからないが、システィーゾから焦っているような雰囲気を感じた。
「システィーゾ君、それ以上の無礼は許さないわよ」
「…………」
すぐそばで鈴 麗華が殺気立っていても、システィーゾは学園長から目をそらさない。
そんなシスティーゾに痺れを切らした鈴 麗華は、手をシスティーゾへ向けた。
「良い度胸ね。排除するわ」
「麗華、待ちなさい」
「学園長に止められても、これは譲れません」
「私は彼に聞きたい事があるのよ」
「…………失礼しました。どうぞ」
「ありがとう、麗華。それじゃあシスティーゾ君、いくつか質問しても良いかしら?」
「俺の質問に関係する事ならな」
「それならさっそく質問させてもらうわね。あなたが聖に所属したい理由は何?」
「鶴見の所属が決定したからだ」
「つまり、鶴見君が聖に所属するから、あなたも所属したい?」
「そうだ」
学園長は少し考えた後、システィーゾへ口を開く。
「そういう理由ならシスティーゾ君を聖に所属させる事はできないわ」
「何?」
「誰かがそうしたからや、誰かに言われたからみたいな他人を軸にしたぼんやりとした決意で聖の任務に耐えられるとは思えないわね」
「……そうか」
「もう一度聞くわよ。システィーゾ君、あなたは何のために聖に所属したいのかしら?」
「…………俺は鶴見に負けた」
「そうみたいね」
「だが、いずれ必ず俺は鶴見に勝つ」
「言うだけなら誰だってできるわよ?」
「俺が強くなる事が大前提なのはわかっている。それとまず目標に追いつくためには目標と同じ環境にいる事が一番手っ取り早いのもわかっている。俺に強くなるための機会をくれ。頼む」
言葉遣いはともかくシスティーゾが頭を下げたのを見て、俺は感心すると同時にワクワクしてしまった。
前の世界でもプライドを捨てられる奴は一直線に突き進み目的を達成するのを、俺は何度も目にしている。
命の価値が安い前の世界と安全なこの世界を簡単には比べられないが、たとえ世界が違っても目的意識の高さからくる成長の加速というのは絶対にあるはず。
必ずシスティーゾは強くなる。
俺が本当に楽しみだと内心で笑っていると、学園長は一度イスに深く座り直した。
「麗華、あなたは同じ精霊級としてシスティーゾ君をどう評価してる?」
「…………私は彼と戦っても負けませんが、システィーゾ君の攻撃力、殲滅力の高さは驚く事もあるので苦戦をすると思っています。絶対に私が勝ちますが」
「そう……」
すでに鈴 麗華は聖に所属していて俺の知らない任務をこなし実績を作っているだろう事は想像できる。
それでもシスティーゾを相手に、あそこまで断言できるのはすごいな。
「システィーゾ君、あなたの聖への所属を認めるわ」
「そうか‼︎」
「ただし、仮の所属よ。聖の任務を数回こなしてもらった後に、もう一度正式所属にするかどうか考えさせてもらうわよ?」
「わかった。機会があるなら、それで良い」
「普段は鶴見君と同じで生徒会の見習いとして動いてちょうだい。聖として任務がある時は麗華の指示に従ってね」
「……チッ、わかった」
「システィーゾ君、とにかく言葉遣いをどうにかしなさいよ?」
「フン……」
◆◆◆◆◆
いろいろな話が落ち着き、俺とシスティーゾが日常生活の間に生徒会の任務を数件こなしていると、とうとうその日がやってきた。
始まりは今日の最後の授業が終わった時に携帯端末へ届いた、『すぐに学園長室に来るように』というメールだ。
途中でシスティーゾと合流して学園長室に向かうと、扉の前に鈴 麗華がいた。
「二人とも来たわね。聖としての初任務よ」
「わかりました」
「ようやくか。待ちくたびれたぞ」
鈴 麗華に続いて学園長室へ入ると、学園長と聖の隊員二人が俺とシスティーゾを見ている。
この二人は学園の地下で黒い球体の状態だった学園長を囲んでいた奴らの中にいたな。
「鈴 麗華並びに鶴見 秋臣、アラン=システィーゾ、参上しました」
「おう、来たな、ガキども。その様子だとびびってはいないようだ。お前達の働きぶりに期待しているぞ」
「何にしても使えないと判断したら切り捨てるだけです。それが、嫌ならせいぜい励んでください」
「うふふ、二人とも頑張ってちょうだいね」
デカいスキンヘッドの男は俺達に興味津々で、眼鏡の女は俺達をまるで信用してないな。
…………いや、むしろ余計な仕事を増やした迷惑な奴らとでも思っていそうだ。
「鶴見君、システィーゾ君、学園長の右に立っているあの背の高い男性が聖の隊長である武鳴 雷門さん。そしてもう一人聖副隊長の入羽 風夏さんよ」
「どうも、器物級の鶴見 秋臣です。よろしくお願いします」
「精霊級のアラン=システィーゾだ」
システィーゾが名乗ったらズンッと身体が重くなる。
…………威圧か能力かはわからないが、発生源は間違いなく入羽 風夏だな。
「アラン=システィーゾ、あなたは先達への礼儀を知らないようね」
「礼儀だあ? いきなり圧をかけてくる奴に言われたくねえな。お前こそ、新人を気づかう余裕を持ったらどうだ?」
「システィーゾ君‼︎」
鈴 麗華はシスティーゾを止めるために氷で拘束しようとするが、それはシスティーゾの纏う炎に相殺される。
「身の程を弁える知性もありませんか……」
「少なくとも、俺がてめえに頭を下げる事は一つもない」
「「…………」」
これは、また騒動になりそうだから避難するべきだな。
俺は巻き込まれる前に壁際へ跳び退くと、俺の横に武鳴 雷門がいた。
「何か?」
「お前は、あれに参加しないのか?」
「僕へ売られたケンカなら買いますけど、あれはシスティーゾへ売られたケンカです。他人のケンカに横槍を入れる趣味はありません」
「なるほど、お前はおもしろいな‼︎」
武鳴雷門はニカッと笑いながら俺の背中をバシバシ叩いてくる。
「あの、痛いのでやめてください」
「おっと、すまんすまん」
「逆に聞きますが止めなくて良いんですか?」
「うん? ああ、俺も横槍は入れん‼︎ それと学園長が笑っているなら心配はない‼︎ 大丈夫だ‼︎」
「なるほど?」
何がどう大丈夫なのかわからないが、責任者がそう言うなら大丈夫なんだろう。
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