一度死んだ男は転生し、名門一族を追放された落ちこぼれの少年と共存する 〜俺はこいつが目覚める時まで守り抜くと決意する〜

第２章 異世界の男は鎮圧する

第２１話

　俺とシスティーゾは戦線復帰をしたが、全体の流れは全く加速していなかった。

　まあ、単純にシスティーゾの火力がすごすぎて、下手に動いた結果まきこまれるのを恐れてただけだろうが、今はあいつらとの戦いに出遅れないから感謝だな。

　生徒会連中やあいつらの視線が俺とシスティーゾに集まる。

「システィーゾ」
「わかってる。オラアッ‼︎」

　俺の呼びかけに反応したシスティーゾは、あいつらへ炎を放つ。

　当然、玄坐げんざは再び炎を弾き飛ばそうとするものの、さっきとは違いシスティーゾの炎は多少の減衰をものともせず、そのまま直進してくるため玄坐げんざ達は跳び退いた。

「やっぱり、よく制御されたシスティーゾの炎なら、そうそう防げる人はいませんね」
「フン、当たり前だ‼︎　それよりもこのまま突っ込むぞ‼︎」
「わかりました。僕は玄坐げんざのもとに行くので他を任せます」
「好きに、しろ‼︎」

　システィーゾは俺の言葉にテンションが上がったのか、火力の上がった身体にまとっている炎から無数の炎の弾丸をばら撒き、玄坐げんざ達が陣形を取れないように分散させていく。

　これなら各個撃破も可能だし、玄坐げんざ達が他の攻撃への反応をしづらくなる。

　その証拠に玄坐げんざ達の内で三人は地中から突き出てきた氷に足を取られ転び、抵抗する間もなく凍りついた。

　俺は鈴りん 麗華れいかの手際に感心しつつも前に倒れながら加速して、玄坐げんざへ木刀を打ち込んだ。

　ガコンッ‼︎

「へえ、かなり体勢が崩れていたのに反応できるんですね」
「どれだけ速かろうが隙をつこうが、貴様ごときに遅れはとらん‼︎」
「でも、他の人達は防戦一方ですよ？」
「く……」

　玄坐げんざは出現させた身の丈ほどの馬鹿でかい木刀で俺の一撃を受け止めながら、他の奴らがシスティーゾと鈴りん 麗華れいかや生徒会連中によって追い詰められているのを見て歯噛みする。

　普通なら降参してもおかしくない状況でも、強さを第一に考える鶴見つるみ家の当主である鶴見つるみ 玄坐げんざには、その発想すらないだろう。

　お、玄坐げんざが馬鹿でかい木刀を強引に振り払ってきたから、俺は逆らわずに勢いに身を任せて後ろへ跳ぶ。

　そして俺の着地した後に、構えた玄坐げんざを中心に空気が張りつめシスティーゾ達は玄坐げんざへ最大限の警戒を向ける。

「……鶴見つるみ家に弱者はいらん。そいつらは、そのままどうとでもするが良い。俺が貴様ら全員を打ちのめせば、それで終わりだ」

　なるほど、武門の当主に相応しい気概と構えからも感じ取れる実力だな。

　異能力が全盛の中、ここまで武術を究めているのはすごい事だと言える。

　だが…………、あくまでこの戦乱ではない比較的平和な時代と世界にしては、という前提がつく。

　俺は殺意を放ち玄坐げんざの生み出した空気を塗りつぶした後、木刀を玄坐げんざへ向ける。

「な……」
「逆転は難しい状況なので、降参してくれませんか？」
「つ、鶴見つるみ家のものが弱者の真似をするわけがないっ‼︎」
「そうですか……、目の前の相手との実力差を理解できない方が弱者だと思いますが？」
「ふざけ、ルッ⁉︎」

　玄坐げんざが俺の言葉に反発した瞬間、俺は色と音のない世界に入り、ものすごくゆっくり叫ぶ玄坐げんざの木刀を切ってから続けて玄坐げんざの左鎖骨辺りに俺の持つ木刀を叩き込んだ。

　何が起こったのか全く理解してない玄坐げんざは膝から崩れ落ちて地面に倒れた。

◆◆◆◆◆

　玄坐げんざ達を倒したので、当然戦いの後始末が始まっているのだが、俺は邪魔だから隅にいろと全員から言われたため大人しく離れた場所で作業を見守っていた。

「……瓦礫くらいなら運べるのにな」
「止めて。鶴見つるみ君は動かないでちょうだい」
「鈴りん先輩。やっぱり僕が手伝うのはダメですか？」
「鶴見つるみ君が少しでも近づいたら、あなたの殺気を浴びた人達が泣き喚くのよ。お願いだから、これ以上騒ぎを広げないためにも、ここでジッとしてて」
「わかりました」

　そうなのだ。

　なぜか、玄坐げんざを倒した後に動けないはずの鶴見つるみ家の連中が俺から離れようと半狂乱になった。

　まあ、確実に鈴りん 麗華れいかの言った通り俺の殺意のせいだろうが、戦いに身を置いてるのに殺意で取り乱すのはどうなんだ？

「あそこまで拒絶されると、お化けとか妖怪になった気分ですよ」
「一部のものすごくやる気になっている人を例外とすれば、ああいう反応が自然なものよ」
「ちなみに鈴りん先輩は、どうなんですか？」
「私？　私は……」

　一部というのは作業しつつも俺をギラギラした目で見てくるシスティーゾや生徒会連中の事だが、俺の質問に答えるように鈴りん 麗華れいかの身体から雪混じりの冷気があふれてくる。

「鈴りん先輩も一部の方みたいですね」
「鶴見つるみ君を監視するのも止めるのも私の役目だから当然。それに聖に選ばれるような人間が負けず嫌いじゃないわけないでしょ？」
「よくわかりました」
「秋臣あきおみっ‼︎」

　俺が鈴りん 麗華れいかと話していたらガチガチに固めていた拘束をぶち壊した玄坐げんざが、周りの奴らに抑えられながらも俺の方へ近づいてこようとしていた。

　すぐに鈴りん 麗華れいかは俺の前に立ち、いつでも氷を放てるように構えたから俺は鈴りん 麗華れいかの横に並び掌を向けて制止する。

「僕に何か用ですか？」
「戻って来いっ‼︎」
「は？」
「お前が鶴見つるみ家を率いれば鶴見つるみ家は最強になれるっ‼︎　戻って来いっ‼︎」

　あまりに勝手な意見を言っているため、玄坐げんざを抑えている奴らは玄坐げんざを黙らせようと能力を発動させているが、玄坐げんざは狂ったように叫んでいる。

　どう返事するか、もしくは殺気を当てるか、また木刀を叩き込むかを数瞬悩んだ。

『ぼ、僕は最強なんて求めてない‼︎　今のままで良い‼︎』

　俺の意思とは関係なく声が出た。

　これは…………、そうか、頑張ったな、秋臣あきおみ。

　意識の奥底に刻まれているほどのトラウマ相手に、きっちり反論できたんだ。

　お前は強くなってるよ。



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◎後書き
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