31 / 129
第2章 異世界の男は鎮圧する
第9話
しおりを挟む
「「…………」」
あの裏庭での出来事から一週間経ち、俺とシスティーゾは中央食堂の一角のテーブルに対面した状態で昼食を食べていた。
別に好きで二人でいるわけではなく、この一週間に各授業が終わり別れようとしても各教官や補助員から何かしらの理由をつけ、俺達二人をいっしょにいさせようとしてきたためだ。
時間が経つごとに俺は無表情になり、システィーゾの機嫌も悪くなっているから、現在俺達の周りで食事をしているものはいない。
というか、教官達も雰囲気の悪くなっている俺達に話しかけたくないという感じだった。
今この状況の俺達を学園の上層部が見たら、どう思うのか胸ぐらをつかみながら聞いてみたいものだな。
「おい」
「何ですか?」
「怒りを鎮めろ」
「……ああ、すみません。でも、システィーゾも身体から火の粉が出ていますよ」
「……これでも無理やり抑えている」
「「…………」」
俺達の間に流れる空気が重たくなってくると、周りで俺達の様子を伺っていた奴らがおびえ始める。
「あなた達に、おだやかな時間を過ごすっていう考えはないの……?」
さすがに見過ごせないと思ったのか、監視のはずの鈴 麗華が昼食を手に俺達と同じテーブルに座った。
「ふん、他人に何か強要されておだやかに過ごせる方が、どうかしている」
「その点は僕もシスティーゾに同意します。今僕達がこうしているのは完全に学園側の都合ですので」
「その通りだ。…………いっその事、この場でやり合うか?」
「ああ、それも良いですね」
システィーゾの身体が炎に覆われたため俺も箸を置き手に黒い木刀を出現させたが、すぐさま俺とシスティーゾの足と手が氷で固定される。
「そういう物騒な考えは改めてくれるとうれし」
パキンッ‼︎
俺は前の世界でガチガチに鎖で固定された手足を解放した時のように、座ったまま身体操作で手足を最大限加速させ、その瞬発力で鈴 麗華の氷を砕いた。
「な……」
「鈴先輩、申し訳ないのですが、僕とシスティーゾの問題なので入ってこないでください」
「珍しく意見が合うな。鈴 麗華、お前は引っ込んでろ‼︎」
システィーゾは叫ぶと身体を覆っている炎の温度を上げ一瞬で氷を溶かすと立ち上がったので、俺も立ち上がり構える。
しかし、再び俺とシスティーゾの手足を氷が固定し、さらに今度は俺達の身体まで氷で覆われた。
「あなた達程度の実力で調子に乗らないでくれる?」
バキンッ‼︎
ジュッ‼︎
鈴 麗華の言葉に答えるように、俺は全身を瞬間的に動かして氷を砕きシスティーゾは炎の熱量をさらに上げ氷を溶かしきった。
「鈴先輩、さすがに邪魔です」
「鈴 麗華、俺は引っ込んでろと言ったはずだぞ?」
「あはは、ここまで正面からケンカを売られたのは初めてね。良いわ。買ってあげる」
食堂に俺の必ず叩き切るという意志とシスティーゾの炎の熱気と鈴 麗華の氷の冷気が広がっていくと、俺達のやりとりを見ていた教官や上級生は俺達を止めようと能力を発現させ生徒は食堂から避難した。
これで好きに戦えるという事だな。
ザザ、ザザザ。
何だ?
視界にノイズが……?
◆◆◆◆◆
「さすがに君達の乱闘はシャレにならないから止めさせてもらったよ」
「は……?」
あとほんの小さなきっかけで戦いが始まるという感じだったのに、気がついたら俺は食堂じゃない場所で拘束されていて周りに数人男女が立っていた。
何が起こっ……違う。
重要なのは誰がやったかだ。
「あなたの能力ですか? 生徒会長」
「まあ、その辺りは秘密さ」
「そうですか……。フンッ‼︎」
俺は鈴 麗華の氷を砕いた要領で身体を動かし、拘束に使われた革ベルトや金属の固定具を壊して立ち上がる。
当然、周りにいた奴らは何らかの能力を俺へ放とうとしてきたが、生徒会長の龍造寺は手を挙げて制止した。
おそらくこいつらは聖の構成員で、龍造寺はその聖の構成員に指示を出せる立場なのか。
「鶴見君、どうするつもりかな?」
「授業があるなら出て、もう放課後なら自室に戻るか図書館に行くつもりです」
「なるほど、一つ聞いても良いかな?」
「何でしょう?」
「やっぱりシスティーゾ君といっしょにいるのは嫌かい?」
「それが、たまたま出会ったとかなら特に何も文句はありません。ただ、誰だって不自然なまでに強要されたら不愉快ですよね?」
「…………わかった。上の人達には伝えておくよ。あと、この場所は一般の学生には知られたくないから能力で教室棟まで送らせてもらう。目を閉じてくれ」
「どうも」
俺は龍造寺に軽く頭を下げてから目を閉じると、部屋の隅にいた奴の気配が俺の身体を包む。
そして一瞬下へ落ちたかと思えば、足の裏に軽く着地の衝撃を感じた。
「ここは……教室棟の玄関か」
あの気配の持ち主は、転移や別々の場所の空間をつなげるとかの異能力者のようだ。
器物級、魔導級、精霊級に分類できない世界的、特殊な奴が、この学園にいるんだな。
それと龍造寺の怪しさとかを考えたら、まだまだこの学園は底知れないものを感じるが、向こうから干渉してこない限り無視で良いか。
システィーゾと鈴 麗華も、たぶん大丈夫だろう。
いくら何でも精霊級でも上位の実力者と聖の構成員を切り捨てる事はないはずなど、いろいろ考えながら教室に入ると、俺を見た全員が緊張で身体と顔をこわばらせた。
…………よし、今夜にでも秋臣に会いに行って本気で謝ろう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるのっ……!」
と思ったら
お気に入りの登録を、ぜひお願いします
また感想や誤字脱字報告もお待ちしています。
あの裏庭での出来事から一週間経ち、俺とシスティーゾは中央食堂の一角のテーブルに対面した状態で昼食を食べていた。
別に好きで二人でいるわけではなく、この一週間に各授業が終わり別れようとしても各教官や補助員から何かしらの理由をつけ、俺達二人をいっしょにいさせようとしてきたためだ。
時間が経つごとに俺は無表情になり、システィーゾの機嫌も悪くなっているから、現在俺達の周りで食事をしているものはいない。
というか、教官達も雰囲気の悪くなっている俺達に話しかけたくないという感じだった。
今この状況の俺達を学園の上層部が見たら、どう思うのか胸ぐらをつかみながら聞いてみたいものだな。
「おい」
「何ですか?」
「怒りを鎮めろ」
「……ああ、すみません。でも、システィーゾも身体から火の粉が出ていますよ」
「……これでも無理やり抑えている」
「「…………」」
俺達の間に流れる空気が重たくなってくると、周りで俺達の様子を伺っていた奴らがおびえ始める。
「あなた達に、おだやかな時間を過ごすっていう考えはないの……?」
さすがに見過ごせないと思ったのか、監視のはずの鈴 麗華が昼食を手に俺達と同じテーブルに座った。
「ふん、他人に何か強要されておだやかに過ごせる方が、どうかしている」
「その点は僕もシスティーゾに同意します。今僕達がこうしているのは完全に学園側の都合ですので」
「その通りだ。…………いっその事、この場でやり合うか?」
「ああ、それも良いですね」
システィーゾの身体が炎に覆われたため俺も箸を置き手に黒い木刀を出現させたが、すぐさま俺とシスティーゾの足と手が氷で固定される。
「そういう物騒な考えは改めてくれるとうれし」
パキンッ‼︎
俺は前の世界でガチガチに鎖で固定された手足を解放した時のように、座ったまま身体操作で手足を最大限加速させ、その瞬発力で鈴 麗華の氷を砕いた。
「な……」
「鈴先輩、申し訳ないのですが、僕とシスティーゾの問題なので入ってこないでください」
「珍しく意見が合うな。鈴 麗華、お前は引っ込んでろ‼︎」
システィーゾは叫ぶと身体を覆っている炎の温度を上げ一瞬で氷を溶かすと立ち上がったので、俺も立ち上がり構える。
しかし、再び俺とシスティーゾの手足を氷が固定し、さらに今度は俺達の身体まで氷で覆われた。
「あなた達程度の実力で調子に乗らないでくれる?」
バキンッ‼︎
ジュッ‼︎
鈴 麗華の言葉に答えるように、俺は全身を瞬間的に動かして氷を砕きシスティーゾは炎の熱量をさらに上げ氷を溶かしきった。
「鈴先輩、さすがに邪魔です」
「鈴 麗華、俺は引っ込んでろと言ったはずだぞ?」
「あはは、ここまで正面からケンカを売られたのは初めてね。良いわ。買ってあげる」
食堂に俺の必ず叩き切るという意志とシスティーゾの炎の熱気と鈴 麗華の氷の冷気が広がっていくと、俺達のやりとりを見ていた教官や上級生は俺達を止めようと能力を発現させ生徒は食堂から避難した。
これで好きに戦えるという事だな。
ザザ、ザザザ。
何だ?
視界にノイズが……?
◆◆◆◆◆
「さすがに君達の乱闘はシャレにならないから止めさせてもらったよ」
「は……?」
あとほんの小さなきっかけで戦いが始まるという感じだったのに、気がついたら俺は食堂じゃない場所で拘束されていて周りに数人男女が立っていた。
何が起こっ……違う。
重要なのは誰がやったかだ。
「あなたの能力ですか? 生徒会長」
「まあ、その辺りは秘密さ」
「そうですか……。フンッ‼︎」
俺は鈴 麗華の氷を砕いた要領で身体を動かし、拘束に使われた革ベルトや金属の固定具を壊して立ち上がる。
当然、周りにいた奴らは何らかの能力を俺へ放とうとしてきたが、生徒会長の龍造寺は手を挙げて制止した。
おそらくこいつらは聖の構成員で、龍造寺はその聖の構成員に指示を出せる立場なのか。
「鶴見君、どうするつもりかな?」
「授業があるなら出て、もう放課後なら自室に戻るか図書館に行くつもりです」
「なるほど、一つ聞いても良いかな?」
「何でしょう?」
「やっぱりシスティーゾ君といっしょにいるのは嫌かい?」
「それが、たまたま出会ったとかなら特に何も文句はありません。ただ、誰だって不自然なまでに強要されたら不愉快ですよね?」
「…………わかった。上の人達には伝えておくよ。あと、この場所は一般の学生には知られたくないから能力で教室棟まで送らせてもらう。目を閉じてくれ」
「どうも」
俺は龍造寺に軽く頭を下げてから目を閉じると、部屋の隅にいた奴の気配が俺の身体を包む。
そして一瞬下へ落ちたかと思えば、足の裏に軽く着地の衝撃を感じた。
「ここは……教室棟の玄関か」
あの気配の持ち主は、転移や別々の場所の空間をつなげるとかの異能力者のようだ。
器物級、魔導級、精霊級に分類できない世界的、特殊な奴が、この学園にいるんだな。
それと龍造寺の怪しさとかを考えたら、まだまだこの学園は底知れないものを感じるが、向こうから干渉してこない限り無視で良いか。
システィーゾと鈴 麗華も、たぶん大丈夫だろう。
いくら何でも精霊級でも上位の実力者と聖の構成員を切り捨てる事はないはずなど、いろいろ考えながら教室に入ると、俺を見た全員が緊張で身体と顔をこわばらせた。
…………よし、今夜にでも秋臣に会いに行って本気で謝ろう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるのっ……!」
と思ったら
お気に入りの登録を、ぜひお願いします
また感想や誤字脱字報告もお待ちしています。
0
お気に入りに追加
101
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる