上 下
11 / 31

第11話 コイバナ

しおりを挟む
アランが巡業に出て六日目。
地理学の家庭教師から出された課題をこなしていたシャルロットは休憩がてらにソファに座ると、備え付けのクッションを抱きしめる。
やっと怪我も病気も治ったというのに、なんだかつまらない。
折角ダンスレッスンも再開できたのに。

臨時の護衛にダンス講師がリード役が出来るかと聞いたところ、叱られますので……と断られてしまったので、ダンスレッスンは個人的な練習を淡々とこなしていた。
彼女でもいるのかしら?それならば仕方がない。

アランだったら踊ってくれるのに。
アランと踊りたいのに。
クッションを抱きしめる力を込めると邪念を払おうとする。

「ビアンカ、課題が終わったあと、一緒にアフタヌーンティーをしましょう?」
「ご一緒してよろしいのですか?」
「ええ、もちろん!今日はたくさんお話しましょう」

モヤモヤとした気持ちが少し晴れる。
実家の侍女とも良くお茶をしたのを思い出す。
昼過ぎまで集中して講師から出された課題を終わらせると、ビアンカがテラスに軽食とスイーツが乗ったティースタンドと紅茶を用意してくれた。

王城のスイーツの美味しさと食事の美味しさを語れば、ビアンカが騎士や侍女、メイドも利用する食堂もとびっきり美味しいと教えてくれた。

ビアンカは伯爵令嬢と対等に話すことに気が引けていたが、会話が進むにつれて自然と受け答えしていた。

「ビアンカは好きな人はいたりする?」

「……そうですね、憧れている方はいます」
「そうなの!差し支えなければぜひ教えてほしいわ」
「好き、かどうかもわからないほど遠い存在なんです」
「でも気になるきっかけがあったわけよね?」
「はい。……簡単に話すと、仕事姿勢が尊敬できるといいますか」

照れた様子のビアンカが可愛らしい。
ビアンカのほうがシャルロットよりも年上なのは間違いないが、恋する乙女はみな可愛らしい。

「うんうん、仕事が出来る男性はかっこいいわよね」
「そうなんです!きっと誰よりも忙しいのに現場まで気を配っていて……私が別の部署にお手伝いに行った時の話なんですけど……」

ビアンカとその人の出会いを聞くと、王城内で出会ったことが分かった。

ビアンカの言葉から位の高い役職に就いている文官や王城に出入りしている業者を思い浮かべる。

「あ、すみません。私ばかり話してしまって」
「いいのよ、私が聞きたいんだもの」

「……でも進展することはない、と思います。話す機会もありませんし。それでも頭に浮かんでしまって、目で追ってしまうのです」
「……叶うことはなくても、心はどうしようもないのよね。わかるわ、とっても……」

寄り添った言葉をかけながら儚く微笑むシャルロットにビアンカは言葉を失う。

「シャルロット様……」

ビアンカはシャルロットがフリード殿下の婚約者候補であるのはもちろん知っている。
しかしビアンカは数日前のシャルロットとアランを思い出していた。
二人からお互いを想い合う優しさがひしひしと伝わってきた。
きっと想いあっているのに……叶わぬ恋をしているだろうと簡単に予想ができた。

シャルロットのお付きになって日は浅いが人柄の良さはすぐに分かった。
美しく整った顔立ちで花嫁修行に真面目に取り組み、侍女にも優しく接ししてくれる。

外見の容姿の良さはもちろんだが、それをさらに上回るような内面の美しさが、表情や手の動き、発する言葉の全てに表れていた。
多くの令嬢と関わって来た訳ではないが、こんなにも完璧な令嬢は初めてだった。
そんなシャルロットでも恋が実らないのか。
ままならない恋をしなくてはいけないのか。
シャルロットを想うと心が痛みが、ビアンカの目頭が熱くなる。

「やだ、辛くなってしまったかしら。ごめんなさい」
「ち、違うんです、シャルロット様が切ないお顔をされたので……」
「ふふふ、あなたが辛くならなくていいのよ」
「申し訳ありません」

ビアンカは謝りながらじわりと涙が溢れ出す。

シャルロットは何も語らないが、常に一緒にいるビアンカに隠し通すのは難しいと悟っていた。
困った顔で笑うシャルロット。

「きっと私の代わりに泣いてくれたのね、ありがとう」
「シャルロット様…!う、うう……」

シャルロットの恋心を認めるような口ぶりにビアンカが嗚咽混じりに泣きだした。

「あらあら大変」

シャルロットはハンカチーフを渡すとビアンカが泣き止むまで優しく背中をさすった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

ついうっかり王子様を誉めたら、溺愛されまして

夕立悠理
恋愛
キャロルは八歳を迎えたばかりのおしゃべりな侯爵令嬢。父親からは何もしゃべるなと言われていたのに、はじめてのガーデンパーティで、ついうっかり男の子相手にしゃべってしまう。すると、その男の子は王子様で、なぜか、キャロルを婚約者にしたいと言い出して──。  おしゃべりな侯爵令嬢×心が読める第4王子  設定ゆるゆるのラブコメディです。

【番外編追加】冷酷な氷の皇帝は空っぽ令嬢を溺愛しています~記憶を失った令嬢が幸せになるまで~

柊木ほしな
恋愛
 雪のように白い肌。金の髪。薄紫の瞳。  美しい容姿をもつ公爵令嬢ヴィエラは、ある日突然、隣国の若き皇帝・オズウェルに嫁ぐことになる。  隣国ルーンセルンの皇帝陛下は、部下にも敵にも容赦をしない、冷酷な男だと有名だった。  この結婚は、愛のない政略結婚のはず。  それなのに、何故かヴィエラは毎夜のように愛されることになる。 「なんでこんなに愛されてるのっ!?」 「妻を愛することの何が悪い」  不器用ではあるが愛してくれるオズウェルに、ヴィエラはしだいに惹かれていくが、オズウェルの元婚約者という令嬢が現れて……。  これは、好きな人にはめっぽう甘かった冷酷(?)な皇帝が、過去の記憶を失っている令嬢を幸せにするお話。 ◇◇◇◇◇◇ お気に入り登録・いいね、ありがとうございます♡ ※別名義・別タイトルで過去に途中まで連載していました。 ※R18は遅いです。(‪☆マークつけます) ※ざまぁ要素は中盤以降です。 ※この作品はムーンライトノベルズ様にも掲載しております。

王様とお妃様は今日も蜜月中~一目惚れから始まる溺愛生活~

花乃 なたね
恋愛
貴族令嬢のエリーズは幼いうちに両親を亡くし、新たな家族からは使用人扱いを受け孤独に過ごしていた。 しかし彼女はとあるきっかけで、優れた政の手腕、更には人間離れした美貌を持つ若き国王ヴィオルの誕生日を祝う夜会に出席することになる。 エリーズは初めて見るヴィオルの姿に魅せられるが、叶わぬ恋として想いを胸に秘めたままにしておこうとした。 …が、エリーズのもとに舞い降りたのはヴィオルからのダンスの誘い、そしてまさかの求婚。なんとヴィオルも彼女に一目惚れをしたのだという。 とんとん拍子に話は進み、ヴィオルの元へ嫁ぎ晴れて王妃となったエリーズ。彼女を待っていたのは砂糖菓子よりも甘い溺愛生活だった。 可愛い妻をとにかくベタベタに可愛がりたい王様と、夫につり合う女性になりたいと頑張る健気な王妃様の、好感度最大から始まる物語。 ※1色々と都合の良いファンタジー世界が舞台です。 ※2直接的な性描写はありませんが、情事を匂わせる表現が多々出てきますためご注意ください。

聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。 聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。 やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。 女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。 素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。

【完結】【R18】伯爵夫人の務めだと、甘い夜に堕とされています。

水樹風
恋愛
 とある事情から、近衛騎士団々長レイナート・ワーリン伯爵の後妻となったエルシャ。  十六歳年上の彼とは形だけの夫婦のはずだった。それでも『家族』として大切にしてもらい、伯爵家の女主人として役目を果たしていた彼女。  だが結婚三年目。ワーリン伯爵家を揺るがす事件が起こる。そして……。  白い結婚をしたはずのエルシャは、伯爵夫人として一番大事な役目を果たさなければならなくなったのだ。 「エルシャ、いいかい?」 「はい、レイ様……」  それは堪らなく、甘い夜──。 * 世界観はあくまで創作です。 * 全12話

余命一年の転生モブ令嬢のはずが、美貌の侯爵様の執愛に捕らわれています

つゆり 花燈
恋愛
『一年後に死亡予定の嫌われ婚約者が、貴方の幸せのために出来る事~モブで悪女な私の最愛で最悪の婚約者~』が、タイトルを『余命一年の転生モブ令嬢のはずが、美貌の侯爵様の執愛に捕らわれています』に変更し、2月15日ノーチェブックス様より書籍化しました。 応援して下さった皆様にお礼申し上げます。本当にありがとうございます。 お知らせ: 書籍化該当シーンや類似シーンが本編から削除されています。 書籍とweb版は設定が大きく異なります。ご了承ください。 ✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼ この物語は失った少女の魂を追い求め望まぬ永遠を手に入れた青年と、必ず18歳で死んでしまう少女の物語。 『リーベンデイルの生きた人形』 それは、奴隷制度のないこの国で、愛玩用に売買される美しい愛玩奴隷の隠語だ。 伯爵令嬢と王家の影、二つの顔を持つアリシティアは、幼い頃からリーベンデイルの生きた人形を追っていた。 この世界は、アリシティアが前世で読んだ物語と類似した世界で、アリシティアは番外編で名前が出た時点で死んでいるモブ中のモブ。 そんな彼女は、幼い頃、物語のヒーローの1人ルイスと出会う。だが、この先アリシティアが何もしなければ、ルイスは19歳で物語のヒロインであるお姫様を庇って死んでしまう。 そんなルイスの運命を変えたいと願ったアリシティアは、物語の中では名前すら出てこない、ルイスの死の間際ですら存在さえも思い出して貰えない彼の婚約者となり、ルイスの運命を変えようとする。だが、アリシティアは全てに失敗し、幼いルイスに嫌われ拒絶される。そしてルイスは、物語通りお姫様に恋をした。 それでも、1年後に死亡予定の彼女は、リーベンデイルの生きた人形を追いながら、物語のクライマックス、王太子暗殺事件とルイスの死を阻止するため、運命に抗おうとする。 だが彼女は知らぬ間に、物語の中に隠された、複雑に絡み合う真実へと近づいていく。 R18のシーンには、【R18】マークをつけています。 ※マークは、改定前の作品から変更した部分です。 SSとして公開していたシーンを付け加えたり、意図をわかりやすく書き直しています。 頂いたコメントのネタバレ設定忘れがあります。お許しください。 ※このお話は、2022年6月に公開した、『モブで悪女な私の最愛で最悪の婚約者』の改訂版です。

【R18】国王陛下に婚活を命じられたら、宰相閣下の様子がおかしくなった

ほづみ
恋愛
国王から「平和になったので婚活しておいで」と言われた月の女神シアに仕える女神官ロイシュネリア。彼女の持つ未来を視る力は、処女喪失とともに失われる。先視の力をほかの人間に利用されることを恐れた国王からの命令だった。好きな人がいるけどその人には好かれていないし、命令だからしかたがないね、と婚活を始めるロイシュネリアと、彼女のことをひそかに想っていた宰相リフェウスとのあれこれ。両片思いがこじらせています。 あいかわらずゆるふわです。雰囲気重視。 細かいことは気にしないでください! 他サイトにも掲載しています。 注意 ヒロインが腕を切る描写が出てきます。苦手な方はご自衛をお願いします。

処理中です...