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第1話 二人の婚約者候補①
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新緑が艶やかに光を照らしかえす。
爽やかな風が心地良いこの時期に、王城の庭園でガーデンパーティが催された。
今をときめく第二王子が主催と銘打ったこのパーティには、貴族令嬢や貴族令息、有力な商家の子が多数集まっている。
皺一つない白い布が敷かれた長机がいくつも配置され、その上には王家のお抱えシェフが作ったであろう多種多様な軽食とスイーツが用意されていた。
王城のガーデンパーティに招待されるのは大変光栄なことである。
特に若い令嬢達は浮き足立っていた。
理由は簡単だ。
もっぱら、今回のガーデンパーティは第二王子の婚約者候補が発表されるという噂があった。
スラットレイ伯爵家の娘、シャルロットも参加者の一人だ。
シャルロットは特別、第二王子の婚約者になりたい訳ではないが、王家のスイーツが食べられる数少ない機会のため、今回のパーティを楽しみにしていた。
全ての種類に手をつけるのは不可能なほどたくさんのスイーツに心が踊る。
(はあ、どれを頂こうかしら)
幸せな溜め息をつきながら、目移りしていると、大きな衝撃がシャルロットの頬を襲った。
バシンと強く乾いた音があたりに響き渡る。
ジンジンとシャルロットの頬がひりつく。
シャルロットは何が起こったかわからなかったが、可愛らしい声に似つかわしくない金切り声が響く。
「許せない!あなたなんか!ただの昔馴染みのくせに!」
シャルロットの目の前には赤髪の令嬢がひどい形相で仁王立ちしている。
たしか商家の一人娘、ヴェロニカだ。
なぜこんなに怒っているのか分からなかったが、ヴェロニカの次の一言で全てを察した。
「絶対にフリード殿下の婚約者は譲らないわ!」
眉を吊り上げて激怒するヴェロニカはそれだけ言うと、シャルロットの返事など必要ないかのように踵を返した。
クスクスと周りから嘲笑の声が聞こえる。
シャルロットは自分が婚約者候補に選ばれたことを察した。
ーーー
蓋を開けてみればシャルロットとヴェロニカは婚約者筆頭として花嫁修行をすることになった。
なんと二人とも婚約者候補になったのだ。
ヴェロニカも候補に選ばれているのであれば、あれほど怒らなくてもよかったのではないか。
婚約者候補が二人いることが気に食わなかったのかもしれない。
王子の婚約者は最低でも三ヶ月は花嫁修行を受けるのが通例で、その間は王城に住み込む。
若い令嬢が住み込むことで周囲からは殿下の本命だと思われがちだが、結果的に婚約者にならないことも過去にはあったらしい。
それでも王城で花嫁修行をしたという箔がつく。
見初められなかったとしても、その後は引き手数多ということだ。
ただしヴェロニカは本気でフリードの婚約者になりたいのだろう。
あれほど怒っていたのだから。
シャルロットはどうぞどうぞ、という気持ちではあるが、選ばれたからには精一杯努めたい。
生半可な気持ちは失礼だとも考えた。
第二王子であるフリードは歳が二十二になるが、今まで一人も婚約者候補を決めてこなかった。
ただ、美しくも柔和でどんな令嬢とも気さくに話す第二王子は大変人気があり、王子の花嫁になれるかもしれないと夢を見てしまう若い令嬢は多かった。
その為、浮いた話も多い。
実家に遊びに来てくれただの、城下町でデートしていただの、舞踏会のあとに女性と休憩室に入って行っただの。
シャルロットは第二王子の昔馴染みだ。
シャルロットはフリードが王立学院に入学するまではよく王城で共に過ごしたが、シャルロットはフリードに特別な感情を持ったことはなく、それよりも毎回用意される菓子を楽しみにしていた。
スラットレイ伯爵家は代々王家と親睦があった。
元々広大な領地の領主であり、人と土地の管理が極めて秀でていた為、没落や横領などで爵位を返上する貴族に領地があった場合、スラットレイ家が仮の領主に任命されることがあった。
治安が悪ければ治め、ひもじい者が多ければ身分に分け隔てなく、食料を分け与え元気づけた。
曾祖父の代で相当な領土を誇っていたが、祖父、父の代でさらに拡大し、領主の中では国一番の広さを所有するまでになった。
どれだけ土地を持っても堅実な領地経営を行い、しかも求められれば少しの恩恵と引き換えに国に土地を返還するのだ。
領主であるスラットレイ伯爵が政界から離れているがゆえに、王家としては縁故関係で有力な伯爵家と結び付きを強固にしておきたいのだろう。
現代の王子は四人もいる。
王子は他国の王女や令嬢と婚姻関係を結ぶのが一般的だろうが、一人くらい国内での政略結婚をしても問題ないのだろう。
昔馴染みであるフリードとの穏やかな関係を思うと、見初められているなどと到底考えられず、シャルロットは自分が選ばれている理由を過不足なく理解していた。
ヴェロニカは新興の商家の娘で、ヴェロニカの実家はここ十年で国外に対してとても利益を伸ばしていると聞いたことがある。
ヴェロニカが選ばれた理由も、概ね自分と同様だろう。
シャルロットは王城に上がると、侍女に案内されてこれからしばらく過ごすことになる部屋までやってきた。
両開きの扉を開くと前室と思われるスペースがあった。
前室は侍女や護衛が待機できるような作りになっているようだ。
前室を通り部屋に案内されると、可愛らしい小花の壁紙に品のある調度品が飾られる中、そこに似つかわしくない屈強な騎士が立っていた。
爽やかな風が心地良いこの時期に、王城の庭園でガーデンパーティが催された。
今をときめく第二王子が主催と銘打ったこのパーティには、貴族令嬢や貴族令息、有力な商家の子が多数集まっている。
皺一つない白い布が敷かれた長机がいくつも配置され、その上には王家のお抱えシェフが作ったであろう多種多様な軽食とスイーツが用意されていた。
王城のガーデンパーティに招待されるのは大変光栄なことである。
特に若い令嬢達は浮き足立っていた。
理由は簡単だ。
もっぱら、今回のガーデンパーティは第二王子の婚約者候補が発表されるという噂があった。
スラットレイ伯爵家の娘、シャルロットも参加者の一人だ。
シャルロットは特別、第二王子の婚約者になりたい訳ではないが、王家のスイーツが食べられる数少ない機会のため、今回のパーティを楽しみにしていた。
全ての種類に手をつけるのは不可能なほどたくさんのスイーツに心が踊る。
(はあ、どれを頂こうかしら)
幸せな溜め息をつきながら、目移りしていると、大きな衝撃がシャルロットの頬を襲った。
バシンと強く乾いた音があたりに響き渡る。
ジンジンとシャルロットの頬がひりつく。
シャルロットは何が起こったかわからなかったが、可愛らしい声に似つかわしくない金切り声が響く。
「許せない!あなたなんか!ただの昔馴染みのくせに!」
シャルロットの目の前には赤髪の令嬢がひどい形相で仁王立ちしている。
たしか商家の一人娘、ヴェロニカだ。
なぜこんなに怒っているのか分からなかったが、ヴェロニカの次の一言で全てを察した。
「絶対にフリード殿下の婚約者は譲らないわ!」
眉を吊り上げて激怒するヴェロニカはそれだけ言うと、シャルロットの返事など必要ないかのように踵を返した。
クスクスと周りから嘲笑の声が聞こえる。
シャルロットは自分が婚約者候補に選ばれたことを察した。
ーーー
蓋を開けてみればシャルロットとヴェロニカは婚約者筆頭として花嫁修行をすることになった。
なんと二人とも婚約者候補になったのだ。
ヴェロニカも候補に選ばれているのであれば、あれほど怒らなくてもよかったのではないか。
婚約者候補が二人いることが気に食わなかったのかもしれない。
王子の婚約者は最低でも三ヶ月は花嫁修行を受けるのが通例で、その間は王城に住み込む。
若い令嬢が住み込むことで周囲からは殿下の本命だと思われがちだが、結果的に婚約者にならないことも過去にはあったらしい。
それでも王城で花嫁修行をしたという箔がつく。
見初められなかったとしても、その後は引き手数多ということだ。
ただしヴェロニカは本気でフリードの婚約者になりたいのだろう。
あれほど怒っていたのだから。
シャルロットはどうぞどうぞ、という気持ちではあるが、選ばれたからには精一杯努めたい。
生半可な気持ちは失礼だとも考えた。
第二王子であるフリードは歳が二十二になるが、今まで一人も婚約者候補を決めてこなかった。
ただ、美しくも柔和でどんな令嬢とも気さくに話す第二王子は大変人気があり、王子の花嫁になれるかもしれないと夢を見てしまう若い令嬢は多かった。
その為、浮いた話も多い。
実家に遊びに来てくれただの、城下町でデートしていただの、舞踏会のあとに女性と休憩室に入って行っただの。
シャルロットは第二王子の昔馴染みだ。
シャルロットはフリードが王立学院に入学するまではよく王城で共に過ごしたが、シャルロットはフリードに特別な感情を持ったことはなく、それよりも毎回用意される菓子を楽しみにしていた。
スラットレイ伯爵家は代々王家と親睦があった。
元々広大な領地の領主であり、人と土地の管理が極めて秀でていた為、没落や横領などで爵位を返上する貴族に領地があった場合、スラットレイ家が仮の領主に任命されることがあった。
治安が悪ければ治め、ひもじい者が多ければ身分に分け隔てなく、食料を分け与え元気づけた。
曾祖父の代で相当な領土を誇っていたが、祖父、父の代でさらに拡大し、領主の中では国一番の広さを所有するまでになった。
どれだけ土地を持っても堅実な領地経営を行い、しかも求められれば少しの恩恵と引き換えに国に土地を返還するのだ。
領主であるスラットレイ伯爵が政界から離れているがゆえに、王家としては縁故関係で有力な伯爵家と結び付きを強固にしておきたいのだろう。
現代の王子は四人もいる。
王子は他国の王女や令嬢と婚姻関係を結ぶのが一般的だろうが、一人くらい国内での政略結婚をしても問題ないのだろう。
昔馴染みであるフリードとの穏やかな関係を思うと、見初められているなどと到底考えられず、シャルロットは自分が選ばれている理由を過不足なく理解していた。
ヴェロニカは新興の商家の娘で、ヴェロニカの実家はここ十年で国外に対してとても利益を伸ばしていると聞いたことがある。
ヴェロニカが選ばれた理由も、概ね自分と同様だろう。
シャルロットは王城に上がると、侍女に案内されてこれからしばらく過ごすことになる部屋までやってきた。
両開きの扉を開くと前室と思われるスペースがあった。
前室は侍女や護衛が待機できるような作りになっているようだ。
前室を通り部屋に案内されると、可愛らしい小花の壁紙に品のある調度品が飾られる中、そこに似つかわしくない屈強な騎士が立っていた。
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