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父親の威圧感
しおりを挟む王城の一室、ここは応接室なんだろう。センスの良い調度品、質の良い高級家具、高い天井、広々とした窓には希少な薄いクリスタルが全面に張られてあり、それは角度を変えて見るとキラキラとその色を変える。
まるでジルの髪と瞳のようだ。
ジルと一緒に座り、用意されたスイーツを食べる。その様子をシルヴェストル陛下は真剣な表情で見ている。居心地が悪い。
ジルは時々俺を見て、目が合うとニッコリ笑う。俺もジルの笑顔を見て、同じように笑う。
しかし、そんな俺達をシルヴェストル陛下は眉間にシワを寄せて凝視する。かなり居心地が悪い。
ジルは俺にピッタリとくっついている。時々、俺の肩にコツンと頭を寄せてグリグリする。
可愛いんだけど、これをシルヴェストル陛下の前でされるのはさすがに気まずい。
きっとジルには分からないのだろう。父親と言う者の気持ちが。それは仕方がない。仕方がないんだが、今あからさまに俺に接触されるのはいただけない。
俺のそんな気持ちも、シルヴェストル陛下の気持ちも分かっていないジルは、いつものように俺に接する。
だからさっきから視線が痛いんですよ! シルヴェストル陛下っ!
「その……リーンハルトとやらは……ジュディスと……どういった関係、なのか……?」
「え?! それ、は……」
「どういった関係? えっと……あ! リーンは私の命の恩人です!」
「そうなのか?!」
「あ、いえ! そう言うのではなく!」
「違うのか?」
「リーンは私を助けてくれたよ? だから命の恩人ってやつだよ!」
「どう言う事なのか、説明せよ」
「それは……」
俺はジルとの出会いをシルヴェストル陛下に話して聞かせた。どこまでジルが自分の事を話しているか分からなかったが、自分の知りうる事を述べていく事にする。
騎士団として犯罪者の村から助け出し、それからジルが神官達に聖女として囚われていた事。偽聖女として捕らえられたヴィヴィが、ジルの身代わり聖女としていた事を話した。
「あの女には、そういった事情があったという訳なのだな」
「そうです。ヴィヴィはずっと自分が、自分こそが聖女だと思っていたのです。そう言われ続けて、その様に扱われていたので、それは仕方がなかったと思います」
「それを聞くと納得は出来るが……しかし、我が国では聖女とは神にも等しい存在であるのだ。思い込んでいたとは言え、謀ったと思われても仕方がない。それに……」
「それに?」
「ジュディスがあんな酷い目にあっていたのに、そのヴィヴィとやらは聖女だと敬われ、なに不自由なく暮らしていたのだぞ。本来はジュディスが得るべきであった栄光も地位も、何もしなかったヴィヴィとやらが全て奪ったのだぞ?! そんな奴は万死に値する……!」
「違います!」
「な、なんだ? ん? どうした? ジュディス?」
「ヴィヴィは勝手に身代わりにされただけです! 訳も分からずに聖女だって言われて、ずっと塔に閉じ込められて……! だからヴィヴィは何も悪くないです!」
「ジル……」
「ジュディスはなんと優しい心の持ち主なのだ……」
「そうじゃないです、けど……でも、だから、ヴィヴィもちゃんと自由にしてください! お願いします!」
「ジュディスがそう言うならばそうしよう」
「ありがとうございます! あの、その後はヴィヴィはどうなりますか?」
「その後、とは?」
「そのまま放っておいたら、ヴィヴィはこの国で生きていくの、大変だと思います。だからヴィヴィがどうしたいか聞いてください! この国で生きてくのか、あの国に帰り、たいの、か……」
「分かった。ジュディスの望む事ならば、余は何でも叶えようぞ。あの者が不自由せぬようにすれば良いのだな?」
「ありがとう、ございます……」
「ジル? どうした?」
「……え?」
「いや、なんか急に元気が無くなったように感じたから……」
「ううん……そんな事、ないよ……」
「そうか?」
「……で、ジュディスの命の恩人と言うのは、犯罪者達の村から助け出したから、と言うことなのかな? しかし魔力の事を報告し、ジュディスを引き渡したのは貴様の落ち度ではないのか?! そのせいでジュディスは……っ!」
「そう、です……っ! 自分の落ち度です……!」
「え?! なんで?! なんでそうなるの?!」
「此奴のせいでジュディスはあんな目にあったのだぞ?! 此奴がジュディスと会わなければっ!」
「違う違うっ! リーンは! リーンは悪くないのっ!」
「だがっ!」
「シルヴェストル陛下! またそうやってお怒りになって! 聖女様が怖がりますよ!」
「アデラ……! そ、そうか! ……そうだな……すまなかった」
「いえ、陛下の仰る通りです。私と出会わなければ、ジルはあんな目に合わなかったかも知れません。ですが、私はジルと会えた事を神に感謝したいと思っております。これは私のエゴですが……」
「私もリーンに会えて良かったよ? 私を助けてくれたのはリーンだけだもの」
「しかし、村から助けた事は、結果的に助けた事にはなっていないだろう?」
「ううん、違うんです。王城の地下の牢獄に囚われていた時、助けてくれたのはリーンだったんです。私が今ここにいられるのは、リーンがいたからなんです」
「そうなのか……?」
シルヴェストル陛下はジルの記憶を読んだそうだが、どういう経緯でそうなったのかは分かっていなかったようだった。
だから俺が、断片的に見えていた記憶の隙間を埋めるように話していく。
そうしてシルヴェストル陛下は、話と記憶を
組み合わせていけたようだった。
時々、ジルを思ってか涙を浮かべながら俺の話を聞くシルヴェストル陛下は、本当にジルを愛しているように思えた。
ジルとシルヴェストル陛下はやはり親子なのだろう。顔は違うように感じるが、何処と無く雰囲気が似ているように思う。
ジルはまだその事を受け入れられないようだが、共にいる時間が増えれば、父親だと思えるようになるんじゃないだろうか。
そう考えて、少し胸が痛んだ。ジルは俺の父さんと母さんを自分のお父さんとお母さんだと言ってくれた。
それは本当に嬉しい事だったし、一緒に両親の事を話すのが俺は楽しかったんだ。
今もジルはそう思ってくれているだろう。だけど、本当の父親が見つかったのであれば、ジルはここにいるべきなんじゃないだろうか。
それが有るべき姿なんじゃないだろうか。
それに、ここにいた方がジルは安全なのだ。
もう誰にも害されず、ジルは多くの人に強い力で守られるんだ。
それは俺よりもきっと心強いのだ。
俺達の話をして、次はシルヴェストル陛下の話を聞くことにする。
なぜジルは母親から連れ出され、部屋に閉じ込められていたのか。
ジルの母親は今どうしているのか。
それを知る事がやっと出来るのだ。
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