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好きな人は
しおりを挟むリーンと二人の旅は本当に楽しくて、ずっとこうやって二人でいられたら良いのにって、何度も何度も思ってしまう。
もちろん、もう離れるつもりはないよ。私はリーンといなくちゃ嫌な事ばかりが起こるもの。
だからずっと一緒にいたい。それが許されるのなら……
リーンにキスというものを教えて貰ってから、私はリーンにそうして貰うのが嬉しくて仕方がなかった。
キスをすると、凄くリーンと近くなれた気がして、なんだか特別な感じがして、幸せな気持ちになる。だからずっとリーンとキスをしたいと思ってるんだけど、人前ではダメなんだって。だから、二人きりの時にして貰うようにしている。
でも、前みたいな感じにはしてくれなくて、最近は軽く唇をくっ付けるだけのキスになっている。それはやっぱり物足りないんだけど、その事を言うとリーンは困ったように笑うから、何か理由があるのかな? と思いながら我慢する事にしている。
リーンと手を繋いで歩くのも好き。前の義手は触れてもその感じは伝わらなかったけれど、新しい義手は触れた感触があるから、リーンとより深くなれているように感じるの。
ずっとリーンに触れていたい。少しでも離れたくない。そんな事ばかり考えてしまう。
だけどリーンは、触れたりキスをしたりするのは、本当に好きな人とじゃないとダメだって言う。
そう言われて考えたけど、私は本当にリーンの事が好きだし、他に好きな人と言えばお父さんとお母さんだし。
後は私を助けてくれたシルヴォとイザイアも好きだけど、リーンの好きとは違うような感じがする。
お父さんとお母さんの好きと、リーンの好きもなんか違う。違いは分からないけど、なにかが違う。
それはリーン以外の人とはキスとかしたいと思わないって事からそう感じる。そうするのはリーンとだけ、他の誰ともそうしたいなんて思わない。これはどういう事なんだろう?
よく分からない。私は分からない事や知らない事が多すぎる。
物心ついた頃から外界とは隔離された生活を送ってきていて、その後捕らえられた先でも、隔離された世界の中、拷問のような毎日を耐え続ける日々の生活で。
だから普通の生活というものが分かってなくて、人々がどの様に生まれ、日々生活していくのかを全く知らなかった。それを教えてくれたのはお父さんとお母さんで、だけどそれもつかの間で、それからはリーンが私に様々な事を教えてくれている。
リーンは私にとって全てが特別で、だからずっと一緒にいたいと思ってしまう。
でも、リーンは身代わり聖女だったヴィヴィが好き。それは以前聞いた事がある。だから私も好きになるって言った。リーンの好きな人は、私にとっても特別だから。
リーンは私も好きだって言った。それは嬉しいんだけど、ヴィヴィも好きなら、きっとヴィヴィにもキスとか出来るんだろうな。そう思うと胸がチクチクする。
リーンが私一人を好きだったら良いのにって思ってしまう。でも、リーンがヴィヴィを好きならどうしようもない。沢山の好きがあるのが普通の事かも知れないし。私は普通を知らないから。
この国で、帰って来たとされる聖女の事を聞くリーンを見る度に、いつも胸が苦しくなる。
リーンは今もヴィヴィをずっと気にしてるんだと思うと、それが凄く嫌だと感じてしまう。
そう思ってしまう自分を酷いなと思う。リーンがヴィヴィの事を少しでも忘れて、私の事だけを考えてくれたら良いのに。そんな事ばかり思ってしまう自分が嫌になってしまう。
だから宿屋でリーンが帰って来た聖女、ヴィヴィの話を聞いてる時に胸がモヤモヤしちゃって、その訳の分からないモヤモヤを無くしたくて、リーンにギュッてして欲しくて、それからキスして欲しくてねだるように目を閉じた。
リーンが私から離れないように、首に手を回してキスを続ける。
そうすると前みたいなキスをしてくれた。
ベッドに寝転ぶような形になって、上に被さるようにして口付けるリーンが愛しく思えてならない。
あれ? 愛しいって、好きよりもっと好きって事なんじゃないかな? そうだ。私はリーンを好きより、もっとずっと好きなんだ。
でも、そんな事も考えられなくなるくらい、リーンの唇と舌は荒々しくて、私もその激しさを受け入れるように絡ませていく。
リーンの手が私の体に触れていく。それは心地好くて、触れられるのは気持ち良い事だって教えて貰えてるようにも感じた。
ん? なんか胸にリーンの手が……
服の中に手を入れて、リーンが私の胸を触っていく。なんだろう、これ、なんか変な気持ちになっちゃう……
キスだけでも可笑しくなりそうなのに、胸に触れられるともっと変になっちゃいそうで、思わず
「リーン……?」
って呟いてしまった。
するとリーンは自分のした事に驚いたように、私から飛び退いてしまった。
あれ? なんで止めたのかな? その前に、なんでリーンは私の胸を触ったんだろう? 聞いてもリーンは答えづらそうだったけど。
でも、なんかそうされたのが嬉しかった。触れられるのは嬉しい。だって、今までは誰もが私を汚いモノでも見るような目付きだったし、汚い、穢らわしい、近寄るなって言われてきたし、だから人の温かさとか心地好さはずっと知らなかった。
そしてそれを教えてくれたのはお父さんとお母さん、そしてリーンだけだった。
だからリーンには何をされても良いの。だって、リーンは私に良いことしかしないもの。そう言ったら、リーンに
「男にそんな事を言っちゃいけない」
って言われてしまった。
じゃあ、女の人になら良いのかな? でも触れて欲しいのはリーンだけなんだけどな。
でもそうされて、さっきまであった胸のモヤモヤがどっかに行っちゃって、なんか気持ちが穏やかになったのが不思議。
リーンに触れられるだけで気持ちが軽くなるって、本当にリーンは凄いなって思う。
何故か焦っているような感じのリーンに、帰ってきたらさっきと同じようにして貰う事にして、食事に出掛けた。
そうしたら人だかりが出来ていて、それは聖女を名乗る偽物を公開処刑されるからという事を聞いた。
もしかしたらヴィヴィの事じゃないだろうかって、そう思ったら居ても立ってもいられなくなって、私はすぐに駆け出した。
ヴィヴィはリーンの好きな人で、だからもしヴィヴィに何かあったら、リーンは凄く悲しむ筈で、そんな姿を私は見たくないって思いからヴィヴィを助け出す事しか頭になくって、何の計画もなく人々を掻き分け走っていった。
それでも人が多くて行く手を阻まれるから、全身に軽く雷魔法を這わせると、触れた人達は静電気が起こったように感じて私から離れていく。
そうやってズンズン進んで行くと、一人の女性が壇上に引き摺るように上げられているのが目に飛び込んできた。
きっとあれがヴィヴィだ。
早く助け出さないと。
じゃないとリーンが悲しむ。
リーンにはいつも笑っていて欲しい。
だからヴィヴィ、必ず貴女を助けるからね。
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