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願うこと
しおりを挟む俺が知らない間に両親は殺されていた。
それも俺が頼んだ事が原因だった。
ただ助け出してやりたかっただけなんだ。
自分が関わった子達が不遇な目に合っている事が許せなかったんだ。
だからまた助け出す事にした。
けれどそれが間違っていたと言うのか……?
呆然と佇んでいる俺を見て、イザイアが困ったように呼び掛けてくる。
「リーンハルト様……大丈夫ですか……?」
「……あぁ……」
「すぐにお知らせ出来ず、申し訳ありません」
「いや……それは仕方がない……それは俺が……」
俺が強引に旅に出たからだ。ただ聖女の持ち物を探し出したくて。行方不明の子を探し出したくて。頼まれてもいないのに。
こんな事になるとは思いもしなかった。しかし、色んな可能性を想定していなければならなかった。これは俺の浅はかさが招いた結果だ。
シルヴォは何処に行った? 地下から助け出した子を連れて逃げたのか? それは何故だ?
連れ出してはいけない子だったのか? そんなに重要な人物だったと言うのか?
しかし囚われていた場所は、警備はされていたがそこまで厳重に管理されていたと言う程でもなかった。でなければ、いくら隠密に長けているとは言え助け出せる事等無かった筈だ。
いや……誰も連れ出される等と考えなかったか。身寄りもいない子達だ。だから油断していたと言う事……か?
シルヴォ……何があった?
今どこにいる?
俺の両親を犠牲にしてでも連れ出さなければならない程の子だったのか?
……いや……そんな事を考えてはいけない……
ことの発端は、全て俺なのだ……
「イザイア……お前はシルヴォがどうなっていると思う?」
「行方が分からなくなってから、私も探しました。知り得る所は全て探し尽くしました。しかし手がかりは何一つ見つかりませんでした。それを踏まえまして……」
「なんだ? 言ってみろ」
「……もう……亡くなっておられるかと……」
「……っ!」
「あの方であれば、何処かに手がかりを残しておく筈なんです。私やリーンハルト様だけに分かるように、隠れ家等に残しておく筈なんです。それが何も無かったんです。何もです……!」
「そうだな……シルヴォならそうするな……だがそれなら……囚われていた子は何処に……」
「分かりません……上手く逃げられたか既に捕まってしまったか……」
「そうか……」
今回拐われた二人と囚われていた子には何があるというんだ?
聖女がもしいなくなったなら、こうされるのは分からなくはない。国を守るものが無くなるからな。でもあの子達は? いなくなって何か変わる事があったのか?
と言うか、聖女はどうなっている? 無事なのか?
「イザイア、聖女はどうなっている?」
「聖女様はお変わりないようです」
「そうか……それは良かった……しかし……」
「分からない事だらけです。私も仕事の合間に独自に調査はしておりますが……」
「ではこれからも引き続き頼む」
「承知致しました」
「あ、イザイア!」
「はい?」
「くれぐれも気をつけて欲しい。お前まで……いなくなってしまわないでくれ……」
「最善を尽くします」
しっかりと俺の目を見て頷いてから、イザイアは姿を瞬時に消した。
何が起きているのか。今の段階では何も分かってはいない。しかし、俺の両親が関わっているのだ。殺されたのだ。このまま捨て置く事等できる筈がない。
俺が侯爵家の養子となってから、近くに住んでいるとは言え一度も会う事は無かった。だけど何処に住んでいるのかは知っている。
飲み屋をフラリと出てから、無意識に両親が住んでいた家にやって来ていた。
目の前にあるのは、俺が一度も立ち入る事がなかった両親が住んでいた家。
幼い頃……
俺が侯爵家に来たばかりの頃、貴族としての厳しい教育が嫌で、逃げ出すようにして時々ここまでやって来たものだ。
けれど家の前まで来て、俺はそこから扉を叩く事が出来ずに、ただ暫くその場で立ち尽くすのみだった。
そのうちに執事が迎えに来て、宥めるように優しく俺の手を取って侯爵家に二人で帰ったのが昨日の事のように思い出せる。
優しい人達だった。
優しい人達だったんだ。
真面目で素直で、人に恨みを買うなんて事とは縁のない人達だったんだ。
「父さん……母さん……すまなかっ……」
知らずに流れ出す涙はそのままに、俺は暫くその場に立ち尽くすのみだった。ここに入ってはいけない気がした。だからそこから一歩も前に進む事ができなかった。
両親はオーダーメイドの武器と防具用衣服の店を営んでいた。
父が武器を作り出し、母が布や革等で主に冒険者用の衣服を作っていた。腕が良かったからそこそこ人気の店だったと、調査をさせたイザイアから聞いたことがある。
近所付き合いも良く、周りの店や常連客と仲良くしていたと言っていた。
生きてさえいてくれていたら良かった。それだけで良かったんだ。
暫く自分の気持ちを落ち着かせる為に佇み、踏ん切りをつけるようにその場を後にした。
なぜ両親は死ななければならなかったのか。必ず真相を明らかにしてやる。
次に俺が向かった先は聖女が囚われている塔だ。イザイアは聖女は問題ないと言っていた。だけどこの目で確認したかった。
塔に近づけるギリギリまで行って、いつものように下から聖女の部屋がある窓を見上げる。聖女が無事なのがまだ救いだ。これで聖女にも何かあれば、俺は冷静ではいられないかも知れない。
暫くそうやって見上げていると、聖女の姿が見えた。良かった。彼女は無事だった。
あぁ、この感覚は懐かしいな……
聖女が無事だった事が唯一の救いのように感じた。
君だけは無事でいてくれ。
お願いだから。
それを直接言う事もできず、ただ心の中でそう願って俺は塔を後にした。
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