ただ一つだけ

レクフル

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知らなかった事

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 平民のような出で立ちで、自分の気配を消してイザイアに告げた場所まで赴く。

 自分の魔力を今いる場所の空気感と同化させるようにすると、俺の存在が周りの者にはほぼ分からなくなるのだ。こう出来ることが、俺が隠密に向いていると言われる所以だった。

 裏手から人知れず二階へ上がる。そこには既にイザイアがいたようだ。


「姿を見せろ。俺しかいないのは分かっているだろう?」

「また腕を上げられましたか。話しかけられるまで認識できませんでした」


 イザイアの声が聞こえたと思ったら、一瞬のうちに俺の目の前に傅いているイザイアがいた。こうやって瞬時に姿を現すイザイアの方が凄いと思うのだが。


「そう持ち上げるな。で、何があったのか」

「は……シルヴォ様の行方が分からなくなっております」

「なに? いつからだ?」

「任務で姿を消すのはいつもの事でしたが、それを踏まえても姿を現さなくなったのは8ヶ月程になるかと」

「俺が旅に出た頃か?!」

「はい。任務の事を考慮しなければもう少し長いかと」


 暗部組織に与している者同士でも、どんな任務に就いているか等お互い知りようがない。どんな依頼でも秘匿とされているからだ。だからこんな言い方になるのだろう。

 イザイアはシルヴォに師事していた。言わば俺の兄弟子みたいなもんだ。とは言え、曲がりなりにも俺は侯爵家の人間だから、俺を従うモノとして扱ってくる。そんな事情もあって、イザイアはシルヴォと同様に、俺が信用している男なのだ。

 しかし、シルヴォに一体何があったのか。俺が旅に出る前にシルヴォに出した依頼は、10年程前に助け出した子供達の安否確認。その後の状況の報告を受けて、助け出す事を指示したのだが……

 俺の元に連れてきた二人は下働きとして面倒を見たが、その二人もいなくなってしまった。これは偶然か?


「イザイア、俺の指示でシルヴォが連れてきた二人の子がどうなったか知らないか? 下働きとして雇っていたんだが、俺が旅に出ている間に出て行ったそうなんだ。昨日その事を聞いたんだが……」

「その者達は……拐われました」

「拐われた?! 誰にだ?! いや……さっき聞いた時は勝手に出て行ったと言っていた。と言うことは……」

「はい……」


 あの担当者が俺に真実を言えないとなると、俺より高い地位の者が関わっている、か……

 しかし何故だ? 何があってそうなっている? 助け出してから俺が旅に出る迄の間は2ヶ月程だったか。その間は何も問題は無かった。いや、果たしてそうなのか? 俺が知らなかっただけで、何かが秘かに行われていたと言うのか?

 
「王城地下から助け出した子はどうなっているか分かるか?」

「それ、は……」

「どうした? 俺の両親に預けていた筈だ。シルヴォはその子の事を気にしていたようだったが……」

「…………」

「何があった?」

「その……リーンハルト様のご両親は……殺されました……」

「な、に……?」

「殺害したのがシルヴォ様となっております」

「そんな訳ねぇだろぉ!!」

「勿論分かっております! あの方がそんな事をする筈等ありませんから! ですがっ!」

「なんでそんな事になってるんだっ! いつだ?! いつ俺の親は……っ!」

「リーンハルト様が旅に出られて間もなくです……」


 どういう事だ?! 何があったんだ?! 何故俺の両親が殺されなくてはならない?! 

 シルヴォ……最後に会ったのはいつだったか……

 王城地下に囚われていた子を助け出しに行くのに、俺とシルヴォとイザイアは三人で赴いた。俺は警備をしている兵士達に催眠をかけ、鍵の在処を見つけ出した。それから他の兵士達が気づかないように注意しながら主に外で待機しつつ、邪魔なモノを排除していった。

 その間シルヴォとイザイアは地下へ侵入し、囚われていた子を救い出した。

 シルヴォが地下から出てきた時、その腕には布にくるまれた子を抱えていて、その子は見るからにボロボロの状態だったのを覚えている。

 かなり体を酷似されていたようで、落ち着ける場所が必要だとの事だったので、俺は自分の両親を頼ったのだ。
 会うことはしなかったが、手紙を書きそれをシルヴォに頼み、その子の面倒を見て欲しい事を告げた。
 シルヴォは、俺の両親は頼られた事を喜んでいたと報告してくれた。
 
 それが最後に会った時だった。


「両親は……どうやって殺された……?」

「それは……」

「そんなに……酷かったのか……?」

「拷問を受けた後が……至るところにあったと……」

「……っ!」


 何故だ……? 何故拷問等受ける必要があった? そんなに悪い事をしたのか? 口を割らせたい事でもあったのか……?


「両親の元へ預けた子は……どうなった?」

「その者も行方が分かっていません」

「もしかしたらその子をシルヴォが……」

「匿う為に連れ出した……かも知れませんが、確証はありません」

「だから何処に行ったのかを吐かせる為に両親に拷問をしたと?」

「可能性はあるかと」

「そんなに重要な人物だったのか……?」

「そうかも知れませんが、それはまだ分かっていません」

「そうか……」


 なんだ? なぜその子一人の為に? 地下に幽閉されていたのは何故だ? 

 俺はただ、助け出した子達が不遇な目に合っているのが許せなかっただけだ。だから助け出した。

 娼館にいた子も奴隷のようにこき使われていた子も、人としての扱いを受けてこなかった。
 
 人は自分が偉いのだと優位に立ちたくなるものだ。それが人を虐げる事に繋がっていくんだろうけど、だから奴隷制度は無くなっても、秘密裏に奴隷の売り買いが行われる事が後を絶たない。

 囚われていた子は、そんな奴らの自尊心を高める為に囲われて嬲られていたのだろうと思っていた。

 でもそうではなかったと言うことなのか?

 自分の浅はかだった考えのせいで犠牲になってしまった両親に申し訳ない気持ちと悲しみと悔しさと、そんな言い様のない複雑な思いが胸を締め付けて、俺は暫くその場から動く事ができなかったのだった……



 
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