17 / 141
知らなかった事
しおりを挟む平民のような出で立ちで、自分の気配を消してイザイアに告げた場所まで赴く。
自分の魔力を今いる場所の空気感と同化させるようにすると、俺の存在が周りの者にはほぼ分からなくなるのだ。こう出来ることが、俺が隠密に向いていると言われる所以だった。
裏手から人知れず二階へ上がる。そこには既にイザイアがいたようだ。
「姿を見せろ。俺しかいないのは分かっているだろう?」
「また腕を上げられましたか。話しかけられるまで認識できませんでした」
イザイアの声が聞こえたと思ったら、一瞬のうちに俺の目の前に傅いているイザイアがいた。こうやって瞬時に姿を現すイザイアの方が凄いと思うのだが。
「そう持ち上げるな。で、何があったのか」
「は……シルヴォ様の行方が分からなくなっております」
「なに? いつからだ?」
「任務で姿を消すのはいつもの事でしたが、それを踏まえても姿を現さなくなったのは8ヶ月程になるかと」
「俺が旅に出た頃か?!」
「はい。任務の事を考慮しなければもう少し長いかと」
暗部組織に与している者同士でも、どんな任務に就いているか等お互い知りようがない。どんな依頼でも秘匿とされているからだ。だからこんな言い方になるのだろう。
イザイアはシルヴォに師事していた。言わば俺の兄弟子みたいなもんだ。とは言え、曲がりなりにも俺は侯爵家の人間だから、俺を従うモノとして扱ってくる。そんな事情もあって、イザイアはシルヴォと同様に、俺が信用している男なのだ。
しかし、シルヴォに一体何があったのか。俺が旅に出る前にシルヴォに出した依頼は、10年程前に助け出した子供達の安否確認。その後の状況の報告を受けて、助け出す事を指示したのだが……
俺の元に連れてきた二人は下働きとして面倒を見たが、その二人もいなくなってしまった。これは偶然か?
「イザイア、俺の指示でシルヴォが連れてきた二人の子がどうなったか知らないか? 下働きとして雇っていたんだが、俺が旅に出ている間に出て行ったそうなんだ。昨日その事を聞いたんだが……」
「その者達は……拐われました」
「拐われた?! 誰にだ?! いや……さっき聞いた時は勝手に出て行ったと言っていた。と言うことは……」
「はい……」
あの担当者が俺に真実を言えないとなると、俺より高い地位の者が関わっている、か……
しかし何故だ? 何があってそうなっている? 助け出してから俺が旅に出る迄の間は2ヶ月程だったか。その間は何も問題は無かった。いや、果たしてそうなのか? 俺が知らなかっただけで、何かが秘かに行われていたと言うのか?
「王城地下から助け出した子はどうなっているか分かるか?」
「それ、は……」
「どうした? 俺の両親に預けていた筈だ。シルヴォはその子の事を気にしていたようだったが……」
「…………」
「何があった?」
「その……リーンハルト様のご両親は……殺されました……」
「な、に……?」
「殺害したのがシルヴォ様となっております」
「そんな訳ねぇだろぉ!!」
「勿論分かっております! あの方がそんな事をする筈等ありませんから! ですがっ!」
「なんでそんな事になってるんだっ! いつだ?! いつ俺の親は……っ!」
「リーンハルト様が旅に出られて間もなくです……」
どういう事だ?! 何があったんだ?! 何故俺の両親が殺されなくてはならない?!
シルヴォ……最後に会ったのはいつだったか……
王城地下に囚われていた子を助け出しに行くのに、俺とシルヴォとイザイアは三人で赴いた。俺は警備をしている兵士達に催眠をかけ、鍵の在処を見つけ出した。それから他の兵士達が気づかないように注意しながら主に外で待機しつつ、邪魔なモノを排除していった。
その間シルヴォとイザイアは地下へ侵入し、囚われていた子を救い出した。
シルヴォが地下から出てきた時、その腕には布にくるまれた子を抱えていて、その子は見るからにボロボロの状態だったのを覚えている。
かなり体を酷似されていたようで、落ち着ける場所が必要だとの事だったので、俺は自分の両親を頼ったのだ。
会うことはしなかったが、手紙を書きそれをシルヴォに頼み、その子の面倒を見て欲しい事を告げた。
シルヴォは、俺の両親は頼られた事を喜んでいたと報告してくれた。
それが最後に会った時だった。
「両親は……どうやって殺された……?」
「それは……」
「そんなに……酷かったのか……?」
「拷問を受けた後が……至るところにあったと……」
「……っ!」
何故だ……? 何故拷問等受ける必要があった? そんなに悪い事をしたのか? 口を割らせたい事でもあったのか……?
「両親の元へ預けた子は……どうなった?」
「その者も行方が分かっていません」
「もしかしたらその子をシルヴォが……」
「匿う為に連れ出した……かも知れませんが、確証はありません」
「だから何処に行ったのかを吐かせる為に両親に拷問をしたと?」
「可能性はあるかと」
「そんなに重要な人物だったのか……?」
「そうかも知れませんが、それはまだ分かっていません」
「そうか……」
なんだ? なぜその子一人の為に? 地下に幽閉されていたのは何故だ?
俺はただ、助け出した子達が不遇な目に合っているのが許せなかっただけだ。だから助け出した。
娼館にいた子も奴隷のようにこき使われていた子も、人としての扱いを受けてこなかった。
人は自分が偉いのだと優位に立ちたくなるものだ。それが人を虐げる事に繋がっていくんだろうけど、だから奴隷制度は無くなっても、秘密裏に奴隷の売り買いが行われる事が後を絶たない。
囚われていた子は、そんな奴らの自尊心を高める為に囲われて嬲られていたのだろうと思っていた。
でもそうではなかったと言うことなのか?
自分の浅はかだった考えのせいで犠牲になってしまった両親に申し訳ない気持ちと悲しみと悔しさと、そんな言い様のない複雑な思いが胸を締め付けて、俺は暫くその場から動く事ができなかったのだった……
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう
まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥
*****
僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。
僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
あなたへの想いを終わりにします
四折 柊
恋愛
シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる