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間違ってはいけない
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ジルと旅をするようになってから3ヶ月の月日が流れた。
少しずつ言葉が出るようになってきて、少しであれば会話が続くようになってきた。それが俺は何だか嬉しかった。
不思議な子だと思った。俺は元々人に対して馴れ合いとか出来ないタイプだ。孤立しようとは思わないが、適度に距離を保って接していけば、人付き合いは何も問題なかった。人と関わる事で面倒事に巻き込まれたくは無かったからだ。
しかしなんの因果か聖女と関わってしまったから、今俺は旅に出ている。まぁそれを面倒事だと言ってはいけないんだけれど。
聖女の人生を変えてしまったのは俺自身なのだから。
ジルを見ると、ナイフで果物の皮を剥こうと一生懸命奮闘していた。けれどやっぱり上手くいかないようで、ボロボロに崩れた果物がテーブル上に散乱してしまっている。
「あーあ、勿体ない。いや、それでもまだ食えるな。二人でちゃんと食べような。しかしジルはまだナイフも上手く使えないんだな。そんなに難しいか?」
「ん……難しい……」
「そうか。まぁ、俺が使えるから問題ないけどな」
「ごめん……」
「謝らなくていいさ。得手不得手は誰にでもある。ジルには誰もが簡単に使えない魔法を使う力がある。それは凄い事なんだからな」
「そんな、の……」
「必要なかったと思っているのか?」
「ん……」
「そうか。思うようにはいかないもんだな」
「リーン、も?」
「……そうだな……俺も魔力なんて無ければ良かったのにと思う事があった。でも今は受け入れているよ」
「ん……」
「そんな顔をするな。ジルは笑ってる方が良いんだからな」
「う、ん」
ジルはそう頷いて微笑む。それを見ると俺は安心できるんだ。
次はどの街に行こうか。そんな相談とも言えない話をする。聖女の持ち物だった首飾りと腕輪は、それがそこにあるだけで瘴気を祓う事ができる。だから前は瘴気が強かったけれど、今はその状態が落ち着いている場所を探す事にしている。
聖女の首飾りと腕輪がそこから無くなれば、その場所がまた瘴気に汚染されていくのではないか、と懸念されるが、ひとまず状況を見て判断しようと考えている。
「どこ、いく?」
「え? あぁ……以前は瘴気が強かった場所だけど今はそうでもない場所だ。でも、そうなっている所が多いんだよな。これも聖女様々だな」
「せい、じょ……?」
「あぁ。聖女がいるお陰で救われた村や街も多い。王都に今は聖女がいるから、あそこは今一番空気が澄んでいて綺麗なんだ。王都から出るとそれがよく分かる。だけど彼女には申し訳ない事をしたと思っているんだ。彼女は自由が無いからな。それは俺の責任だ」
「な、ぜ……?」
「前に助けたと思った子供達がいたと言ったろ? そこに聖女もいたんだよ。その時はそうと知らなかったんだけどな。魔力がある子だと分かったから貴族として生きていけると思ったんだけど、後に聖女だと分かって塔の中に閉じ込められてしまったんだ。それは俺のせいだ」
「そん、な、こと……」
「いや、そうなんだ。だからせめて聖女の持ち物だった物を探そうと思ってな。母親の形見を持っていたんだ。けれど取り上げられてしまったみたいだから、それを俺は今探しているんだよ」
「形見……」
「あぁ。首飾りと腕輪だった。聖女の身に付けていた物でさえ瘴気を祓うって、凄いと思わないか? けどそれを国王は良いように使おうとしている。今聖女がいるのは我がフェルテナヴァル国だけだから、これを機に優位に立とうとしてるんだ。他の国も瘴気に侵されているそうだからな」
「他の、国、も……?」
「そうだ。言ってなかったかも知れないけど、俺は国内の瘴気の調査も兼ねて旅をしている。どの地域が瘴気が酷いか、聖女の力は何処まで効果があるのか、それを調べるついでに聖女の持ち物と行方不明になった子を探している」
とは言ったが、瘴気の状態を調査するよりも、本当は聖女の探し物と人探しがメインになってはいるんだけどな。しかしそうでも言わなければこうやって旅をするなんて出来なかった。
こんな事は普通騎士ではなく兵士がする事だ。しかも一人で調査なんて、貴族ならばあり得ない事だ。だけど俺は元平民だ。養子になったとは言え、レーディン侯爵家では後継者だと思われている訳ではない。跡継ぎはちゃんといるからな。
一応養子になったから、どこに出しても恥ずかしくないような教育はされている。けれどそれだけだ。言うなれば、侯爵家に迷惑さえかけなければ、俺はある程度自由だ。必要な時に体よく動けば問題ない。最も必要な事は、レーディン侯爵家に魔力を持つ子孫を残すことなのだが。今の俺はそんな立ち位置だ。
それにしても、ジルと旅をするようになってから魔物と出くわす事が少なくなった。たまに出くわす魔物は高位の魔物だったが、俺とジルの二人であれば難なく倒すことが出来た。
高位の魔物がいた、と言うことは、弱い魔物は既に餌食となりいなくなってしまっていた、とも考えられるが、弱いが故にここにいる事が出来なかった……とか……どうなのか……
考えても分からないが、ひとまず気に留めて地図に記しておくことにしよう。
今日も街にたどり着く前に陽が暮れてきたので野宿をする事にした。
ジルは何時ものように落ちている枝を風魔法で手繰り寄せ、土魔法で釜戸を作って火魔法で火を起こす。
火が上がると、白銀の髪は炎に照らされて色を変える。それがなんだか凄く綺麗に見えた。
出会いから3ヶ月で髪も伸びたんだな。
「リーン?」
「あ、いや、その……髪 伸びてきたなと思ってな」
「髪……」
「あぁ。短いのも良いけど不揃いだったしな。今度切り揃えてやろうか?」
「それは……いい」
「そうか。まぁ長くてもジルには似合うと思……ジル?!」
「え?」
俺の方を向いていたから炎から目を離してしまったのだろう。ジルの袖口に炎が飛び移って、それは腕をチリチリと焼いていた。
しかしそんなことになっているのに、ジルは何も気にしていない様子だった。
俺は慌てて水魔法で、勢いよく腕を包み込もうとしている炎を鎮火させた。
「大丈夫か?!」
「あ、うん……」
「熱かっただろう?!」
「えっと……」
「熱くなかったのか?」
「…………」
「ジル……もしかして……」
「え?」
「痛覚がないのか?」
「つうかく……?」
「痛みとか熱さを感じるとか、そういう事がないのか?」
「それは……」
「だから力の加減が分からなくて上手く道具を使いこなせないのか……?」
「リーン……」
「痛みは感じなくても怪我はする。気を付けないといけないぞ?」
「ん……」
「手当てをしよう」
「大丈夫」
ジルがそう言うと、火傷した筈の腕は淡い緑の光が発光した。暫くそれは続いて、その光が消えると焼けた袖口にも腕も、全て元通りになっていた。
流石にそれにはかなり驚いてしまった。
「ジルは……そんな事も出来るのか……」
「ん……」
「凄いな……」
こんな事が出来るとは思いもしなかった。まるでお伽噺に出てくる魔女のようで、現実と認識するのに時間がかかった程だ。
元通りになった手にそっと触れてみる。それにはジルは、ビクッと体を強張らせたが抵抗はしなかった。
「冷たい手をしてるんだな。綺麗に治っている。良かった……」
「リーン……」
「この力を俺以外の人の前では使わない方が良い。何故か分かるか?」
「ん」
「よし。良い子だ」
そう言って頭を撫でると、ジルはまた嬉しそうに笑った。
この力の事が分かると、ジルは必ず聖女の様に捕らえられ監禁されてしまう。それは何とか避けなければ。
俺はもう絶対に間違ってはいけないのだ。
少しずつ言葉が出るようになってきて、少しであれば会話が続くようになってきた。それが俺は何だか嬉しかった。
不思議な子だと思った。俺は元々人に対して馴れ合いとか出来ないタイプだ。孤立しようとは思わないが、適度に距離を保って接していけば、人付き合いは何も問題なかった。人と関わる事で面倒事に巻き込まれたくは無かったからだ。
しかしなんの因果か聖女と関わってしまったから、今俺は旅に出ている。まぁそれを面倒事だと言ってはいけないんだけれど。
聖女の人生を変えてしまったのは俺自身なのだから。
ジルを見ると、ナイフで果物の皮を剥こうと一生懸命奮闘していた。けれどやっぱり上手くいかないようで、ボロボロに崩れた果物がテーブル上に散乱してしまっている。
「あーあ、勿体ない。いや、それでもまだ食えるな。二人でちゃんと食べような。しかしジルはまだナイフも上手く使えないんだな。そんなに難しいか?」
「ん……難しい……」
「そうか。まぁ、俺が使えるから問題ないけどな」
「ごめん……」
「謝らなくていいさ。得手不得手は誰にでもある。ジルには誰もが簡単に使えない魔法を使う力がある。それは凄い事なんだからな」
「そんな、の……」
「必要なかったと思っているのか?」
「ん……」
「そうか。思うようにはいかないもんだな」
「リーン、も?」
「……そうだな……俺も魔力なんて無ければ良かったのにと思う事があった。でも今は受け入れているよ」
「ん……」
「そんな顔をするな。ジルは笑ってる方が良いんだからな」
「う、ん」
ジルはそう頷いて微笑む。それを見ると俺は安心できるんだ。
次はどの街に行こうか。そんな相談とも言えない話をする。聖女の持ち物だった首飾りと腕輪は、それがそこにあるだけで瘴気を祓う事ができる。だから前は瘴気が強かったけれど、今はその状態が落ち着いている場所を探す事にしている。
聖女の首飾りと腕輪がそこから無くなれば、その場所がまた瘴気に汚染されていくのではないか、と懸念されるが、ひとまず状況を見て判断しようと考えている。
「どこ、いく?」
「え? あぁ……以前は瘴気が強かった場所だけど今はそうでもない場所だ。でも、そうなっている所が多いんだよな。これも聖女様々だな」
「せい、じょ……?」
「あぁ。聖女がいるお陰で救われた村や街も多い。王都に今は聖女がいるから、あそこは今一番空気が澄んでいて綺麗なんだ。王都から出るとそれがよく分かる。だけど彼女には申し訳ない事をしたと思っているんだ。彼女は自由が無いからな。それは俺の責任だ」
「な、ぜ……?」
「前に助けたと思った子供達がいたと言ったろ? そこに聖女もいたんだよ。その時はそうと知らなかったんだけどな。魔力がある子だと分かったから貴族として生きていけると思ったんだけど、後に聖女だと分かって塔の中に閉じ込められてしまったんだ。それは俺のせいだ」
「そん、な、こと……」
「いや、そうなんだ。だからせめて聖女の持ち物だった物を探そうと思ってな。母親の形見を持っていたんだ。けれど取り上げられてしまったみたいだから、それを俺は今探しているんだよ」
「形見……」
「あぁ。首飾りと腕輪だった。聖女の身に付けていた物でさえ瘴気を祓うって、凄いと思わないか? けどそれを国王は良いように使おうとしている。今聖女がいるのは我がフェルテナヴァル国だけだから、これを機に優位に立とうとしてるんだ。他の国も瘴気に侵されているそうだからな」
「他の、国、も……?」
「そうだ。言ってなかったかも知れないけど、俺は国内の瘴気の調査も兼ねて旅をしている。どの地域が瘴気が酷いか、聖女の力は何処まで効果があるのか、それを調べるついでに聖女の持ち物と行方不明になった子を探している」
とは言ったが、瘴気の状態を調査するよりも、本当は聖女の探し物と人探しがメインになってはいるんだけどな。しかしそうでも言わなければこうやって旅をするなんて出来なかった。
こんな事は普通騎士ではなく兵士がする事だ。しかも一人で調査なんて、貴族ならばあり得ない事だ。だけど俺は元平民だ。養子になったとは言え、レーディン侯爵家では後継者だと思われている訳ではない。跡継ぎはちゃんといるからな。
一応養子になったから、どこに出しても恥ずかしくないような教育はされている。けれどそれだけだ。言うなれば、侯爵家に迷惑さえかけなければ、俺はある程度自由だ。必要な時に体よく動けば問題ない。最も必要な事は、レーディン侯爵家に魔力を持つ子孫を残すことなのだが。今の俺はそんな立ち位置だ。
それにしても、ジルと旅をするようになってから魔物と出くわす事が少なくなった。たまに出くわす魔物は高位の魔物だったが、俺とジルの二人であれば難なく倒すことが出来た。
高位の魔物がいた、と言うことは、弱い魔物は既に餌食となりいなくなってしまっていた、とも考えられるが、弱いが故にここにいる事が出来なかった……とか……どうなのか……
考えても分からないが、ひとまず気に留めて地図に記しておくことにしよう。
今日も街にたどり着く前に陽が暮れてきたので野宿をする事にした。
ジルは何時ものように落ちている枝を風魔法で手繰り寄せ、土魔法で釜戸を作って火魔法で火を起こす。
火が上がると、白銀の髪は炎に照らされて色を変える。それがなんだか凄く綺麗に見えた。
出会いから3ヶ月で髪も伸びたんだな。
「リーン?」
「あ、いや、その……髪 伸びてきたなと思ってな」
「髪……」
「あぁ。短いのも良いけど不揃いだったしな。今度切り揃えてやろうか?」
「それは……いい」
「そうか。まぁ長くてもジルには似合うと思……ジル?!」
「え?」
俺の方を向いていたから炎から目を離してしまったのだろう。ジルの袖口に炎が飛び移って、それは腕をチリチリと焼いていた。
しかしそんなことになっているのに、ジルは何も気にしていない様子だった。
俺は慌てて水魔法で、勢いよく腕を包み込もうとしている炎を鎮火させた。
「大丈夫か?!」
「あ、うん……」
「熱かっただろう?!」
「えっと……」
「熱くなかったのか?」
「…………」
「ジル……もしかして……」
「え?」
「痛覚がないのか?」
「つうかく……?」
「痛みとか熱さを感じるとか、そういう事がないのか?」
「それは……」
「だから力の加減が分からなくて上手く道具を使いこなせないのか……?」
「リーン……」
「痛みは感じなくても怪我はする。気を付けないといけないぞ?」
「ん……」
「手当てをしよう」
「大丈夫」
ジルがそう言うと、火傷した筈の腕は淡い緑の光が発光した。暫くそれは続いて、その光が消えると焼けた袖口にも腕も、全て元通りになっていた。
流石にそれにはかなり驚いてしまった。
「ジルは……そんな事も出来るのか……」
「ん……」
「凄いな……」
こんな事が出来るとは思いもしなかった。まるでお伽噺に出てくる魔女のようで、現実と認識するのに時間がかかった程だ。
元通りになった手にそっと触れてみる。それにはジルは、ビクッと体を強張らせたが抵抗はしなかった。
「冷たい手をしてるんだな。綺麗に治っている。良かった……」
「リーン……」
「この力を俺以外の人の前では使わない方が良い。何故か分かるか?」
「ん」
「よし。良い子だ」
そう言って頭を撫でると、ジルはまた嬉しそうに笑った。
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