慟哭の先に

レクフル

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閑話 逃げる

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 頭を殴られて連れ去られてしまった。

 このパターンだと大体が盗賊だかに捕らえられて、何処かに売られたり弄ばれたりするのが定番だった。あ、あと聖女として捕まるとか。まぁ今の時代、聖女なんて必要ないなんいだけど。

 だから今回のような状態に凄く戸惑う。何が何やら……って感じで、されるがままになってしまった。
 能力制御の腕輪を外そうとされたけど、それだけは死守する。そんな事をしたら、貴女の命の保証はできないんですよ? 本当にそれで良いんですか? なんて心の中で思いながら。

 なんか服を何着も着せ替えられて、それからヘアメイクも施される。アクセサリーも高価そうな物をつけられて、さっきいた部屋まで戻るように言われる。

 元いた部屋へ行くと、そこにいた人達は驚いた様子で、何も言わずに私を凝視する。って、そんなに見られたら凄く恥ずかしいんだけど!


「これ、は……」

「想像以上です……ね……」

「美し過ぎる……」

「女神のようだ……」

「い、言い過ぎだから! ……と言うか、なんですか? これは一体……」

「え? だから広告塔になって頂くと言うことですよ?」

「だからコーコクトーってなんなんですか?!」

「あー、そっからー?」

「……バカにされた気分です……」

「あ! イヤイヤ、そうではありません! 我々の認識では当たり前の事でしたので、まだ一般に広がっている事では無かったのを失念致しておりました! 申し訳ございません!」

「……ではどう言うことか、分かるように説明してください」

「はい。我がストリア商会は創業600年を迎える老舗の商会です。支店は各国に広がり、今やこの商会を知らぬ者はいないとさえ言われる程となっております」

「うん、そうだね」

「それでですね。600年記念に去年から計画していた事があるのです。それはストリア商会の看板となる人物を作り、大々的に発表して売り出す、と言う事です!」

「ん? 看板? 売り出す?」

「はい! ストリア商会ではオリジナル商品を数多く生産しております! それを身に付けて頂き、世間に見せつけるのです!」

「見せつける?!」

「えぇ! 最近写真機と言うのが開発されたのはご存知ですか?!」

「いえ……」

「一瞬で目に見えている物を写し出す事ができる機械です! 一度写せば何枚も複製する事も可能!」

「はぁ……」

「それで貴女を撮影し、全世界の商会に肖像画のように大きく貼り出します! 商会以外の場所にも、目立つ所に大々的に公開致します!」

「えーっ!!」

「更に観劇等が行われる舞台にも立って頂きたく思っております! 衣装を身に付け、防具や剣等の装備を身に付けて歩いて見せ付ける出し物を催します! 貴女が身に付けた物であればきっと飛ぶように売れるはずです!」

「ちょっ、ちょっとそれっ、は!」

「いかがです?! 貴女の美貌を全世界へ轟かせましょう! 我らと共に、更に飛躍していきましょう!」

「いやいやいやいや、それは困るっ! 拒否します!」

「えぇっ?! なぜですか?!」

「私はそんな人に自分をさらけ出すなんて事、したくありません!」

「そんなに美しいのに見せないなんて勿体ない事です! 貴女はそこにいるだけで価値のある方なんです! 悪いようにはしません! 是非我らと一緒に……!」

「無理無理無理無理! そんなの絶対無理だから!」

「契約金も言い値で支払います! 我々は貴女を必要としているんです!!」

「お金なんて関係ない! とにかく! 私はそんな事はしません!!」

「そんなっ! 貴女を見てしまったら、もう他の候補者は使えません! 頼みます! 貴女しかいません!」

「候補者がいるならその方達に! とにかく私はすぐに帰らなければいけないんです! 帰ります!」

「あ、待ってください!」


 思わず走って飛び出した。あちこちに人がいたから空間移動を使うことができなくて、でもとりあえずここから出た方が良いと思って走って外へ出た。

 外の風が肌をかすめると寒さを感じた。そう言えば私は着替えさせられた姿のまま出て来てしまったんだった。って、結構肌、露出してない?! 肩出てるし、スカートは膝上辺りまでしかないから生足が見えてるし、私はなんて恥ずかしい格好をしていたんだ!

 何か羽織る物……と思っていたら、私を追いかけてくる商会の人達が近くまで来たから、また逃れるように走り出す。

 悪い人達じゃないんだろうけど、それより私はエリアスを探しに行きたいんだ。このままだと私に愛想を尽かしてしまうかも知れないんだ。だから早くエリアスに会いたいんだ!

 石の光を辿って走っていく。ここは私が拐われた場所からそんなに遠く無かったみたい。エリアスはまだこの街にいる。良かった!

 走って走って、ただひたすらエリアスの元へ

 お願い、もう何処にも行かないで……

 私を置いて行かないで……

 やっと会えたの

 ずっと待ってたの

 会いたくて会いたくて……

 ずっと貴方の元へ行きたくて……

 やっとこの目で、この耳で、この手で貴方を確認できたのに……

 もう離れたくない 

 離れたくない

 
「アシュリー!?」

「え?!」


 手首を捕まれた。それはエリアスだった。エリアスの事を考えすぎてて、エリアスがいるのに気づかないって、凄く滑稽だ。


「あ、エリアス!」

「…………」

「良かった! ここにいた!」

「…………」

「エリアス……? どうしたの?」

「あ……ごめん……見惚れてた……ってか、なんでそんな格好してんだよ! そんな肌さらけ出して皆に見せてっ! ダメじゃねぇか! また連れ去られちまうぞ?!」

「また連れ去られ……」

「そんな寒そうな格好して! 風邪ひいたらどうすんだよ!?」

「私は不死だから大丈夫……」

「そんな問題じゃねぇって! あ、いや、そうじゃなくて、怒りたい訳じゃねぇんだよ……その……ごめん、アシュリー! 俺が悪かった!」

「え……?」

「はぁ、はぁ……やっと追い付いた……なんて足の早い……あれ、君は誰だ?」

「……お前こそ誰だよ?」

「わ、私はストリア商会の者です! こちらの方には我が商会の広告塔となって貰うべく契約を……」

「なんか分かんねぇけど、アシュリーはそうするのか?」

「ううん! 皆に見られるのとか、私には無理だから……」

「皆に見られる?! ダメだダメだダメだ! そんなの絶対にダメだ!」

「え?! なんなんですか?! 貴方は!」

「俺はアシュリーの! っ…………」

「あ、その、この人は……」

「アシュリーの婚約者だ!」

「えぇ?! ご結婚されるのですか?!」

「え……? あ……は、い……」

「それでも……それでも婚約者様さえ良ければ……!」

「言い訳ないだろ! これ以上変な虫が寄って来られちゃたまんねぇんだよ!」

「ですが……っ! では今一度婚約者様にもキチンと話させてください。悪いようにはしませんので! さ、商会へ戻りましょう!」

「いや、良いことは何一つ無さそうだ! 聞かなくていい!だからそこには行かねぇ!」

「ですが! あ、着ていた服も装備も預かっております! お召しになられている服は差し上げますが、アクセサリーはお返し頂きたいので!」

「買い取る! アシュリーが今身に付けてるモン、俺が全部買い取る!」

「エリアス! いらないから! あ、返します! えっと、首飾りとピアスと指輪と、全部返すので!」

「良い! 全部買う! いくらだ?!」

「えっと……合わせまして……白金貨53枚程となりますが……」

「……っ!」

「か、返しますっ! こんな高いのっ! その金額じゃ豪邸が買えちゃうよ!」

「か、買うって言ってんだろ! 男に二言はねぇっ!」

「本当によろしいのでしょうか?!」

「当然だ!」


 エリアスは空間収納から白金貨を取り出した。そしてキッチリ53枚追ってきた商会の男に渡す。即金で手渡された事に商会の男も驚いていたけど、私も驚いた。きっと村を再建させたくて貯めていたんだろうに……

 
「あ、ありがとうございます! あ、領収書を……」

「いい! あ、アシュリーの服とかはまた今度取りに行くから置いててくれ!」

「え? あ、はい、分かりました……」


 言ってるそばから、エリアスは私を抱き上げた。

 それから突然目の前が歪み出したのだ。

 

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