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閑話 伝わらない
しおりを挟むエリアスは子供達に囲まれて、ひとしきり楽しそうに遊んでいた。
昔からそうだった。それはエリアスが孤児院出身だからって言っていたけど、元々子供が好きなんじゃないかな? って思う。
子供達の相手をする姿は、楽しそうで無邪気で、まるでエリアスも子供のように見えるし、その子達の父親のようにも見える。
私が見ているのを気づいたエリアスは、ニカって笑って私に手を振った。
「なんか子供達に囲まれてしまってな! つい一緒になって遊んでしまってたんだ!」
「ふふ……エリアス、子供みたい」
「んな事ねぇよ! 大人として相手してやってんだろ?!」
「誉めてるんだよ?」
「……そうか?」
「ほら、アンタ達仕事仕事! もう休憩終わってるで!」
「「「はーい!」」」
「お兄ちゃん、また遊んでね!」
「あぁ、またな!」
子供達は笑顔でエリアスに手を振った。こんなところは変わらない。あの頃のまんまだ。
仕事の邪魔をしちゃいけないから、また来る事を告げて私たちはその場を後にした。
「エリアスは今、ロヴァダ国にいるんだよね? 家があるの?」
「いや、家はねぇけどな。宿屋を借りてるんだ。色んな場所へ行くしな」
「そうなんだ……あ! そうだ! シアレパス国にね、昔エリアスが部屋を買い取った宿屋があるんだ! そこが今も使えるんだよ!」
「そうなのか?! 俺、金持ちだったのか?!」
「んー……色々仕事してたからね……あ、そこね? ロヴァダ国近くの国境沿いにある街だから、ロヴァダ国で用事がある時なんかはいつでも使えるよ!」
「それは有難い! なぁ、一回行ってみてぇんだけど!」
「うん、じゃあ今から行こう!」
エリアスの肘を掴んで、シアレパス国にある宿屋までやって来た。ここの部屋の鍵は今は私が持っている。それを受付に見せたら問題なく部屋へ入れるようになっている。
前にこの宿屋が倒産しかけた時、私が投資した事で持ち直し、それ以来更にここの人達は私に良くしてくれる。
受付にいたおじさんに鍵を見せると、ニッコリ笑って頭を下げた。それでいつもそのまま部屋まで行くようにしている。
エリアスが私に残してくれた物は何でも大切にしておきたくって、時々訪ねては部屋を使い、多めにチップを渡している。そんな事もあって、今でもここの人達は私を見ると笑顔で出迎えてくれるんだ。
因みに、エリアスの恩恵は今も続いている。
オルギアン帝国から毎月ギルドの口座に結構な額が振り込まれていて、何度かもう入金しなくても大丈夫だと言っても、これは決定事項で変えてはならないと言われているとの事で、全く受け付けてもらえなかった。
だからルディウスはエリアスの後を継いだし、今もその子孫達も同じようにして受け継いでいる。それでもその子達にも給与として支払われているから、口座に金額は増えていくばかりで……
それを各国の孤児院や施設なんかに使ったりしている。
オルギアン帝国が私たちに金を渡すのは、決して悪い事に使わずに慈善事業に使うと分かっていてくれるからで、エリアスへの信用度がかなり高いと思わせてくれる。
二人で部屋に入って、エリアスに中を見せる。エリアスはひととおり確認して、それからベッドに腰かけた。私も隣に座る。
「まぁまぁ良い部屋だよな。すげぇな。ここに毎回タダで泊まれんのか?」
「うん。チップは渡すようにしてるけどね。あ、それと、一階にある食堂でも無料で食事ができるよ!」
「マジか?! それは有難てぇな!」
「エリアスがそうしてくれたんだよ?」
「そうなんだな……すげぇな。チップくらい何て事はないし、これだけ良い部屋で飯食い放題とか、すっげぇ待遇だよな!」
「うん……一人で旅をしていた私に気遣ってそうしてくれてね? エリアスのその気持ちが私は嬉しくて……」
「なんで一人で旅してたんだ? 一緒じゃなかったのか?」
「あっと……それは……まぁ、色々あって、ね……」
「教えてくんねぇの? その色々のところ」
「それは……また追々、ね?」
「言いにくい事とか、か?」
「そうじゃないけど……」
「そっか……まぁ良いか……」
そうは言っても、エリアスは良さそうな顔をしてはいなかった。
ここは私が生まれ変わってからエリアスに会うまでの間に、エリアスが私の為に買ってくれた部屋で、私がずっと不老不死だと思ってるエリアスに伝えるには、ちゃんと全部話さなくちゃいけないし……でもエリアスは過去に囚われたくないって感じだから、全て言うのも考えてしまう……
「あ、この鍵を渡しておくから、これからはエリアスが使ったら良いんじゃないかな?」
「良いのか?」
「うん。私は時々来るぐらいで、あんまり活用出来てなかったから。ロヴァダ国に近いここなら、何かと便利なんじゃない?」
「助かる! 俺Aランク冒険者だから今は金に困ってないけど、色々使うことも多くってな……」
「何に使ってるの?」
「それは……」
「言いたくない?」
「いや……俺が昔住んでた村、な? 俺が10歳の頃に魔物と盗賊に襲われてさ。それで無くなってしまったんだ。その村の整備をするのに金使ってて……」
「そうだったんだ……」
「あ、村を再建させようとか、そんな事は考えてねぇぞ? ただ、ボロボロにしたまんまにはしたくなくてな……まぁ再建出来たら良いとは思うけど……」
「もし再建出来たら、どう使うつもり?」
「え? それは……あ、えっと、笑わないで聞いてくれな? その……俺はそれから一人になって住む場所も無くなって、色んな街の路地裏で寝たりしてたんだけど、いつも寒さや悪い大人から身を守らなきゃなんなかったし、飯も食えなくて常に腹が減ってて……だからそんな奴等でも泊まれるような家とか場所を作りたいって言うか……まぁ、夢なんだけどな!」
「エリアス……」
やっぱりエリアスだ……! あの頃のエリアスとなにも変わらない……!
思わず私はエリアスに抱きついた。
「な、なんだ?! どうした!」
「やっぱり……そんなところは変わらないんだね……」
「え?」
「さっき私と行った『ジークマリアの里』はね? 私が幼い頃に住んでた村だったんだ。そこも襲われて人も家もボロボロになってしまって……その村を私は再建させたんだけど、エリアスがあの場所で子供達を育てたいって言ってくれたんだ。だから今、あそこにいるのは皆孤児達で、見かける大人は管理する人達なんだ。ウルはそこの管理者なんだ」
「そうだったんだな! じゃあ、俺がしようとしてた事は既に行われてたって事なのか!」
「うん。エリアスはね? 他にもそんな場所をいっぱい作ったんだ。だからエリアスに助けられた子供達は多いんだよ?」
「そうなのか……なんか……すげぇな……俺……」
「うん! エリアスは凄かったんだからね!」
「そうか……」
「どうしたの?」
「いや……今の俺がなんか……ちっちゃく思えてな……」
「そんな事ないよ! エリアスも最初からそう出来た訳じゃないから! 長い間少しずつ少しずつ力を付けていって、それでそう出来たんだから!」
「長い間って、どれくらいだよ?」
「え……それは……」
「なんでいつもそうやって口籠るんだよ? 俺に言えない事、多くないか? 俺は何だって言ってるのに!」
「そういう訳じゃないよ!」
「じゃあどういう訳だよ?!」
「だからそれは……!」
「もう良いよ!」
エリアスが怒って部屋から飛び出した。こんなふうにエリアスが怒るのは初めて見たし、凄く驚いた。
思いが届かない事を、エリアス自身も歯痒く感じていたんだろうか? ジレンマを感じていたんだろうか?
エリアスが飛び出して行って、呆然として暫くはそのまま動けなかったけれど、今エリアスと離れ離れになってしまったら、またいつ会えるか分からなくなってしまう……! そう思ったらいてもたってもいられなくなってしまって、すぐに部屋を飛び出した。エリアスが何処に行ったのかを探すように走って宿屋の周りを探すけれど、エリアスの姿は見えなかった。
どうしよう……?!
何処に行ったの?!
また会えなくなるの?!
それは絶対に嫌だ!
そうだ! 石の光を見よう!
赤の石と白の石の光を……
光を辿って行くと、それは中央辺りにある広場へと続いていた。
そこにはリュカの像が建てられてあって、エリアスはそこでその像を眺めているのが遠目に見えた。
その後ろ姿を見て胸が締め付けられた。
記憶がなくても、やっぱりその像に思い入れがあるのかな……思うところがあるのかな……
エリアス、ごめん。ちゃんと話す。今までの事、全部話す。
そう決心して、エリアスに近づこうとした時だった。
今日二度目の頭に走る激痛……
さっきよりも強く……意識が朦朧として目の前が暗くなっていって……
私はそのまま意識を失ってしまったようだった……
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