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溺れるように
しおりを挟むあのままアシュリーは眠り続けた。
俺は眠れなくて、ずっと自責の念に駆られていた。
アシュリーの事に対してもだけど、あの時の俺のした事に対しても、だ。
俺はアシュリーをあんな目にあわせた奴等を許せなかった。それは今も変わらねぇ。アイツ等にした事を後悔はしていない。それよか、もっと思い知らてやるべきだったかと、その事については後悔している。
あの時俺は炎の力を解放した。俺に宿る炎の精霊インフェルノの力を制御することなく、思うがままにさせたのだ。
それがあの結果だ。
炎で出来た竜巻がいつくも表れ、街を飲み込むようにして暴れだした。
強大な業火は街中に広がり、家を焼き田畑を焼き家畜を焼き人を焼き、その勢力は留まる事を知らず暴れ狂った。
アシュリーが止めなければ、俺はそのままにしていたのかも知んねぇ……
あの場所には他にも捕らえられた子がいたかも知んねぇ。けどそんな事は考えられなくて、ただアシュリーを襲ったアイツ等が憎くて憎くて仕方がなかった。
街が焼けて人々が焼けて、だけどそれを復元させ回復させ、何も無かった状態に戻せたけれど、俺を見る人々の目は恐怖に震えていた。
あの場所にいた一人一人の記憶を全て取り除くなんて事は出来なかった。それよりも前に、アシュリーを安心させてやりたかったからだ。
俺は街を無茶苦茶にするところだった。
前にもこんな事があった。それはリュカが傷つられた時だ。あの時も俺は我を失って、力を暴走させちまったんだ。それを諌めたのはゾランだった。俺の友達でディルクの侍従でリオの父親である、頭の切れる奴だったゾランに、俺はあの時も怒られた。
英雄と崇められる存在だと言ってくれて、だからこそ人々から恐怖に思われるなんて事はあってはならないのだと。泣きながら俺に、そう訴えてくれたんだ。
なのにまた同じことを繰り返してる。それも前より酷くなって、だ。自制できなかった。あの時はしようとも思えなかった。
どうしても許せなかったんだ……!
そんな堂々巡りな考えを一晩中していて、気付けば夜が明けていた。
結局あのままアシュリーは目を覚まさなかった。また自分の殻に閉じ籠ったままかも知れない。けどいつ目覚めても良いように、食事の用意はしておこう。
ベッドからそっと抜け出し、アシュリーの頬に口づけてから静かに寝室から出て、キッチンで調理を開始する。
温かいスープでも作ろうか。アシュリーが懐かしいと言ってくれたスープにしよう。ジャムは無くなってしまったからまた作るか。リュカもジャムが好きだったけど、アシュリーも俺の作ったジャムが美味しいって言って、口元にジャムをつけながらパンを頬張っていっぱい食べてくれたんだよな。その様子がリスみたいで可愛いって思ったんだ。
サラダも作ろう。あ、肉も焼こうか。力付けねぇとな。美味しい物食べたら、嫌な事も忘れるもんな。
そうやって調理していると、寝室から声がした。
「エリアスっ?! エリアス!」
「アシュリー?!」
寝室に行こうとすると、扉を開けてアシュリーが走ってきて、俺を見つけて泣きそうな顔をして抱きついてきた。それにはびっくりしたけど、そうされるのはやっぱり嬉しくて、俺もアシュリーを抱きしめ返す。
「エリアス、いなかった……! いなかった!」
「ごめん、アシュリー、悪かった」
「離さないでって、言ったのに……っ!」
「そうだな……俺が悪かった」
「私、言ったのに……!」
「アシュリー……」
アシュリーを抱き上げてソファーに腰かける。アシュリーは昨日寝た時のまんまの格好で、こんな姿で狼狽えてここまで来るなんて今までなかったから、その事にも俺は驚いた。
昨日の事はアシュリーにきっと、心に大きな負担が掛かっているんだな……
「ごめんな。アシュリー、腹減ってねぇかなって思ってな。朝飯作ってたんだ」
「うん……」
「もうすぐ出来るからな、一緒に食べような?」
「うん……」
優しく微笑んで、目に涙を溜めているアシュリーの頬に手でそっと包み込んで、親指で涙を拭う。
アシュリーはまるで小さな子供みたいだった。
俺に甘えてくる姿は可愛くて、だけどこんなアシュリーは見たことがなくて、嬉しい反面、心配にもなる。落ち着いた頃合いを見計らって、手を繋いでキッチンに向かい、食事の用意をする。
いつもはアシュリーが料理しているのを、俺が纏わりつくようにしているけど、今日は立場が逆転していた。
アシュリーは俺の腕を両手で抱え込んでいて、ずっとくっついたままだった。
両手が使えなくて上手く料理できねぇから、風魔法で調理をすることにした。そうやって食事の用意を終えて、二人でテーブルにつく。もちろんアシュリーは俺の隣にぴったりくっついて、だ。
俺の手を離さないアシュリーが可愛くて仕方ねぇ……
「アシュリー……食べられるか?」
「うん……」
「食べさせてやろうか?」
「うん……」
マジか?! アシュリーが俺に食べさせるなんて、前世でも無かったことだぞ?! けど、こうやって頼ってくれてるのが嬉しい。いつもアシュリーは強がってなかなか弱味を見せないから、こういう事は素直に嬉しいと感じてしまう。
いや、素直にそう思ってちゃダメなんだよな……
スープをスプーンで掬って冷ますようにフーフーしてから、アシュリーの口へ持っていくと、口を開けてパクリと食べた。
その様子がリュカを連想させて、胸に込み上げてくるものがあるけど、何とか我慢する。
そうやって少しずつ少しずつアシュリーに食べさせて、ゆっくりと食事を終わらせた。
口をナプキンで拭ってやって、お茶を渡すと、それは自分でちゃんと飲んだ。食事中、アシュリーは何も話さずにいて、俺が
「これ、もっと食うか?」
とかの質問に
「うん……」
とか
「ううん……」
とかで返事をしていた。
そんな状態だったけど、アシュリーが目覚めてくれた事が嬉しい。また前みたいに目覚めない状態が続くとかになると、俺は何もしてやれないからな。
食事が終わると、アシュリーは俺に抱きついてきた。子供を抱き上げるようにして立ち上がり、
「外に行くか?」
って聞くと
「ううん……」
って首を振る。
「じゃあ、今日はずっと家で一緒にいようか?」
って聞くと
「うん……」
って頷く。
その様子が愛しくて愛しくて仕方がない。
ソファーに座ろうとすると、首を横に振る。
「アシュリー? どうした?」
「…………」
「アシュリー?」
「抱いて……」
「え……」
「……私を……抱いて……」
「アシュリー……」
「お願い……」
正直驚いた。アシュリーからこんな事を言われたことは無かったし、言うなんて思いもしなかった。
俺にギュッて抱きつくアシュリーに答えるように抱きしめ返して寝室へ向かう。
ベッドに腰かけて口づける。戸惑うように唇を許すアシュリーの体は力が入っていて、俺を受け入れる事を怖がっているみたいだ。
「アシュリー……無理しなくても……」
「してない……無理なんて……それとも、嫌? もう私なんて……抱けない……?」
「んな訳ねぇ……!」
目に涙を溜めて俺を見るアシュリーに口づけてそのまま押し倒す。口づけながら服を脱がし自身の服も脱いで、直接肌と肌を合わせていく。
今は朝で部屋の中も明るくて、そんな時アシュリーはいつも恥ずかしそうに、身を隠すようにしていたけれど、今日はそんな事は気にならないような感じで俺に全てをさらけ出す。
「エリアス……エリアスの顔、見せていて……ずっと……エリアスの顔を私に見せていて……」
「分かった……ずっと俺を見ていてくれ……俺もアシュリーを見ているから……!」
「ん……あ、あぁ……エリアス……っ! お願い……っ! 声も……エリアスの声も聞かせて……!」
「アシュリー……良いのか……もう俺……止められなくなる……!」
「エリアスが良いの……エリアスじゃないと……っ!」
「そんな……煽らねぇでくれ……優しく出来なくなる……だろっ!」
「優しく、しなくていい……いっぱい……いっぱいエリアスが欲しい、の!」
「ダメだって……んな煽んなって言ってるのに! もう止めらんねぇからな!」
「うん、んっ! や、ぁっ! あっ!」
アシュリーは目に涙をいっぱい溜めて俺を求めてくる。顔に触れて、俺を確認するようにして受け入れる。
俺のアシュリーだ。俺だけのアシュリーだ。もう誰にも触れさせねぇ。
そうやって二人でお互いを受け入れたままに何度も果て、何度も求め合い奪い合う。
このまま一つになってしまいたいくらいだ。
そうして繋がったまま二人、深く落ちるように眠る。
それは今しかない幸せのように感じられて、失うことが怖くて抱きしめる手に力を込めてしまう。
ディルク……俺はお前が羨ましい。
アシュリーと常に一緒にいられて、離れることなくずっと一つでいられる。
こんな事を言うとディルクは怒るかも知んねぇな。けど本心なんだ。
俺もアシュリーと一つになりたい。
ならもう離れられねぇだろ?
そんな永遠に叶うことのない想いを胸に、アシュリーと共にただ快楽に落ちていったんだ……
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