慟哭の先に

レクフル

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そうするしか

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「現れよ我がしもべ達……偉大なる大地の恵みよ我に倣え……その強固の存在でこの地を埋め尽くせ……!」


 リーダーの男は詠唱しだす。

 なんだ、長ったらしい詠唱だな。こんなんじゃ敵に逃げられるぞ? まぁ俺は迎え撃ってやるけどな。


「我が敵を射ぬく槍となれ! アースランスっ!!」


 リーダーの男がそう叫ぶとやっと、下から土の槍があちこちから一斉に突き出してきた。それを一瞬にして無効にしてやる。俺は魔法を無力化する事が可能だ。けど、俺より強い魔法力だと無力化する事は出来ねぇ。
 
 なんだ、こんなモンなのか? さぁ、俺より強い魔力で倒しに来いよ。じゃねぇと俺にヤられちまうぞ?

 土魔法を放つが、発動したと思ったら一瞬にして全て消えて無くなってしまった事に焦り、リーダーの男はまた長ったらしい詠唱で、雷魔法で大きな雷を俺に直撃させようと仕掛けてきた。
 けどそれも寸前で無効にする。まぁ、これくらいじゃ当たったとしても、俺に傷一つ付けらんねぇけどな?

 さぁ、他にもっと仕掛けて来いよ。遊んでやるって言ってんだよ。

 俺のアシュリーを傷つけた代償、思い知らせねぇと気が済まねぇんだよ……!

 自分の攻撃が効かない事に驚愕の表情を浮かべ、後退りするが結界で逃げられず、目の前の部下達は炎に包まれて蠢く肉塊となり、悲鳴をあげ続けている。

 気温は上昇し、部屋も飛び火した炎で燃え盛っていき、この建物自体が徐々に炎に飲まれていく。

 なのに目の前に佇む、女を抱えた男と自分自身だけが炎に侵されずに平然とその場にいる。なんなんだ、この男は……っ!

 って、リーダーの男は思ってんな。
 
 で、こいつが結界を強固にして転送陣を操っていた奴だな……無属性の魔法か。珍しいな。その能力、奪わせて貰うか。

 俺を恐ろしいモノでも見るような目で、震えながら見てる。その目をしっかり合わせて、その全ての能力を奪ってやる。有効活用してやんだよ。有り難く思えよな。

 そうか。お前は虫が苦手なんだな。ならその虫共に身体中喰われてみたらどうだ?
 それともまだ俺に攻撃を仕掛けるか? その気力は……無さそうだな。これで終りか。残念だ。

 なら今までの悪行をその身で受け止めろ。お前に連れ去られて売られた人達がどんなに怖い目にあったのか、どんなに悲しく辛い思いをしたのか、その人達の思いを一身に受け止めろ。
 
 自分がしたことは必ず返ってくるんだよ。それをお前はこれから一生償い続けるがいい……!

 
「う、うわぁぁぁぁっっ!! や、やめろっ! やめてくれぇぇぇぇっっっ!!!」

 
 リーダーの男には、何処からともなくやって来たありとあらゆる虫達に抗う統べなく体を覆い尽くされ、その体を喰らわれ、体の中に侵食され、内臓をも喰われながら朽ちていく己れの体を、何も出来ずに恐怖と戦いながら死する事なく生き続けさせてやる。
 
 死ねる事が幸福だと思える程に、お前は絶望しながら生きていけ。

 火事が起こったと見て、あちこちから水がかけられてきた。
 ここが何処かは分からないが、兵士達や魔術師だかがやって来て終息の為に水魔法で鎮火させようとしてんだろうけど、そんな事は全く気にならなかった。

 俺にとってはアシュリーが全てで、今まで守ってきたモンとか大切にしてたモンとか、そんなのはアシュリーに比べたらちっぽけに思えてしまう程なんだ。

 だから許せねぇ。許す事なんか出来るわけねぇ……っ!

 俺の感情に呼応するように、建物を覆い尽くした炎が更に勢いを増していき、高温に煽られて一気に建物が崩れだした。

 建物を囲むように数十人の魔術師や兵士達がいて、その外側には野次馬と思われる人々も多く集まり出していた。
 
 俺達のいた建物は全焼し、まだ炎が燻っている状態で、横に連なっていた建物にも次々に飛び火していく。その炎は尋常ではなく荒れ狂い、竜巻のように渦状になっていくつも発生する。

 その様子に驚きおののき恐怖し、集まってきていた人々からも悲鳴が上がりだす。

 その中で平然としていたのは、俺ただ一人だった。

 未だ炎に包まれて叫びながら蠢く者達と大声を上げて助けを求めるリーダーの男を、ただ冷静に見下ろすように佇む俺は、端から見たらどう映ったのか。

 魔術師や兵士達は俺に向かって攻撃を仕掛けようとしてきた。

 水魔法があちこちから放たれ、土の矢がいくつも放たれて、氷の刃が飛んでくる。けど俺に届く前にその攻撃は全て無になってしまう。放たれた弓矢は炎に焼かれて炭になる。
 弓が効かないと分かるや兵士達は長い槍を突き出すが、それも先端から刃の部分は溶けていき、そして炎に焼かれていき、手を離さければ自身も焼かれる状態だった。

 ってか、なんで俺を攻撃すんだよ? 捕まえなきゃなんねぇのは俺じゃねぇんだよ。


「もう……止めて……エリアス……!」

「アシュリー?! 大丈夫か?!」

「落ち着いて……火が皆を襲ってる……! こんなのダメだ……エリアスっ!」

「あぁ……分かったよ」


 目を覚ましたアシュリーは周りを見て驚いて、瞬時に俺の仕業だと気付き嗜める。俺はアシュリーに言われて、やっと気持ちは少しずつ平穏になってくる。それでもまだコイツ等を許す事は出来ねぇんだよ。

 いくつも出現した炎の竜巻が辺りにあった家々を焼き尽くしていって、あちこちから悲鳴が聞こえ、子供の泣き声が響き、逃げ出す人々が見て取れる。

 あれは……そうか、俺がそうしたんだった、な……

 すぐに炎を消し、広範囲に回復魔法を広げるように放ち、焼けて崩れた建物等を復元させていく。俺の火に焼かれてしまった人もいたが、その人達も回復魔法で元の状態へと戻っていく。
 アシュリーはセームルグを呼び出し、亡くなった人がいた場合、蘇生させるように頼んでいた。

 炎に焼かれて蠢く奴等からも、炎と回復魔法を無くしてやると、何も無かったような姿の状態に戻った。けれど炎に焼かれる痛みと熱さと恐怖は残っていて、奴等は落ち着く事なんてできずにいた。それはそうだろう。俺がそうなるようにしたんだからな。

 コイツ等にも魔眼で幻術を見させておいてやる。自分が一番恐怖に感じる事が常に自身に起こっていると感じるのだ。それはお前達の罪が許されるまで続く事になる。
 いつそれにお前達は解放されるかな。それは今までの罪の重さで変わるんだ。心して受け止めろ。
 
 そうしてこの街は元通りに戻っていった。
 
 けれど、一部始終を見ていた人々や魔術師と兵士達等の恐怖の感情は残ったままだった。


「エリアス……」
 
「あぁ。アシュリー、帰ろうな。一緒に俺達の家に帰ろうな……」


 目に涙をいっぱい溜めて俺を見るアシュリーに優しく微笑んでそう話し掛けて、空間移動でその場から去った。

 ニレの木まで戻ってきて、木を背にして座り込み、アシュリーを抱きしめて回復魔法で包み込む。

 俺にしがみついて離さないアシュリーを、俺もしがみつくようにしてアシュリーと抱き合う。

 アシュリーからは堪えるようにして、けれど漏れ出てしまう泣き声が俺の胸に響いてくる。

 「ごめん……アシュリー……ごめん……」
 そんな拙い言葉しか出てこなくて、アシュリーは俺がそう言う度に頭をフルフル横に振る。それ以外何も言えなくて、暫く俺達はただお互いを離さないように、求め合うようにしっかりと抱き合って、少しの会えなかった時の悲劇を埋めるように補い合い続けた。

 今はそうするしかなかった。

 それしか出来なかった。


 
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