慟哭の先に

レクフル

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切なる想い

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 昼食が終わってから、ウルは準備があるからって自室へと戻っていった。

 ウルには俺の作った小さなゴーレムが今も付いてる。透明にしてるけどな。 
 で、用があれば常に後ろに付くようにしてるゴーレムの方へ向かって、俺の事を呼べと言ってある。そうしたら俺に伝わるからだ。

 今回はアベルから連絡が入ったら俺を呼ぶように言って、俺も自分の仕事をすることにした。

 帝城から空間移動でアシュリーと共にロヴァダ国の王城へ行く。
 
 仕事部屋へ行って、これまでに決まっている事をそこにいたアランに話す。



「ウルリーカ皇太后様が管理者になってくださるんですか?!」

「あぁ。適任だろ?」

「そうですかー! いや、それなら安心して任せられます! いや、良かったぁ! あ、でもそれなら……ご結婚はどうなさるんでしょう……?」

「あー……それなー」

「聞いた噂によるとですね。最近エリアスっていう者が城内に入り込んでいるらしいんですよ。ウルリーカ皇太后様と仲が良いらしいので、その方がお相手なんじゃないかって、皆で言ってたんですよ」

「えー……」

「その者は本当に問題のない者なんでしょうかね? まぁ、暗部組織が身元を特定している筈ですし、余所者を簡単に城内に入れる訳はありませんし、勿論出自は割れているとは思うのですが……ウルリーカ皇太后様は騙されていませんかねぇ……」

「それは大丈夫なんじゃねぇか……?」

「ヴァルツ様はご存知ないかも知れませんけどね、ウルリーカ皇太后様は密かに人気があるんですよ? 実はファンクラブがあるんです! 僕もその会員なんですけどね!」

「マジか?!」

「本当ですよ! あの可愛らしい容姿にあの話し方! ズバズバ言ってくれますが、そこには惜しみ無い愛があるんです! 萌えますよー!」

「そう、か……」

「ですからご結婚されると知って、皆ショックなんですよ! それがどこの馬の骨とも分からないヤツであれば尚更です! これならヴァルツ様と結婚してくれた方がまだマシです!」

「馬の骨……マシ……」

「あ、あの、アラン? 話が脱線してるから戻そう?」

「あ、すみません、そうですよねアシュレイさん。で、その村の管理者にウルリーカ皇太后様が就任されると。では必要な物を選出して頂く等は、ウルリーカ皇太后様にお任せしてよろしいのでしょうか?」

「あぁ。そうだな。ウル一人で行く事はねぇから。護衛の者やメイドや侍従やらが何人も行くだろうし、そういった事に長けた奴も連れていくんじゃねぇか? だからウルに任せてりゃ問題ねぇと思うぞ?」

「ですよね。ではある程度物資が用意できてから子供達を移動させる事なりますね。しかし大移動になりますねー! 用意する物も多いですが、持っていく物も連れていく人も多くなりますね。これに割く人員は……あ、そうだ、ここはロヴァダ国じゃないんですよね?」

「え? あぁ。ルーシュカ国になるな。それについても、ジョルディが動いてくれるってよ。まぁ、ロヴァダ国寄りにある深い森の中の村だからその存在自体知らなかっただろうし、特に問題は無さそうだけどな」

「なら良いんですが。少しの領土でも惜しむ国は多いですから。普通は他国に手入れされるのを嫌がるでしょうし」

「だな。まぁ問題が起これば俺が何とかするよ。俺が持ってきた案件だからな」

「ヴァルツ様に任せてたら何とかしてくれそうですけどね。ではお願いします!」

「勿論だ」


 アランに報告を済ませ、今後の事も話し終えて部屋を出る。
 その後、子供達に会いに行って様子を見ながら話をする。少しの時間でもこうやって交流を持つことは大切だからな。

 そこを出て、次は各国にいる俺の作ったゴーレムに魔力を補充しつつ、アスターになり行商人として動く。アシュリーをアシスタントって立場にして手伝って貰い、住人達にもアシュリーを覚えて貰う。
 
 やっぱりアシュリーを見ると、皆がうっとりした表情になる。男装してるから女子からの人気はすげぇし、男からも好奇の目で見られてる。やっぱ目を離せねぇよな。

 あちこちの村や街へ行ってると、ウルから連絡が入った。その頃には外は既に暗くなっていた。俺はすぐにアベルを迎えに行く。

 ダンジョンの入り口の横にある休憩所にアベルはいた。パーティーメンバーは乗り合い馬車に乗って既に帝都に帰ったようだ。


「あ、エリアスさん!」

「よぉ! どうだった? いっぱい倒せたか?」

「はい! 今日は凄かったです! って、俺達になんかしてくれましたよね……?」

「まぁな。一時でも仲間になった奴等だからな。サービスだ。じゃ、行くか」

「え?! でも俺まだ何の用意も……!」


 言ってるそばから空間移動で帝城の俺の部屋まで飛んできた。どうも慣れないらしく、アベルはまた驚いて辺りをキョロキョロみてる。

 分かるように大きくベルを鳴らすと、侍従のザイルが慌ててやって来た。


「ヴァルツ様、お待ち致しておりました。そちらの方がアベル様ですね。では、ご用意がありますので此方へお願い致します」

「え? え?!」

「じゃあ頼んだぞ?」


 ザイルは頭を下げてからアベルを連れて行った。すぐにメアリーがやって来て、飲み物を用意してくれる。

 テーブルに行こうとするアシュリーを掴まえてソファーにドカって座り、アシュリーを膝に乗せて抱きしめる。


「エリアス?」

「やっぱ幻術で姿を変えるか……」

「え?」

「村や街へ行った時、皆アシュリーを見てただろ?」

「それはアスターのアシスタントだからじゃないか。アスターは皆の人気者だから……」

「そんなんじゃねぇって。皆がうっとりした顔でアシュリーを見てたじゃねぇか。見惚れてたんだって」

「そんなんじゃ……」

「アシュリーは自分が思うより目を惹くんだ。自覚がねぇのが厄介なんだよな……」

「そんな事はないよ。私は今まで誰かに好かれるなんて事は無かったから……」

「アシュリーは分かってねぇ……こんなに綺麗な人が好かれない訳がない」

「エリアス……」

「見た目だけじゃねぇ。アシュリーは全てが綺麗なんだ。その心も何もかも、だ。だから皆が魅せられる。皆がアシュリーを好きになる」


 何か言いたげな唇を指でなぞっていく。艶やかでぷっくりとしているアシュリーの唇は戸惑うようにキュッて力が入る。その様子が可愛くて、頬を包むように手を添えて顔を上に向かせる。

 ゆっくりと顔を近づけていくけど、アシュリーに下を向いて遮られた。
「メアリーが……!」
そう言ってメアリーを気にして見るから、俺もメアリーを見るとバッチリ目が合って、俺達に慌てて礼をして、それからすぐにメアリーは部屋を出ていった。

 扉に結界を施して誰にも邪魔させないようにしてから、もう一度アシュリーを見詰める。
 その瞳は潤んでいて、頬は少し赤らめていた。

 可愛くて可愛くて、この人が俺を好きでいてくれることが奇跡のように思えてきて、有り難くて嬉しくて仕方ない気持ちになる。

 均整のとれたその唇にそっと唇を重ねる。

 あぁ……ずっとこうしたかった……

 誰にも見せずに会わせずに、俺だけのモノであるように縛り付けておきたい。

 どれだけアシュリーが何処にも行かないって言い続けてくれても、この思いは決して無くならねぇんだろうな。

 どうやったら、どう言ったらこれだけの想いが伝わるんだろう? 
 これ以上どうやれば、アシュリーに俺の想いの全てが分かるんだろう?

 
「ん……エリ、アス……どう、したの……?」

「え?」

「そんな切なくなるような顔をして……」

「アシュリーを……離したくなくて……」

「離してないくせに?」

「そうだな。けど……」

「けど?」

「……なんでもねぇ……」

「エリアス……?」


 怖いんだ。また一人になるのが。アシュリーに置いていかれるのが。

 なぁアシュリー……?

 どうやったらずっと一緒にいられる?

 ずっといられるんなら、その為なら俺はなんだってするのに……

 
 
 
 
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