126 / 166
切なる想い
しおりを挟む昼食が終わってから、ウルは準備があるからって自室へと戻っていった。
ウルには俺の作った小さなゴーレムが今も付いてる。透明にしてるけどな。
で、用があれば常に後ろに付くようにしてるゴーレムの方へ向かって、俺の事を呼べと言ってある。そうしたら俺に伝わるからだ。
今回はアベルから連絡が入ったら俺を呼ぶように言って、俺も自分の仕事をすることにした。
帝城から空間移動でアシュリーと共にロヴァダ国の王城へ行く。
仕事部屋へ行って、これまでに決まっている事をそこにいたアランに話す。
「ウルリーカ皇太后様が管理者になってくださるんですか?!」
「あぁ。適任だろ?」
「そうですかー! いや、それなら安心して任せられます! いや、良かったぁ! あ、でもそれなら……ご結婚はどうなさるんでしょう……?」
「あー……それなー」
「聞いた噂によるとですね。最近エリアスっていう者が城内に入り込んでいるらしいんですよ。ウルリーカ皇太后様と仲が良いらしいので、その方がお相手なんじゃないかって、皆で言ってたんですよ」
「えー……」
「その者は本当に問題のない者なんでしょうかね? まぁ、暗部組織が身元を特定している筈ですし、余所者を簡単に城内に入れる訳はありませんし、勿論出自は割れているとは思うのですが……ウルリーカ皇太后様は騙されていませんかねぇ……」
「それは大丈夫なんじゃねぇか……?」
「ヴァルツ様はご存知ないかも知れませんけどね、ウルリーカ皇太后様は密かに人気があるんですよ? 実はファンクラブがあるんです! 僕もその会員なんですけどね!」
「マジか?!」
「本当ですよ! あの可愛らしい容姿にあの話し方! ズバズバ言ってくれますが、そこには惜しみ無い愛があるんです! 萌えますよー!」
「そう、か……」
「ですからご結婚されると知って、皆ショックなんですよ! それがどこの馬の骨とも分からないヤツであれば尚更です! これならヴァルツ様と結婚してくれた方がまだマシです!」
「馬の骨……マシ……」
「あ、あの、アラン? 話が脱線してるから戻そう?」
「あ、すみません、そうですよねアシュレイさん。で、その村の管理者にウルリーカ皇太后様が就任されると。では必要な物を選出して頂く等は、ウルリーカ皇太后様にお任せしてよろしいのでしょうか?」
「あぁ。そうだな。ウル一人で行く事はねぇから。護衛の者やメイドや侍従やらが何人も行くだろうし、そういった事に長けた奴も連れていくんじゃねぇか? だからウルに任せてりゃ問題ねぇと思うぞ?」
「ですよね。ではある程度物資が用意できてから子供達を移動させる事なりますね。しかし大移動になりますねー! 用意する物も多いですが、持っていく物も連れていく人も多くなりますね。これに割く人員は……あ、そうだ、ここはロヴァダ国じゃないんですよね?」
「え? あぁ。ルーシュカ国になるな。それについても、ジョルディが動いてくれるってよ。まぁ、ロヴァダ国寄りにある深い森の中の村だからその存在自体知らなかっただろうし、特に問題は無さそうだけどな」
「なら良いんですが。少しの領土でも惜しむ国は多いですから。普通は他国に手入れされるのを嫌がるでしょうし」
「だな。まぁ問題が起これば俺が何とかするよ。俺が持ってきた案件だからな」
「ヴァルツ様に任せてたら何とかしてくれそうですけどね。ではお願いします!」
「勿論だ」
アランに報告を済ませ、今後の事も話し終えて部屋を出る。
その後、子供達に会いに行って様子を見ながら話をする。少しの時間でもこうやって交流を持つことは大切だからな。
そこを出て、次は各国にいる俺の作ったゴーレムに魔力を補充しつつ、アスターになり行商人として動く。アシュリーをアシスタントって立場にして手伝って貰い、住人達にもアシュリーを覚えて貰う。
やっぱりアシュリーを見ると、皆がうっとりした表情になる。男装してるから女子からの人気はすげぇし、男からも好奇の目で見られてる。やっぱ目を離せねぇよな。
あちこちの村や街へ行ってると、ウルから連絡が入った。その頃には外は既に暗くなっていた。俺はすぐにアベルを迎えに行く。
ダンジョンの入り口の横にある休憩所にアベルはいた。パーティーメンバーは乗り合い馬車に乗って既に帝都に帰ったようだ。
「あ、エリアスさん!」
「よぉ! どうだった? いっぱい倒せたか?」
「はい! 今日は凄かったです! って、俺達になんかしてくれましたよね……?」
「まぁな。一時でも仲間になった奴等だからな。サービスだ。じゃ、行くか」
「え?! でも俺まだ何の用意も……!」
言ってるそばから空間移動で帝城の俺の部屋まで飛んできた。どうも慣れないらしく、アベルはまた驚いて辺りをキョロキョロみてる。
分かるように大きくベルを鳴らすと、侍従のザイルが慌ててやって来た。
「ヴァルツ様、お待ち致しておりました。そちらの方がアベル様ですね。では、ご用意がありますので此方へお願い致します」
「え? え?!」
「じゃあ頼んだぞ?」
ザイルは頭を下げてからアベルを連れて行った。すぐにメアリーがやって来て、飲み物を用意してくれる。
テーブルに行こうとするアシュリーを掴まえてソファーにドカって座り、アシュリーを膝に乗せて抱きしめる。
「エリアス?」
「やっぱ幻術で姿を変えるか……」
「え?」
「村や街へ行った時、皆アシュリーを見てただろ?」
「それはアスターのアシスタントだからじゃないか。アスターは皆の人気者だから……」
「そんなんじゃねぇって。皆がうっとりした顔でアシュリーを見てたじゃねぇか。見惚れてたんだって」
「そんなんじゃ……」
「アシュリーは自分が思うより目を惹くんだ。自覚がねぇのが厄介なんだよな……」
「そんな事はないよ。私は今まで誰かに好かれるなんて事は無かったから……」
「アシュリーは分かってねぇ……こんなに綺麗な人が好かれない訳がない」
「エリアス……」
「見た目だけじゃねぇ。アシュリーは全てが綺麗なんだ。その心も何もかも、だ。だから皆が魅せられる。皆がアシュリーを好きになる」
何か言いたげな唇を指でなぞっていく。艶やかでぷっくりとしているアシュリーの唇は戸惑うようにキュッて力が入る。その様子が可愛くて、頬を包むように手を添えて顔を上に向かせる。
ゆっくりと顔を近づけていくけど、アシュリーに下を向いて遮られた。
「メアリーが……!」
そう言ってメアリーを気にして見るから、俺もメアリーを見るとバッチリ目が合って、俺達に慌てて礼をして、それからすぐにメアリーは部屋を出ていった。
扉に結界を施して誰にも邪魔させないようにしてから、もう一度アシュリーを見詰める。
その瞳は潤んでいて、頬は少し赤らめていた。
可愛くて可愛くて、この人が俺を好きでいてくれることが奇跡のように思えてきて、有り難くて嬉しくて仕方ない気持ちになる。
均整のとれたその唇にそっと唇を重ねる。
あぁ……ずっとこうしたかった……
誰にも見せずに会わせずに、俺だけのモノであるように縛り付けておきたい。
どれだけアシュリーが何処にも行かないって言い続けてくれても、この思いは決して無くならねぇんだろうな。
どうやったら、どう言ったらこれだけの想いが伝わるんだろう?
これ以上どうやれば、アシュリーに俺の想いの全てが分かるんだろう?
「ん……エリ、アス……どう、したの……?」
「え?」
「そんな切なくなるような顔をして……」
「アシュリーを……離したくなくて……」
「離してないくせに?」
「そうだな。けど……」
「けど?」
「……なんでもねぇ……」
「エリアス……?」
怖いんだ。また一人になるのが。アシュリーに置いていかれるのが。
なぁアシュリー……?
どうやったらずっと一緒にいられる?
ずっといられるんなら、その為なら俺はなんだってするのに……
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう
まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥
*****
僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。
僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥
騎士団長の欲望に今日も犯される
シェルビビ
恋愛
ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。
就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。
ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。
しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。
無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。
文章を付け足しています。すいません
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる