慟哭の先に

レクフル

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一番傍に

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 バラバラにされたテントを風魔法で浮かして一纏めにする。

 今まで張っていた結界じゃダメだったんだ。もっと強い結界を張らなくちゃいけないんだ。

 私の魂は今、ディルクの魂と共にある。だけど、まだ体に馴染んでいないような感じがする。

 多分、ちゃんとディルクの魂が私の体に馴染んだら、もっと力は使えるようになると思う。だけど、そうじゃなくても良いとも思う。ディルクの魂と馴染まなくても、ただ共にあるだけでも構わない。

 
「大丈夫だよ。ディルクの力を借りなくても、ちゃんと魔物を倒せるから。私って、意外と強いんだから!」


 とにかくボロボロになった家もそのままにはしておきたく無かったから、風魔法で木材なんかを一纏めにしておいた。

 周りの家もボロボロだったから、同じようにして木材を一纏めにしておく。そうやるとここは更地になった。


「ハハ……本当に何も無くなった……こんな場所に固執してもどうにも……ならない……」


 分かってる。だけど、私には行く場所がない。ここ以外、何処に行けばいいの?

 ひとり佇んでいると、結界がピシピシと音を立て出した。
 驚いて警戒し剣を抜いて構えると、その結界を破って魔物がやって来た。それも何体も……!


「なんでこんなに……!」


 襲ってくる魔物を雷魔法で感電させる。数体、その場でバタバタと倒れる。だけど、まだ倒れない魔物もいる。その魔物に、今度は闇魔法を放って中からジワジワと腐食させていく。それでもなかなか動きを止めなくて、巨大な狼の姿をした魔物は大きな口を開けて襲ってくる。

 すぐに横に飛んで回避し、剣に炎を付与させて首目掛けて斬り裂いてゆく。
 大きく避けた首から、血と闇の魔力の黒いモヤが出てきて、狼の魔物はドサッと倒れた。

 周りを見渡すと、生き絶えた魔物達があちこちに横たわっていた。

 それを確認した瞬間、グラリと体が揺れる。


「少し動いただけなのに……」


 ディルクの魂があるのに、まだ私はこんなにも脆い。でも自分の魂に取り込みたくはない。ディルクとは共存していたい。それは無理な事なのかな… 

 フラフラと歩いて、自分が今にも倒れそうな状況だと理解し、このままここにいたらまた魔物が襲って来るかも知れないから、私はすぐにその場から離れた。

 やって来たのはエリアスの買い取ってくれたシアレパス国の、国境沿いにある街の宿屋の一室。


「結局私はこうやって……エリアスに頼る事しかできないのか……」


 そんな自分が情けなくて、だけどどうにも出来ない自分がもどかしくて、そのままベッドに突っ伏した状態で眠りにつく。



 
 真っ暗闇の中、私は一人で膝を抱えていた。

 顔を上げても辺りは暗くって、何もそこにはない。膝の上に乗せた自分の腕に顔を乗せ、ここでも自分は一人だと思い知る。

 
『アシュリー……』


 不意に何処かから声が聞こえてきた。辺りを見渡すけれど目には何も映らなくて、それと同時に寂しさが胸に込み上げてくる。

 そうしていると、後ろから誰かに抱きしめられているような感覚がした。

 驚いて辺りをもう一度確認するけれど、やっぱりなにも見えない。けれどこれは……


「ディルク……?」

『アシュリー……やっと気づいてくれたか?』

「ディルクっ! ディルクなんだね?! 会いたかった!」

『俺はずっとアシュリーの傍にいた。ずっとアシュリーに話し掛けていたんだ』

「ディルク……そうだったんだね……ごめんなさい……」

『良い。アシュリーが気づいてくれたからな。……辛かったんだな……』

「ディルクっ! 私! 私のせいでディルクはいなくなっちゃったのにっ! だけど私はリュカを生む事は出来なくなった……!」

『アシュリー、それは違う。まず、俺がここにいる事を自分のせいだなんて思わないでくれないか。元より一つの命なのだ。こうあるべきだったのだ』

「それでも……! 私、ディルクがいないと寂しくて……悲しくて……っ!」

『俺はここにいるだろう?』

「そうだけど……!」

『一番傍にいてやれるんだ。誰よりも一番に、だ。こんな事は俺にしか出来ない』

「うん……そうだね……ディルクだけだ。私の傍にいてくれるのは……」

『そうではない。ここにはリュカもいる。ずっとアシュリーを心配していたぞ』

「リュカが……?」

『そうだ。だが今は眠っているな。俺がここに……アシュリーと共にあるようになってからは、暫くは何も見ようとせずに自分の殻に閉じ籠っているアシュリーに、俺と一緒にアシュリーに話し掛けていた』

「え?! そうだったの?!」

『そうだ。それでもアシュリーは気づいてくれないって、リュカは悲しそうにしていたな。それでアシュリーの代わりにリュカは出たのだ』

「え? それってどういう事……?」

『アシュリーの体でリュカが目覚めたのだ。気づかなかったか?』

「私の代わりに?! どうやって?! え?! それって……!」

『そうだ。アシュリーが目覚めたと思ったエリアスは、それがリュカであった事に驚いていたな。だけど喜んでもいた。またリュカに会えた事をな』

「そうだったんだ……だからエリアスは私の世話をしてくれていたんだな……」

『それは違う。アシュリー、よく聞いてくれ。エリアスが今も愛しているのは、アシュリーとリュカだけだ』

「え? でも……! エリアスはもう私じゃないって! 他に想う人がいるって……!」

『エリアスはバカで単純で……そして、誰よりも優しい。そうだな?』

「うん……」

『俺とアシュリーの仲を勘違いしたのだ。俺達が結婚すると思ったらしい』

「な、なんで?!」

『エリアスはアシュリーを見付けてから、ゴーレムだかにアシュリーの周りをついていさせたようだな。それでずっと様子を見ていたんだろうな』

「そうなのか?! そんな事……全然分からなかった……」

『本当に悪趣味だ。ストーカーだ。ともすれば犯罪者だ』

「それは言い過ぎ……」

『だがそれはアシュリーを気遣っての事だろう。エリアスは強くなり過ぎた。強い者にはそれ相当の負荷もかかる。それが自分の愛する者に向かえば耐えられない』

「エリアス……」

『リュカを失ってから、エリアスは自ら一人でいるようにした。誰からも認識されないように自分の姿を変え、けれどこの世界を守る為に尽力した。それはリュカが守ろうとした人々をエリアスも守りたかったからだ』

「うん……」

『そうやって常に一人でいて400年、アシュリーが生まれて来た事を知ったエリアスが嬉しくない訳がない。だがまたエリアスが関わった事で愛する者に危険が及んだら? エリアスは今もリュカを守れなかった自分を許せていないのだ』

「それはエリアスのせいじゃないよ……」

『そうだろうな。だが、だからこそアシュリーの傍にいる事を躊躇ったのだ。本当は誰よりも欲しい癖に、手を伸ばそうとはしなかったのだ』

「それでも私をずっと見ていた?」

『そうだ。そんな中、俺とアシュリーの仲を間違って認識した。俺の贈った指輪を婚約指輪だと勘違いしてな』

「この指輪を……」

『それに関しては申し訳ないと思っている。贈った事を後悔はしていないがな。だがそれでアシュリーと俺が結婚すると勘違いしたエリアスは、アシュリーから身を引こうしたのだ。一番にアシュリーを想うが為だ。まぁそれが間違いだったのだが』

「じゃあ……じゃあエリアスが一緒になりたい人がいるって言うのは……?!」

『そんなの嘘に決まっているだろう?』

「エリアスが私に嘘を……?」

『エリアスがアシュリー以外を好きになる等、考えられん。アイツはバカみたいにアシュリーしか見えていないのだからな』

「でもエリアスは私に嘘なんて言った事ない……」

『そうか? リュカを宿したアシュリーが体調を悪くした時も、エリアスはアシュリーに嘘を言っただろう? セームルグにリュカの魂を取り出させて、俺達からリュカを宿したという記憶を消して、エリアスは一人で何事も無かったように振る舞った。それは、リュカがいなくなった事をアシュリーが一番気に病むからだ』

「そう……だったね……その後も……全て忘れた私がエリアスの子供が欲しいって言った事に、エリアスは私だけいれば良いって……そう言った……」

『アシュリーに子供を生む事は無理だと分かったからだ。だから必要ないと嘘を言った』

「そう、か……忘れてた……こんな大事な事……」

『エリアスの嘘は、いつも相手を思っての事だ。それが正しいかどうかは知らんがな』

「エリアス……」

『アイツは今もアシュリーを求めている。あの場所で……リュカと暮らしたあの家で共にありたいと願っているのだ』

「それは私も……だけど……」

『まだ信じられないか?』

「怖くって……またエリアスに拒否されるのが……怖いんだ……」

『大丈夫だ。アシュリー、もう自分を卑下するのはやめて欲しい。アシュリーは頑張ってきた。誰もアシュリーを責めない。アシュリーはなにも悪くない』

「そんな事ない! 私はエリアスのゴーレムの英雄を倒して人々の生活を脅かした! 私がいたから村が襲われた! ……お母さんを不幸にした……っ!」

『もうそうやって自分を責めるのは止めてくれないか。どうしようも無かったんだ。アシュリーはそうするしか無かった。そうだろう?』

「でも……っ!」

『大丈夫だ。何も気にしなくて良い。アシュリー、俺が傍についている。もう自分を傷付ける必要はない。もう……自分を許してやってくれないか?』

「ディルク……」

『アシュリーが泣くと俺が辛い。俺も悲しくなる。俺とアシュリーは一つなのだから』

「そう……だったね……」

『だがまだ魂は一つとなっていない。だから俺の姿が見えないのだ』

「そうなの?」

『俺を受け入れようとしてくれないからな。その事に、俺は地味に傷ついている』

「あ、ごめん! その、そんなつもりじゃなくてっ!」

『ハハハ、分かっている。俺がこの世にいなくなると思っての事だろう? だが違う。俺はここにいる。アシュリーと共に生きる。分かってくれるか?』

「うん……」

『では俺を受け入れて欲しい。アシュリー……俺はいつでもアシュリーを愛しいてる』

「私も……私も愛してるよ……ディルク……」


 そう言った瞬間、暗闇だったのがいきなり眩しい光に包まれた。その眩しさに思わず目をギュッて閉じて……

 ゆっくり目を開けると、そこは宿屋の部屋の中だった。

 

 
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